庭園の中で 1
ウヌワがアウナの首根っこを捕まえようとしたが少女は拒否して、トゥアナの侍女たちが連れて行った。去った後、宴席はシーンと静まり返っている。
ギアズが慌てて酒を追加するよう指示したが、だれも皆だまりがちになっていた。
太子がわざとらしくベルガの方を向いて大声で言う。
「しかしモントルーも田舎だから大変だよね。行き来するだけで馬の脚がもげそうでしょ?」
「馬の脚はもげない」
それでみんなしばらく待ったが、誰も発言しない。
あまりにも沈黙が続くので仕方なくベルガは先を続けた。
「足が折れては駄目になるので平地に厩舎がある」
「そういう事言ってるんじゃないんだよな~。ん?カペル、どうした?」
カペルがぴんと背筋を伸ばしてびっくりした様子なので、太子は怪訝な顔で見た。
「いや、何でもないです」
机の下でカペルは、手の甲になにかあたたかいものが乗っているのを感じた。
トゥアナの手だ。
「冗談ってものが通じないからな~。いよいよベルガの時代が来ただろうね!ここにはさぁ~!」
「だれの時代なんていうものはない」
「いちいち否定してこなくていいって!もー!」
さっきまで何かといえば、そういえば太子さま…、そういえばベルガ…、と合いの手を入れていたトゥアナが黙り込んでいるので、太子とベルガはますますエキサイトしてきた。
「最善を尽くしたいと言っただけだ。ずいぶんイライラしてるようだが、モントルー産の薬酒を飲むといい」
「余計なお世話だっつーの!いらないよ!」
席が離れているので怒鳴り合いのような大声でやりとりしている。
後ろではギアズがおろおろしながら見守り、市長をはじめ太子の訪れを聞きつけてかけつけた重鎮たちもこわごわ気配を伺っている。
カペルは手の甲のぎゅうっと握るほっそりした手に気を取られて何も聞えなくなっていた。
喧騒が遠くなって行く。
すっとあたたかさが消え、トゥアナは立ち上がった。
「少し空気を吸いたいわ。ちょっと席をはずします」
皆、トゥアナが庭に出て行くのを見守った。
太子がカペルを小突いた。
「何してんのカペル」
「えっ?」
「ほら!追いかけて!」




