訪れ 1
広間ではロトが一行を迎えた。
カペルを抜きにして一同が顔を合わせる。
「もうロト、お前ー!会いたかったぞ、合いたかったからなー!おれら本当に大変だったんだからな!?」
サウォークはいきなりロトに抱き付いて泣き真似をはじめた。
「カペルの奴、冷や冷やさせやがることばっかりでよ!」
「まあ、よく事態を治められました。戦いを回避できたのは大きな戦果です」
背の高いロトは大柄なサウォークに抱き着かれても動じず、ちょっと斜めになった程度ですぐに直立不動に戻る。
「だからおれが残ってた方が良かったんだよ!」
「あなたではもう誘いに乗っちゃっていたでしょうね…」
「?…何が?」
ロトは無視して、ベルガに向かい丁重に礼をした。
ベルガも真面目に宮廷風の礼を返す。
「モントルー公。数々の非礼があったことでしょう。重ねてお詫び申し上げます」
「いや、わたしは都の連中と付き合ってこれほど楽しかったのははじめてだ」
ベルガはにっこりして答える。ロトのこれ以上の礼を遮り、手を伸ばして握手をすると前髪がさらりと落ちて白い頬にかかった。
「ごゆっくりなさって下さい。とりあえず今日は宴になるでしょう。用意はさせてあります」
ロトがあれこれ采配をする。部屋の用意やしているのは、いつも我が物顔で城を仕切っているウヌワの侍女たちではなく、東の塔のトゥアナの侍女たちが中心だった。
それぞれが落ちついた頃、広間にどたどたと走ってくる足音が聞こえた。
「カペルさま、お帰りなさいませ」
ロトの他人行儀な挨拶と氷のような視線の前で、カペルはもじもじする。
「あのさ~ロト」
「何でしょうか」
「ベルガがラベル公を継ぐよ。太子もいいってさ」
ロトが返事をするまで多少の間があった。
みな、息をつめて様子を伺う。
「そうですか」
思ったより大丈夫かとサウォークも胸をなでおろした所でロトは宣言した。
「では、モントルー公とトゥアナ姫の婚礼を公布するということでよろしいのですね」
「なんで」
「なんで、じゃない。これで四女との縁談もはっきり前に進められます。いいですね!カペル」
カペルは頭をひっかいた。間が悪い時にする彼の癖だった。
「いや~もう書いちゃったんだよね~手紙を」
「誰に」
「太子に」
「何て」
「トゥアナがいいって」
ロトは噴き出した。
「いやいやいや~!まさかそんな。モントルー公だっていいというわけないでしょう?」
「いいって言ってたよ」
「何で」
「なんでじゃねーんだよ!いいんだよ!ベルガがそう言ったんだ!」
二人の言い争いはどんどん声が高くなっていき、周囲の兵士は慣れているが侍女たちはおびえたように影から見ている。
「あなたそれでうまくいくとでも思ってるんですか?あれを見たでしょう!?幼なじみで同族でイケメンですよ?勝てる要素ゼロですから!」
「はっきり言い過ぎだろ!傷付いた!あー!傷!」
「太子はともかく、皇太后さまの機嫌をこれ以上損ねたら、あなたの貯金もぱあなんですよ、ぱあ!」
ロトはカペルの襟首をつかんでガクガク揺さぶった。
「貯金って言われてもあんなん偶然だし…」
「太子だっていつまでもぼくの命の恩人だーなんて覚えててくれると思いますか?都合の悪いこといつだって記憶喪失になるんです!」
「おまえさりげなくディスってるだろ…」
その時、伝令兵が部屋にすごい勢いで飛び込んできた。
「大変です!」
「どうした?」
「太子さまが…太子さまが…」
息を整えて兵士は言った。
「そこに来てます!」




