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ラベル・エラベット  作者: 天海 悠
回廊にて
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グアズの夢 3




そもそも、最初にグアズをけしかけたのはパラル本人だった。

なるべく穏便に事を運びたいけど、やっぱりあのおばさんに相談しないと何も始まらないよ。

ウヌワもまた、トゥアナに匹敵する力をこの城で持っていることは確かだった。


不思議なことに、男たちが従い、力あると決める女性は、美醜でもなければ賢さでもなく性格でもなく、驚いたことに身分ですらなかった。


面白そうな顔を変わらず崩さないウヌワが、大きな珠のはまった指輪を見せた。


「じゃあおまえたち、この指輪の中身が何か知ってるかい」


パラルの白い頬がかすかにひきつった。

ポイズンリングと呼ばれる、自害や毒殺に使う指輪、開閉できるようになっていて中に毒薬が入っている。

そんなのいまどき、まだ持ってるやついるの?

ていうか、家政全般取り仕切ってるやつがこんなの持ち歩いてるのって危険すぎじゃない?


「これをこうやって、(ひと)たらし入れるの」

「たとえば……」


ベルガの皿にとか。

待ちきれずに口を出そうとしたグアズの口を、パラルはもがもが(ふさ)いで邪魔しないようにした。


「以前まではね、自分たちが死ぬための毒を探してたのよ。妹たちが苦しまないようにって、親心なの。そういう親心ってトゥアナはまったく理解しないんだよ。だけど、姉が敵を全員、この城に引き入れた時からちょっと思うようになったんだ。どうして自分たちのために使おうって思ってたんだろう?」


ウヌワは立ち上がって井戸の周りをひとめぐりした。


「和平を結んで、この城の中に入ってきた、みんな喜ぶ、みんな無事で安心、仲良くなって、結婚だってしちゃうかもしれない。セレステなんかは役に立つのよ。みなを生かしているわたしは、誰を殺すこともできる。一気に、全員を!」


この女は一体何の話をしてるんだろう。

パラルはどんどん違和感が強くなってきていた。

別にジェノサイドやれって言ってるわけじゃないんだけど。

話、通じてなくない?


一人殺すも百人殺すも同じだって言いたいのかな。この女にとっちゃ同じことなのか。殺人鬼を野に放とうとしているような気がしてきた。


「赤ん坊や子供を生かすって毎日、毎日同じことの繰り返し。摩耗するの。すり減って、少しずつやすりにかけられてけずりとられていくのさ」

「ウヌワさん……」


結城を出してパラルは声をかけてみたが、ウヌワはまるで聞こえない風だった。

この人、頭がおかしくなってる?どこかにいっちゃってるよ。

確かにウヌワには、なんの声も届いていなかった。ギアズの声も意図も完全に無視して、自分だけの思いにひたり、想像の悦に入っていた。


「生かしておくのはわけがある。この土地を守り、秩序を維持する力に育てばと思えばこそだから!それができないようなら、よそ者に媚を売ってまとわりついて、気持ち悪いことになるようなら、そんな子はいらなくない?」


アウナのこと言ってるのかな。姿を現してからは、そばにべったりくっついている。しかし当然、トゥアナも入ってるだろうな?これは。


「ちょっと、ねえ、ウヌワ!」


パラルは声を振り絞った。


「おばさん!」



「正直な話、ウヌワと一緒に文箱(ふばこ)を盗み出したのはこのわたしなんですにゃ」


ロトの前につぶれたギアズは、鼻水をすすりながら訴えた。


「いくらトゥアナさまでも、文箱の中の書類がなけりゃ、どうしようもないだろうと思って……」

「そのとき、あなたは中身を見たのですか?」


ロトの目が怖い。

黙っているギアズの沈黙が雄弁に物語っていた。


サウォークは自分がまだ書類の中身を読んでいないし、ロトが話そうともしていないことを今更のように気づいた。双子も中身は専門用語と難しい単語ばかりでよくわからなかったと言っていた。セレステは中身を知っているのだろうか?じっとギアズを見下ろしてただ静かに見守っている。彼女とロトはどういう関係になっちゃってるんだ?


「ウヌワ殿は?」

「見ないうちにどこかにいっちまって、あれ(ウヌワ)は見てないようなので、あたしは内心、ほっとしたんですにゃ」

「燃やさなかったんですね?」

「途中で怖くなって、関わらないことにしたんですにゃ。グアズが協力を断固拒んだ鍵師の親父を殺したりするから……」



「お、おば……」

「話聞く気ある?おばさん!」


豹変したパルラの姿にグアズもあっけにとられていた。


「ぼくは評価してるんだ、あなたのこと。えらいよ。正直、この城なんてあんたがいなかったら立ち回らないもんね。一の姫はお飾りだ。いなけりゃいないでさびしいけど、いなくてもなんとかなる。そんだけのものを築いてきただろ?だからこの城の者はあなたに従う」



「ぼくは商人だ。だからWinWinが一番すきさ。誰にも損のないように、最善の策でおさめるんだ。そのためには死んでもらわなきゃならないやつもいる。生贄が必要だ」


「全員ぶち殺す、そんな気分になってるのはわかるけど、それじゃめちゃくちゃだ。損しか産まない」


「この書類をあなたのために使ってもいいよ。他の連中にだったら、何でわざわざおまえらのためにって思うけど。あなたは力を持ってるのにそれをみんなを生かすためにしか使ってこなかった。そろそろ自分のために何かしたっていい頃じゃない?」



手紙をばら捲き終わった二人は、途中で馬車を乗り捨て、騎馬に変えていた。


「あなたは後から来てくれ」

「わたくしも行きます!」


何度か馬を変えながら城下町にたどりつくと、ただならぬ騒ぎになっている様子が見てとれた。

皆、口々に何か言いながら指さしている。

城の裏手から火が吹き上がっている。

あちこちが真っ赤に燃えていた。

トゥアナが馬上で手綱を落として口を押さえた。


「何が起きたんですの!」








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