混沌の城 2
もう心底いやになりかけているロトは、きびきびとまとめた。
「では、文箱は小公子の身分を証明するもの。今はウヌワ殿の手元にはない。行方不明なので証明することもできない。証明したがっている者たちの手に落ちれば?どうですか?」
ロトはギアズの方に直角に体を向けて、ギアズは縮み上がった。二人とも知らなかったが、それは都の法等院学校で教授が生徒を詰問している姿によく似ていた。
「それほどの正当性があるものですか?ここまで決まったことをひっくり返せるほどの?」
「確かに、ソミュールさまは小公子さまを正式な後継ぎにしたがってました。ラベル公が後継ぎに定めたのはソミュールさまですにゃ。ですから、正式に庶子じゃなくて実子に指定できれば、つまりトゥアナさまの養子…たぶん…それができれば、事態はわかりませんにゃ」
トゥアナが拒否しても、ソミュールと亡きラベル公の両方が了承した書類がそろっていれば認可されるだろう。
「太子さまが不仲のベルガ公を追い落とす火種になりかねないほどのものですか?」
「そこまでとは思えませんにゃ。あれに入ってるのは、ラベル公の書簡ですにゃ」
「ふむ、それで?」
「ラベル公のご気性から、そんなのOKするとはとても思えないからですにゃ。せいぜい、庶子の身分を証明するぐらいしか…と思うのですけどねぇ…」
「ウヌワ殿はそれに賭けている?」
「あれは思い込んだら突っ走るところがありますのでねぇ…書類を見せろ見せろってトゥアナさまに迫って、それはそれはものすごかったですにゃ」
ロトは椅子に座って考えていたが立ち上がる。
ならば、どちらかと言えば、ウヌワ派の勢力を削ぐ方に注力した方がよさそうだ。治安維持しながら文箱は探させる。そんな風に算段をする。
ウルマとギアズは、互いに何となく顔を見合わせて目くばせをした。
考えながら廊下を歩いていたロトは、大きなスペースがある玄関広間に群れる数名の中に、ベルガとカペルが話しているのを見つけた。
「カペル、良いところに来ました」
階段の上から呼びかけ、下に降りていく。
「今日一日中探していたんですよサウォークはどこですか」
カペルはこころなしかさえない顔色でぐったりと疲れている様子だ。ベルガが代わりに返事をする。
「先ほどわたしと一緒に帰った」
「ベルガ公と?」
「町に遊びに行ったのだが、お目付けに付いて来られてな」
ロトの表情が和らいだ。
「そうですか。一言声かけて欲しかった」
てっきりたががゆるみ、こちらの目を盗んで遊びに行ってるのかと思ったら案外真面目に仕事しているのだなとロトはうなずく。
ベルガが『付いて来られた』と言ったのは帰り道のことに過ぎなかったのだが、サウォークにとって運のいいことに誰もそこまで追求しなかった。
アギーレが横から口を出す。
「そういえばカペル、お前の兄貴も来てるよ」
「知ってるよ!!!」
「モントルーの城にいるとき、俺が呼んだ。お前の真似しておてがみ書いたんだ。どうよ?」
「お前何勝手なことしてんだ!あいつほんっとヤバいやつなんだから!鬼門なんだよ!」