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ラベル・エラベット  作者: 天海 悠
回廊にて
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旅路 2





動揺はしたものの、さすがに以前のカペルとはもう違う。覚悟もしていた。にっこりして突然現れた姫様を手まねいた。

二人は連れ立ってゆっくりと夜営地のなかを歩いていき、兵士たちは笑顔で敬礼をしたり、手を上げて挨拶をしたが特に何の好奇の目も囁きもなかった。みな、寝転がったり楽器を爪弾つまびいたり、談笑したり好き勝手にしている。


「アウナは一言も話してくれませんの。ずっとそっぽを向いていますわ」

「そっか」

「それでねえ、途中で母上のところに先に寄ろうと思いますの。都に入る手前の郊外にありますわ」

「わかった」

「元々王都にある ソミュールの 館か、父の館か、どちらにか行くべきなのでしょうけど、どちらも王宮に近すぎるし何より太子様の家に近いんです。私はほとんど母の家に過ごしていましたの。少し郊外で王都からも離れてますので」


遠慮がちにカペルは言った。


「カデンス家の屋敷だろ。あそこな、おじさんの家もあるんだ。ちょうどいいから会ってくるよ」


トゥアナはちらっと見たが、何とも言わなかった。お互いの親または親代わりになっている者たちの名前を出し、さらにどちらともなく手を出してつないだ。

(べり)に降りる細い道だった。


出かける直前にロトがカペルにささやいていた。


「いいですか、今届いた知らせでは、元老院は…」

「それ、おじさんの手紙で読んだ。元老院の縮小法案は王の命令で破棄された。太子は難しい舵取りを迫られている、ってだろ」

「王とは言いますが要は皇太后です」


どうなんかなあ。

カペルは少し考えこんだ。

ベルガには負けないって気負うことも出来たが、太子と皇太后のどつき試合のなかで

本当にトゥアナをうまくゲットできるんだろうか。

なんだか、あのわあわあぎゃあぎゃあと騒がしいラベルの土地が早くも懐かしくなってきた。

しかし、宮廷に行っても外見だけはにこやかなわあわあぎゃあぎゃあが続くことは変わりなく、カペルはおじさんに知恵借りよ、と決めた。いきなり現れたパルラの意図も気になる。

もともとおれはそんなに頭まわんねえし。そらやめとけよ無理だわってあっさり言われたら、いいよって何もかも捨ててまた旅に出よう。そしたらずっとひとりで生きる。

そんぐらいの覚悟きめないとこのトゥアナをもらうなんて天国の夢すぎら。あと一生地獄ぐらいの覚悟決めておかなくっちゃな。

とはいえ、結局はだめかもしれない、トゥアナに会えなくなる未来もあると考えただけで顔色が暗くなり、そんな彼の前に当のトゥアナがまわりこむと、頬をはさんで両手で叩いた。

ぱちんと音がした。


「いてっ。いきなり何すんだ」

「どうなさったの」

「心配ない」

「あなたが私を心配して下さったように私も心配したいのです。顔がこわばってましたわ」

「ずっと我慢していたから」


ああ、わかっている。

ここがあの手紙で夢中になって語り合ったその場所で、今おれたちは二人で立っているんだ。

ここが、おれたちを結び合わせたんだ。

一度も会ったこともないのに。

会うことがあるはずもないおれたちなのに。

あの紙の上の文字が、インクに夢中になってペン軸を浸した時間が、待っている間の胸のときめきが全てを忘れさせてしまった。

任務も、戦争も、家族も、立場も、過去も未来も何もかもだ。


「ここに来てくれたら」

「来ましたわ」


カペルの腕が伸びてきて彼女をぎゅうっと抱いた。


細くてか弱い肩だ。だが、抱き締めてみたらしっかりとした肉感があった。この肩にみんなして期待や未来を背負わせる。

これまではソミュールが一手に引き受けてたはずだ。

セレステとのことはよくわからんし、いやな奴だったかもしれないが、少なくとも彼女を余計な争いに巻き込んだりもせず、手出しもせずに太子からも守っていたんだ。

そんな真似がおれにできるのか?やってみなけりゃわからない


「怖くない?」

「大丈夫よ」

「嫌じゃない?」

「平気です」


すると空気が変わって、安心したような優しい気配が漂った。

彼はじっとトゥアナを抱いていた。背中をぎごちなく撫でる大きな無骨な手が彼女には気持ちよかった。

トゥアナが小さく顔を傾けたから、頬に触れようとしたカペルの唇がちょうど彼女の唇をかすめ、二人はそのまま目を閉じてキスをした。


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