会談 2
当惑の極みにいるカペルに、流れる涙を隠そうともせず、ベルガは鼻をすすりながら袖で拭いた。
背後がさっと布を差し出す。
涙をもう一度ぬぐって鼻をかみ、髪を少し整えた。
それからたずねてくる。
「トゥアナはどうなる?どうするつもりなのか?」
いきなり性急にくぎをさされた。
彼女を自室へ呼んだことが、ここまでもう伝わっている。
アウナが伝えたか、独自のネットワークがあるのかもしれない。
赤く腫らした目をこちらに見据えて、ベルガは拳骨を机の上に置く。
「はっきり言っておくが、私は田舎者で駆け引きは下手だから、気にかかっていることがすべてだ」
外見の優雅さとは別に、ベルガの話しぶりには確かに無骨な率直さがあった。
カペルはうなずいた。
「だから、統治だの中央政府だの何を話しても、それはあとのことだ。わたしの懸案は彼女のことだ。あんな粘着野郎に嫁にやるなど、わたしがあれほど反対したのに!」
ベルガの拳は真っ赤になって震えていた。
「夫のソミュールはウラの森で荼毘に伏した。骨は送ったよ」
「知っている」
仲がよくなかったのかな?夫の死を彼女がどう思っているのか知りたい。
そう聞こうとして迷うカペルに、ベルガはかぶせてきた。
「トゥアナの書簡を君は読んだのか」
「まあ」
「トゥアナは何と書くか君に相談した?」
腹の探り合いか。
おれそういうの嫌いなんだよね。
むらっと腹の中で動くものを感じた。愁嘆場も思わせぶりも気に入らない。
カペルは真正面からベルガの少し赤くなった目のふちを見据えて言った。
「モントルー、彼女は君を城に招き入れ新ラベル公として都と和平を結ぶシナリオを描いているんじゃないか」
今度はモントルー側がざわついた。
率直さに対するはっきりしたとまどいは、見ていて気持ちがいいほどだった。
サウォークが魂消るほど驚いているのも見たが、無視をする。
ベルガは真面目な顔をしていた。
慎重に言う。
「そんな事を口に出していいのか将軍。太子の意図を知らないわけではないだろう」
「知るもんか。聞かされてねえもん」
「カペル!」
サウォークを後ろ手で抑えて、カペルは言い放つ。
「回りくどいことは嫌いだし、おれ民間出なんだよね。貴族さまのやり方なんてわかんねえよ。戦をおさめてなんとかするには、普通にそれしかないだろって思うだけだ」
「都の人間らしくないな」
それはこのイケメンにとってはどうやら褒め言葉らしく、口元に浮かんだ笑顔とともにふっと空気がなごんだ。




