化かし合い 1
カペルの兄、パラルは城の階上に群れて侍女たちをじっと見上げていた。
一人一人に目を移しながら、何かを探している。
細い侍女の一人が血相変えて女主人らしき女性に詰め寄っている。
「そんな!トゥアナさま、都に行かれるなんて...ベルガさまはどうなりますか!?」
「イマナ…そうは言っても避けられないことですのよ。一度は行かなければならないでしょう」
「トゥアナさまがあちらに行って、引き留められてしまうってことだってあるでしょう!?ベルガさまは絶対に行って欲しくないはずです」
横からふくよかな侍女が不機嫌に言い返した。
「太子さまは楽しみにされているでしょうよ」
細い侍女はぐるっと向きを変えて怒りのあまりつかみかかりそうな勢いになった。
「太子さまよりベルガさまとの方がお似合いよ!絶対にそうなんですって。街でアンケート取ってみればわかりますから。こっちの意見の方が主流ですから。ウルマはいつもいつも太子さま太子さまって…並べてみたらわかるでしょ!?ベルガさまとの方がお似合いよ!!」
「勝手に決めないで!」
パラルの目は、ぴたりと一人の所で動かなくなった。
「ねえねえ」
アギーレの袖を引っ張った。
「あれ誰」
「誰って?」
「あの侍女たちの真ん中にいる、割と豪華な服着た人だれ」
「あれか。聞いて驚け、あれが公爵の一番上の娘で俺達がぶっ殺した伯爵の奥さん、未亡人だよ。カペルが今必死になって口説いてるんだ」
「口説いてる?」
「もう必死。目の色変わっちゃって、尻を追いかけ回してるよ」
「一番上の娘?姫?あれが?本当に間違いない?」
「そー。トゥアナ姫、ソミュール伯爵夫人。ばりっばりの高位貴族だぜ。もし口説けたらすげえことになるよ」
パラルはじっと黙って見ている。少年のような愛らしい外見なので目立たないが、眉上きっちりと切りそろえられた髪とまつげの下の目は笑っていなかった。
「でもさ公爵の娘で一番上って、次の公爵と結婚するって聞いたんだけど」
「それだよそこをなんとかねじこもうって腹なのさ」
アギーレはにやにや笑った。
「お前呼んだわけが分かったろ。こんなおいしい話ちょっとあるもんじゃない。お前は俺より頭が切れるしよう、この辺のうまい汁吸いまくりだぜ。上手くやればな」
「はーんなるほど」
パラルは鼻で笑う。
この外見だと、ばかにしたような態度でも腹が立たないらしく、アギーレはささやいた。
「このどさくさに紛れてよ、一山当てようっての」
「いいか金山があるんだ」
パラルの目がきらっと光った。
「マジで」
「あの新しい公爵のさとのモントルー地区には」
「お前声が高いよ。金魚って言え」
アギーレはなるほどという顔をして悦に入って言った。それでも若干声が大きく、パラルは眉を寄せる。
「金魚があるんだ。隣の国も、多分太子も全部それを狙ってやがる」
「OKわかった。お前しゃべりすぎ」
相手の口をぴっと細い人差し指でさす。
「そこまで言うからにはモントルー地区の有力者のコネはつけてあるんだろうね」
「そっからはお前の腕の見せ所だぜ」
二人はこそこそ話をやめた。
パラルはじっとトゥアナの顔を見守る。あの時は侍女の服を着ていたし、カペルの陰に隠れてよく見えなかったけど僕の目はごまかしようがない。
「僕、そういうの覚えがいいんだよね」
口の中でつぶやく。
あいつ伯爵にでもなるつもりなのか?奥さんをベルガ公から買って太子に売って買って売ってゲット?そんなうまい話、おまえに独り占めさせると思う?パパとおまえの母親が結婚だってよ!そんなの信じられる?お前ずっとでかい顔させると思う?そんなの俺が我慢できると思う?
「ぜってーぶっ壊してやるからなそんでもって金魚もいただく見てろよカペル」