託されし使命
「ざ、罪人ってなんのことだ?」
「なぁにお主は罪を犯した。咎人が罰を受けるのは道理じゃ」
別に今までおかしいと思ったことがないわけではない。どうして牢屋に入れられてるのか、何故自分なのか。
それでも納得がいかない。
「俺は小さい頃からここに居るんだぞ!罪ってなんなんだよ!!」
胸に残るモヤモヤをそのままぶつけるが老婆は気にする素振りも見せずに腕の辺りをゴソゴソと探っている。
「まぁそう慌てるでない。とりあえず記憶を返すからの」
そう言って橙色のローブから手のひらに収まるほどの琥珀を取り出した。
「準備はいいかの?」
そして老婆は拳を握りしめると躊躇いなくそれを粉々にする。すると砕け散ってた破片の一つ一つが光の粒子となり、俺の頭の近くを回り始めた。
「これはいつ見ても綺麗じゃのう・・・。お主もそう思わんか?」
「そう言われてもこんな経験したことねえし――ただ綺麗だとは思うよ」「それで一体これは何なんだ?」
「すぐにわかる、ほれ」
老婆がそう言った直後、頭の付近を回っていた粒子が輝き、弾け、辺りに霧散した。
「っぐくっがぁ!!」
突如激しい衝撃と酩酊感が起こった。
「何だよ・・これっ!・・・」
「お主の名前は?」
「知らねえよっ・・・」
「お主の名前は?」
「だから知らねえってっ・・・!」
「・・・お主の・・・名前は?」
「カエデ・・シモツキ・カエデだ」
霧が晴れたように、スポットライトが当たったように猛烈に意識してしまう。
「どうして今まで忘れてたんだろう」
「とりあえず名前と前の世界の知識は返したからの、他は何も奪ってないぞ」
「まぁ本題に入るとするかの」
「まずここは虚無牢、まぁ時間の有り難みを理解させる更生施設ってとこじゃ。・・・その割にはあまり堪えてなさそうじゃな」
「そんなことねえよ!どれだけ苦しんだか・・・それでも外の世界に行きたかったからさ」
名前を思い出してから少しずつ「自分」が戻ってきた気がする。それにこのお婆さんも怪しいが悪いやつではなさそうだ。そこで俺は肝心なことを忘れていることに気がついた。
「そうだ!俺の罪って一体何なんだ?」
これを聞かなくてはいけないだろう。
「お主の罪は自殺じゃよ」
「自殺って俺生きてるけど・・・てかそんなことでここまでされるのか」
「自殺したのは前のお主じゃ・・いわゆる前世ってやつじゃな」「それに自殺というのは重罪じゃよ。お主以外の人の時間も奪ってしまうからの」
「それにしてもお主よく自己を失わずに済んだの。どうやらかなり強靭な魂のようじゃ」「おおっといかんいかんかなり話がずれたの。そこで本題に戻るがお主への罰は終わったが転生者の使命が終わっとらん」
「・・・使命?俺ってもう自由なんじゃないのか?」
「お主には世界各地の守り人を巡礼してもらう。古からずっと続いておる決まりじゃ」
「守り人ってのは何なんだ?」
「守り人というのは世界の均衡を守るために世界に縛られている存在のことじゃよ。永遠にな」「儂もそうなんじゃよ。もうずっとこの塔に縛られている」
「どうじゃ?」
「前の俺は自ら命を捨てたんだよな・・・それってすごくもったいない気がするんだ。だから俺はこの命大事にしたいよ」
「・・・そうか」
「ああ、俺使命受けるよ。受けてやる!」
――巡礼生活が幕を開ける