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ラベル・エラベット  作者: 天海 悠
回廊にて
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太子 1

 





 太子の出迎えに全員が向かう中で、カペルはトゥアナがベルガの横にいて何か話しかけているのを見た。

 胸がずきずきしはじめる。

 ベルガには話してあります、って言ってたな?

 どこでいつ?


 二人が一緒にいるのを見るのははじめてのような気がする。

 食事の席でもわりと距離を取ってて、話をしてもごく普通だった。


「おさえてねベルガ。ぜったいよ」

「子供じゃないのだから」


 ベルガが短く答えるのが聞こえる。

 すねた少年のような声だった。

 トゥアナはうなずき、それからこちらに向かってやってくる。

 背後に控えるロトに聞こえるのもかまわず、他人事のようにつぶやいた。


「大変だなあお姫様。あっちに気を使いこっちに気を配って」

「何言ってんですかあなた宴席で大変なのにはさまれてんですよ」

「そうだった」


 そばに来た姫は、ひどく心配そうな表情だ。


「あの…守ってくださる?」


 彼女が言っているのが印章のことだとカペルにはわかった。

 二人はロトから距離を取って少しだけ移動した。


「もちろん」

「何があっても?何を見ても?」

「絶対に」


 カペルはそっと肩を抱いて耳もとで断言した。


「あなただと思って持ってる」







 気が合う、お気に入りというのは傍目はためから見てもすぐにわかるもので、太子は最初は絶対にベルガに対する口撃からはじめるつもりだったはずだ。

 それがカペルの顔を見て完全に満面の笑顔に戻ってしまった。


「お前~!カペル!」


 太子は皆の前で大きく手を広げてカペルを抱きしめた。

 その代わり、奥に一段高い場所に控えているベルガをまるっと無視した。


「ん~よくやった!」

「勘弁してくださいよ、めっちゃ大変だったじゃないですか」

「いやそんなこと言わないで」


 肩を抱いて親しげに歩く二人を周囲は見守った。

 離しながら近づく二人を迎えるベルガはうんともすんとも言わない。

 美しい顔が固まって大理石で作られた彫像のようになっている。

 ただ黙って太子に礼した。

 太子も頭をちょっとうなずかせただけだった。


「……」

「……」


 すれ違い通りすぎるだけで、氷のようなバチバチした線が二人の間に走る。

 ちょうど真ん中にいるカペルはかちんこちんに固まった。


 そのまま行列は城の内部へとぞろぞろ連なる。

 お供はほとんどいなかった。従臣のほとんどを置いて、ほぼ身一つで駆け付けてきている。

 その身軽さにカペルはもう一度驚いた。






 一年ほど前、泥まみれの側溝そっこうの中で助けて!たすけて~!と叫んでいるひょろ長い男を助けたとき、カペルの隊の誰もがこの男が一国の太子だなどと全く思いもしなかった。

 とりあえず泥の中から引き揚げて洗ってやると、ぶるぶる震えながら寒い寒いとうめいている。


「なんだ変な奴。置いてっちまおうぜ」


 アギーレが顔をしかめる。

 カペルは自分の上着を貸してやった。

 息も絶え絶えの彼は徽章も落として持っていない。

 だがカペルは泥にまみれて見る影もないが、服がやけに丈夫で豪華な布地を使っているのに気が付いた。







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