川辺で 2
「おれはあんたを連れていきたい」
カペルは重ねて押した。
「あなたはどう思ってる?」
「わたくし?」
「はっきりしたいんだよ」
トゥアナは、目を大きくしてカペルをまじまじと見た。ほっぺたがあっという間にみるみる赤く染まっていった。
「思わせ振りに振り回すだけ振り回してあとはほったらかしなんじゃこっちだってどうしたらいいか分かんないんだよ」
「わたくしがいつ?どうやって思わせぶりな態度取りました?」
「してるじゃないかベルガにだって」
「わたくしが!?」
「もと旦那はどんな人だったの?おれ聞いてないや、そういえば。あなたの口から直接聞いてない」
トゥアナは困った顔をして腕を組み顎にこぶしをあてた。
「彼は…彼は…?そうねぇ、何とかしてお父様とこの土地をまとめようとして、努力してましたわ…」
「みんなにじゃなくて、あなたにとってどうだった?」
「わたくしに?」
トゥアナはきょとんとする。
いつまでそんな格好付けてんだ。
ちょっとイラッとして、カペルは詰め寄りながら矢継ぎ早にことばを繰り出した。
「さっきから何を遠慮してるんだ。好きなように言ってないじゃないか、双子にも、あの連中にも。いつものあんたじゃない。思うようにやってきただろう。俺を振り回した時だって、ベルガをひっぱたいた時だってさ。そんなあんたが好きなんだ!」
思いきって言ってしまえば楽になった。憑き物が落ちたようにすっきりとして、カペルはすっかり調子を取り戻す。
男同士でワイワイやって、野放図に言いたい放題やりたい放題やってるのと何の変わりもない。いつもの俺だ。俺は俺を取り戻した。
そうだずっとモヤモヤしてたのはこれだ。言いたいことを言ってなかった。
ひとあし先に出ると、半歩彼女が下がる。
びっくりしている顔が余計に嗜虐をそそる。
今ならわかる。彼女は少なくとも、ベルガや太子よりも、それからあの得体の知れなかった元旦那よりも、おれの方に気持ちは近いって。
だってこうしたって彼女は怖がってない。
「配慮して、丁寧にしてた。そんなの柄でもないのに」
じりじり迫って後ろは倉庫の壁だ。
「ここまで来といてその気にさせてそりゃないだろ。もう十分我慢した!」
トゥアナは口を開けたり閉めたりぱくぱくさせた。いつも勢いのいい、口から先に出てきたような姫なのに、言葉が出ない。
「ま、ま、待ってくださいませ」
「待たない!」
顔を近付けると、トゥアナは観念したようにぎゅっと目を閉じて、可愛い唇をこちらにちょっと突き出した。