その10 ツキ
しばらくして、夕日が射し込む時間帯になる頃。美しい朱は今は迫る夜を急かす危険な色だった。彼女らはその瞬間まで失念していた。闇夜の恐ろしさを。しかし、太陽が壁に遮られ見えなくなる頃には、運良く思い出すことが出来た。そこここが暗がりになり、ガサガサと何かが這い回る音が聞こえるのだ。暁は記憶を頼りにペットボトルと水でレンズを作り、生えっぱなしだった枯れ草に火をつけようとしていた。鳴島は手近な所を探し回って薪になるものを探した。生えてる細い木は水気が多くて駄目。今のところ見つかったのは朽ちかけた雑誌と、受付に散乱していた書類のみ。いくら探しても、考えても、木製のものはない。
「鳴島!とりあえず絞っとけ!細長くぐしゃぐしゃにするんだぞ!時間は稼げるはずだ。」
「分かった!火はまだか暁?」
「ん······辛うじてついた。今そっちに行くぞ」
燻った草の塊に息を吹き込む。めらっめらっと吹き込む度に燃え上がり、手を焦がす。
「あぢぃぃぃ······畜生、そういや家族でキャンプ行ったこともあったなァ!」
瓦礫から降りて鳴島の元に駆け出す暁。手からはぬらぬら光る汗が滴り、口は必死にふいごになりきっていた。その甲斐あって火元の確保は出来た。だが安心はまだ早い。
「鳴島、お前の方が運動出来そうだけど、どうだ?」
火をなるべく小さく保つために、生木を差し込んだ。鳴島は自分の髪の毛をわしゃっと掴んで、一応陸上部だったと答えた。
「じゃあなんでもいいから可燃物を探してきてくれ。瓦礫から見つかるかも知れないし書類が転がってるかも知れん。でも時間がない。5分で戻れ。私は風に吹かれないように火を移動させる」
「分かった。消すなよ暁」
「火をつけたのは誰だと思ってるんだ?余裕だ鳴島」
そう言って拳同士をぶつけて、鳴島は暗闇に消えた。私は、またも手を焦がしながら、食堂への道にじりじり移動させる。そのあとは、瓦礫を引きずって風をしのぐ壁にしなくては。
10分がたった。日はずいぶんと傾き、この建物一帯が影に包まれる。燃料がもうない。こうなれば私が行くしかない。案内板を見る限りコの字型をしているこの病院は、もしかしたら中庭があるかもしれない。でも外に出る道は鳴島は知っているかもしれないが私は知らない。ふさがった窓から見るにおそらく二階からなら出入り出来るかもしれない。
「······暁!戻ったぞ!なんかすごいぞ!」
鳴島が人間を一人連れて戻ってきた。一抱えの段ボールと一緒に。
「······遅いじゃないか。まあ私は5分は待ったうちに入れないから別にいいけど、こいつは一秒も融通しないぞ?」
「悪かったよ。本気で見つからなかったんだ。でもすごいぞ!ほら見ろ!」
鳴島が手を合わせて、開く。細長い段ボールがその間に渡っていた。
「手品も出来たんだな。で、そちらさんは?」
「手品じゃないっての。あ、こいつが築山。喋れないけど文字は書けるから意志疎通はできるぜ。つっきー、こいつが暁だ。火つけたり土壇場で冷静にハッタリかましたりと色々すごいやつだ」
「今、なんでこいつ勝手に人に愛称つけそうな見た目なのにつけないのかの謎が解けたぞ。まぁ良い。よろしくですよ、築山さん」
タイトルは名前と夜とついてることを意味してます。すごいねェ~
ちなみにつっきーは僕の親友から取りました。文句は聞くからせめて生きてることは教えて欲しい
死んじゃいないよな?連絡くれや