広間の扉が開くとき2
先頭に立っていた黒服の女が歩み寄ってきて声をかけてきた。
「あなたがカペル将軍ですか?」
先に声をかけるなと、サーベルで押し戻そうとする兵士たちを制した。
「そうだ。私がカペル。少将です。正規軍の指揮権を任されている。あなたが、トゥアナ?」
喪服の女は軽く素早く腰をかがめた。
頭は下げない。高く上げていた。
カペルが軽く会釈をして目を上げると、黒服の長女の黒目がちな瞳と真っ直ぐに合った。
体つきはほっそりと、髪はベールの下に隠されていてよく見えない。
目の大きな、ぱっちりとした睫毛の長さが、じいっとこちらを見つめていた。頬が痛い。
開城交渉をしたのが領主の長女であるこのトゥアナ、主導したのは彼女だ。
ラベル公に息子はいない。
年は27とあったが、もっと若くすら見えた。
真っ黒のひとみに、薄い小さな唇をキッと結んでいる。
緊張も不安も、探るような様子もなく、そのまま腕を伸ばせばこちらに手を伸ばして受け取りそうに見える。
彼女はリラックスしているのかな?
ただ一つ、はっきりと判るのは、彼女はカペルを不快に思っていない。確信がある。
そうだ。カペルには、そう思っても構わないだろうと推測する訳がある。
反射的に左側の胸に手を当てた。
(やばいな、これはテンション上がるわ。とりあえず落ち着け、落ち着け、俺)
できる限り難しい顔をして顔を傾けると、ロトが顔をしかめたのと、サウォークが笑いをこらえようとして鬼のような顔になったので、後ろに控えた侍女たちが怯えてざわめいた。
カペルははじめて気づいたかのように、トゥアナの後ろに控えた壁際の娘たちに目をやった。
眉をしかめて言う。
「何だこれは?たくさんいるな」
ロトが答えた。
「七人姉妹です」
「七人、全員女?」
「そういうこともあります」
生真面目に副官は答えた。
軍靴のかかとはいつもぴたりとあっている。
精工に彫られた彫像のようだった。




