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ラベル・エラベット  作者: 天海 悠
回廊にて
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黒マントの男 1

 




 俺はなぜ軍法会議にかけられているんだ。サウォークは疑問に思う。ロトの厳しい顔が只事ではすまないことを示している。

 カペルのあきれ顔、アギーレのにやにや笑い…お前らそんな顔してないで助けてくれよ…。

 声をかけようとして言葉が出ない。

 俺は 本当に何もしてない。何もしてないんだー!!


 …本当に?

 ちょっとだけ一筆入れただけなんだ。本当にそんなつもりじゃなかった。

 うなされて ハッと目が覚めた。見慣れない天井だ。周囲は とても落ち着いた ごく一般的な一軒家の調度品だ。妙に豪華だったり落ち着かない貴族的なデザインではなくて、市政の家そのものだ。

 頭を動かしてみる、部屋の入り口近くにえてある 衣装だんすで、大きながたいのいい女が ゴソゴソと着替えをしている。

 その女があの女鍛冶屋の デリアだとさとり、一瞬でサウォークは目が覚めて 固まった。 声が出せない。一体どうして こんなことになってる。これは夢か?夢の続きに違いない。


「そんなとこに隠れてないで出ておいで」


  反射的に しっかりと目を閉じてまだ寝たふりをした。

 扉が開く音がして、廊下から声がした。


「双子が来てるかと思った」

「今日は色んな奴が来てるよ」


 聞き覚えのある声だが思い出せない。

 可愛らしい少女の声だった。でも双子ではない。


「どうした?久しぶりだなアウナ」

「デリア、わたしに剣をちょうだい。目立たない小刀がいいの。持ってたの取り上げられちゃった」

「お代は持ってるの?」


 頭が回らなかったサウォークに 少しずつ記憶が戻ってきた。


 あの時、柄の悪そうな連中はみな去ったが、残された者たちには気まずい空気が流れていた。オノエもサウォークもどうやら自分たちがカペルとトゥアナのデートの邪魔をしたことに気付いていた。

 誰もが何かを言おうとしてもぞもぞしているそのとき、皆は繁華街の方角から脱兎のように走ってくる少女を見た。


「イマナ!」


 オノエが気が付いて手を振る。

 イマナはオノエの首に飛びついて泣き出した。


「オノエ、置いてくなんてバカバカ!いつもどんなときでも、絶対に離れないって誓ったじゃない」


 どこをどう探したのか、疲れきって泥だらけになっている。

 オノエは一瞬、顔をゆがめてつらそうな顔をした。そしてイマナをぎゅっと抱きしめる。それから決意したように宣言した。


「ぼくは行くんだ。公爵と結婚したらさ、母さんだってイマナだって都に呼べるんじゃない。あの気持ち悪い男から守ってやれるよね。こんな生活から逃れられる。そうだろ?」

「オノエ…そんな風に上手くはいきませんのよ」


 川の水にハンカチをひたして戻って来たトゥアナはかがんで、イマナの泥だらけの手足を拭いた。


「あのね、アウナは都に行くって言ってました。ちゃんとドレスも着て貴婦人らしくすると。アウナはね、やろうと思えばやれるでしょう。でもあなたは…あなた、ここを出たいの?」


 サウォークは双子が唇を噛むのを見た。

 こんな元気で何も考えてないように見えた喧嘩っぱやい…要は明るい子供らが、あれこれ考えているものなんだな。

 トゥアナは噛んで含めるように二人に諭す。


「もうね、わたくしたちそうするしかありませんでしょう。あなたのお母様のことも、鍛冶屋さんのことも、何とかうまくいくように行くように取り計らってみましょう」

「姉さんだってそんなこと信じてやしないくせに!」


 はじかれたようにオノエは自分からトゥアナの手を振り払って叫んだ。


「姉さんだって連れてかれちゃうんでしょ?この人に。そう言ってたもの」


 オノエの指はまっすぐカペルを指差している。

 虚を突かれてトゥアナは顔を真っ赤にした。


「そんな、オノエ…わたくしは…」

「僕らが何も知らないなんて思わないで!そしたら僕らはもう、ここに残ってただ押しつぶされていくだけなんだ。みんな好き勝手やってるじゃないか。おとなはみんな。そんなのやだからね。僕は…」


 止める間もなく、オノエは走り出し、イマナがあとを追う。

 サウォークは迷ったが、振り向いてカペルに言い残す。


「あいつら、放置しておけねえからよ」


 この場に遺されるよりはましだ!


「おい待て、勝手にまたどこかに行くな!」


 叫びながらサウォークは走り出した。





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