老婆
「あぁーーどうすりゃいいんだ!!。」
俺は只今絶賛迷子中だ。どうしてこんなことになったのか、時は数時間前に遡る。
「ふっふふっふふーん♪。」
意気揚々と扉を抜けた俺は鼻歌を歌いながら出口を探していた。そもそも自分のいる場所が地下なのか建物内なのかもわからないのに無闇に歩き回るなど馬鹿としか言い様がない。
階段を見つけては上り、また別の階段を見つけては下り、今では元の場所すらわからない。そんな状態のまま時が過ぎて今に至るわけだ。
だが牢屋を出て気づいたこともいくつかある。先ず一つ目はここは建物内部だということ。何故なら散策途中で見つけた窓から鬱蒼と生い茂る森が見えたからだ。景色から推測するにかなり高い場所にあるんじゃないだろうか。
そして二つ目。牢屋の外ではもう普通にお腹も空くし疲労もするということだ。これは予想はしていたが楽観視できない問題でもある。このままでは外に出る前に干からびてしまうなんてことになりかねない。
そんなことを考えていたら唐突に声が聞こえた。
「早く上まで来んさい。」
「!?」
すこし、いやかなりびっくりした。ただここでミイラになるのも御免なので階段を探して上に行くことにした。
俺は階段を探しながら声の正体を想像していた。少なくとも俺が牢屋にいる間に声を聞いたことも無いし、気配を感じたこともない。しかし先程の声がやけに嗄れていたので年寄りだろうなということは感じていた。
大体二十ほどの階段を上ると木で出来た扉に直面した。俺は少し躊躇いながらもノックをした。
「コンコンコン」
「やっと来たか・・・はぁやれやれ。まぁ入りんさい。」
扉が音もなくひとりでに開き中の様子が明らかになった。どうやら小さい部屋のようだ。
「お、お邪魔します。」
かなり緊張しながら部屋に足を踏み入れる。
部屋の中には木製の丸テーブルと椅子が二つあるだけでこれといったものはない。声の主が見えないなと辺りを見回すと扉で隠れていた壁に暖炉があった。そして爛々と燃える火の前に老婆が立っていた。
「ようこそ。最後の罪人よ。」
老婆はそう言って不気味に笑った。