末娘 3
「お姉さまね、このお手紙をくれる人は大丈夫だ、いい人だって譲らないの」
「そうか」
ウヌワは髪の毛を逆立てて足を踏み鳴らしていた。
「会ったこともないのにいい人かもしれないなんて、あなたは何の夢を見てるの?手紙なんて信用出来るわけないでしょ!」
(これには双子から侍女まで、皆がうんうんとうなずいた)
「では、どうすればいいの?」
「徹底抗戦すべきよ!そして、城下と街に火を放ち、みんなで死にましょう」
テヴィナは手真似でその時の様子を表現してみせた。
「すっごい、こ~んな、大騒ぎだったんだから」
「まあ、そうだろうな」
「今回の騒動ね、みんなすぐ終わると思ってたの。おとうさまが話し合いをして、和平を結んですぐ戻ってくるって。なのにね…」
テヴィナはカペルに封筒を返し、カペルはまたふところにしまいこんだ。
「ねえ、カペルさんはトゥアナ姉さまが大好きなんでしょ?」
「うんまあ」
「そっかあ、うまくいくといいね」
もう寝なよとうながして、テヴィナが用心深くまたするっと廊下を抜けてぺたぺた走って行った後にも、しばらくカペルは庭に腰を下ろしてしていた。
どうして長女がいいのか?
何人にもに聞かれる。
アギーレに聞かれた。
「おまえさ、ずいぶん親しげだよね。なんで?最初っから長女一択だし。何、昔からの知り合い?」
「いや、全くの初対面」
「どこかで見かけたとか?」
「いや、顔を見たのも声聞いたのもあれがはじめて」
はじめてトゥアナを目の前にしたカペルは顔が赤くなって足が震えるような心地がした。
胸にあるこの手紙を書いた女で、せめて並の容貌ならぜんぜんやれる、と思っていたが可愛い。
年増で既婚で未亡人、長女ときたらしっかりものの仕切屋のイメージを抱いていた。
少女のようだった。
黒い飾り気のないスカート、装飾品もほとんどない。
若々しさが際立って余計に可愛らしい。
そうだ、どうして思ったか、令嬢っぽくないんだ、あの娘は。
宮廷ですれ違う底意地の悪い、つんと気取りすまして上から下を見下す目付きだ。
誇りと言えばそうなのかもしれないが、そんな女に限って戦争で放りこまれりゃ娼婦と同じかそれ以下になるのを何度も見てきた。
お嬢さんはお嬢さんなんだが率直で、正直で、まっすぐだ。
あの時もそうだった。
手紙に、虚栄を気取る何も、名前の威を借るどんな もなかった。
人と人として話してきたんだ。
胸を突かれたのはそこだ。
彼女はいつも周囲が見えていてそのまっすぐな視線で、踏みにじられる村も、焼かれる畑も、建て直さなければならない破壊された家も皆知っていて、見えていた。
見るだけじゃなくて、気にしていた。
敗戦の自国の兵だけじゃなく、中に死んでいくおれたちの兵のことさえ。
「何してらっしゃるの?」
カペルは飛び上がった。
今度は似たような、ではなかった。
トゥアナ本人が腰をかがめてカペルの顔を覗きこんでいた。




