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ラベル・エラベット  作者: 天海 悠
回廊にて
122/162

カペルの手紙 2






トゥアナに最初の縁談が着た時、母は娘に聞いた。


「本当にいいの?なんだか私は気に入らないのよ」


相手の顔はトゥアナも見た。家柄も申し分ない。姿も貴公子そのもの、典型的な貴族だった。気位が高く、選民意識にあふれ傲慢だ。

ちらっとトゥアナの頭を泣き虫ベルガの顔がよぎった。でもその涙でいっぱいの顔は、この貴公子を押しのけるほどの力を持たずふわふわと消えていく。


「あなたは別にいいって言ったって聞いたんだけど本当なのかしら」

「お父さまがそうしろって言われるので」

「あなた、そんなに聞き分けのいい娘だったかしら?おとうさまとも、妹ともいつもケンカしてるって聞きましたよ」


母は優しい声を持った人だった。

鳩が卵を転がしながら出すような声、見た目も優しい。最初にあった誰もが好きになる。しかしラベル領を飛び出して都に戻ってきてしまった時に、父公爵は何度も実家に連れ出そうとやってきたが、母の気を変えることはできなかった。


(どうしてかあの頃は、お父さまはいつもお母さまのところに来ていたわ)


トゥアナを連れて父は頻繁に母のもとへ訪れた。

不思議なことにトゥアナは父と母が体をよせ、顔を寄せて仲良く話しているところしか知らない。


母は父を機嫌良くさせることが出来る。あの厳格で癇性ですぐに大きな声を出す父が、ちっとも怒らない。すぐに静かになる。あれほど短気で、周囲が頭を下げ、びくびくしているのが当たり前という顔をしている父なのに。


「ほらあれが離婚なすった原因の女ですよ」


ふくよかな侍女のウルマは顔をしかめてトゥアナに囁いて見せた。

堂々とした体格の気位の高そうな立派な侍女頭だ。

それもそのはずこの、家のすべては裏方まで全て彼女に掌握されている。それが妹のウヌワの母親だった。


トゥアナは部屋に閉じこもってよくよく考えた結果、ある結論に達した。

この城の主導権をお母様に取り戻そう。

そうすればお母様もきっと戻ってくる!

この城は明るく、笑顔があふれ活気ある楽しい場所になるはずだ。

父はそんな長女トゥアナが城の中で権威をふるうことに後ろ盾を与えた。

それでもどうしても、鍵は取り戻すことはできなかった。


「モントルー一族は、正室を追い出して我が物顔でふるまっている女中頭の専横にはみんな腹を立てている」

そんな風にベルガは手紙を書いてよこした。

「君とアウナには、わたしたち一族もついている。トゥアナのことをいつでも聞く用意は出来ている」


それなりにえらそうな口もきけるようになったんだわ。あの弱虫の泣いてばかりだったベルガが。

トゥアナは頭をかしげて手紙を読んだ。


用意はできているって、何のことなのかしら?

わたしが命令すれば、あの女中頭を追い出してやるってこと?

そんなこと、するのがほんとに正しいことなのかしら。


トゥアナはいつしか気付いていた。どんなことをしてもお母さまは帰ってこない。

戦おうと気張っていた心は揺らいだ。だがもう遅かった。


いくらトゥアナがあきらめ、和を保とうとしても、トゥアナはもう父の代わりに、息子であればやったような、土地の管理や領地内の有力者との折衝や、都との橋渡しをすることに手を染めていた。

だが、娘は息子にはなれない。


こうして今、縁談を前にトゥアナは母親の膝にすがっていた。

「お母さまだってうまくいくかどうかなんて分からなかったでしょ。結婚前には。それっていつわかるの?うまくいくかいかないか」

「触った時にわかります」


大真面目にトゥアナの母は言った。

そして、ちょっと考えて指を1本ずつ上げていった。


「そうね最初はご挨拶の為に手にキスをさせた時。次は手を握った時よ。最後は、3秒以上長くキスをした時。それで全部わかります」





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