訪れ 2
「おい、嘘だろ」
「何だってぇーー!?」
カペルの驚きの声を完全に消し去る大声でサウォークが叫んだ。
ロトが顔をしかめて耳を押さえるが、さすがに表情には緊張の色が見えた。
叫びが消えるか消えないかのタイミングで今度はトゥアナが姿を現した。
周囲の人々よりは落ち着いている。
しっかりした口ぶりで答えた。
「お忍びでここまで来られたとの事ですわ!いまギアズが出迎えに外まで出ています。ここから一キロほどの距離ですわ」
「えーーまじか」
「どうしよう」
「お忍びなら皇太后さまには内緒に違いあまりません、一日か二日、短期間の逗留ですわ。大丈夫」
「ちょうど宴なんだから呼ぶしかないだろ」
きびきびとトゥアナは指図した。
「ベルガには伝えてあります。暇はないけど出来る限り綺麗ななりでお迎えしてね。みなさん歯を磨いて下さいませ」
ロトが珍しくトゥアナに意見を仰いだ。
「宴の席順はどうされます?」
「出来る限り離しますの!ベルガと太子さまを並べてはぜったいにだめです。大惨事になりますわ。いい?」
トゥアナは手真似した。
「太子さま。あなた(カペルを見た)。わたし。ベルガで並べますの。そのくらい離さないとだめよ」
「おーいいじゃん。披露宴みたい」
ロトの視線に危うく消し炭になるほど焼き付くされうになって、サウォークは逃げ出した。
「ぼく…歯を磨いてきます…」
扉を開けると全ての城の住人と兵士が血相を変えて走り回っていた。
もう西の塔、東の塔などというくくりはなくなって皆、心がひとつになっているように見えた。
鋭い叱咤が飛ぶのはウヌワの声に違いなかったし、兵士でさえその声に従っていた。
「お父さまの使っていた最上級の敷物をすべて出して!埃を払って!食料は今までと違っていいものを出して!」
「何だよ今まではテキトーなもん出してやがったのかよ…」
歯ブラシを手に、サウォークはぼやいた。




