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思いつき短編

記憶の中のあなた

作者: まあ

「……この肉体は相変わらず、スペックが高いな。なんでも頭の中に入ってくる」

「何か言われましたか?」

「何でもない。気にしないでくれ……いや、のどが渇いた何か飲み物を持ってきてくれないか」

 書斎で父親が趣味で集めた書物を読み漁っていた俺の独り言にそばに控えていた執事が自分を呼んだと勘違いしたようで声をかけてくる。その声を誤魔化そうと小さく笑った後、1つ咳をして彼に頼み事をする。

 これは俺が1人になりたい時に使う常用句であり、執事は俺の考えを察してくれたようで深々と頭を下げると書斎を出て行く。

「……考えていた事が口に出てしまった。気をつけないと」

 昔からそばに控えていてくれた執事の背中を見送った後、1人になった書斎で小さくため息を漏らす。

「しかし……いつまでたっても慣れない物だな」

 窓から外の景色を眺めるが、その風景は自分が慣れ親しんだ物とは異なる。いや、正確に言えば、自分の中にあるもう1つの記憶が持つ世界とはかけ離れていると言った方が正しいだろうか?

 この世界に生れ落ちて5年が過ぎ去った時に、自分の中にもう1つの記憶がある事に気が付いた。それは日本と言う国の記憶の1人の男性の記憶であり、俺は頭の中から溢れてくる記憶に状況が理解できずに高熱を出して寝込んでしまった。

 高熱が下がった時、頭の中から溢れてくる記憶から前世と呼ばれる物らしいと俺は結論付けたが、その記憶に引っ張られるように俺は子供らしさと言う物を同年代の子供達より、早くに失ってしまった。それについて悲観するつもりはないし、それ以上に記憶は俺に多くの知識を与えてくれた。ただ、その記憶の中にある世界は科学と言う物が発達した世界であり、魔法が発達しているこの世界では役に立たない物も多い。

 科学を発展させればあの世界で見た多くのものを再現できるのかとも思うが、それは魔法で同等の事を起こせるため、特に魅力は感じないが元の記憶の持ち主は勉強家だったらしく、その記憶に引っ張られるように小さな頃から父親に入り浸って本を読んだ。

 そして、才能なのか俺は読み込んだ本の内容を忘れる事はない。

 いや、忘れる事がないと言うのは語弊がある。本来、記憶している物を取り出す事ができない人間が多いなか、俺はそれが簡単にできる。書物や経験から手にした知識をきれいにラベリングして必要な時に適切な物を取り出せると言った感じだ。

 その特異性に気が付いたのは自分だけではなかった。

 子供らしさを失って行く俺を実の母親も気味悪がり、他の兄妹に愛情を向けるようになったなか、父親は才能として理解してくれた。

 俺の父親は王都から離れた場所にわずかな領地を持つ領主であり父親も領主とは名ばかりで領民達とともに田畑を耕している。母親は勢力を維持したいがために王都の有力貴族から嫁がされたらしく、田舎とバカにしている伏しがあるが、今のところは何とか領地運営は何とか上手く回っている。

 まぁ、親父の代で終わりだろうけど。

 俺には1つ年上の兄と1つ年下の妹がおり、この世界では家は世襲制のため、兄がこの領地を継ぐ事になるのだが、言いたくはないが兄も妹も領民からすこぶる評判が悪い。

 母親の教育のたまもの何だろうが、冷めた俺は母親から冷遇されていたため、父親の書斎や家ではなく、領地そとに興味を向けて父親の後をついて回った。その中で前世の記憶と書物から手にした記憶を用いて多くの事を手伝ってきたため、領地はわずかながらではあるが潤った。

 そりが合わない兄と妹には関わり合いたくなかったのである種の逃げではあったのだが、2人とも母親の影響で俺を嫌っていたのでお互いに干渉などしなかった。

 領民達からは兄ではなく、俺が領地を継いでくれればと言う事も言われた事もあったが、父親は俺にはこのような田舎で終わって貰いなくないと言って笑っていた。

 個人的には領地運営を手伝って行きたいが、領民から俺の人気が高まって行く様子に干渉がなかったはずの兄からは嫌がらせが増えてきていた。そんな兄の事だ。自分が領地を継いだら、すぐに俺を追い出すだろう。

 だから、自分で生き抜く術を探して行かなければいけなく、その事を考えるとため息が漏れる。


「……ファリス様、ホーク様が応接室でお待ちです」

「ああ、すぐに行く」


 その時、書斎のドアをノックし、先ほど出て行った執事が父親からの招集があったと俺を呼ぶ。

 応接室と言う事は客人でも来ているのかと考えると机に開いたままの本を閉じ、応接室に向かう。

 応接室のドアを開けると珍しく正装に身を包んだ父の向かいには父親と同年代くらいだが、只者ではない空気をまとった男性が腰を掛けている。


「これが噂に聞くクッシュ家の次男か? まだ幼い割に良い面構えだ」

「噂ですか? 悪いものでなければ良いのですが、変わり者と領民には言われているようですし」


 応接室に入った俺の姿に男性は見定めるような視線を向けてくる。

その様子に不快な物を感じるが父親の様子からこの男性を無下に扱って行けない事は直ぐに理解できる。

男性は自分を見定め終わったのか1つ咳をすると小さく口元を緩ませた。

その笑みはどちらかと言えば嫌悪よりは好奇の印象が強く見え、釣られるように口元が緩んでしまう。


「変わり者か? それに関して言えばホークの息子なのだから仕方ない」

「リューク、お主にだけは言われたくないな」


 ……父上との関係を見ていると旧友と言ったところか? 地方領主か? だとしても。

 2人の様子から先ほどとは打って変わり、親密な事がわかるが俺がここに呼び出された理由がわからない。そんな事を考えているのが2人には気が付かれたようで2人は楽しそうに口元を緩ませている。


「父上、私は何のために呼ばれたのでしょうか?」

「そうだったな。心して聞いて欲しい。この男はリューク=アグニール。私の旧友なのだが」

「アグニール?」


 アグニール家と聞き、顔が引きつって行くがわかる。アグニール家とはこの国を守護する聖騎士の名門の家系であり、地方領主である家とは比べ物にならないくらいの名家だ。

 なぜ、父上とアグニールの名に連ねる者が懇意にしているか想像はつかないが、俺の考えている事が手に取るようにわかるのか2人は顔を見合わせた後、声を上げて笑う。


「……父上、申し訳ありません。なぜ、アグニール家の当主がこのような辺境に」

「実はな。お前には王都に行って貰いたい。リュークにはお前と同じ年の御嬢さんがいるのだが……安心しろ。許嫁と言ったようなものではない」

「そうですか……」

 

 2人の反応は私から見れば面白い物ではないのだが、アグニール家の人間を無下に扱うわけにはいかず、彼の目的を尋ねる。

 私の疑問に父上は笑いながら口を開くわけだが、話の途中で私の表情は目に見えて歪んでしまったようで父上は1つ咳をし、その音で表情を引き締め直す。


 父上から聞かされた事はアグニール家のご令嬢であるアトレ様の使用人として王都にある騎士学校に入学する事、使用人とは名ばかりで剣を極めるなり、知識を求めるなり、好きにして良いとの事だった。

 私に都合が良すぎる話に私はその場で頷いてしまったのだが、私はその時の返事を後に後悔する事になる。


 それについてはまた、後の話。


お付き合いいただき、ありがとうございます。

思いつきの原案です。

気分が乗ったら続きを考えたいと思います。


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