文箱の行方 2
夜行性のよだかのように上から見ていれば、ガサガサと草木が動く筋がはっきりと見えただろう。
月は出ているが空全体に雲がかかって光は薄くにごっている。
ニマウが片割れをおさえ、口に手を当ててから一方を指さした。
いくつか連立している倉庫のいちばん隅の一つに灯りがともっている。
「炭置き小屋だよ」
二人は闇の中を野生のいたちのようによく歩いた。
裏窓にジャンプしてぶらさがると、ちょいと頭をのぞかせてすぐに降りる。
「いた。ビンゴじゃん」
中には
床から吊るして降ろされた文箱を発見する。
「あーーねえさんの文箱~。みーっけ」
「あっさり。ウヌワもいるじゃん」
「あっねえ、見て!」
カペルをおそろしい目でにらんでいた、トゥアナの太った侍女がいる。
「ウルマいるじゃん!フーン。ウヌワねえさんのスパイだったんだぁ」
「ここ置いててバレなかったのかな?」
「見て暖炉そのものが吊り暖炉になってる。床ごと抜ける。そこから天井に上げてたんだ」
「鍵師は?」
「います、ここに」
「どうしても奴らが来る前に開けなければ!トゥアナが新しい印章を製造なんて言い出したら本当にやっかいなことになる!」
ウヌワはぎりぎり歯噛みをして机をどん!と叩き、食器が跳ね上がる。
食器が躍るのと同じタイミングで周囲の者も跳ね上がってびくっとした。
「その前にあの子を後継者と認めさせる!!」
双子はウヌワが頭から湯気を出している様子をのんびりと観察した。
「かなりきてるね~」
「もともとあんなだよ」
「随分時間がかかるのね」
いらいらした調子でウヌワが言う。
「壊してしまいましょうか!?」
「ハンマーでやってみましたが、跳ね返されました」
「お姉さま並に頑固なのね!!」
ウヌワが箱をいまいましげに蹴飛ばしたが、顔を歪めて手を突いた。
太った侍女のウルマが支える。
「痛かったでしょ」
「痛くない!!!!」
錠前屋が立ち上がる。
「開きました」
その場にいる者たち全員が、いっせいに箱に駆け寄った。
「どうしたのかな?」
双子はおもしろそうに肘をついて窓に顔を並べている。
ウヌワはぶるぶる震えながら一、二歩下がった。
「な…」
「な?」
「ない!!!!!!!!」
「入ってない!!!空っぽ!!」
「うそでしょう!?そんなはずは…」
「ウルマ!お前!裏切ったの!?」
「ち、違います、違います!!」
ウヌワはぐるっと向き直るなり、トゥアナの大柄な侍女の首を両手でつかんで揺さぶった。侍女ウルマは必死でばたばた暴れたので首をしめられる前のがちょうそっくりに見えた。
さすがに重すぎて持ち上がらないので悔しげにウヌワは侍女を放した。
「トゥアナめ…あらかじめ出して動かしていたってこと?」
「そんなはずありません!膨大な量の書簡です。それに書くための小机から一式入ってたんですよ!?なくなるなんて…」




