打ち明け話 2
家を出るときにおじはカペルに言った。
カペル、人には力がある。
力の強さはそれぞれ、放つ熱量もそれぞれ、輝きもそれぞれだ。
お前にある力の使いどころを見誤るなよ。
連れ立って入り口に向かうとき、おじとカペルは母とすれ違った。
相変わらず一言も交わさない。眼も合わせなかった。
この二人はずっとお互いを避けている。かえって不自然に感じた。
カペルもどこかで思ったことがあったかもしれない。
おれはもしかしたら、この人の子供なんじゃないだろうか。
本当の長男はおれなんじゃないだろうか
母はかたくなに口をつぐんでいる。
カペルの父親は、母親が何もしてないのに殴っていたわけではない。父の事を延々と責め続けていた。
──だからあの時言ったのに!次男の方が出来がいいから…あんたなんて何の役にも立たないのよ!
殴られてもやめない。裸足で逃げ出して大声で助けてくれとわめく。
周囲は同情する。父は孤立していく。
カペルは板挟みだ。
あのときも、おじと長男との間、母とおばの間、日常ではロトとサウォーク、いつもどこかの間に立っていた気がする。
たった一人の味方が欲しい。
どうしてそんな風に思ったのだろう。
領主の娘はおおきな目でじいっとこちらを見ている。
どうしてそれがこの娘なんじゃないかと思ったのだろう。
血筋の正しい公女さまで、この土地をまとめ、領民をまとめている。軍を相手どって取引をする。太子のお気に入りで新公爵のおさななじみだ。
トゥアナの落ち着いた優しい笑顔がまぶしかった。
ほっそりした手がカペルの手に触れて、細い声が静かに風に乗って流れてきた。
「行ってみたいですわ。あなたの言った海へ。わたくし、海を見たことがありませんの」
太子とベルガの間で板ばさみになって心を砕いている彼女を見たとき、カペルは何があってもこの子の味方でいたいと思った。
そんな風に彼女もいてくれるのではないかと、カペルはかすかな希望を胸に抱きはじめていた。




