銀河連合日本外伝 Age after ― 悠遠の王国 ― 終話
『城に絶対入れるな! 各班状況報告!』
『城正門大型対抗部隊接近。機動兵器型確認!』
『城西門、現在交戦中、対抗部隊は俊敏型、及びマルチ型。対抗部隊波状攻撃継続中!』
『城東門、敵兵隊型と交戦中! こっちは生半可に知恵がある連中だ、厄介だぞ!』
数で押すヂラール群体。メルやサスア、シャルリに特危ローダー隊の迎撃にも限界があり、やはり少なからず……とはいえ数量的には相当な数がこの城へ攻め込んで来た。
「白木! PVMCG付け替えたか!」
「おう! 軍用拝借したぜ」
「よし、ほら!」
柏木は白木に武装レベル5までの武器データを転送する。
すぐさま彼は、クリスヴェクター・サブマシンガンを造成して首からかける。勿論実物である。米国で柏木がデータを取った『マサトサンいけないコレクション』の一端だ。
で、手にはビデオカメラを持って撮影班も継続である。
「こいつならいざという時、片手でも使えるだろ」と言い、ニっとする白木。
「OK。俺もいよいよ覚悟決めるときが来たか?」
そういうと柏木も愛銃FG–42Iの実物を仮想造成し、肩からかける。そして「フゥ」と一息。
フェルも彼女の愛銃『デザートイーグル50AE』と『SCAR-L』を造成し、テッパチ被ってあの時の迷彩服姿。
ガイデルはイゼイラブラスターにイゼイラ式戦闘服姿になり、サルファはラピッドガンを肩からぶら下げて、衛生兵姿になる。
敵ヂラールの素早い行動は予想以上で、数で攻められているがゆえ、比例してその速度に翻弄される。数に速度が加われば、それはものすごい威力を発揮する。
今、参謀本部スタッフが「もしかすると敵の城内侵入を許すかもしれない」と報告があった。
先ほどから迷彩服着て城を守る特危隊員があちこち走り回り、現状を確認していた。
「牢獣の数は!?」
ガイデルが叫ぶ。すると特危隊員と共に城を護っている親衛隊騎士が、
「城へ向かっていた牢獣は、メルフェリア団長とシャルリ殿が成敗したそうです!」
「おお、そうか。で、囚われた者達は?」
「はっ! 多少怪我等ありますが、全員無事です陛下」
「うむ、それは良かった」
牢獣さえいなければ、まだ戦いやすいと思うガイデル。だが、敵の城内侵入も防ぎきれなくなってきた。全員一旦脱出も考える必要が出てきたが……
「!!」
外の大きな螺旋階段付近で、組織的なブラスターの発射音が響き渡る。
柏木に白木、フェルは外に飛び出してその状況を確認に行く。
ガイデルも飛び出そうとするが、流石に親分が出て行って怪我でもされたらかなわないので、サルファが抑えた。
柱を背に螺旋階段下方を覗き込む柏木。すると特危が積んだ防衛ライン用の土嚢を盾にしてハイラ人とヂラール俊敏型を使役している悪魔のような姿の兵隊型が射撃戦を展開していた。
敵兵隊型は、螺旋階段下のテラスにある大きな柱などを盾にして、棒状の飛び道具をもってエネルギー光弾を発射している。
『くそっ、連中どこから侵入したんだ!?』
と柏木。すると一緒についてきたハイラ人侍従の一人が、
「恐らく地下水道を見つけられた可能性が高いですね閣下」
『地下水道?』
「はい。前回戦闘時も、一時期城の近くまで接近されたことがあったのですが、その時も連中は地下水道を使って侵入したことがありました。あの時の事があって地下水道の使用を禁止し、天井を落として使用不可能にしたはずなのですが……」
『どこかに穴があったってことか。それとも埋まった水道を掘り返して進んできたか……どっちしろ数がなけりゃできない戦法だな』
すると白木も、
『バカで凶暴で、数にものをいわせられるって、ある意味無敵だからな。嫌になってくるぜ』
とかいってると、兵隊型に増援がやってきた。俊敏型だ。
『うわ、マズ! 応援に行くぞ! クソっ、二回目の実戦かよっ! シレイラ号の一発が最初で最後だと思ってたんだけどなぁ』
『俺なんざ外務省職員だぜ。それが銃持ってドンパチって……史上初じゃねーのか? やれやれ』
「二人共、そんな事言ってる場合じゃないでスよっ! 出来る人がやるですよっ。みなさんが持ってるジュウは、殺虫剤と思えばいいのですよっ!」
結構言う時は言うフェル。FG-42Iにクリスヴェクターの形した殺虫剤とはかなり無理があるが、まあ理屈はそういうことなので、彼らもバリケードで戦うハイラ人の応援に降りる。
だがそんな中でも、流石はフェル。ゼルエの一番弟子はやっていない。
階段をカカカっとみんなに先んじて駆け下りるとスライディング。踊り場に積んだ土嚢を盾に頭を低くしてSCARを構え、ドドドっと兵隊型に指切り連射を食らわす。
『うお、フェルフェリアさん、やるなぁ!』
先日とは違うフェルの戦闘モードを見る白木。これが大見から聞いた本気モードのフェルさんかと。
遅ればせながら柏木も愛銃FG-42Iを構えて強力な7.92ミリ・モーゼル弾をドドドとぶっ放す。7.92ミリモーゼル弾は、現在主なバトルライフルで使用されている7.62ミリNATO弾よりも強力だ。
柏木も銃の扱いに関しては素人ではない……但し素人でない理由が趣味の範囲だが。
『くそっ、まさかここで本格的に実銃をぶっ放す事にとはなっ!』
『何言ってんだ柏木! おめーはシレイラ号で対物ライフルぶっ放してるじゃねーかよっ!』
白木も今、カメラを録画モードにしたまま傍らに置いて、クリスヴェクターをぶっ放した。この銃は特殊な反動吸収機構がついており、銃身が上へ跳ね上がる反動を真後方へ流す仕組みになっている最新のサブマシンガンだ。か弱い女性でも的にガンガン命中させられる扱いやすい銃で有名である。カメラ持った今の白木には使いやすい銃だ。
『バレットか? あんなの一発撃っただけじゃんかよ。って、うぉっ! あのデーモン野郎! 舐めやがって!』
柏木を狙ってきた兵隊型向けて7.92ミリ弾を食らわせる柏木連合議員閣下。
「マサトサン!」
フェルがSCARを傍らに置き、デザートイーグル50AEに持ち替え、
「このままじゃ、らちがあかないです。敵の兵隊型が溜まっていく一方ですよ。私が突っ込むので、援護してくださいです!」
『いけるのか? フェル』
「パーソナルシールドも完璧ですし、大丈夫ですよ!」
と言うと、フェルはひらりと土嚢から飛び出て、城の壁を軽快に蹴り、空中に台座をポンポンと造成させながらそれに足をかけつつハチドリの如く中を舞い、デザートイーグルをヂラール兵隊型に叩き込む。
やはりかの拳銃は反動が強い。フェルはうまく跳ね上がる銃をコントロールして、階段下に着地する。
柏木もそのフェルの技を援護。FG-42Iをぶっ放し、白木はその様子をカメラに収める。
「いいのかよ柏木連合議員様、先生を小生のカメラなんぞに撮らせていただいてよ」
白木は柏木の汗ばんだ顔をアップに撮影し、そんな事を問う。
「仕方ないだろ、できる奴ができることやらねーとコッチがやられるんだから。ほら、向こうも撮れよ。これがこの場の現実だ!」
白木はカメラをフェルに向ける。それは「ホエホエママのフェルさん」で通っている日本や世界の一般的認識を根底から変える姿。
螺旋階段下の大きな柱に隠れ、迷彩服姿でデザートイーグルぶっぱなす戦うマルマ、フェルの雄姿。
「おいフェル! 後ろ! チッ!」
柏木が背後よりフェルに近づくヂラール兵隊型めがけてFG-42を斉射する。ハっとそれに気づくフェル。
その銃声に呼応して、フェルも右手に帯電させたブラスターフラッシュを敵に放つ。
兵隊型は柏木の放つ銃弾に翻弄された後、フェルのブラスターで豪快に後方へ吹き飛び、壁に叩きつけられて終了。
フゥと吐息をつくフェル。柏木のほうを見上げ、手を挙げる。
とそんな戦いをやってると、城外の防衛につく特危隊員がやってきた。
「すみません柏木さん!」
隊員がそう声をかけると同時に素早く散開し、一人がフェルの援護につく。
やはり流石はプロだ。瞬く間にその場にいた兵隊型や俊敏型ヂラールをバタバタと片付けていく。
「こんなところに侵入されていたとは……迂闊でした。助かりましたよ柏木さん」
特危隊員でその部隊の隊長、知った顔の一尉が話す。
「なんか以前壊した地下水道を使ったんじゃないかって侍従さんが言ってましたよ」
「はい、我々もそれを知って慌てて飛んできました。連中、崩落した水道を掘って突き進んできたみたいです」
「埋まった水道を掘って……ですか!」
やはりかと思う柏木、それを教えてくれた侍従と顔を見合わせて首をかしげる。
ヂラールのパワー、恐るべしである。これが兵器であり、動物である所以なのだろう。
