打ち明け話 1
白髪の老人がいかめしく立ち上がる。背丈はほとんどベルガの胸ほどまでしかない。
サウォークが歩みより、今後についてうるさく協議…というより口論をはじめた。
小柄で頑強、いかつい皺だらけの顔は、いかにもモントルー一族らしい容貌だ。
「特殊な容貌してんなあ」
「彼は父の側近で私の親代わりなのだ」
ベルガが答える。
「わたしをラベル公に据えるために、ずいぶんと苦労してきた。ここで政府軍と事を荒立ててはすべてが水の泡になる」
やれやれとカペルは肩をもむ。
つんつんと背中をつつかれた。
「?」
背後にはアウナが立っていた。
肩ぐらいの背丈でじっと見上げる。黒い髪の大きな目がどんどん近づいてきて、白い腕が伸びてきた。
ぎゅうっと締め付けるように首に抱きつかれていることに気が付いたのはかなり後だった。
(えっ何?いや、その…)
長い。
黒髪ごしにベルガがこちらをじっと見ているのがわかる。
「アウナ!」
ベルガはついに、たしなめるように声をかけた。
手真似で首っ玉に抱き着いている美少女を指さしてカペルは手真似で話した。
(いや、別におれは何も…)
続いて頬っぺたに唇がぎゅうっと押し当てられるのを感じ、甘い息がくすぐつた。
「カペルさん、だいすき」
「アウナ!」
赤い舌をちろっと出して、アウナはベルガのもとに飛んで行った。
(か…かわいいな。確かに)
アウナをモントルー側の方に追い立ててベルガはカペルと並んだ。
ベルガは端麗な顔を動かしもせずに、手紙をまた開いている。
さっきまでの号泣の名残といえばちょっと赤くなった目のふちぐらいで、それがまた男にしてはやけに色っぽい。
「そのう…さっきは…失礼した」
「何がかな?」
「もっと年上かと思って…」
カペルはもごもご言う。
手紙を一言一句見逃さないとでも言うように詳細にめくりながら、ベルガは答えた。
「男子たる者、外見で判断してもらいたくない」
「実は、まんざらでもないんじゃないの?」
ほら、ちょっと笑った。
「悪い気はしない。でもモントルー地方では、彼らは男らしさを第一とするから、容姿で誉められることなどないんだ」
それからベルガは微笑んだ。
「トゥアナ、いいだろう彼女。美人じゃないが、魅力的だ」
「いやどんだけ理想高いんだよ。めちゃくちゃ美人だよ」
「容姿だけで言えば、セレステやアウナの方が美人だろう」
「そうかな~~」
端正な横顔をカペルのほうへまともに向けてベルガは静かに言った。
「ソミュールとの結婚が決まった日に、彼女の部屋に行った」
どきっとした。
「駆け落ちして欲しいと言うつもりでね。だが、口に出せなかった」
──結婚おめでとう
──ありがとう、ベルガ
「あの子は都の淑女たちのように気取った所なんてないのに、どうしてかな。凛としていて、手が出なかった」
この美青年は感情を隠すのが苦手なようだ。
また目がうるむのが見えた。
「しばらく落ち込んだよ」
「今でも?彼女が…好き?」
「昔の話だよ」
ベルガは思い出を振り払うようにしてカペルに向き直った。
「年齢はともかくラベル公は私の甥」
「甥…ねえ」
「私は彼女たちの保護者の立場になる。しかしこれだけは言えるが、彼女は未来を自分で選ぶだろう。誰にも決められない。だから、あの子がお前を拒絶しないのなら仕方がない」
カペルは考え込む。
少しだけ意地悪な調子でベルガは付け加える。
「だが、拒絶することだって考えられるぞ?お前たちは一応、わたしたちの敵なのだからな」
「いや、だっておれら殺してないもん」
「何?」
思わず口から出てしまった。
しかし、隠すことでもないのだ。
「おれら、ラベル公を殺してないよ」




