文箱の行方 1
トゥアナから離れると、廊下の兵を呼び寄せロトは囁いた。
「第三部隊に酒場に行って宴会をしても良いと伝えなさい。羽目をはずさないように」
兵士はうなずいた。
「酒場に紛れて出来る限りうわさ話を聞き出しなさい」
物陰で二つの影が聞いていた。
双子の青い方、オノエが嘲笑するようにつぶやく。
「はーん、町のことならぼくたちの方がずっと知ってるわ。ばかみたい」
「しっ」
二人がそっと降りた窓は、大きな銀杏の木が立っている。どこから見ても見えない死角になっていた。
双子のまだ細い体でやっとすりぬけられるほどの隙間を通り抜け、二人は丘の見える斜面に駆け出した。
「今更だけどさ、うちの城の隠し通路ってこんなんばっかじゃん」
「まあね」
「こんなところあのでっかい箱を通すの無理じゃない?」
「確かに」
見張りを伏せて交わしながら、丘のはずれにまで到達する。
「ちょっと、最初っから考えてみよう」
二人は丘の斜面に座り直した。
オ「いつなくなったんだっけ?あれ」
ニ「城にいっぱい兵士が来た。それでみんな西と東の塔に立てこもったよね。トゥアナねえさんとギアズが迎えに出て、選んだ一部だけが扉を開いて迎えたんだよ。それで私達はあの部屋に集められた」
オ「あれ。トゥアナのことちゅきとか言ってたやつ」
ニ「そうは言ってなかったけど。あたしたち抜け出したよね。そしたらイマナたちが焦ってて、ないないって言ってるわけ。姫様の大事な箱がない。大変だ。姫様に知らせないとって」
オ「それさイマナたちが一芝居打ったんじゃなかったの?」
ニ「そう思ったんだけど…あのさ、聞いて?」
オノエは身を乗り出して、顔を輝かせている。
ニ「あたしたちがつまみだされて塔に戻る時、イマナが血相変えて飛び出してきたんだよ」
オ「あー覚えてる。大男にぶつかって、それでぼくたち逃げられたんだもん」
ニ「ない、ない!って。どした?二回も同じこと何言ってんだ?って思った」
オ「思った」
ニ「あの時、イマナが出てきたの、東の塔じゃなかったよね!」
オノエはニマウの腕をぎゅっとつかんだ。
「やっぱりイマナとウルマが動かしたんだよ。それで…」
「イマナたちがが隠したのをウヌワが隠した?」
ニマウはあくまで冷静に記憶を探っている。
ニ「あくまで仮説だけどさ、隣の部屋に動かす人たち待機させとくの。兵がこの部屋を調べた後にこっちのドアから戻ればいいわけじゃん。こっちにまた来そうになったらこっちの部屋に。全然ありだと思うよ。だってできるもん」
オ「人数さえいればね。ぼくたちかくれんぼでいつもやったことあるもんね」
ニ「それで最終的に持っていくって言ったらやっぱり厨房でしょ」
オ「真下1階にあるお父さま用の特別厨房?」
ニ「あの時、兵士がいっぱいきてめっちゃ食料必要だったじゃん。食料庫外にあるじゃん。前にモントルーに囲まれた時も、それですぐ開けるしかなかったんでしょ」
オ「うちの城、狭いからねー」
ニ「箱は問屋の倉庫にあるか?いやさすがにもう動かしてるよね」
オノエは体ごと向き直り、指を音が出ないように鳴らしてみせた。
「それって町の問屋が貯蔵庫から運ぶじゃん!」
ニマウは周囲を伺って立ち上がった。
「とりあえず行ってみよ。あそこのじいさん、いつもあたし達に果物とかお菓子くれたじゃん。お疲れ大変だねって」
すっかりあたりは暗い。
松明の灯りもないのに二人は森の中に消えた。