これが知的生物なら、落ちた天井を掘り返して進むなんて非効率なことを考える前に、何か他の効率的な方法を考えるか、とりあえず諦めるはずである。だがヂラールはそれをしない。パワーに任せて過去の経験を本能的に。言い換えれば意地になって繰り返すのである。しかもそれができるだけのポテンシャルがあるのだ。
知的生命体の常識で考え、安心していると「まさか」を平気でやらかすのが『半知生体』の恐ろしいところである……よく巷で言われる『考えるバカほど恐ろしいものはない』というのと同じ事である。考えるバカの怖いところは、『バカみたいなこと』を意地で考え実現しようとするところである。その意地で考えることが『本能・習性』になったら、止めようがない。しかもマンパワーで押し通して実現させるから質が悪い。
参謀本部の周りは守りが固いはずだが、その地下水道を使われて柔らかい懐を突かれそうになった。幸いフェルやガイデルに彼の部下。そして柏木ら戦闘経験者がいてくれたおかげで事なきを得た。
……ちなみに柏木と白木はあくまで仮想戦闘経験者という程度ではあるが……
あ、いや、柏木はシレイラ号事件に太陽系外縁部の戦いもあるし、白木は仕事で中東や東南アジアの政変なんかにも巻き込まれたことあるので、こういう場にいること自体は素人ではないが……
さて、そんな話をしていると、本部のある部屋からガイデルの部下であるイゼイラ人が柏木達を大声で呼んでいる。早く来いといったところだ。
「なんだろう?」とその場は先の一尉に任せて部屋に戻ると、ガイデルが窓の外を眺め見て、脂汗を流している。
『どうしましたお義父さん……って、うおわっ!!』
ガイデルに声をかける柏木、視線を彼の見るほうへ同期させると……
「婿殿……いよいよマズイですな。あんなのは私も始めて見ます……」
本部のある部屋。即ち城の上階から彼方に見えるその不気味な光景。それは……身の丈三〇メートルはあろうかという、機動兵器型ヂラールの、おぞましい姿であった……
しかもその数数十体。大きさだけでも旭龍や、旭光Ⅱよりも大きい。シールド機能もあるようだ。そんなのが数十もあるのは、かなりきつい。
その禍々しい意匠。巨大ムカデのような脚部に、メデューサの如く人型の体がついたような……碗部には砲クラスの飛び道具に、するどい爪をもつ腕。厚い甲殻のような装甲に守られ、背中に生える中小の飛び道具が近接用兵器として稼働しているようだ。
映像拡大システムでその兵器の周囲を見ると、サスアやメル、そして大見達部隊が攻撃を加えているが、まるで焼け石に水。後退を余儀なくされているよう。
また別の場所では、シエの旭龍F型と、旭光Ⅱが近接攻撃を加えているが、かなり苦戦していた。即ちハイラ・ふそう連合軍大型機動兵器の数が少ないのである。
機動兵器の大きさ、イコール強さとは言わないが、数がある程度そろえば、大きく耐久力のある兵器の方が圧倒的なアドバンテージを持つ。
多川も上空からF-2HMで対地攻撃を敢行するも、まるで特撮映画状態だ。イマイチ効果的な打撃を与えていない。
……倒せない相手ではないのだろうが、やはりハイラ、ふそう側の絶対的な数が不足しているのだ。
今、やっとのことで、シエが一撃を加えて一体を葬ったようだ。その巨大ヂラールとの距離はまだ大きく開いてはいるが、シエの葬った奴が倒れたとき、その大きな音は、城まで聞こえてきた。どんだけの敵かわかろうものだ。
しかもそんなのが数十体……おそらく奴らが降下した場所近郊は、悲惨な状態だろう。いや、それ以上にこのハイラ王国ですらこの状態だ。他の国もこんなのが降下していたら、もう抵抗すること自体が無意味になる。国を放棄し、避難するしかない。つまり難民がサルカス世界でまだ一番マシな状況の、このハイラに押し寄せる可能性もある。
「うぬぅ……ここまでか……」
悔しさを滲ませるガイデル。大見から撤退の連絡がきた。さすがにコマンドローダーでこれに対抗するのは無理だと。
ナヨが特危兵器を駆使して、この巨大ヂラールの進撃を食い止めてくれているが、10式や14式、コブラHGS程度では足止めが関の山、戦車や浮動砲は、次々踏みつぶされている。ナヨもコブラを加速つけさせて敵にぶつけ、ミサイル代わりにしているようだ。
幸いなことに、各要所に設置されている一二七ミリオートメラーラ速射砲が効果あるようで、後方のナヨコントロールな野砲部隊とともに活躍してくれていた。
「こんな……マジモノの怪獣じゃねーかよ……こんな映像日本に送るのやだぞ俺は……」
そう言いながらもヂラールの姿を逃すまいとカメラを持つ手に力がこもる白木……薄ら笑いを浮かべていた……
* *
「くそう! こうなったらパイラと一緒にあいつの背中から駆け上がって!」
と無茶なことを言うメル。
「だぁ~めだ! そんな無茶なことを言うんじゃないメル、さあ後退するぞ!」
と愛するサスアに怒られた。
「ちくしょー!」と叫んで馬を城へ向ける。すると、大見達部隊が、戦車型ヂラールとその群体に退路を阻まれ戦闘状態になっていた。
「サスア! あれ! オーミ師匠とシャルリ師匠達だ!」
「なに! なぜあんな場所で。彼らならすぐに後退でき……って! あれは!」
そう、大見達は、ヂラールに襲われる隣国からの難民一団と鉢合わせて、援護救助に回っていた。
その間に退路を断たれてしまったのだ。
「サスア、行こう!」
「わかった! ……おい、お前とお前! ついてこい! あとは城の防衛に回れ!」
はいやとボルダを回頭させて空間障壁造成踏破機能をフル稼働。うっそうと茂る木々を飛び越えヂラール群体の側面から攻める!
「たぁっ!」
超ロングソードを造成させ、横に構えるメル。パイラ号の速度に合わせて突貫し、敵に斬りかかる。
ホースローダー側のシールド機能が強力なので、突っ込んで剣撃できるのが有り難い。
サスアは銃剣伸ばして射撃戦だ。
『おお! サスアさん! メル君! 助かります!』
『旦那! ナイスタイミングだよっ!』
「みなさんご無事かっ!」
と、サスアが言った刹那、彼の背後から光弾が飛び、サスアの背中に命中した!
「ぐぉあっ!!」
『サスアさんっ!』
光弾の威力に飛ばされて落馬するサスア。駆け寄る大見。
「サスアさん、しっかり! 衛生!」
医療キット抱えて飛んでくる衛生員。
「サスァぁ~!」
メルも心配そうに涙流して叫ぶが、彼女も団長だ。今は難民を守り、他の特危隊員を支援するので精一杯だ。
「ちくしょう! おまえらぁぁあ!」
メルの怒り心頭モードのスイッチを入れてしまったヂラール。ブチキレメルである。これは血を見ずにはいられない。
右手に銃剣伸ばしたブラスターライフル、左手に斬馬刀構えて人馬一体。完璧な『18式自動甲騎』と化したメル。敵に突っ込んでいく! 「嗚呼無茶やらかして!」とそれを見る大見の部下な特危隊員。
『ああもう! アタシが行くよ!』とサポートに回るシャルリ……憤怒の鬼神と化すメルさん。嗚呼、恐ろしや……
「ぐぁっ……」
衛生員の手当てに苦悶の表情をするサスア。
幸いなことに命に別状ない。というか、流石はヤル研謹製のコマンドローダーだ。シールドでエネルギー弾の威力が減殺され、更に幸いなことにローダーのフレーム部に弾が当たったのが良かったようだ。
だが、エネルギー弾は戦車型の強力なやつをモロに食らった為、鎖骨にあたる部分が折れ、若干の熱傷を負ったようである。
『サスアさん、大丈夫です。まぁ傷は浅いとは言いませんが、これ以上戦うのは無理ですな』
冷静にそんな事を言う大見。ここで「傷は浅いぞ!」なんて言えば、普通は浅い傷ではないのがお約束なので、あえて冗談めかしにそんな言い方をする。
衛生員の処置を受けるサスア。脂汗流して激痛伴う表情を浮かべる。確かに骨が折れれば、それはもう苦痛もいいところだ。しかも鎖骨となれば尚更である。
『フフフ、そう言われるとかえって安心しますなっ……グッ……もう無理ですか?』
「はい。ここが折れています。それに熱傷もある。応急処置はしますが、城に戻って本格的な医療用ハイクァーンで処置した方が良いのは良いのですが……」
大見は背後を見る。巨大ヂラールがこちらに向かって進んできている。前を見ると退路に群がる兵隊型に戦車型、そして俊敏型。
『まずいな……なんとか退避しないと……久保田っ! どうだ!』
『ハッ! 援護要請継続中!』
シエか多川にこっちの支援に来てもらえれば、難民も逃がすことができるが……
だが、戦況を見る限り、シエも多川も手がいっぱいだ。どうするかと考える大見。そこへ!
