酒場 1
おれはあのパラルって奴はどうも虫が好かねえな。
鍛冶屋近くの酒屋で酒を傾けながら、ひそかにサウォークは考えていた。
彼がウヌワと親し気に話しており、笑顔さえ見えるのを見たときには、誰もが驚いた。
パラル以外の誰一人、これまで都から来たよそ者たちのなかでウヌワにここまで近付けた者はいなかった。ギアズは目をまん丸にして、口さえ開けている。
「ウヌワさま、ああいう人畜無害なタイプお好きだから……」
侍女たちが囁いているのを見たが、サウォークにはその細い背中にサラッとかかる髪は得体の知れない妖怪か何かにしか見えない。
グアズと知り合いなのをほのめかし、ウヌワに取り入った後は、ベルガ公に丁寧で気さくな挨拶をする。
店を出してどうすんだ?
カペルの親族の立場を生かして市政の 内部に食い込み情報くれるならいいが、 そんな気配もないし、アギーレもべったりだ。
あの喧嘩っ早い狼みたいな奴が、あいつの前では犬みたいに舌出して尻尾振ってる。おかしいぜ。カペルがいやがるのも無理ねえわ。
何よりも解せないのは、何でも疑ってかかるあれほど慎重なロトさえも、パラルをまるで疑っていないことだ。
「彼は有能な商人ですよ。カペルがうまくやっていけているのが、彼が太子の周囲に鼻薬を嗅がせているからというのはほんとうです。如才ないし、弟思いで商売上手だ」
かかとを合わせて厳しい声を出した。
「それよりサウォーク!大目に見るのも限界があります」
「何のこっちゃ?」
「婚約者がいる鍛冶屋の娘にちょっかいを出して取り合っているそうですね」
「だ~か~ら~!!違うって!」
「噂になってしまえば、なってるのと同じことです!」
それで腹を立てたサウォークは、ニマウに頼んだ。
「あんな野郎にはもうものは頼まん、お前、奴に怪しい所がないか調べてきてくれ」
女鍛冶屋のデリアに求婚しているというのがどうにも解せない。
わからん。
思惑を慎重に見極めてからだ。
そしてグアズとこそこそやっているなど、うさんくさすぎる。
ニマウはオノエより自立していた。少なくともそうサウォークにはそう見えた。
冷静で頭が切れる。
ニマウは目を光らせてうなずき、ひとりで様子を見に行ってくれた。なのでサウォークはあまり深く考えず、オノエにはパラルの方を見に行ってくれと頼んだ。それがどれほど危険なことが考えもせずに。
「おまえ、またここに来てる!」
キンキン声が鳴り響いて、振り向くと鍛冶屋の娘、デリアの父親が目をつり上げてからんできた。
「また来やがった。じいさん大丈夫だよ。あの子はおれと一緒じゃねえって」
枯れ木のように細くて小さな老人が何か口の中でみやこもんとか何とかぶつぶつまくしたてている。
「おれはサウォークってんだ。いいかげん覚えろよ」
「あんたたちも早く出てってくりょ。あいつにこんなことに関わらせないでくりょ!」