会談 1
緊張の中、ベルガが口を開いた。
「皆、武器を下ろして下がれ」
沈黙のまま、誰も動かない。
ベルガはしばらく待ったが、当惑の体で周囲を見渡した。
「いいから下ろせ。将軍、そちらも良いな?」
釘を刺されて、我に返ったカペルもうなずいた。
最後にアギーレが剣をゆっくりと下げる。
当初に予定されていた通り、二人は大机に向き合いに座り直した。
目の前の美青年を見守りながらカペルは気付く。
こいつ、鎧を着てない。
妙にすらっとしていたわけだ。
この背の高さなら鎧を付けてもさぞスマートに見えることだろう。
顔も美しく鼻筋も通って見た目のいいベルガの前で、カペルは体格もよくいかにも歴戦の武人風に見えた。
──そもそもがモントルーの連中はガチャガチャした鎧は着てないもんだ。剣も短い。山や森の中で引っ掛かって動きにくいからだ。
だが、横に並ぶ白髪頭や、側近のいかにもモントルーと言った山男風の猛者たちは着ている。
こいつ、戦意がないのか。
それともよほどの自信があるのか。
あれこれ思案している間に、対面に座ったベルガが、こちらに手を突き出している。
「?」
カペルは意図をはかりかねて妙な顔をしてしまった。
握手?いまさら?
「読みたい 」
「読む?」
「トゥアナだ」
「あ~~!手紙ね」
カペルは不器用にふところから書簡を引っ張り出した。
ふわりとトゥアナの香りが漂う。
顔だちが整っていて色も白く、女性のような雰囲気だからわからなかったが、差し出した指はごつごつして貴族たちのように生白く整えられておらず、武器を持ちなれている。
体つきもわりと骨太でしっかりと鍛えられていることに気づいた。
若い首領のベルガは封蝋を調べ、開けた形跡がないか仔細に眺めてから、黙って広げる。
封蝋がぱちんと鳴った。
彩色に彩られた美しい絵が広がる。
既に知っている内容ではあったが、カペルは横目で中身を確認した。
細かい所までずいぶん気を使ってんなあ。
おれには、ああじゃなかった。
もらったのは、もっと急いで書いたっぽくて、間違えて消した痕もそのままあって、それから、涙の痕も…。
!?
ベルガの頬に、ひとすじ、二すじ流れるものが見える。
涙!?
カペルは口をぽかんと開けた。
細めの白い頬を滂沱と濡らしてベルガが号泣している。
ザワザワッとカペルの後ろがざわめいた。
モントルー軍の連中は微動だにしない。目をつぶっている者もいた。
カペルは凝視して目を離せずにいる。
このイケメンの顔はともかく、やばい。
状況がやばい。
美青年の赤くなった頬と嗚咽、指の間を流れる涙にカペルまでドキドキしてきた。




