思惑 3
セレステが執務室をのぞくと、トゥアナが浮かない顔でぼんやりと頬杖をついているのを見た。
さっきまでロトと鍔迫り合いをしていたのを見たばかりだ。
目の前には山積みの決済が散らばっている。
「お姉さま、大丈夫?」
トゥアナは気がつき、笑顔を見せた。
「平気よ。ちょっと疲れただけ」
「無理をしたからよ」
トゥアナはため息をつき、つぶやいた。
「文箱…。早く文箱を見つけないと」
「双子に任せましょ。城の中であの子達の知らない場所はないよ。見つからなきゃそれはそれでいいじゃない。印鑑なんて作ればいいでしょ」
「印章のことじゃない」
セレステは肩をすくめた。
「あたしたちが考えたって仕方ない。だって決めるのは偉い人たちなんだし」
「手が痛くなっちゃった」
「元気ないのって、それだけ?」
「なんだかずっと苦しくて」
トゥアナは左胸のふくらみを押さえた。
「このあたりがどきどきする」
「ふうん?」
「ごめんね、ばかなこと言って」
二人は窓に立った。夕陽が赤い。
「ベルガが来るんですって?おねえさまの幼なじみで仲良しの」
「そうね…」
「またあの連中を城に入れないといけないわけ」
トゥアナは立ち上がるとセレステに向き直って手を取った。妹の方が背が高い。
「こうなったからって、わたしがあなたを怒ってるなんて思わないでね。ベルガしかいないの。ね、わかるでしょ」
「………」
「あなたのこと、わたしに出来る限りのことはするつもりです」
細面の顔をゆがめて妹は姉の手を振り払った。
怒りをあらわにしたセレステの顔は美しいだけ、ウヌワよりも真に迫っていた。
「しなくていい!」
「セレステ…」
「そんなふり、してくれなくていい。あなた太子にいい顔をして、あの将軍をその気にさせておいて、それはないわ」
追いすがろうとする姉を振り払って、セレステは言い放った。
「自分を犠牲にするようなふり、ソミュールだって嬉しがらないと思う」