ドカドカっと現状付近に砲撃を食らう大見達。難民長蛇の列後方にも着弾したようだ……何人かが被弾したよう。サスアの応急処置も済んだので、そこへすっ飛んでいく衛生員。
どうやら敵巨大ヂラールがこっちに気づいたようだ。殺戮本能が、大見や難民達を殺す本能になり、一体がこちらへと方向を変えた。
それに気づいたのだろうか、ナヨも砲撃に攻撃をこの一体に集中させるが、ナヨの操る兵器もかなり減らされ、もうタネがない。
(マズイ! どうする!)
本気でヤバイと思う。大見。
すると、大見のPVMCGに量子通信が入る。
『……オオミ、今カラ、ソノ怪物ニ集中攻撃ヲカケル。後方ノ民間人ヲ退避サセロ』
『ええっ!!……その声! リアッサ二佐っ!』
バっと空を見上げる大見に特危隊員、
彼方から推参するは、特危自衛隊『旭龍E型』だ!
その単座仕様旭龍7機編隊を唖然と眺める。
機体についた燦然と輝く赤丸国章に唖然から、大きな歓喜に代わる特危隊員達。握りこぶし高く喜勢をあげる。
メルらは何故に特危隊員が狂喜しているのかわからない。だが、隊員の一人が説明すると、メルも「うっひゃぁぁぁ!」とばかりにパイラの上に立って大喜びだ。
そう、やっと来たのだ!……
大見達を攻撃した巨大ヂラールに集中砲火をくらわすリアッサ旭龍小隊。
これでも食らえと言わんばかりに、腹部ハイクァーン・サイロを展開し、造成発射するは、旭龍必殺兵器その一、重力子弾頭付き、ディルフィルド魚雷だ。
クォンという音を鳴らし、後部を蛍のように光らせてヂラールに命中する魚雷。途端に超重圧縮が起こり、巨大ヂラールのシールドごと周囲の空間を握りつぶす……刹那、大量の体液を巻き上げて苦悶する巨大ヂラール。
そしてトドメは日本特危自衛隊のみの仕様で採用された多川イチオシの装備『パルスレーザープラズマボルテック砲』がヂラール向けて雷撃を轟かす。
相手はまがりなりにも『生体』兵器である……こんな電撃を食らったら、たまったものではないだろう。
『よし、後方の心配はもうない! 全部隊前方に攻撃を集中!難民を守りつつ城へ向かうぞ!』
『二佐。それでもまだ人数が足りません! 難民の数は相当なものです。列後方の班がヂラールの対応に苦慮しています!』
『チッ、サスアさんを早く医療班に見せたいし……メル君は!』
『前方に進撃して、怒り狂って暴れてます!』
おそらく『 ヽ(`皿´ )ノウガー 』こんな感じで暴れてるのだろう。
『あ~、そうか、ではそっちは好きにやらせろ! とにかくこの場を退きたい、輸送車の手配を……』
と、その会話を聞いていたリアッサが、再び大見に回線をつなぐ。
『オオミ、大丈夫ダ。意外ナ連中ガ援護ニ向カッテイル。楽シミニシテ、シバラク待ッテロ』
『は!? 意外な連中? なんですかそれは……って、ハァ、今はそうするしかないかっ!』
言われた通りヂラールの波状襲撃にふんばりつつ、しばし待つと……空からカグヤに搭載している艦載型の小型デロニカが舞い降りてきた。
デロニカは空中に停止すると……側面ハッチが空き、なんとそこから降下用ロープが垂れ下がって兵士たちが見事な降下をみせ、どんどんと降りてくる。
ただ、大見は「えっ!?」と思う。
彼らの着る服装、迷彩服3型ではなく、所謂現在ACUと呼称される戦闘服を着こんだ一派。
サングラスかけて、肌の色も黒に白、褐色と。
肩に光るは……
『星条旗! 米軍! アメリカ軍だと! なんで彼らが!』
思わず声にあげる大見。特危隊員もその信じられない姿に唖然とする。
「GOGOGOGOGO! MOVE! MOVE! MOVE! MOVE!」と声が聞こえ、明らかに英語でしゃべる会話。
そしてドシュドシュと聞いたことの無い武器の発射音。連中の持つ武器、米軍標準装備のM4カービンではあるが、銃身直下のレールに見た事もない火器を備え付け、M4と一体化させたような武器になっている。
その火器の銃身から青白い閃光が一筋流れると、瞬間その先のヂラールが吹き飛んで動かなくなる。
「ヘイ! オオミ中佐殿!」
「! き、君は! あの時の!」
フリッツ抑えて駆け寄るは、かの時、一緒にサバゲーやってた黒人の軍曹殿だ。
「軍曹!」
「はは、お久しぶりです、サー。今は上級曹長をやっとります」
彼の名前は、モーガン・スミス上級曹長。改めて聞けば、彼らは米国が新たに設立した『アメリカ戦略軍宇宙戦術コマンド(USSTC)』と呼ばれる部隊の所属で、モーガン上級曹長は海兵隊からそこに転属となったらしい。元々は、火星の米国治外法権区防衛要員として各軍から選抜された人員がベースになっている部隊だそうだが、今まで完全な機密部隊で、今回の事件で日本政府にのみ内々に情報開示されたという話。海兵隊同様の大統領直轄部隊である。
「しかし一体なぜ米国が?」
「詳しい話は後でどうですか? サー。今はこの場を切り抜けるのが先です。我々も状況は把握しております!」
「賛成だな。では私の指揮下に入ってくれるか、上級曹長」
「了解であります。トッキボスのお手並み、拝見させていただきますよ!」
ということで、とにかく難民を城まで誘導。あと、サスアをデロニカに乗せて、カグヤまで運んでもらい、治療を受けさせる事に。
メルもさんざん暴れまわって息きらせて、お馬さんで帰ってきた。
でもって、状況が異常に好転しているのに気づき、更に見た事の無いヤルマルティア人……と思っている人々に唖然とする……黒い人に白い人、オーミ師匠みたいな人に、金色の髪の毛の人や、茶色の髪の人、ツルッパゲに、黒いメガネかけて皮膚に骨の絵を書いた人とかもいる。
みんな特危隊員以上にムキムキマッチョで、口に何か入れてモグモグ噛んでいる人やら。
「オーミ師匠、オーミ師匠! こ、この人たちは!?」
『ああ援軍だよ、やっと来てくれた。この人達は、ヤルマルティアの、同盟国の人たちだ』
「へー……あ、サスア! サスアはっ! サスア~~!」
『はは、大丈夫だよメル君。サスア団長は命に別状はない。鎖骨を骨折して、火傷があるので、後方へ移送した。援軍の船で治療を受けてもらう。問題ないよ』
「はぁ、そっか……良かった……」
……その後、体制を立て直したハイラ王国騎士団・特危自衛隊・USSTCの連合部隊によって何とかバルベラ城近郊の戦況を持ち直した諸氏。
かの巨大機動兵器もカグヤから派遣された旭龍E型部隊と、旭光Ⅱ、そして大火力を誇るシルヴェルの投入で撃破することができた。
だが、まさか援軍で米軍がやってくるとはと思うのは大見だけではなく、他の特危隊員も同じくである。
柏木連合議員とフェル大臣は知っているようだったが……
* *
『ティラス艦長、ありがとうございます。間一髪でした。もし当初通りの四八時間到着なら危なかったかもしれません』
カグヤ大型VMCモニターに映るは柏木連合議員と、フェルにガイデル。
『いや、間に合って良かった。先行して偵察に出したヴァルメが、あの巨大生体兵器を捉えた時、もう驚きましたよ。すぐさまリアッサ二佐に出てもらいました。それと……』
ティラスはガイデルの方を見て、
『エルバイラ・ガイデル。本当に、本当にご無事で何よりでした』
起立して最上級ティ連敬礼を贈る彼。
『いや、ありがとうティラス艦長。礼を言わせてください』
『いやそんな、恐縮でございます』
ティラスからすれば、ガイデルはもう雲の上の人物だ。まさか彼が生きていて、こうやって自分と面と向かって会話してくれるなど思いもよらない人物である。さしものベテラン船長も恐縮しまくりである。
『しっかしファーダ・カシワギ、貴方も妙な因果に流される方ですな。はは』
『いや、まったくですティラス艦長。あ、そうだ、妙な因果といえば……さっき大見二佐から連絡を受けたのですが、USSTCの合流、許可出たんですね』
『はい、サマルカ国の後押しがあり、連合本部からも今回に限り許可が出ました。タイミングとしてはカグヤ出撃のギリギリでしたけどね。おかげでケンポー9条をなんとか躱すことができましたよ』
