庭園の中で 2
太子はカペルの耳に口を近づけてささやいた。こんなこと慣れてはいるが、いつもに増して酒くさい。
「飲みすぎましたね」
「うまいことやって慰めてちゅーするの!どさくさついでに部屋に入っちゃえ!」
「ええ~…」
「ソミュールのこと心配してんの?あんなの超仮面夫婦だったんだから!トゥアナだってお前のような嬉しいって!ほら」
ばしばしカペルの背中を胃が出そうになるほど叩きながら、明らかにベルガに聞えるように言っている。
(仮面夫婦?えっ本当に?それ確実?確定?希望?)
ベルガの方を向いたが、ベルガは整った顔立ちをむっつりさせたまま無言でいた。
「うまくやりなよ」
太子に背中を押されるようにしてカペルが出て行った後、残った二人は二つの席の空白をはさんでしばらく黙って杯だけを傾けていた。
そのうち、太子が低く言う。
「大丈夫。彼にはソミュール伯の地位あげる。ラベルの顔をつぶすようなことしないから安心して」
「仮にトゥアナが平民と結ばれたからといって顔がつぶれるとは思っていない」
「へー田舎だと気にするとそういうことってめっちゃ気にする思ってたけど」
「ちゃらちゃらと着飾るしか能のない都のへなちょこ貴族よりはよっぽど彼女も気に入るだろう」
「むかっ」
このしゃべり方がまた太子の気に触る。
ぐいっともう一杯あおってつぶやいた。
「悔しいけどここ、酒だけはほんっとに美味いんだよね~!」
庭に出たカペルはあちこち見回したが気配がない。
最近は兵士が踏み荒らした後だったが、遠征の間に念入りに手入れされていた。
今は季節が早いが、夏を迎える頃にはすいかずらが乱れ咲きになって花をつけるだろう。
こんな時でもなければ気にも留めなかった。
正装してこんな宴会の庭を歩き回っていると、錯覚を起こす。
美しい庭で綺麗な姫君を探してさ迷う。まるで自分が何かの話の主人公になったような気がした。
しかし、どこを見てもトゥアナの姿はない。
名前を呼ぶのもはばかられ、ただとりつかれたように、だだっ広い庭の中をあっちこっち歩き回っていると、ずいぶんすみっこに、ドレスの端が少しだけはみ出しているのに気が付いた。
「トゥアナ?」
長女は子供のように、茂みの影に膝を抱えて丸くなって座っていた。
目には涙がいっぱいになっている。
鼻水が垂れて膝にくっついていた。
「大丈夫か?」
カペルが膝をつくと、トゥアナは膝に顔を埋めた。
「大嫌い、大嫌い、みんな大嫌い!」




