その7 希望の幕開けその一歩
「安心しな。名前の目処は立ってるんだ。」
鳴島のその一言に、私はきょとんとした。
「目処?いったいどんな?」
「ふふん、ここを何処だと思ってるんだ?ぶっ壊れちゃいるが、でかくて立派な病院だ。覚えちゃいないが多分私たちは入院してたんだろう。暁も───んー、なんか呼びにくいな。まああれだ、地下で目覚めたんだろ?」
立ち上がって得意そうにしながら続ける。
「カプセルは3つあったろ?つまり、三人入ってたことになる。そう、もう一人いるのさ。」
ぴんと人差し指を立てて、私の眉間に押し付ける。
「いま丁度この中をいろいろ探してるからな。ナースステーションかなんかでカルテ見つけてきてくれんだろ。あと飯だな。目が覚めてから腹へってんだよ。そいつはどこで見つけたんだ?」
人差し指が眉間から空中、地面に置かれた缶を差す。
「病室みたいな地下の部屋だぞ。水もあったし、あとこれもあった。戸棚にな。」
ゆったりとした青い、入院服ともパジャマとも取れる服。薄着の一枚だけ。そのズボンのゴムの所に挟んでいた拳銃を取り出す。ぎょっとされた。鳴島の左目は下手くそなウィンクみたいにつぶれた。それがちょっと面白いと思ったから、上部をスライドさせて弾を一発本体から弾き出した。さらにビクッとした。小銭に似た落下音にさえ驚いていた。
「くふふふふ、どうした?そんなにびくびくして」
「いや、ここ日本だと思ってたからさ。日本語だろ?色々。」
「······そういえば、でも、いや、なんか地下で見つけたパスタはさ、読めないなんか英語なのかなんなのかわかんない見た目の文字だったんだけど、だから日本じゃないかと思ってたんだけど、読めたもんな?案内板。さすがに施設案内が他国言語はあり得ないな?」
「そりゃねえ。辞書持って病院来るか?普通。そういうやつは精神科行きだな」
見つめあってニヤリと笑う。相変わらず変なやつという印象のままだ。本当に
「変なやつだ」
「おっ、やんのかァ?」
「なんでそんな喧嘩っ早いんだよ。そういうとこだぞお前」
むぅと唸って機械みたく黙ってしまった。すごく見てて飽きない、心底。面白すぎる。頬が緩んで、口裂けのように大きな笑顔になる。
「すっげぇ悪い笑顔」
「何を言うか、こう見えてモテモテだったんだぞ?······女の子にだけど」
「ふーん?まあいいや、信じてやるからそれくれよ」
と目線で空いた缶詰を指した。
「食器取りに来たのよ。そこ、食堂じゃん?でも開かなくってさー」
はあ、と一つため息をつく。
「ほーう?任せてみなさい。こいつはこの病院で見つけた火災斧だ。ぶち破れるでしょ」
離れたところに転がっている黒い斧を、思い切りドアに叩き込んだ。
百合営業