表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

4.ドM、試験官の人格を聞いて悦ぶ


 エスナルは俺と同じ冒険者試験の受験者だった。

 二人で話し合い、一人だとまた盗賊に襲われるかもしれないので試験会場まで一緒に行くことになった。

 その道中。


「あの! エムリエルさんは、試験のときやその後のパーティとかはどうするつもりなんですか」


「まだ、決めてないですね」


「よければ……その、私と組んでくれませんか」

「ええ、僕なんかでよければ」

 

 俺は考える間もなく即答した。



 エスナルがいれば、怪我をしても死にくくなる。

 痛みを感じられる時間が減るのは惜しいができるだけ、死へのリスクは減らすべきだろう。

 

 


「ありがとうございます……!」

「僕のほうこそありがたいよ 回復魔法は苦手でね、さっきの治療も本当に助かったよ」



 得意な魔法のほうが少ないけど。


 俺の言葉にエスナルの碧い瞳が揺れたようにみえた。

 

 胸の前で拳を握っているようにみえる。 よほど、パーティを組めることが嬉しいのだろうか。 

 疑問に思ったので聞いてみた。


「どうして僕とパーティを組もうと?」

「助けてもらえたっていうことと、それと、私はエ……」

「エ?」

「……いや、会ってそんなにまだ経ってないし 急すぎるし。もう少ししてから……」


 よくわからないが、 エスナルはもごもごと呟いている。 だが、ところどころ、聞き取ることができた。

 

 察するにもしかして、彼女は俺と……


 


 俺と同じようにスリルや痛みを好む、「同志(M)」なのか!


 さっき襲われた理由を聞いたら、逃げられない状況に追い込まれたと言っていた。 

 きっと、俺と同じような理由で盗賊に挑み、追い詰められ死を避けられなくなってしまった。


 大方、そんなところだろう。 俺も前世で何度も死にかけたもんな。

 

 

 まあ、やりすぎて、実際に死んだわけだけど。


 極めつけは、先ほどの彼女の言動。

「会ってそんなにまだ経ってないし」というのは、まだ仲良くもなっていない俺に探求者(M)であることをカミングアウトするのを躊躇っているのだ。 


 うん、今日の俺冴えてる!

 どうみてもバレバレだが、これは本人が決めることだし。 いわぬが花って奴だ。



 俺を回復させたのもきっと俺の身体の状態を重くてみてだろう。 

 

 あの傷では死にはしないだろうが、冒険者試験に響いていたかもしれない。 

 試験に落ちてしまってはその後のスリルと痛みを味わう機会を失ってしまう。

 


 そんなのは、本末転倒だ。


 プリーストとして、そして何より、同じ痛みを追求する者として、一瞬の快楽ではなく、その後に得られる、より大きな快楽を取るべきだと、カミングアウトすることを恥ずかしがっている彼女は俺に対してさりげなく示しているのだ。




 心地よい状態でハイになってしまった俺よりに大局がみえている。 

 

 ああ、仲間として申し分ない。

 

 

 気があうもの同士でパーティを組みたいっていう気持ちもわかる。 互いのことがよくわかっているから、死なないように配慮し合えるし。 


 


 そうそう、僕というのは、子供らしさを出すための俺なりの工夫だ。

 僕と言っているほうが、素朴な感じが出て親しみやすい。

 

 丁寧な口調もコミュニケーションには必須。使い分けは大事だよね。 

 

 



 *   *   *


「あ、ここが会場みたいですね」


 看板をみて俺がそう判断する。


「ここが試験会場……」

 エスナルが息を呑む。


 そこは大きな闘技場だった。


 治療を終えた俺たちはあれから、また後から来た馬車に乗って王都に着いた。

 


 冒険者試験は闘技場で行われる。

 そこそこ観客も入る。試験兼大衆の娯楽といったところか。


 試験はシンプルだ。 受付でエントリーした後。


 現役冒険者である試験官と戦ってその戦いぶりが評価されれば、冒険者になれる。


 もちろん、冒険者でない者が試験官に一人で戦うのは厳しいため、試験が始まる前に試験を受けるもの同士でパーティを組むのもありだ。

冒険者はパーティを組むことが多い。そういったチームワークの有無も合否に含まれるのだろう。


 プリーストなどの戦う力があまりないものについても、味方への回復や補助で試験の合否を図ることができるし。


 ま、さも詳しいかのように語ったが、この知識は母さんの受け売りだ。


 受付についた俺とエスナルは二人のパーティとして受付でエントリーする。

 受付嬢が俺達をみて微笑む。

「お若い方達ですね 合格できるように応援してますよ」

「「ええ、ありがとうございます」」


 エスナルと意図せずハモってしまった。


「息ピッタリ! 頑張ってください」

 受付嬢は笑ってそう言った。


 俺達は受付を済ませ、歩き始めた。


「ふふふ、息ピッタリだって……」

 エスナルの小さな呟きが聞こえる。


「息があうのは良いことですよね」

「き、聞こえてたんですか!」

 

