山の砦 1
「そんな子を八十のじいさんが嫁にしようとすりゃあのおねえさまが怒るのは当たり前だろうがな」
カペルは額にしわを寄せた。
「八十?八十じゃなかった気がする。もうちょっと若かったんじゃなかったっけ…」
そんな風に話しながらも、みな今日の夕暮れにたどり着いてベルガが伴った砦の裏手のことを考えている。
「いやあびっくりだ」
「荒廃しきってた」
「ボロクソやられてたな」
「金山があるからな。位置がこれだし精鋭で知られるモントルー軍だからまだ守ってるんだろうが」
ベルガは砦の裏手に一行を伴う前に、アウナを下がらせた。
「公開する必要はないが、あんたには話しておく。我らも求めていたのだ。誰か、聞いてくれる中央の人間が欲しかった」
モントルーの地は焦土だった。
山も森も、民家も畑も皆黒焦げだ。
「火を放ったのは向こうか?」
「この程度は覚悟の上だ!」
カペルは彼の横顔を見る。沈痛な表情だった。
なぜあっさりと話に乗って来たのかよくわかった。
彼らにそんな余裕はない。
「奴らは我らを便利な傭兵として使い捨てるだけ。特殊部隊製造所としか思っていない」
そしてぐるっとカペルに向き直り、両手でぎゅっと手を握る。
カペルはまたのけぞりそうになったが、かろうじて止めた。
「我らには都とのラインがない。トゥアナは別だが何と言ってもただの女。わたしのお前への真心は約束しよう。頼む、必ず都に伝えてくれ」
「わかった」
トゥアナのことも…。
そう心の声が聞こえてきて、カペルは下を向いた。




