対面 1
槍の穂先と蠢く兵士たちの群衆が野原の向こう一杯に広がっていて、進軍はここまでと足を止めた。
ロトによれば、領主を倒された負け戦の逃亡者もかなり加わっているに違いないとみている。
緊張が満ちて耳が痛い。
同行させていた画家を呼んで手紙を託した。
彼は自分で彩色した手紙を両手で恭しく受け取ったが、おじた様子も見せず、顔色一つ変えない。
ギアズのへっぴり腰とは違う。
槍を受け取り穂を外して挟み付ける。
そうか、そんな風にするのか、と思った。
サウォークもその重々しい儀式ばった仕草に打って変わった緊張に満ちた厳しい面持ちで見守っている。
いつ弓が放たれ、射たれるかと皆が考えながら見詰める前を、画家は悠々と進んで行く。
美しい山々だった。のどかで自然豊かだ。
「御伝令!御伝令!」
棒の先にはさまれた手紙の封蝋が、太陽に当たって血のしずくのようにきらめいた。
カペルは馬の上から見守っていた。
最初の夜に下心を抱えたまま、トゥアナにたくさんの話を聞かされて混乱していたが、今となってカペルは自分なりに腹を決めていた。
まずはベルガ・モントルーに直接会ってから決める。
トゥアナの祖父の弟と言えば、亡ラベル公の叔父にあたる。
かなりの間ラベル公と覇権を競っていたのだろうが、押し負けるつもりはない。
この土地を託すことができる相手なのか見極め、でなかったら殺す。
四方八方から情報が流れ込んでいるが、どう転ぶかなんて誰にもわからないだろう。
ロトが心配しているのもわかっている。
アギーレや昔からの仲間たちの期待に満ちた目も、太子が試しているのも。
自分の胸に手をあてて聞いてみて、どうしたいかここまでわかっていなかった。
強い、こうしたいという意思があれば貫くのもいい。
だが、強い意志同士がぶつかりあって争いになる。そこには勝利と敗北しかない。
自分を勝利か敗北に追い込むほどの強い野望の一念は、カペルの中にどう探しても生まれていなかった。
ただ一つ、自分の方向性のようなものが見えたとすれば、ひとりの女を手に入れたいという一念だけだ。
この闇の中でぽっかりと浮かぶ光のように、あの明るい笑顔と可愛い顔が、希望の星のように導いている。
完全に肩肘はってなど、生きてはいられない。
彼女が手に入るなら、何でもいい。
領主になろうが、連れ帰って妻にしようが、恋人どまりでどうにもならなかろうが、そこがとりあえずの目標地点だ。
緊張が漂う中、再びざわめきが起きて、使者は別の手紙を槍の先に挟んで戻ってきた。
カペルは本人から受け取ったが、これは数行の走り書きで薄い。
周囲に側近とは名ばかりの仲間たちが群がった。
「何だ?どうだって?」
「お互いに僅かな配下のみで、中央の草地に話し合いの場を設けるとさ」
「罠、わなわな!罠だっつの、聞いちゃダメ、カペル」
「お前ちょっと黙ってろ」
サウォークがアギーレを小突いた。
「ロトがいないからって調子に乗りすぎ」
戻って来た使者たちに、カペルは尋ねた。
「で、どうだった?モントルーとは話せたか?アウナは?」
ギアズはへこんでいるので話にならない。
画家と、もう一人供に付けた士官の話ではこうだった。




