怒り 3
サウォークが城に戻ってくると、部下たちが騒がしい。
物々しい雰囲気だった。
「どうした?」
「広間に騒ぎがあったようです」
もう一人が直立不動で答える。
「もうおさまったようです。でもカペルさまが今日は一日警戒を怠るなと…」
「ロトは?」
「太子さまが酔って吐かれてしまったので、看病されていました」
「ええ~~~?」
「今はもうおさまったようです」
サウォークは
そっとのぞいた。
「お開きになったみたいだな」
双子とは城の近くで別行動になっていた。
見ていると、蔓によく似た縄梯子をつたい、塀をするする登ってあっという間に姿を消した。
(あーー酒が飲みてえ。まだ少しは残ってっかな~)
広間は召使たちが総出で片付けにかかっていた。
兵士たちが今は手伝うことなく、まだ警戒を怠らず厳しい目で見守っている。
サウォークは部下の一人を捕まえて囁いた。
「おい、何があった?」
「ええと…お姫様とカペル様が席を外しされて…」
「席を!?それで!?」
「太子さまと新公爵が口喧嘩をはじめて…太子さまが退出されてから、新公爵が戦争だと騒ぎ始めて…」
「マジでか!?やばいな、おい」
「そこに姫様が戻ってこられて」
兵士は床を指さした。
「そこに大甕の花瓶をぶちまけて壊しました」
「…………」
サウォークは背中にいやな気配を感じる。
おそるおそる振り返ると、そこには氷のような表情のロトが腕組みをして突っ立っていた。
「サウォーク、何をしていたのですか?」
「は、はいっ!」
兵士は静かな横歩きですすーっと消えていった。
冷や汗をかいて酒の余韻もすっかり飛んでしまったサウォークに、ロトは重ねて質問をした。
「今まで、どこで、何を、していたのですか?」
ロトのこんな恐ろしい目の前では、嘘は通用しない。
サウォークはいまだかつてないほど素早く言い訳を考えていたが、腹を決めて言った。
「お、女に誘われて…」
「女!?」
ロトは眉を上げた。
サウォークは息をつめてロトの顔を伺っていた。嘘は言ってない。
相手は少し考えるようだったが、さらに追及した。
「欲求不満なのはわかります。で、どこに行ったのですか?城の部屋ですか?」
「城下に行きました」
「城下のどこですか?」
「よく覚えていません」
これは本当だった。
今日は色んな女に出会った。猿のような双子、一人は俊足、一人は剣の達人、一人は色っぽい愛人、一人は熊のように大きな鍛冶屋…。
「いや、ほんっとうに色んなタイプの女がいるもんだよなて。あんなのおれもはじめてだったわ~若いのもいいけどやっぱりあぶらののった年増がよくて…ちくしょう」
双子の母親の見事な体つきに思わず口からよだれが出そうなニヤニヤ笑いになっていたが、ロトの氷のような視線にさっと顔を引き締める。
はっ!
サウォークはこのピンチを切り抜けられるかもしれない手段を思いついた。というより思い出した。
何か言いかけるロトを遮って小声で言う。
「あのな、そこでちらっと聞いたんだけどよ」
酒臭い息にいやな顔をしてちょっと顔をそむけるロトにサウォークは耳打ちをした。




