宴会 1
席に付くまでこの調子できゃっきゃとした姫と太子の会話は続いた。
次々に来れる限りの地域の実力者たちが入ってきて席に着く。
太子が来ているとあって駆け付けたらしかった。
ベルガは目にみえて機嫌が悪くなっている。もともとおしゃべりではないが、カペルたちと一緒にいた時には笑顔を見せ親しげな仕草を見せていたのに、声もかけられないほどだ。
美しい目鼻立ちがつり上がっているので迫力満点だった。
周囲はカペルの配下、ベルガの部下を問わずみな下を向いている。
「わたくし争いごとなんて大嫌い」
「トゥアナはやさしいから」
作ってる?
カペルは彼女の顔を伺った。
そら涙《、》な気配があった。
一晩じゅう一緒にいて、髪を振り乱してペンを走らせていたり、笑ったり、はては耳をぎゅっとつかんできたり、そんな無邪気な女の子の気配は面影もない。
指先一つまで気を使った貴族の女性という感じがした。
いつもよそよそしくて思わせ振り、内緒話をしてはつくり笑顔を見せる。腹にどう思ってるかさっぱりわからない貴婦人たちだ。
「でも太子さま、ベルガのことを許して下すったのね!」
太子が口を開く前にトゥアナは地に付くほど深くお辞儀をした。
「寛大な心には感謝してもしきれませんわ」
よりそって甘えるような声を出す。
真っ白になるまで唇を結び、ベルガががちゃんと音を立てて食器を揺らす。
太子はテーブルに身を乗り出し、そんなベルガをおもしろそうな顔をして眺める。
太子ーカペルートゥアナーベルガ、で座っているので、はさまれているカペルはそんな太子とベルガの様子を見ざるを得なかった。
そんな光景を無の表情でロトは見ている。
隣のサウォークがささやいた。
「到底、さいきん父親と夫が死んだとは思えないような態度やな」
「カペルの目がさめてくれるといいのですが」
「だいたい、なんでお前は一の姫にそれほど反対よ?」
「彼女は太子の愛人だと言われているのです」
サウォークはがたんと机に手をついてロトの顔を凝視した。
「お前、それ確かなの?」
「わかりません」
「カペルは知ってんの?」
「わかりません」
「うまい話には裏があるってこと?」
「しつこいですね!私だって貴族の寝室を全部覗いて歩いたわけじゃないんだし」
「ていうかカペルのあれはさ、のぼせてるとか次元を越えてるだろう」
「だから嫌だったんです」
ロトは苦々しげに言う。
「そもそも、長女というのはね。易や卜占でも縁起が良くない。昔語りでもそうでしょう?一番目と二番目は大抵、悪役です」
「お前、おれのばあちゃんを敵に回したな?すげえんだぞおれのおばあちゃん。十人兄弟姉妹の長女で占い師で長老だ。怖いからな」
サウォークはおどろおどろしく宣言する。
「本気で祟るぞ~!」
ロトは聞こえないふりをしている。
「ベルガとはまったく別の意味で、太子とトゥアナは幼い頃からの仲です。特別な感情があったとしてもおかしくありません」
「ダブル幼馴染みかよ。カペルもピンチだな」




