思案 3
太子は頭を下げたままでぎりぎり歯噛みをした。
「トゥアナとベルガ、これだけは避けたい」
「まあ大変なこと騒いでますね」
年取った侍従と新入りの従僕が振り向いた。
背後には頭の禿げあがったロージン侯爵が、ゆったりソファに腰かけている。
「いたんですか」
「いました」
年取った侍従にささやきかけた。
「あのひと、昔からあの娘を狙ってたですからなあ。都で仲良くしてた頃は、ちょうど太子は15歳ぐらいで、トゥアナ姫は6歳だったかな。可愛かったですからね」
新入りの従僕が戸惑った顔をした。
「え…ロリコン?」
「いえ違うですね。一応、大人になるまで待ったんですからね」
「やっとソミュールを片付けたのに!!絶対に許さない」
太子は頭をくしゃくしゃにかき混ぜながら地団駄を踏んでいる。
「ベルガめ!大きな顔してトゥアナの旦那面するんだ。絶対にそう!いっつもそう!鼻が天まで伸びきって天狗になる。顔だけのくせに!大きな顔をして王宮にやってきて、でかい声してトゥアナの横で正論を吐くの?やだやだやだやだ、絶対やだ!耐えられない!!」
命令によって、従僕たちが文箱をもち、太子は机にどっかり座った。
「あの地区と金山をおさえて、隣国への要所にするには、ベルガをラベル公にするのはともかく、トゥアナを嫁にされては困る。ここはカペルに頑張ってもらうしかない!」
素早く筆を走らせる。
後ろからロージン侯爵が忍び寄り、首を伸ばして中身を声に出して読んだ。
「やっちゃえばいい、がんばれカペル。とりあえずやってしまえばこっちのものだ。既成事実がだいじです。ていうかもう、やっちゃったんだよね?夜を二人きりで過ごしたんでしょ?やってないって言っても、やっちゃったことにしなさい!妙齢の男女が夜を一晩過ごしてなんもなかったはずがないでしょ!だよね!」
素早く封をして送るように命じた。
「既成事実を作っちゃえば、母上も何も言えない。それでこちらに連れてこさせれば、もうこっちのものだ」
新入りの従僕は当惑顔で古参の侍従にたずねる。
「何なんですか?この騒ぎ」
「王宮なんてこんなもんだよ。慣れろ」