そう、実は先程のUSSTCの登場は、柏木とフェルの考えた策であった。
実は特危自衛隊、なんせ急にできた実力部隊で、陸海空自衛隊や、各企業、スカウト等の志願制で試験制で推薦制なエリート部隊なので、設立から三年経った今でも慢性的に人材不足だ。
特に陸上科の実働部隊が全く足りない。なので、今カグヤにも日本の常駐部隊が不足するということで、残存陸上科隊員は載せていけず、当初はヤルバーン州軍の人員と、特危隊員増員の為の習熟も兼ねて、『陸海空自衛隊』の通常防衛力人員で臨む予定だったのだが……
これまた日本国内のお馴染み芸風な野党が、
『特危のみの対応なら連合憲章の範囲で認めるが、生物災害でも他国国内で武器を使用するなら陸海空自衛隊を使うのは反対』
などとと言い出したのである。
「この緊急事態にまたこいつらは……」と思う政府だったが、いかんせん時間がない。そこで柏木がポンと考えたアイディアを二藤部へ内々で話を通し、政府からセルカッツとセマル大先生に依頼して、連合議員の名前で共和党の米国ロバート・マッカラム大統領に協力を打診してもらったところ、米国がまだ非公開を前提に『USSTC』の存在を認めて、宇宙空間作戦の習熟も兼ねて、むしろ米国側から喜々として協力させて欲しいと打診してきたのだった。
USSTCは、火星治外法権区での防衛任務を担う……という名目の、あの時供与されたサマルカ技術を駆使した『米国版特危自衛隊の創設時版』のような組織だが、やはり大国米国で、真っ当な軍が運用できる米国の部隊である。その規模が違う。立派に米国の第五軍としての組織力を持っている部隊だ。今回は張り切ってカグヤへの派遣部隊として、三個中隊を派遣してきた。これでヤルバーン州軍の部隊と連携すれば立派にティ連機動母艦の名に恥ずかしくない揚陸作戦が行えるという寸法である。
『何はともあれ、間に合って良かったですよ。ティラス艦長』
VMCモニターがもう一つ開いて顔を見せるは藤堂である。所謂同時通信というやつだ。
『トウドウ司令、お待たセしました。ゴ覧の通り、我が艦隊の背後にはティエルクマスカの連合艦隊が控えています。我々は本隊よりも先行してやってきました。もう安心してくださって結構でスよ』
『そのようですな。で、そちらの副長は……あ、パウル艦長、貴方も来てくださいましたか』
『ウフフ、戦後復興は私に任せてくださいな、藤堂司令』
パウルは腰に手を当ててフフン顔である。
『で、トウドウ司令、本艦隊の艦隊司令とはもうお話なされましたかな?』
『ええ、先ほど。セドル・ファゼ・ズーサ提督と仰いましたか。なんでもマリヘイル閣下の旦那様だそうで』
『はい。提督からもお話があったと思いますガ、ふそうは以降本艦隊に合流し、共に作戦行動に当たってください。で、トウドウ司令には……はは、このカグヤ艦隊の司令に戻っていただきますぞ』
『なるほど了解です……では香坂副長、現時点で私に代わってお前を本艦の艦長に任ずる。俺はカグヤへ行って、ティラス艦長と艦隊指揮を執る。ふそうをよろしく頼むぞ』
『ハッ、了解です司令。お任せください』
『ニヨッタ副長も、この香坂をあと少し助けてやってください。とりあえずルーキー艦長になりますので』
『ウフフ、はい畏まりました司令』
と、耐えに耐え、やっとのことで反撃の時が来たふそう、そしてカグヤ艦隊。
ハイラ王国連合、そしてサルカス世界の興廃はこの反撃にありとばかりにホログラフで多目的マストにZ旗掲げる特危自衛隊『宇宙空母カグヤ』そして『航宙重護衛艦ふそう』
なぜかカグヤ艦隊の各中型艦艇もこのZ旗を掲げる。何か縁起担ぎのめでたい旗とでも思っているのだろう。艦隊旗艦がZ旗掲げれば、「じゃぁウチも」と全艦艇が真似してしまった。そして今のカグヤにふそうは国章旗として旭日旗も掲げる。
『カグヤ艦隊』という呼称は、特に艦隊名称がないのでとりあえずでそう呼んでいるだけではあるが、このティ連中型艦艇艦隊では十分な呼称である。なんせ今ティ連中型艦艇はすべてカグヤが取り仕切る。
そしてティ連での中型艦艇の位置づけは、即ち『切込み艦艇』という事である。その機動力を生かして旗の意味に違わぬ雄姿で真っ先に現場へ駆けつける。その間、彼らを心強く援護するのは……
「全大型艦艇、惑星サルカスに接近するカグヤ旗下中型艦艇群を援護する。全艦、対艦兵装起動!」
セドル提督の命令が、後方に控える大型艦隊の各艦に行きわたる。
全艦艇艦内に警報が鳴り響き、各艦各員戦闘配置へ奔走する。
大型戦略機動母艦からは、ヴァズラーにフォーラ、旭龍こと『マージェン・ツァーレ』が機動形態で次々に発進していく。
そして、それら巨大な艦に装備されるブラスター砲からフェイザー砲、ディスラプター砲が全門うごめき、照準を前方に見えるいびつな生体兵器艦隊に合わせる。
「よし! 支援開始。全兵装展開、攻撃!」
色とりどりの鮮やかで、また恐るべきその閃光と光弾が無数に空間をほとばしり、惑星サルカス軌道上に展開しているヂラール群体にそれは吸い込まれていく。
刹那、命中したのか、炸裂したのか。爆発閃光が球状になり、まるで遠目で見るLEDの眩い光の如く、上下に左右に散光する。
「カグヤ旗下、中型艦艇群、惑星サルカス軌道へ接近! 惑星強襲揚陸艦、ハイラ参謀本部要請の各地域国家へ降下作戦開始」
「駆逐艦部隊、軌道上に展開する敵高速機動群体へ対応。機動母艦ヴェレスク第8・9・10特殊作戦軍団ヴァズラー隊、マージェンツァーレ隊は支援に回れ」
「機動母艦カグヤ、目標のハイラ王国高度四〇〇〇〇セレク上空にて司令体制につきます」
「トッキ隊機動巡洋艦フソウ以下、高速巡洋艦群、敵増援に対応」
ティエルクマスカ連合艦隊、別宇宙惑星サルカス方面支援任務派遣艦隊統合旗艦、パーミラ軍所属大型機動母艦『ディディグリー』。全長は一〇〇〇メートル程だが、全高が三〇〇〇メートルもあるパーミラ艦独特のシルエットを持つ機動母艦だ。その十文字の艦影はティ連でも変わり種艦の中に入るぐらいの、有名な機動母艦である。
その船に座乗するセドル提督は、ブリッジで飛び交う「命令」「報告」「要請」といった言葉の交錯に耳を傾けていた。
セドルの参謀達が、VMC造成された大きな戦術パネルを眺めながら各々話し合い作戦を展開していく。
その中の一人がセドルに話す。
「提督、ザムル偵察艦の報告ですと、やはり敵はあのワームホールからどんどんと増援を送り込んでいるようです」
「そうか、ならば本当に間一髪だったわけか」
「はい。もう二〇セレク遅ければどうなっていたか……考えただけでもゾっとしますね」
口元すぼめてウンウンと頷くセドル。
「よし、では我々大型艦艇群は敵の増援と軌道上の敵部隊との合流を断つ。敵軌道上部隊の後方へ突っ込み、割り込んでやれ。その後カグヤ艦隊の戦闘艦艇は軌道上部隊を我が艦隊と挟撃。敵軌道上部隊を殲滅する」
「了解、ディディグリー旗下大型艦艇群は……」
セドル座乗の大型機動母艦ディディグリーを中心に、もし音が聞こえるなら、ゴゴゴゴとでも唸りそうな、それこそ宇宙に浮かぶ山岳地帯が唸りを上げるかのように移動を開始し、チラチラチカチカと船体に閃光伴って突撃を開始する。
無論その間にもヂラールどもが怯むことなくディディグリー艦隊へ襲い掛かる。
だが、現状形勢を逆転する状況。サルカス軌道上での敵艦隊攻撃はティ連連合艦隊の登場で一気に沈静化へ向かいつつあった。
だが面倒なのは、これがどこかの知的生命体との戦闘であれば、連合艦隊の圧倒的アドバンテージを見せつけることで相手を引かせて戦闘を終了させる事もできるのだろうが、基本偽りの知性を身に付けた、ありていな言い方をすれば『ド凶暴なバカ』を相手にしているわけであって、攻めてきた敵を引かせることができない。となれば、結局駆逐し尽くすしかないという事になる。
* *
『クックックック、ヤハリ私ノ前ニハ、ダーリンガ座ッテイナイト、シックリコンナ』
