山の砦 2
「こうなったからにはすぐにでも帰った方がいいと思う。急ごう」
「向こうにはロトがいるよ」
「あの熱血単純美形くんの気が変わらないうちにとっとと進めるんだよ」
「カペルさん」
ひょこっとアウナが脇から顔を出した。
「何だ大人しくしてろよ」
「してる」
背中からぎゅっと抱きつかれたのでカペルは振り放そうとしたが、さほど本気でもないので背中でからだがぶらぶら揺れてアウナは笑った。
「面白~い」
「子供だな!やることが子供!」
「ここだと息が付ける。ほんとの私に戻れるんだ」
「甘やかされすぎたお嬢ちゃんにか?ほら、いいから、降りろって!」
アギーレがニヤニヤ笑った。
「最近まとわりつかれてるね」
「そうなんだよ」
サウォークがアウナに向かってたずねた。
「あんたはどうしたいの、ここが好きなんだろ。残る?」
アウナはカペルの背中から降り、多少引き締まった真面目さを取り戻して言った。
「ベルガが行くなら私も帰る。あの城は嫌なところだもの。私がベルガを守らなきゃ!」
くるっと振り返り、アウナはベルガの腕を取ると口を少し尖らせて甘えた口調で言う。
「聞いて。ウヌワはねアドラが現ラベル公だって言うの。ばかだと思わない?」
「誰?」
「赤ん坊だろ」
アギーレが笑った。
「え~~~微妙!だって父親はギアズだろ。そんな恐れ多いこと考えたこともないですにゃ!じゃね?」
突っ込みが入るかと思ったが誰一人異を唱えない。
「おねえさまは拒否したの」
アウナにとっては、トゥアナはおねえさまでウヌワやセレステは呼び捨てらしい。
おとなしく内気で年若のロトおすすめの少女…のはずだが、知れば知るほどイメージがどんどん崩れていく。
「祭司はトゥアナねえさま派なの。赤ん坊の公位継承の儀式を拒否したわ」
「あんたら、モントルーとの争いで友達が沢山殺されたとか言ってなかった?」
「友達って!ウヌワの母親の小間使いの知り合いよ」
少女の口調にかすかな軽蔑があった。
「ウヌワのママは可哀想だったけど、あんなの運が悪かっただけよ」
「まあねお嬢ちゃん、あんたも自分の身になったらそんなことは言えないもんよ」
サウォークがやんわりとたしなめる。
だしぬけにカペルが言った。
「そんな考え方じゃ、ベルガを担いだってうまくいかないな」
皆、びっくりしてカペルを見る。
「同じ姉妹なのにそりゃないわ。あんたは帰らない方がいいよ。ここに残ってな」
ぴしっと鞭で打つような 厳しい言葉にアウナは一瞬驚いたような顔をした。
それから顔を真っ赤にしてさっと逃げ出す。
少し目が潤んでいた。




