塩と夕食 1
前を走るニマウは早すぎてともすれば見失いがちになる。
(まるでスプリンターだな)
そう思った瞬間、前を走るオノエが走りながら剣を抜き、すれ違いざまに邪魔な枝を切り払った。
サウォークは内心、舌を巻く。
(走りながらああまで剣を扱うのは、並大抵の男だって出来るこっちゃねえぞ)
二人とも髪を前髪まですべてきりっと結い上げて、出来る限り小さくまとめている。気の強そうな目付きが目立った。
ニマウが立ち止まり、一軒の割と大きめな屋敷にするっと消えるのが見えた。
オノエが振り返る。
「ここちょっと寄り道していい?」
「いいけど」
よっこらせと重たい荷物を担ぎなおしてサウォークは二人についていく。
オノエがからかうように言う。
「おじさん、体型の割に走れるじゃん」
「ばかにするな、これは筋肉だ、筋肉!ふつうのでぶと一緒にすんなよ、肉の付き方がちがうわ!お前らこそ公爵令嬢と思って来たが、猿みたいに野蛮な公女もいるんだね」
「ここは辺境の田舎だよ。令嬢なんて柄じゃない。家柄だけは古いけど」
入り口から女性が一人出てきて、ランタンをかざしている。
「オノエ?」
「ママ!」
オノエは女性めがけてまっしぐらに走っていき、思いっきり抱きついた。
スカートが揺れて女性はオノエを抱きしめた。
ドアからニマウの顔がのぞいている。
はたと気がついてサウォークは膝を叩いた。
「何だよ!ここ、自分ちなのかよ~!」
「ママのうちだよ」
公爵の愛人のうちか、と思ったが用心して口に出しては言わなかった。こちらを見て顔がこわばるのを安心させるため、サウォークはご婦人に向かって必要以上に丁重に何度も礼をした。
「大丈夫ママ。こいつ割といいやつだから」
確か地域の部下の娘と聞いている。
「用心して、二人とも。こんな夜中に外を出歩いてはだめ、今ほんとうにほんとうに危ないんだから」
「随分と粗暴なやつらもいるもんね」
若干、というより嫌味があるのを聞えないふりをして、サウォークはおとなしく大きな体を小さな椅子におしこんでテーブルについていた。
「隣の家は兵士なんて名前だけの強盗に押し入られたよ!後ろから一発、棍棒で食らわせてやったら逃げた」
「逃げるってことは悪いて知っててやってるってことよね」
ニマウが腕を組んで言う。
それから肩からかけていたカバンから、かなりの大きさけっこうな大袋を出して言う。
「ママもってきた。みんなにあげて」
「塩か」
「塩。ウヌワががっちり、ガチガチに一人で握っちゃってんの」
「塩の業者をか?」
「そー!みんな困ってんの。だから時々持ち出してあげてるんだ」
あたたかい家庭的な食事にありつきながら、サウォークはうまさに舌鼓を打った。
「あーうま。まじでうま」
「そんなうまい?」
「これこそ料理。もうフルコースとか味気なくていけねえ。パンとチーズとスープ!これねこれ」