 エスナルが目をパチパチさせて、動揺している。 

 聞かれたらまずいことだったのだろうか。


「はい、パーティとしてチームワークは大事ですから」

「あ、いや、そうなんですけど、そういうことではなく……」


 エスナルは、もごもごと言い淀んでいる。

 

 俺が、「この同志、凄く恥ずかしがり屋さんだな」なんて思っていると。


「可愛そうに……あの子達の試験官はあの人よね」

「ええ、嗜虐の冒険者グラムよ……」

「試験なのに、受験者を何人も病院送りにしているっていう」

「何で試験官をやめさせられないのかしら」

「それが、あの人の過激さが観客にウケるらしいのよ……」

 

 後ろから、受付嬢達の会話がきこえてきた。

 うっひょ、ゾクゾクしてきたよ……。


「大丈夫でしょうか……」


 後ろの会話が聞こえていたエスナルが不安げに俺に問いかける。

「(Mな)僕達なら大丈夫ですよ」

 俺は、親指を立てて自信マンマンに答える。

 寧ろ、最高でしょ。 

 きっとエスナルはまだ、目覚めたての新人なのだろう。 


「凄い自信……私もこのやる気を見習わなきゃ」

 エスナルが感心している。

 だって勝手にご褒美が向こうからやってくるんだよ。

 もうやる気なんてでまくり、好物だけのフルコースが食べられるぐらいの気持ちだから。



*   *   *



「おい、みろよ、まだちっちゃなガキだぜ。 あの二人」

「可愛そうになぁ、トラウマになるぜありゃ」

「ま、来るのが早すぎたってこった。 俺は不合格に賭けるね」


 武舞台にあがったのは二人の十五歳にも満たないようにみえる子供だった。

 嗜虐のグランの相手になるとはとても思えない、それが、観客の達の大方の予想だった。

 そも、グランは合格者をほとんど出さない。 今まで合格できたのはグランの嗜虐性に食い下がれたものか、グランに勝てたものぐらいだ。

「揃いも揃って馬鹿な観客ばかりね」


 だが、そこにいた一人の女性だけは違った。

「七天の賢者ソフィリア……! 王国No.2の賢者が冒険者試験にくるとは……」

 観客達がどよめく。

 

「そのNo.2って呼び方いちいち癪に障るわね……。 まあいいわ、貴方達、あの男の子をみても何も思わないのかしら」

 ソフィリアはショートカットで全身、白を基調とした衣装に身を包んでいたが、太ももから下は透き通った肌を露出させていた。

 その容姿からは、若さを感じるが、その声は不思議と周りを従わせるだけの気迫があった。

「は? あの子供がですかい。 特に変わったところはありませんが」


 

「そう、そこがおかしい。 自然体すぎる。 こういう場では、意識しようとしまいと、怯えや、焦りが出る。 彼は冒険者試験を何度も受けているわけでもないから場数を踏んでいない。 にもかかわらず、それらが微塵も感じられない」


「ですが、あのグランですぜ」


 観客の問いにソフィリアはこう締めくくった。

「ええ、確かにグランの嗜虐性は普通の受験者では、合格するのは難しいわ。 けれど、あの子の顔つきは大器を予感させる。 さすがに、グランが勝つでしょうけど、合格する可能性は十分ありえます」


「な、なるほど」

「俺、あの子供の合格に賭けてみようかな……」

 

 闘技場では、受験者の合格不合格で賭けが行われている。 

 試験の運営費の一部もこの賭けによって賄われているのだ。


 しかし、観客の多くはソフィリアの声があったとはいえ、不合格に賭けていた。 


「みる目がないと損するわね 本当に」

 ソフィリアは周りに知られないように、慣れた手つきで合格に賭ける。


 ソフィリアには、一部の冒険者にだけ知られるもう一つの名がある。


 七天の賢者ソフィリア、又の名は勝負師ソフィリアである。

 







面白いと感じたら、ブックマークと評価をくださると嬉しいです。


執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