川辺で 1
カペルとトゥアナはまだ川辺をぶらぶらと歩いていた。
いろんなことが起きたのに、カペルの気分は悪くない。
なぜなのかいろいろ考え直してみても、その理由はどうやら、彼が戦闘で殺してしまったトゥアナの元旦那が彼女にとってあまり理想的な夫ではなかったことに起因しているらしい。
そうだよ。きっとろくなやつじゃなかったんだ。
カペルはもう何度も繰り返してきたことだが、あの伯爵の青白くて細長い冷たい顔を思い出していた。
和平交渉の席に付いた時から一目見て信用できない男だとだけ思う。
長い軍靴の脚を投げ出してこちらを見下す風が前面に出ていた。
「太子様には確かにこの旨お伝えいただけるのでしょうな」
そこだけは何度も繰り返す。平民上がりの指揮官など歯牙にもかけていない。代理どころか、ただの伝達係としてしか見ていない様子がありありと出ていた。
伯は自分をラベル公爵の代理人として認めてもらうことを主張した。公爵亡き後はソミュール地区及びラベル地区の全権を彼に統一すること。太子本人と直接交渉がしたい。
これではカペルもこっちだって子供のおつかいじゃねえんだからと言いたくなる。
ロトが後ろからこれも相手に合わせて気難しげな顔で厳格に問う。
「あなたはそうおっしゃるががなぜ公爵本人がこの場に出てこないのだ」
「彼はへそ曲がりのようだ。あなたもよくご存知だろう」
ロトの顔は見知っているとみえ、いらいらと伯は体を揺すって、それから声を多少なだめるような調子に変えた。
「だか私がよく言い聞かせた。ここでお互いに体を引くことには公爵も同意している。これらの条件に同意して停戦協定に調印してもらいたい」
何を急いでいるんだこいつは。
その日カペルは署名しなかった。会合は翌日に繰り越され、もう一度話すこととなった。伯爵は苛々していても、それを表に出すような人間ではない。
そしてまさにその同じ夜だ。急襲がかけられてきたのは。
今でも思う。あれは何だったんだろうと。あのときの伯がまったくの嘘つきだったとも思えない。
ラベル公は本当に同意していたのだろうか?
いかにも貴族貴族した、貴族の嫌なところ全部固め合わせてごっちゃにしたような野郎だった。その妻がこんなに可愛く一生懸命で純真な感じだとはとても信じがたい。
何よりトゥアナには腹の底まで正直な所があった。ベルガも同じだ。どうひっくり返ってみても、ひとがいい。似合わない夫婦というのはお互いの不幸なんだとカペルは考える。
ということはやっぱりあれだ彼女はあいつとは気が合わなかったんだ。仮面夫婦だったに違いない。
トゥアナはまだ何か言わなければならなさそうな深刻な顔をしているのだが、カペルはもう半ばどうでもよかった。
──この人に連れてかれちゃうんでしょ?
連れて行きたい!
間近に揺れる細い指をカペルはぎゅっと捕まえて握りしめた。