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ラベル・エラベット  作者: 天海 悠
回廊にて
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帰投 3

 




 部屋に入るともういきなりぎゅっと抱きしめてみようとたくらんでいた。

 だが部屋の中には、例の大きな侍女と小さな侍女がどんと構えて鬼のような顔をしている。

 どうにもやりにくい。

 トゥアナが二人を追い出してくれるまで、カペルは彼女をじっと見ていた。

 満面の笑顔に頬が赤い。きらきら目が光って期待でいっぱいの表情をしている。

 それがカペルに会って嬉しいからなのか、自分の思惑通りに事が運んだからなのか、表情からでは判断しがたい。

 しかし、その笑顔の可愛さの前ではどうにも何も考えられない気がした。


「考えたけどな、ベルガしかないと思う」


 いそいそと真正面から寄ってきた彼女にそんな風に切り出した。


「新ラベル公にするのは、自然だよ。軋轢あつれきはあるけどあれなら多分、やっていける。モントルーの城にも行ったよ」

「太子さまは?太子さまは大丈夫なんですの?」

「今、もう一度確認のために早馬を飛ばしてる。だが反対する理由がないよ。そもそも、まとめられる有力者がいれば自治をまかせてもいい、判断はお前に任せる、って言ったんだ」


 トゥアナのきらきらした表情が少しだけ曇った。


「太子さまは、反対なさるかもしれませんわ。そうしたら、あなたはどうなるでしょう?」

「なんで反対すんの?」

「太子さまは…」


 トゥアナは言いよどんだ。


「ベルガがそれはそれは…大嫌いなんですの!」

「ああ~」

「そりゃあもう、顔を合わせればいつも嫌味ばっかり言ってますわ。でもその嫌味がまったく通じないのでまた腹を立てますの!」


 あのキャラとこのキャラでは…合わなさそうではあるな。間違いなく。

 トゥアナは顔を近づけて扉の方を指さした。カペルはのけぞる。

 どうやら内緒話でベルガのことをさしているらしい。


「ベルガも太子さまが大嫌いですわ!本当に承知して下さるかしら?皇太后さまは後押しして下さるとは思うけど、あのかたもこりこりでいらっしゃるから…」

「こりこり?」

り固まってるってことよ!がっちがちですの。もう本当にいやになるわ」

「アウナとロージン侯爵のことか?」

「聞きましたの?」


 トゥアナは見上げた。ごく近くに顔があったので、もろに目と目がぶつかってしまう。


「あのときは、わたし大反対しましたわ」





 ~トゥアナの回想~


 エグル・ラベル公はトゥアナに向かって拳を振り上げ怒鳴った。


「偏見だ!トゥアナ。年上だからってだけでは理由にならない。ベルガの母親なんて五十才違いだったんだぞ」

「わかってる。最後までひいおじいさまの面倒を見てて、とても幸せそうだったわよね」


 トゥアナは負けていない。父親に真正面から反論した。


「でも、問題はアウナが嫌がっているということです。見た目はおとなしそうに見えるのかもしれない。だけど、いい?お父さま!あの子ほど何をしでかすかわからない子はいませんよ?宮廷で皇太后相手に大立ち回りをやりかねないわ!」

「お前ほどではないと思うがな~」

「じゃあ、わたくしが偏見の塊でばかで生意気ってことにして頂いて!これ以上評判も悪くなりようもありませんから!」

「私は妻に賛成です」


 長い青ざめた冷たい顔をぴくりとも動かさないまま、ソミュール伯が賛成した。


「要は人質ですから、侯爵は餌にすぎない」

「ここまでぶち壊してしまっては、修復するのも難しいのだろうが…」


 ラベル公は険しい顔を崩さなかった。


「奴らこれを承知しなかったら、次はさらにヒートアップしてくるぞ?トゥアナ、お前に関わる問題なんだぞ、わかってるのか?ソミュール!お前それでいいのか!?」

「妻は大人です。うまくやることでしょう」


 セレステが扉から顔をのぞかせる。


「お話は終わった?片付けてもいい?」


 イマナが扉の外で見ていると、足音荒くラベル公が出てきて去っていった。

 あとから扉から考え込んだ様子のトゥアナが出てきて入れ違う。

 ソミュールはまだ出てこなかった。



 ~トゥアナの回想おわり~




「そうです。アウナはどうしました?」


 カペルはちょっと言葉につまった。


「うん…残るってよ」

「そうですか」

「戻って来たくないって」

「あの地域はいま危険なの。でも、そうかもしれないと思っていたわ」


 二人は部屋にソファ代わりに置いてある寝椅子に座った。

 肩が触れ合ってもトゥアナはけない。

 緊張でぶるぶるしていた筋肉もほぐれてリラックスしてきた。

 内心、こんな時にと思いながら期待に胸がふくらむカペルをよそに、トゥアナは少女のようにひざを抱える。


「わたしたち、七人そろっているように見えますけど、みんなばらばらなんですの」


 指を折ってトゥアナは数える。


「わたしは都にいましたし、ウヌワはずっとこの城です。セレステはとおぐらいのときに来ました。アウナよりあとですわ。もう大人みたいな顔をしていた…。一番下のテヴィは母親もわかりませんの。お父さまが突然赤ん坊を抱いて帰ってきましたわ。双子なんてずっと実家の男所帯の中で男みたいに育ってて、ここに来たのは一年前ですのよ。なつくはずがないの」


「はーん。じゃあ…」


 ウヌワ→トゥアナ(増えた)→アウナ(増えた)→セレステ(増えた)→テヴィナ(増えた)→双子増えた。


「そうです、その順番よ」

「そりゃあのウヌワさんも白髪になるはずだわ」

「一番苦労しているのはあの子です。けどみんな結局、ウヌワを都合のいいように使っているだけなのよ。便利だから!」

「本人もそこに意味を見出してるんならそれでいいんじゃね」


 トゥアナは真正面からこちらを見て、笑顔を作ろうとしたが涙が浮かんでいた。






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