カグヤがハイラ国上空で司令部機能を果たしつつ滞空、降下するヂラール機動兵器型をハリネズミのようなオートメラーラ砲に主砲『シルヴェル・ベルク』そして搭載する旭龍に旭光Ⅱを飛ばして迎撃する。
カグヤが援軍で到着してくれたおかげで多川とシエはカグヤへ一旦着艦し、シンシエ合体で旭龍複座F型は真の威力を発揮する。
『確かに。やっぱもう慣れだなこりゃ、俺達夫婦はこうじゃなきゃいかんね。むはは』
なんだかんだいってノロケである。いい加減にしろと。
それはさておき、確かにシンシエ旭龍になった機体は互いの得意分野、空戦巡航戦闘と、機動戦闘をバシバシ切り替え、常に武装をリアルタイムで分担し敵を屠っていく。
先の巨大ヂラールも、数は減らせたが、増援降下してきたのも含めてまだ相当数がハイラ王国近郊に、諸外国主要拠点で暴れまわり、ハイラ合同軍が優勢ではあるものの、まだ激戦が続く状況であった。
『ダーリン、次ハアイツダ! アノ鎌ヲモッタヨウナ、リバイタ型ダ!』
リバイタとは、ダストールに生息する蛇のような動物だ。つまり『鎌を持ったリバイタ型』という表現。地球人の理解では、半蛇半人のような奴なのだろう。
旭龍空間振動波推進モジュールの搭載された翼型の機関部、そこに備え付けられたパイロンに、F-15ストライクイーグルばりにゴマンと搭載された爆弾を、リバイタ型めがけてブチ落とす多川。
『うらぁ! どうじゃぁ!』
ドドドドドと小気味良い爆炎爆音唸らせて、多数のMk.82爆弾が炸裂する。
『うほ、あれだけ食らってもまだ健在かよ、シエ!』
『マカセロダーリン!・アイハブ!』
ガキョンと半変形する旭龍。巡航形態から機動形態になり、地上へ強行着地。森の木々や土砂を巻き上げ、スケーターのように横滑りで静止し、戦闘態勢を整える。刹那、振動波モジュール展開し、ダッシュ後極低空浮遊し、腕部M230にブラスターキャノンを交互にぶっ放し接近する。
敵の装甲もたいしたもので、なんとシールドを展開し、攻撃を減殺しているようだ。
『キサマ如キ、ディルフィルドギョライナドツカワズトモ、コイツデ屠ッテクレル!』
懐に飛び込むシエ。多川も頭部や尾部の空いた兵器を操作してシエをフォロー。敵の反撃行動を鈍化させる。
リバイタ型は腕の鎌を振りかざし、更には頭部に空いた穴から光弾を発射してくるが、シエもその動きを読んでいるのか、わざと紙一重で躱し、相手に急接近。
その瞬間、コクピットでシエはマスタースレイブな挙動で腰をグイと振り、背中を見せるよな挙動をとると、旭龍は尾部、つまり尾っぽに当たる部分をブンと勢いよく振り、ヂラールの懐へその先端をブッ刺す。
そこに向けて刹那、高電圧をかけ、敵の動きを完全に封じると、シエお得意の鍵爪を腕部に生成し、リバイタ型を十文字に切り裂く。
勢い余って、片腕も切断し、敵の不気味な鎌のような腕は、ふっと飛んで森の中に消えていく。そして、リバイタ型は電池の切れたロボットの玩具のように、静止し、倒れ沈んだ。
『お見事シエ!』
握りこぶし作る多川。
『マダマダ、コレカラヨダーリン。サァ次ニイコウ。ユーハブ!』
『ほい了解、アイハブ!』
ガキンと半変形し巡航形態。すぐさまドンと上昇し、次の獲物を食らいに行くシンシエコンビ。
やはり、この二人が暴れないと絞まらないのである。
* *
先の近隣難民救助戦で、難民達をバルベラ城内にやっとのことで誘導した大見達。
「では久保田、あとは頼む。俺は城に顔を出してくる。なんでもスミス上級曹長の話では、先に転送でUSSTC指揮官が顔を出しているという話だそうだからな」
「は、了解であります。ま、難民の方々には……とりあえずメシ・フロ。寝床ですかね」
「ああ、そんなところだろう。恐らく相当、疲労困憊だろうからな。うまいもん食わしてやってくれ」
「うまいもんですか。でしたら……」
「ふはは、俺たちのうまいもんといえば、アレしかないか? はは、まかせるよ」
ということで、L型ローダーをハンガー車に預け、迷彩服3型に着替えて城の階段を駆け上がる大見。時折通り過ぎる特危隊員に軽く挙手敬礼しつつ城の上階へ。
『おう大見、ご苦労さん』
『ああ、白木、待たせた』
大見は入室と同時にPVMCGを触って翻訳機能を作動させる。
『ん? シエ一佐と、多川一佐は?』
『まだ外で暴れてるよ。こっちのことは任せるってさ』
『そうか』というと、なんとなく懐かしくも好感持てるお姿の美人士官の方を向き、『どうもパウル艦長、その節は』と敬礼する大見。
『トゥラカーシェル・オオミ。お久しぶり』
と、彼女と握手。
パウル先生は、もうガイデル達とは挨拶済。もうその姿を見て、その事件を知るパウルも物凄く驚いていたという話。当時、あまりイゼイラと交流の無かったディスカールでも、このイゼイラの「ドゥランテ共和国訪問団遭難事件」は話題になったそうだ。
『……で、カーシェル・オオミ。こちらの方が、もうあなたも遭遇したと思うけど、アメリカ国のゆーえすえすてぃーしーのトゥラ・カーシェルさん、ケラー・アラン・クライトンよ』
するとそのアランなる人物、海兵隊員のようなユーティリティキャップ帽を脱ぎ、
『お久しぶりですオオミ中佐、その節はどうも』
『ああ、あなたは……その節は』
すると、パウルはきょとんとした顔で、
『アラ、ケラー・オオミとケラー・アランはお知り合い?』
『ええ、ミスパウル。オキナワのヘノコ空中ベースの一件で知り合いまして』
三年前、セルカッツらサマルカ人の協力で建設に入った辺野古日・米・ティ合同空中基地。その時の関係者で、当時アメリカ海兵隊の少佐だったのがこの人物だという。
『へぇ~、世の中狭いわネ』とパウルかんちょ。
『いやいや、そんな星間国家の方に言われても』と笑いながら大見。彼ら上級幹部クラスともなると、まあ同盟国幹部同士で大体は顔見知りだと、そんなところ。
アラン中佐曰く、もう彼もドキワクでこの作戦に臨んでいるという話。
『相手がカイジュウかモンスターならば遠慮は要りませんからな。こちらも概要は聞いています。出撃前に、あのモーガン上級曹長が体験したマクハリのOGHシミュレーターで、相当な訓練を行ってきましたので、状況対応はご心配なくオオミ中佐。我々も今後宇宙へ少なからず進出する身ですので、今回の件は【ワタリニフネ?】という奴でしたよ』
そして、今回の派遣も、昨今米国と仲がいいサマルカ政府からの日本政府への後押しもあって、実現したという話で、米国内でも物凄く話題になっているという。
その際、米国マスコミも同行させろと相当うるさかったようだが、それに関しては流石の二藤部も完全にシャットアウトしたという話。
『……ですからミスター・シラキ。帰国したら覚悟なさったほうがいいですよ。もう世界中のマスコミが、貴方を番組に出そうと手ぐすね引いて待っていますから』
するとカメラ持ってこの場も撮影する白木は、
『おいおい、マジですか……帰国したらヤルバーンに引きこもろうかな、ぬはは』
音声入ってるって、と笑顔の諸氏。この笑顔も彼らが来てくれた事、そしてカグヤ艦隊の大反撃もあって、耐えに耐えぬいた結果の大好転であり、バルベラ城を拠点に戦った皆、やっと精神に余裕ができてきたといったところだろうか。
と、そんな軍関係者の対談もそこそこに、柏木がガイデルとサルファを伴って、本部に帰ってきた。
別室で「ふそう」「カグヤ」「ディディグリー」関係者と会談を持っていたという話。
入室する際、入り口で柏木は軽くお辞儀敬礼をガイデル・サルファに行い、道を譲って最後に入室する。
当然ガイデルの部下達に特危・ティ連関係者、USSTCのアラン中佐も挙手敬礼でガイデルを迎える。 アランはガイデルの素性など知らない、言ってみれば完全に外野の助っ人なので、ガイデルの事は『国王』としか認識できない。従って相当緊張しており、むしろ日本人勢のガイデルに対するざっくばらんな姿を相当訝しがっていたりする。
『ケラー・アラン。この度は我が国への援軍感謝いたします。なんでもヤルマルティアの同盟国の方だそうで』
