その3 現実とパニックと役立つ豆知識
「まぶしっ!」
エレベーターのドアが軋みながら開き、日光が全身に突き刺さった。まもなく、薄暗い地下から脱出できた安心感が心を包んだ。
よたよたと手探りでエレベーターから外に出る。エレベーターは少ししたら閉まり、その頃には目も慣れてきた。うすぼんやりと目を開けた私が見たのは、信じられない光景だった。考えてみればこの時点で推理できる素材は揃っていたのだが。
そこは病院らしき場所だった。床も天井も白いコンクリートで、木製の手すりもついていた。目の前に貼られた案内板によると、すぐそこは待合室らしい。
しかしそこには瓦礫の山があるだけだった。
出て左側の建物は大きく崩れており、そこからさんさんと太陽が降り注いでいる。人の気配と呼べるようなものは一切なく、どこかから響いてくる低いエンジン音だけが自己を主張した。ふと足元を見ると、緑色の小さな植物が光の方へけなげに枝を伸ばしていた。その植物を見て、私は身の毛がよだつ感覚を覚えた。
「······嘘······」
冷や汗が背を伝った。案内板にある出入口に向かった。崩れて塞がっていた。私の心臓は言い知れぬ恐怖に縮こまり、その分だけ早く鳴った。
私は大声を出した。誰か!と。返事はなかった。とても静かだった。
気がついたら電気が消えていた。エレベーターより向こう、出て右側、それらは真っ暗だった。私は行きたくなかった。別の出口を探して周りをまた見回した。瓦礫が崩れていない左側の二回まで続いていた。いや、よく見ると不自然だった。誰かが動かしたみたいだった。そこで私は我にかえった。
ふっと冷や汗が出たが、他の人の存在を示唆するような証拠を見つけ、ちょっとだけ安心したのだ。
ふと、お腹が大きく鳴った。思い出したかのように空腹感が現れたので、とりあえず落ち着いて缶詰めを食べることにした。
「······缶切り無いじゃん!」
どうしようかな······なんて考える頃にはもう正気だった。もう大丈夫だ。
尖った瓦礫のかけらで叩くか、缶詰めのはじっこを銃で撃つか。確か缶詰めって缶切りよりも早くに産み出されてて、缶切りの登場まではその場しのぎのさっき言ったようなやり方で開けてたはず。私は詳しいのだ。まあ、動画で見た情報だけどね。
ちょうど良さげな瓦礫片があったから、銃は使わずに開けた。中の汁がこぼれたけれど、怪我なく開けられた。良かった。けど、そういえば箸もフォークもないや。どうしようか。病院なら食器ぐらいあるよね。多分。
案内板を見ると、右側の建物に厨房があるみたいだった。食べ物もあるかもだし行ってみようか。最悪手で食べることになるけれど、なんとなく嫌だからね。
記憶が正しければ私は女子高生だったはず。手掴みでワイルドにはちょっと抵抗があった。
舌を切らないように気を付けつつ、そっと汁を舐め取って、私は立ち上がった。