誘惑 2
「お話とは?」
「アレね」
「アレとは」
「あなたたちが探しているアレね、一度は確かにここにあったの」
ぱっと頭がクリアになって、思わず背が伸びかけたが、ロトは我慢してそのままの姿勢を維持した。
「やはり持ち出したのは…ウヌワ殿?」
「トゥアナも知っていて一度は持ち出しを見過ごしたに違いないわ。嘘を言っているなら二人ともなの」
セレステは肩に頬を寄せてきて、華やかさがにじむように笑った。
「ウヌワは他にラベル公にしたいひとがあるのよ」
「ベルガ・モントルーではない?」
「違うと思うわ。よく知らないけど」
指が這うたびに総毛立つのをロトは懸命に抑えた。
「お父さま、トゥアナへの書簡にそれを書いてると思うわ。だったらあなたは文箱なんて見つからないほうがいい?」
返答に窮する。
ロトは太子が新ラベル公を誰にするかなど、興味ないことを知っていた。
口を結んで語らないロトに、笑いながらふざけるようにセレステは体をぶつけてきた。
「あなた、あの指揮官の相手を本当はアウナにしたいって思ってるんでしょ?」
「年齢的にもちょうどいいと思っただけです。もちろんあなたでも…」
「私のことをよくご存知のくせに。カペルさんみたいに素直な方の知らないようなことを。誰よりも」
セレステのあのしっとりした指が頬を撫でて、カラーからのぞく首すじを触る。
「わたし確かにソミュールの部屋に行ってました。それってそんな大したこと?」
「子孫繁栄につながる神聖な行為です。軽々しく扱っていいような問題ではありません…」
「神聖ねぇ」
セレステはそこだけは小ばかにしたように言う。
「じゃあ神聖じゃなくしちゃえば?」
「セレステ…」
「理性なんてふっとばしちゃえば?」
じりじりと迫る。
鉄の意志がとろけそうになる。
こんなにも追いつめられたのははじめてのような気がした。
「ねえ、誰もいないのよ」
戦いの方がよほどましだ!