『Yesマジェスティ。お会いできて光栄でございます。地球では有名なフェルフェリア閣下の御父上といういことで我々は聞き及んでおります』
実際のところはマジェスティなんて呼ばれるほど国王しておらず、ホントのところをいうと、『国王』という呼称の『半大統領』なわけだが、そこはそれというやつだ。
ガイデルはアラン中佐にも気さくにティ連式の握手を求める。今ではもう平手を上下に合わせるティ連式挨拶は地球世界でもかなり浸透しており、アランも自然にその手をガイデルの上へ置く。
ガイデルとしてはティ連が日本に対して一極集中外交をしているなんて知らないので、その対応も自然なものだ。
この時代、かのサマルカ国の件もあって、ティ連において米国・サマルカ間の友好条約締結が連合より認可され、かの米国発のティ連技術宇宙船『マーズ・ホープ・エンタープライズ』式典でセルカッツを代理人とし、既にサマルカと米国間の個別国家間条約が一部締結されている。
色々と連合憲章的に制限がある国交ではあるが、ティ連としてもやはり地球における日本・米国間の関係は無視できないとして、サマルカ国の事案を理由に繋がりは持っておこうという決断を下したようだ。
そういう点、米国も色々と情報収集は行っているわけで、まあ勿論日本からの情報提供もあっての話もあるわけでもあり、今回の事態推移は一応に把握はしている。
だが、日本やヤルバーン州ほどに地球の諸外国がこの事件を理解しているわけではない。日本ですらフェルと柏木の関係がなければ「なんですかそれ?」な事件である。
柏木とフェルの打診とはいえ、米国も早々にUSSTCの派遣を大統領権限で決定したのは、そこに『利』があると踏んだわけであって、そこは『大人の事情』という話である。
柏木もセルカッツ達サマルカ国と米国の関係を考えてのことで、柏木先生も頭を使っているという次第。
『で、ファーダ・カシワギ。ミーティングはどうだったの?』
パウルが問う。そういうことで彼女はティラスの代理でバルベラ城に赴いていた。
『ええ、そうですね。その話です……実はちょっと深刻な話が新たに出てきまして……』
すると白木が撮影を中止し、カメラを傍らにおいて、
『おいおい、この状況下でこれ以上何が深刻なんだよ』
『ああ白木、それにみなさん……実は先ほどマリヘイル議長から要請のあった無人偵察機……旭光Ⅱを偵察型に改造したものなのですけど、それが先ほどワームホールを抜けまして、向こう側の宇宙のデータを送ってきました』
マリヘイルの要請で放った旭光Ⅱ型無人偵察機型仕様を、対探知偽装をかけてワームホールの向こう側へ放ったのは周知の事だが、その機体が向こう側の宇宙へ到達し、各種データを発信してきたのだという。
柏木が言うには、そのデータの内容、それは想像だにしないショッキングなものだったという。
『これをご覧下さい……』
大きなVMCモニターを立ち上げ、映像データを映す。その映しだされた映像を見た瞬間、諸氏「えっ?」という顔になる。
その映像、向こう側の穴のすぐ近く。構図的にはこのサルカス世界とワームホールに似た関係にある位置に惑星がある。だが、その惑星北半球直上に、何やら傘のように大きく被る有機的で巨大な物体。
大きさとしては、横幅だけでいえばティ連の人工亜惑星要塞よりも大きいかもしれない。
その形は例えるなら、そろばんのダマに似たような、あんな形状。
「こ、これは……一体何なのでしょう?」
ガイデルが腕くんで首を傾げる。だが見るからにその正体は、イヤな結果しか見えないような感じだ。
するとその映像が映し出されるのを待ってましたとばかりにうってつけの人材が部屋に入室してきた。
最近はこういう登場の仕方が気に入っているニーラ教授大先生だ。
「うふふ、みなさんやっぱりビックリしてますね~」
『ああ、ニーラ教授。最近ご登場のタイミングが抜群ですな』
「実はそこに隠れて……ゲホゲホ……あー、エット」
図星なのか何なのかよくわからん教授先生。
『で、ニーラ先生、これ……なんなんっすか?』
と白木が問うと、
「これはですね~、ぶっちゃけな話、あのヂラールの『巣』ですね。正確に言えば生産プラントとでも言えばいいでしょうか……」
『え?……』
「……」
参謀本部スタッフ全員に沈黙が走る。
旭光アウルド型が到達した途端、警戒信号を刹那に放ち、緊急で送ってきたのがこの映像と分析資料だったそうで、この『巣』と称する物体はヂラールの体を構成する素材それそのもので出来ており、実際今ふそうやティ連艦隊が遭遇している生体兵器艦隊の出入りも、この物体から無数に確認出来ているそうで、もう間違いないものだとニーラは語る。
「それだけじゃないですよぉ~……この映像も御覧ください」
ニーラはポチと画面にタッチして映像を切り替えると、旭光アウルド型に、レドームのように搭載されて、謎の惑星各所に放ったヴァルメの映像を映し出す。
「……この映像は、そのヴァルメを、あの直下にある惑星へ突入させて得た映像なんですけどぉ……これもかなりショックな映像なので覚悟して見て下さいね~」
その口調は相変わらずのニーラだったが、ちょっと目元が深刻な表情の彼女。
その衝撃の映像を映し出す……
『こ、これは……!』と口をポっとあける白木。
「なんと!……こんな……」「まさか……」と顔を歪めるはガイデル・サルファ夫妻
「……」無言で目を細めるフェルに柏木。二回も見たい映像ではない。
『Oh ジーザス……』と首を振って唇噛みしめるはUSSTCアラン中佐。
『こんな事が……まさかな……』と語るは大見。
ヴァルメが送ってきたその遠慮のない映像……
恐らくかつては高度な文明を誇っていたのであろう、未知の高度知的文明の……その成れの果てだった。
その文明レベルはティ連ほど発達したものではないが、それでも相当高度な文明であったのであろう。もう完全な廃墟遺跡と化した大都市と思しき場所に放置された乗り物や、建造物のレベルを見ると、地球人がかつて思いを馳せたSF映画の未来都市。そんな雰囲気にも見える大都市の廃墟である。
そこにはおびただしい数の遺骸……というにはもうミイラ化も通り越し、白骨化というにはもう化石的に古いものがおびただしく散乱している。
「そしてそしてぇ、興味深いのはぁ、これなんですけどぉ……」
一部映像をアップすると、そのおびただしい白骨の中に、これまた異形とでもいうべき意匠の白骨化したものがたくさん散乱していた。
「これは……ヂラール?」とガイデルが言うと、「いえ、ちがいますわね」とサルファがそれを否定する。
「流石生物学で名の知られたエルバルレ様ですね~、その通りです。これはヂラールじゃないですヨ」
「では、何なのです?」
とガイデルが問う。
「これは……恐らくヂラールに対抗していた……生体兵器でしょうねぇ」
その言葉に全員「ええええ!?」と驚きの声を上げる……
そのニーラの言葉から導き出される推論。
「たぶん……この星ではかつて大きな戦争があったのだと思いますぅ。それも最終戦争規模の……恐らくそこで相対する陣営同士で生体兵器の開発競争をやって、それを使った結果、このヂラールと、ここで呼称される型が勝利したのでしょう……」
そして結局、敵対勢力の保持する生体兵器に勝利したヂラールを制御できずに今度は制御側、所謂「主人」である勢力にも牙を向き、それに対抗、対応できずにこの文明は滅んだのだろうというニーラの推論だった。
普通ならそんな話、地球人から見ればSFの世界なのだが、ティ連と接触し、ドーラとも戦ったわけで、そんな今の彼らなら信じられもする。まあアラン中佐は若干蚊帳の外ではあるが、それでも日本以外と国交を持たなかったティ連を米国人やその他外国人視点で見ればティ連人もガーグ・デーラも大差ないわけで、アランもニーラの話は十分以上に理解できた。
更にいえばそれ以上に、その名称不明惑星北半球直上に浮かぶ巨大な『ヂラール・コロニー』とでも言うべき『巣』だ。
こんなのを造るのであるから、ニーラの言った『知恵を持った動物』『蜂のような兵器』という例えも今もって大きく理解できた。
