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夏祭り

作者: 糸内敏太郎

ふと思い出すのは小学校二年生の夏の夜のこと。

 あの夜ぼくは泣いていた。

僕の住む町では毎年8月になると神社で夏祭りが行われる。数多くの提灯に火が灯され、幻想的な雰囲気になる。神社に祀られている黄泉の神に捧げるというのが理由らしいが、そんなことはどうでもいい。とにかく綺麗で、色々な屋台が出て、地元の子どもたちがみんな集まってくるということがぼくにとっては大事なことだった。

けれどその年は一緒に行く友達がいなかった。理由はよく覚えていないが、仲のいい友達は家族と一緒に行くと言ったのかもしれないし、けんかしていたのかもしれない。

 それでもぼくは行きたかった。今では信じられないが祭りというイベントをかかすことができないと考えていたし、一人で行ったらきっと神社には別の友達がいるだろう。それに「一人で祭りに来ている」ということがぼくにとって大人の階段を上るような行為に感じたし、それを友達に見せつけることで優越感を得ることができるのだと思っていた。だから母親にはとにかく一人で行くと言った。しかし母親はそれを許してはくれなかった。

 「まだ小学校低学年なのに一人で行くのは危ない」「一緒にならいいよ」母親は言ったが僕は譲れなかった。誰も友達がいないなら一人で行かなければならない。そうでなければならない。母親と一緒に行くなんてできるはずがない。むしろぼくが友達に見られて恥ずかしい。ただし母親にそのことは言えない。言ってしまうと大人にはなれない。それすら恥ずかしいことだとも思っていた。

 だからぼくは泣いた。夏祭りに参加できない寂しさとか、悲しさとか自分のもどかしい感情の持っていき場所がわからなくて余計に泣いた。泣きながら窓ガラス越しに浮かぶ月を眺めていた。


 誰にも言えないが、二十歳を超えてもこの季節になると思い出すのはなぜかあの夜のこと。特にこうやって地元に帰ってきて友達と集まるとふと記憶が蘇る。

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