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人間回路  作者: 竜宮 景
とある王都の一日
4/13

Report2 : 人形

ロロ(ろろ)です。

だいたいこんなもんかな?


今朝方、嵐砂漠で拾い上げた少年の治療を終えると、少女はその隣に腰かけた。今はぐっすりと眠っているが、彼女が少年を見つけるのが後一歩遅かったら、少年は死んでいたかもしれない程危ない状況だった。

だいたい嵐砂漠はいくら王都≪レグリシア≫から工業都市≪エンドミル≫への近道だからといってキャラバンでさえそうそう通ろうとは思わない。


少女は少年を挟んで向かいにいる二人を睨んだ。


一人は申し訳なさそうに頭を下げ、もう一人は知った事かとそっぽ向いている。


「終わったよ。もう大丈夫だと思うけど……」


少女は体の大きい、申し訳なさそうにしている方に向かって言った。

短髪で顔中傷だらけだが、どこか優しそうな雰囲気をもつ大男だった。


「何から何まで申し訳ない」


大男は再度頭を下げた。この大男の方は礼儀正しく、恩情というものを持ち合わせているらしい。

少年よりも更に一回り小さいチビ助の方は、相変わらずだった。


「このヒト……ガタ?は、あなた達の仲間?」


「……の、ような物だ」


「そう………」


先ほどからずっとこの調子だ。大男は礼儀正しいにしても、全然喋らないせいで会話が続かない。会話の努力をしようともしないチビを置いておいても、この気まずい状況が少女は嫌だった。


「そういえば、あなた達って皆同じ服着てるのね」


少女は何とか会話の糸口を見つけようと必死だったが、それとは別にコレは気にもなっていた。

彼らは全員が地味な木綿で出来たツナギのような物を着ていた。


「支給品だ」


「そう…………いいわね。それ」


「あぁ」


「…………うん」


またコレだ!!

少女はいい加減うんざりしていた。少女が聞きたかったのはそんな事ではないのだ。木綿で出来たツナギが支給品かどうかなんてどうでもいい。

彼女が気になっていたのは、この男たちが『ヒト』か『ヒトガタ』か、だからだ。同じみすぼらしい服を着ている事が、彼女に彼らがヒトガタであることを期待させていた。

少女は意を決して尋ねる事にした。


「あ「あのさぁ、いつまでこうしてるの?」」


「どうした?ビスク」


浮かせた腰をばれない様にゆっくり下ろす。


「ね「俺らだって情報は不足しまくりなんだ。ここで燻ってるより、情報収集が先……だろ?」」


「それはそうだが、この者はどうする?」


私をおいて会話を進めるな!!

少女の腸は煮えくり返りまくっていたが、何とか抑える。


落ち着いて……落ち着いて大きな声で言えばいいの!


「あの!「そりゃあ!もちろん彼女様に任せるしかないさ。なんせコイツの信号を受け取ったのは俺でも、バレット……お前でもなく、このロロ様だろ?」」


バレット、大男が私の方をチラッと横目で見る。

それから顎に手を当て、何かを数分思案すると、バレットは簡潔に言った。


「すまぬ」



夜には戻ると、王都散策に出て行った二人を満面の笑みでお送りした後、ロロは隣の家の扉を閂がひしゃげるほど蹴り続けた。


あーもう!なんで私がこんな目に!

一生懸命何度も何度もお願いして連れてってもらった初めてのキャラバンなのに、変なのを三つも拾うわ、面倒を押し付けられるわ、それに聞きたい事だってあったのに。

それに連れてってもらったって、キャラバンではほとんど雑用ばっかで、商談なんかには混ぜてくれないし、居候を引き受けさせられるし、給料もみんなの半分だ。

アレもコレも何もかも全部、私がヒトガタなのが悪いのだろうか。


ロロは自分の瞳が嫌いだった。この国の住人の多くは碧い瞳か、黒い瞳をしている。ロロの瞳はそのどちらでもない。

ロロの瞳は、ロロが魔女である事を示していた。魔女は半分魔に堕ちた存在であり、魔法を使う事は、神の法ではなく、悪魔の法に従う誓いをたてた証とされた。


事実、ロロは幼いころから魔法を使う事が出来た。誓い云々は何百年も前の話で、ロロには関係ない。ただ出来る事を一つ授かって、それ以外が出来ない様にして産まれただけだ。

服だってそうだ。彼らの服をみすぼらしいと思う私は、今まで黒いローブ以外の服の着用を赦されたことが無い。これは王都に限った事だが、他の都市でも似たり寄ったりだ。



ロロは一息ついて落ち着くと、自分の部屋に戻った。

ベッドでは少年がまだ眠っている。彼の隣に腰かけ、その奇妙な右腕に触れた。


顔も体も柔らかいのに、片腕だけは硬質で、それが人体のそれを模した何かであることは直ぐにわかった。

だからこそ本当はバレットにこう聞きたかったのだ。


ねぇ、あなた達もヒトガタなの?


自分とあなた達は一緒なのか。それとも違うのか。生まれて初めて出会う自分以外のヒトガタかもしれない存在。それだけでロロは少し嬉しかった。

そしてバレットやビスクはもちろんだが、この少年。名前も知らないこの少年の声がロロには聴こえた。吹き荒れる風で届くはずもないのに、遥か遠くの叫び声が、直接胸に響いたような気がしたのだ。


少年の叫びが助けを求める最後の希望だったとして。


ロロにとってもこの少年は一つの希望だった。







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