「哀れな文明です……自分たちの作った兵器が暴走して、結局それに滅ぼされるなんて……」
フェルが柏木の腕を取って渋い顔でそういうと、ニーラは、
「フェルお姉サマ。私はそうは思わないのですよ……こういう言い方をするのはナンナンですけどぉ……こんな文明、滅び去って当たり前です……」
「え? どうしてですか? ニーラチャンにしては厳しい意見ですね」
「はい~……というのもぉ……この生体兵器の素材……オオミお兄サマなら、もうお分かりになりますよね?」
そう振られる大見。
『え? 自分ですか?……えっと…』と顎に指あてしばし思考の後、自分でメチャクチャ嫌な妄想と結論を導き出すと……『まさか……あの生体兵器の素材って……』
するとニーラは口をすぼめて小刻みに頷くと、
「はい、そうですぅ。色々検査しますとぉ……あのヂラールは恐らくこの惑星の敵国民や……結果造った国の自国民をとっ捕まえてそれをあの巨大な『巣』で分解して……どういう仕組みかはワカンナイですけど、その素材を利用してヂラールにしていると思いますぅ……つまりそんな兵器を容認する文明がこの惑星だったのですよ。そんな文明、私は認めたくないです……」
そうは言うが、やはりちょっと哀しそうな目をするニーラ先生。厳しいことを言うが全部が全部本心の言葉ではないのだろう。もうちょっとなんとかならなかったのかと思う科学者であり、賢人のニーラ。
だがそのとばっちりを受けたのがサルカス世界であり、ガイデル達バーデル級宇宙船クルーだ。
そしてこのワームホールも、この文明の造った所謂ディルフィルドゲートのような目的を持った時空間移動手段なのだろうという。その機能する波動が、この『巣』から発せられているのが確認できるという話。
このサルカス世界の宇宙に繋がったのは、このヂラールの中心であり司令塔となる『巣』という巨大生体兵器が自分の機能として融合させる時に、偶然繋げてしまった世界なのだろうと……
確かに科学者ニーラとしては、こんな兵器は認められないし、生物学者のサルファとしても、人工の生体として、このような存在がはびこることは認めがたい。
フェルは、こんな兵器を使用するこの未知の文明の、『国家・政治』としての資質を考える……
ニーラの意見ではこの世界の国民も悪いというような口調だったが、そのあたりはどうなのだろうかと。
確かにこんな兵器を容認して、その勝利の上にその国家勢力の存在と国民がいるというのなら、その国の国民も同罪だというニーラの意見もわからないではないが、恐らくこの未知の文明もその断末魔にこんな兵器を造ったことを後悔したはずである。そう思えば、やはり哀れに思わないでもない。
とはえいえ、この文明が滅んだのは調べるともう相当前の話だという事。地球時間で一〇〇年以上は前なのではという話。
今はそんな過去の見知らぬ文明の、滅んだ理由に思いを馳せても仕方がないわけで、偵察機の送ってきたあんな強烈な敵をどうにかできるのかという話も当然出てくる。
つまり、最終的にあの超巨大なヂラール・コロニーを破壊しないとこの戦いは収まらないという結論になる。
『あのワームホールを、ティ連の持つ重力兵器か何かで吹き飛ばせばいいのではないか?』
とアラン中佐は話すが、確かにヂラールは意図してこの世界にワームホールを繋げたのではないにしろ、こういう所謂『機械』の性能も取り込むことができる生体兵器だ。そのうち、使用方法も理解し、自由に任意の空間へ接続する進化を遂げるかもしれないし、そうなればワームホールを潰すことでサルカス世界は助かったとしても、次にどこか別の宇宙世界がこいつらの犠牲になる可能性がある。そしてこの『ヂラール・コロニー』ごと来られたら、少々進んだ科学技術を持つ世界でも、対抗するのは至難の業だと。
それに何より地球やティ連のある柏木達の住む宇宙世界に来ないとも限らないと……ならば今のうちに潰しておいたほうがいいに決まっているという話に当然なる。
『だが、そんな方法あるのか? ティ連の大艦隊、それこそ各国総動員の連合艦隊で攻めこまないと、あんな亜惑星要塞規模の生体兵器、倒せないぞ……』
そう苦言を呈する大見だが……
「いや、カーシェル・オオミ。方法ならあります」とガイデルにサルファ。
「うん、オオミお兄さま。とりあえず一つありますよ」とニーラ教授。
「ええ、確かに……もしあるとすれば、アレを使えれば……」とフェル。
この話は戦場で戦うシンシエコンビにリアッサ、シャルリ、そしてナヨ閣下にも届いていた。
バトりながら通信で話す諸氏。
『ナルホド……ソンナ奴ナラ、アレシカナイナ』とリアッサ。今ヂラール戦車型を葬った。
「え? 一体なんなんだよ。なんか一発逆転兵器でもあるのか?」と多川、頭部機関銃をぶっぱなす。
『アア、ダーリン。アルニハアルノダガナ、マサカアレヲ起動サセルノカ?』とそう言うはヂラールに蹴り入れるシエ。
『ああ、アタシもその場所に行ったことはあるけど……あれをねぇ……』とシエに同意するシャルリ。
『ウム、妾の本体が生きた時代でも、あれが使われたことはありませぬ。もし連合がアレの使用を考えてるのなら、大変な事ですよ』とナヨ閣下。彼女がそこまで言うものなら相当なモンなんだろうと思う多川。
場所は変わって惑星サルカス軌道上で戦闘する航宙重護衛艦『ふそう』と中型駆逐・巡洋艦隊群。
『香坂艦長、敵軌道上ヂラール艦隊、残存数当初の三〇ぱーせんと。各艦から追撃の許可を求めていますが、どうします?』
「ええ、許可してください。挟撃しているとはいえ、前に出ているセドル提督達も、ワームホールから繰り出される増援の対抗部隊も相手してもらっていますからね。そういう意味ではセドル艦隊もこの軌道上のヂラールに挟まれている形になります。早急にこのヂラール艦隊を駆逐して、我々やセドル艦隊がこの惑星の盾になれる体制を整えないと」
香坂もなかかの指揮ぶりである。ニヨッタがうまい具合に補佐して順調に艦隊を動かしている。
ふそう自体の戦力も大したもので、ティ連の正規中型巡洋艦に負けていない。
セドル艦隊の到着で随分楽になった「ふそう」で、そういったところクルー達もに余裕ができるが、彼らも先ほどの「ふそう・カグヤ・ディディグリー」ミーティングで出たヂラール本隊の話は既に知っていたわけで、それをどうするのか、セドル提督と連合本部との折衝、結果待ちだという話なのではあるが……
『コウサカ艦長、トウドウ司令とセドル提督から通信です』
「来たか! こちらへ回してください」
『了解……どうぞ』
VMCモニターが二つ立ち上がり、藤堂、ティラスにセドルの顔が映る。
『よし、揃ったナ、時間もない。単刀直入にいこう』
セドルが時間も惜しいという感じでそう切り出すと……
『連合本部の裁定が出た……賢人ニーラキョウジュの調査・検査結果を本部はかなり重く受け止めてくれたらしい。私の嫁、マリヘイルの権限で、アレを使うぞ』
その『アレ』という言葉を理解したのはティラスとニヨッタのみ。顔に縦線入って、ギョっとする表情。だが当の藤堂と香坂はナンジャラホイというような表情だ。
『トウドウ司令と、コウサカ艦長は、恐らくまだお分かりになりづらいかもしれませんが……連合本部裁定です……あの「ヂラール・コロニー」に対して、連合本部人工星系防衛兵器【エッシュ005】の発動が決定されました……これはティエルクマスカ銀河共和連合創設以来初の事になります』
そういわれてもいまいちピンとこない藤堂に香坂。それも当たり前の話で、そもそも今回の件、そういった諸々をお勉強するために『ふそう』は連合本部人工星系に行く予定だったわけで、そこで人工惑星群をみて彼らは「どっひゃー」とビックラこく予定だったわけなのだから、今それを言われてもなんのこっちゃわからない。だか藤堂に香坂両氏。お互い横を見るとティラスにニヨッタが石化していたりするのであった……彼女達が石化するほどのモノ、何なのだろうと……
* *
