広間の扉が開くとき1
五分後、扉は用心深く開いて、カペルは古参の二人が本当に去って行ったかを確認した。
一人になると急に緊張が増した。
落ち着こうと取り合えず太子宛の報告をしたためるために紙を広げていると、指がかすかに震えていることに気が付いた。
こんな高揚はどんな戦闘でも感じたことはない。
若すぎるほど若い二十代の司令官の頭の中は、領主の娘の大きな黒い目とまつげのことでいっぱいになっていた。
首尾よく二人きりになれたとしても、安心して、だとかえって怪しい。
今後の事で話がしたい、ぐらいが無難かと考える。
不思議なことに、娘に緊張してる様子はまったくなかった。
二人きりとなればさすがに警戒するだろうから、まずはなんとかしてリラックスしてもらわないと。
口の中で何度も繰り返す。
(直接話をしたかった・話がしたかった・今後のことで話がしたい・意見を伺いたい・)
それからカペルはちょっと考える。
きれい?可愛い?
どれとも違う。
カペルは目を閉じて額に皺を寄せ、さっき大広間ではじめて彼女に会った時の顔を思い出そうとした。
城の中央部、大広間にはじめて足を踏み入れた時、カペルは敷居を跨ぐ前に僅か動きを止めた。
垂れ幕が引き上げられて目の前に視界が開いた。
開城は緊迫した空気ながらも、スムーズに進んでいた。
カペルは軍歴が長くない。
開城や敗戦処理ははじめてのことで、素人同然と言ってもよかった。
左右に控えた副官の二人はお目付け役以上の意味がある。
城に入場する瞬間が最も緊張する瞬間だったが、市街の中に抵抗や敵意は見られない。
ただ不安と恐怖だけがある。
軍は警戒態勢を取ったまま、油断なく進むようと指示をしてここまで来た。
小さな城であっても通されたのは決して狭くはなく、それなりの大広間なのに、若い女たちが壁一面にずらりと並んでいたら、まぶしいを通り越して若干ぎょっとする。
サウォークが低く口笛を吹いた。
ロトが向けた咎めるような視線が凍り付く冷たさだったので、周囲の兵士が顔を見合わせて苦笑する。
捕虜となった領主の娘たちは顔を見合わせながらも、不安げに佇んでいた。
口笛を吹いたサウォークは、今度は固い、真面目な表情をして、政治的な重要課題の話題でもあるかのように厳しいしかめっつらを傾けて囁いた、
「やったな、カペル!よりどりみどりだぜ」
カペルも眉をしかめ、難しい顔をして囁き返した
「つーか、可愛い!想像してたよりずっと…」
そこで副官のロトが咳払いをして、横目で怖い顔付きをしてみせたので二人も同じく咳払いをして居住まいを整えた。




