帰投 2
城の城門が開くのを見るのは二度目だった。
以前よりも整然として、城下の人々の顔にも落ち着きが見えているのは、さすがロトだとサウォークは舌を巻く。
カペルは聞こえないようにアギーレにささやいた。
「ベルガが城で威張り散らす真似をするようなら容赦するなよ」
言われた相手はにやっと笑った。
「殺してやってもいいんだぜ」
「やめろ。逮捕にしとけ」
馬から降りたはいいが、城内に入る足が重い。
ベルガは何も言わないまま、真正面をただ見すえていた。
これで仲良く抱き合って挨拶する姿など見せられたら、立ち直れなさそうだ…。
そう思ったん瞬間、トゥアナがスカートのすそをつまみ、急いで走り寄って来るのが見えた。
反射的にくるっと背中を向けてしまう。
パタパタいう小さな足音はまっすぐ近づいてきて、回り込んで正面に来られた。
「どうして後ろを向くんですの!?せっかくお帰りなさいを言おうと思ったのに」
カペルは正視できない。
邪険に押し退けて顎でベルガの方へ促した。
「あんたのなじみはあっちにいるよ」
「そんなことよりもお話したいわ。ベルガはどうでした?あなたに何と言いました?」
「知らね。本人に聞けば」
すると、白い手がにゅっと伸びてきて、ぎゅうっと強く耳を掴まれた。
「いてっ!何すんだ!」
「わたしはあなたに聞いているのです。あなたの意見が知りたいの」
何だちょっとキスしたぐらいで、もう女房面しやがって。これだから女ってのは…。
とはいえ、悪い気がしないのも事実、それなりに機嫌がよくなって耳をさすりながら顔をちらっと窺うと、彼女もふくれた顔で同じような事を思っているらしい。
ちょっと甘い顔見せると、男のひとってすぐに調子に乗るのね!
少なくとも彼女は、ベルガよりも先にカペルに話しかけてきてくれたのだ。
そんなことから、居心地の悪さが消えて不機嫌がみるみる雪のように溶けていくのを感じた。
頬を指で掻いて、カペルは隣接した別室の方を指さした。
「じゃあ…ここじゃなんだから、ちょこっとあっちで話そうか?」
トゥアナは素直にうなずいて先に行くのを、どう見ても鼻の下がのびきっているカペルが追う。
そんな後ろ姿を、後ろからまだ馬上のベルガがじっと見ていた。
じっと見ている馬上のベルガを、バルコニーの上からロトが見ていて、ため息をつく。横を見ると、ベルガを見てため息をついているロトをギアズがじっと見ていて、そのまたギアズを…。
「あーもう、うるさい!うるさい!散れっ!散れ!」
ギアズが心配そうにロトに言う。
「ロトさんは、ご存じなんですにょ?」
「一の姫が太子の愛人だと言われてることですか?しかしベルガの恋人だとも聞いています」
「誤解ですにょ。あのお二人に兄妹以上の関係はないですわ」
「私も太子との噂は噂にすぎないと思っています。あの姫様はそんな器用なタイプではありません」
「そんならやっぱり太子さまがよっぽどご執心なんでしょうね?」
ロトはその質問には答えなかった。
ただ、こう言っただけだった。
「わたしは、カペルが傷付くのを見たくはないのです。親心ですよ」




