踊り子の姫 1
「カペルいねえわ。姿をくらましてるよ」
あちこち周囲をめぐって戻って来たアギーレがロトに言う。
ロトはずっと難しい顔をしている。
「あの話、どう思う?ここまできて、新ラベル公をあの赤ん坊ってそんなんありなのかね?太子さまは喜ぶかもしれんけど。ベルガが気に入らないんだろ」
「庶子です。正当性を主張するには弱い。ですが庶子でもラベル公とソミュール伯どちらの血も引いているのですから、彼女らの主張もわかります」
ロトが考えながら重たい口を開いた。
「皇太后さまはどう考えられるかさっぱりですが、愛人の子の正統性など頭から却下しそうです。話を聞かないかたなので(聞いても忘れますし)」
いつもの彼に似合わず、なんとなく苦しげだった。
アギーレは眉をひそめてそんなロトを見る。
「どちらにしてもあの子は苦しい立場になるでしょう。トゥアナ姫が存在を隠していたのは賢いやり方でした」
文箱にもし、その子供の正当性を証明するような書類が入っているとしたら…。この事態をひっくり返せるほどの正当性が想像できないのだが、もしあるとしたら。
これはやっかいだ。
ロトは唇をかむ。
ベルガを推しているトゥアナ姫が何としても隠そうとするのもわかるし、相手方が何としても取り戻そうとしているのもわかる。
一体いま、文箱はどこにあるのだ?
「そういや、一の姫様は?」
「トゥアナ姫は早朝から政務室にこもりっきりです」
「え~、カペルも一緒に部屋でいちゃついちゃってんじゃねえの?どっちも姿くらましちゃって怪しいわ~」
ロトがはっとして左右を見る。
「サウォークはどこです?」
「街に行くとか言ってたよ。あいつも最近、なんとなく言動があやしいんだよね。お気に入りの女でも出来ちゃったんじゃないの」
アギーレはロトにたずねた。
「どうすんの?兵を探しにやる?」
「少し待ってください。自分で調べてみたいことがありますから」