良いとか悪いとか
「ははっ。奴ら。集団じゃないと何もできえねんだからな。奴らの顔見たかよ。あれくらいで命乞い始めやがったぜ」
勝則が冷ややかな目で清輝を見る。チンピラに絡まれて災難だ。
とかいいつつ、内心の所ところ、喧嘩を売られて喜んでいるのは明らかだった。
狂犬古谷清輝でも、理由もなく、無差別に人に対し襲いかかるようなマネはしない。
さすがにそれをやってはサイコパスになるからだ。だが、喧嘩の火種は、常日頃探しているようだ。
「おい。何見てんだ。何か変なことでも言ったか?」
変なのは清輝の性格かな……と勝則は口に出しかけたが、寸前の所で止める。口に出せば、何をされるかわかったものではないからだ。
清輝は体重100キロを超える、勝則のたるんだ肉を引っ張った。
「こんなに肉つけやがって。ラーメンの食いすぎだ」
勝則の大好物はラーメンであった。その他、脂っぽいもの、ボリューミーなもの、なんでもいけるくちだが。圧巻の体脂肪40%超えは日々の摂取からつくられるのである。
広部市は今時、レースで言うなら二周回遅れの「タピオカドリンク」が一斉を風靡し、
レンタルビデオ屋では(今時ビデオを借り出してる店がある……。)
任侠もの、ヤクザものが流行っている、時代遅れの地方都市だった。そんな所であるので、
高校生の中でも「不良」「チンピラ」と呼ばれるものの割合が多いのだ。
この前など、広部市の高校生のヤンキーの中で、かなり大規模な喧嘩が河川敷で起こった。
そこに堂々と首を突っ込んで介入し、両陣営に辺り構わず殴りかかり、結局は両方をのしてしまった。警察が出動する大騒動になった。
負傷者が続出し、清輝も堂々と警察に連れて行かれたが、処罰も逮捕もされなかったらしい。
厳重注意、を食らったらしいが。噂によると、警察の秘密すら握っているとか。。
腕っ節だけかと思えば、悪知恵もかなり回る。気に入らない教師を陥れるぐらいなら普通にやる。
敵対した相手の弱みを引き出し、貶め、社会的に嵌めたりするのもお手のものだ。
むしろ、得意分野である。
勝則が思い起こす限り、二人の教師が既に餌食となっていた。
一人は、英語教師山田。特定の女生徒に対し、しつこく食い下がったり過剰に褒めたり、裏でケータイ番号を募られているなどの噂が流れていた。
授業中もお気に入りのニヤニヤと笑い、気持ちの悪い人間だった。
生徒の間では大不満で、嫌われていた。が中々文句をいうことが出来ず、そのまましていいようにされる日々が二ヶ月ほど続いた。この間、清輝は何もせず冷静に、ことの推移を眺めているように見えた。
が、ある時事件は起こった。四限目の授業が終わり、さて昼飯だと皆がそれぞれ弁当を広げたり、食堂に向かおうとし始める。
勝則は清輝に声をかけようと思ったが、その姿は見えず。何処に行ったのだろうと想いつつ、クラスメイトと弁当を広げ始める。その時だった。
全校舎を震わす、轟音。ビリビリと放送スピーカーが振動するほどの爆音が流れた。ややあって、ボリュームが落とされる。
誰かの会話のようだった。ノイズが多くて、聞こえにくい。
それは噂の英語教師、既婚者の山田が、ホステスに向かって不倫行為を働いている現場だったのだ。
現場で録音された音声データが、何故か放送室から大音量で流されてくるわけだ
。慌てた職員らが放送室に駆け込んだが、ソファーなどが内側に挟む形で積まれており、開かない。清輝が放送委員を脅して、放送室をハイジャックしてしまったのだ。
やけに二ヶ月おとなしいと思えば、証拠探しをしていたのだ。
全校を巻き込む清輝の暴走、策略は他にもあるが、古谷清輝という人間は色々な意味でものすごいと、教師含め誰もが思い知らされた事案であった。
山田は暴露後、一週間胃炎で入院したが、翌週復帰、魂が抜けたように授業をし始めた。
清輝に対し異常に怯え、絶対に目を合わせないようにしていた。
勝則、清輝のクラスの英語担当となり、女性徒に対しアヤシイストーカーまがいの行為を行い、随分と楽しそうに過ごせたのはたった二ヶ月のみだった。
今や抜け殻のようで、始まった授業が終わるのを期待しているのは生徒の側でなく、この教員であった。
清輝はこの件について、勝則にも何も言わないのだ。詳しく聞いても悪そうに笑うだけで、特にコメントをしめさない。
その女性徒が、清輝に惚れたとか何とか噂が流れていたりもして。
ウーンと勝則は腕を組んだ。満足気にスマホをいじる清輝を見つめる。メチャクチャな人間ではあるが、おそらく、悪い人間ではないだろう。
「おい見ろよ勝則」
覗き込んだ勝則は目を疑った。先程ボコボコにしたヤンキーたちの連絡先がずらりと並んでいたのだ。中学時代から、もう五年の付き合い、腐れ縁にもなる勝則はすぐに理解した。
弱みを握る、舎弟システム。喧嘩でやっつけてしまった人間は、いつでも使いっ走りとして使えるように、連絡先を抑えて首根っこを掴むのだ。こうなれば、恐ろしくて二度と逆らえない。さながら清輝のアドレス一覧は地獄のエンマ帳である。
「一応聞いといたわ。俺が呼び出したら何時でも飛んできてくれるらしいぞ」
いや、それあんたが強制させたんだろ、と突っ込みたいのを喉元までしまいこんだ。