ドゥランテ共和国訪問団遭難者の一部生存が確認されたことがきっかけとなった、『惑星サルカスの攻防』と呼ばれることになるこの事件。
現状セドル提督率いるティ連サルカス派遣艦隊の到着によってサルカス世界とハイラ王国連合に、ほか諸外国の滅亡危機はとりあえず回避できたが、ニーラの分析した結果により、事はサルカス世界だけの話では収まらないかもしれないという事実が出てきた。
「まさか、あのような兵器を開発して、大々的に実戦投入した文明があるとは……ある意味ガーグ・デーラよりも危険な存在なのに……」
そう話すはかの時より三年後もティエルクマスカ連合議長であり、有事には連合防衛総省マルダート、即ち『元帥』の称号も持つマリヘイル・ティラ・ズーサ連合議長。
「議長、防衛総省空間戦略軍から、エッシュ005の発動準備完了したとの報告が入りました」
イゼイラ人デルンの補佐官が報告する。
「ありがとう補佐官。フゥ、私がこんな職に就いているばかりに、夫に最前線へ行けなんて命令する妻になってしまいました。もう私もとんだ悪妻ですわね」
そう冗談めかしに補佐官へ話すマリヘイル。
「はは、何をおっしゃいますやら議長。自分から行くとおっしゃられたのはセドル閣下のほうではないですか」
「それでも命令するのは私ですわよ。っと、今はそんな話よりも、例の件ですわね」
「はいファーダ。そろそろ戦略ディルフィルドゲート、『ゼルベルタ』が当該空間に到着。セドル提督艦隊と合流する予定です」
「ええ、我が連合でもあの兵器を使うのは初めてです。稼働訓練自体は演習で幾度となく行ってはいますが……まさか私の在任中に、私が初めてアレを実戦で使う議長になるとは……これも因果というものですか……」
マリヘイルが旦那のセドル提督旗下機動艦隊を送り込んだ後、彼女はティ連本部人工星系の誇るティ連最強の星系間戦略兵器……そう、恒星間ではない。星系間である……人工前線防衛惑星『エッシュ005』の発動を認可した。
この兵器、ディルフィルドゲートで生成される巨大な亜空間回廊、その回廊生成時の接続波動を高圧縮してバーストさせ、外部に強大なエネルギーとして放出する兵器である。
出力調整にもよるが、最大パワーでぶっ放せば、星系をまたいで恒星を吹き飛ばせる程の威力が『理論上』ある兵器である。
なぜに『理論上』かといえば、んなものそんなパワーで使用したことがないからだ。だが、ティ連の高度なシミュレーション技術で導き出された結果であるからして、ほぼ間違いのない数値であろう。だが、惑星一個ぐらい簡単に吹き飛ばせる事は、遠い過去に実験済みであり、その成果はデータとして残っている。
ただこの兵器最大の売りは、威力もさることながら、その射程距離なのである。即ち、ティ連のディルフィルドゲートネットワークを利用して発射する兵器であるからして、連合のゲートネットワークで繋がれば、その末端ゲートからこの兵器の破壊的な波動を何ら威力の減衰なしにブッ放す事ができるのである。
例えるなら、五千万光年離れた連合で放たれた高圧縮亜空間波動を太陽系にある冥王星ゲートから放って、木星あたりを木っ端微塵にして、さよならジュピターにすることも可能なのだ。
というわけでこの『ゼルベルタ』という軍用ディルフィルドゲートが、今回のマリヘイルが放った虎の子という次第なわけである。
さてこの『ゼルベルタ』という兵器。ディルフィルドゲートとは言っているが、冥王星にある某や、セルゼント州にある某のように、クソバカデッカイリング状の施設ではない。
ゲート直径は一〇キロメートルというティ連のゲートとしては小口径だが、全長が二〇キロメートルもある、所謂円錐状のゲートなのである。しかもブリッジが本体側面にそびえ立ち、大中小の砲塔が規則正しく整列する、ゲートという『施設』というよりも『ディルフィルドゲート艦』といったイメージの強い明らかな軍用艦艇なのである。
その用途は、人工亜惑星のように一〇キロメートル以下の大きさの艦艇を前線に送り込む機能を持った戦略兵器である。連合では現在一般的には前線構築の先遣隊を送り込む本格的ゲート建設までの場をつなぐ艦艇として利用されている。だが、それはこの兵器の機能をそういった具合に利用できるためにそうしているだけの話であって、本来の目的は、『人工前線防衛惑星エッシュ005』のいろんなゲートを中継されて送られてきた圧縮亜空間波動を発射するための、『ディルフィルド空間波動中継砲艦』という艦種の、戦略兵器なのだ。尚、この『ゼルベルタ』という名称、パーミラ語で竜巻のような現象を意味する言葉で、まさしくこの兵器の本質を付いた名称でもある。
かつてティ連では、その外交史において、知的生命体と思って接触しようとし、後に『半知性体』と呼称されることになる今はもう無きとある存在と、大規模な星間戦争を行った苦い経験がある。
結局その存在は、ティ連各国種族の知性を解さず、倫理観も解さず、もう彼らの主観から見れば『害獣』としか理解しようのない存在と判断し、その存在を殲滅してしまった歴史がある。
無論一方的に襲ってきたのはその存在なので正当防衛行為なのではあるが、殲滅までして良かったかと今でも議論されるティ連での大きな出来事だった。
マリヘイルはヂラールの話を最初に聞いて、咄嗟にその事件、そして存在が頭を過ぎった。当然そのワームホールもヂラールが開けたのではないかと予測した。無論有識者を呼んで議論もしたが、有識者もおおよそマリヘイルと同意見だった。なので彼女は「ふそう」にゲートの向こうを偵察しろと指令したのだ。つまり案外近い場所に連中の本拠地があるのではないかと踏んだわけだ。
「で、私や有識者みなさんの予想が当たったのはいいですが……これはとんでもない連中ですわね。この『生体兵器』はティ連としても看過できません」
「ええファーダ。こんな連中がまかり間違って我々の宇宙へ現れようものなら……」
「あの時の事件、いやそれ以上の対応が迫られる事態になりかねません。可能な限り早急に事態を収集しましょう。エルバイラ・ガイデル達や、若き文明と、その人々のためにも……」
* *
ワームホールから次々に繰り出されるヂラールの群体。
「ふそう」はセドル艦隊と合流し、その機動性を活かしてセドル艦隊の大型機動母艦に纏わりつこうとする雷撃型のような艦艇タイプヂラールを片っ端から迎撃する。
ティ連の艦艇デザインは、どちらかというと幾何学的な形をしたものが多い。唯一例外はカイラスの威嚇めいたデザインだが、それでもおおよそ地球人には馴染みの薄い意匠だ。
そんな中、船のようなものが宇宙空間を飛んでいる「ふそう」の艦影は、全長三〇〇メートル弱の大きさながら一際目立つ。
敵艦撃破の爆炎を突っ切って飛び出す艦影には、なんとなくどっかの『総統閣下』のBGMがよく似合う。
『コウサカ艦長、あなた結構やるじゃないですカ!』
ニヨッタはパネルの縁にしがみついて艦外を映すモニターに不敵な笑みを浮かべて香坂の暴れっぷりをそう評価する。この船は空間振動波エンジンで突き進む船だ。Gなどほぼ感じないはずだが、VMCモニターに映し出される映像に思わずGを受けるような錯覚が体を突き抜ける。
「そうですかっ!? これでも海自時代はもうちょっと、やんちゃしてたつもりなんですけどねっ! っと? 一〇時方向のカイラス駆逐艦に対向勢力が取り憑いているぞっ! 突っ込んで引き剥がしてやれ!」
『ええっ! 突っ込むんですかっ!』
『おう! 並走するように突っ込めっ!』
さしものイゼイラ人クルーも、香坂の暴れっぷりには付いて行くのに必死だ。
ふそうはカイラス駆逐艦にスレスレで並走するように近づいて……
『よし、バウ部ディフレクター照射!』
バウ部に設置されているディルフィルドジャンプ時、目的地へ到達したした際に障害物を吹き飛ばすために使用するディフレクターフィールドを照射する。するとたちまち駆逐艦に群がる大型機動兵器型ヂラールは前方へ吹き飛んでいく。
『吹っ飛んだヂラールを始末してやれ! CIWS、127ミリ、短SAM、何でもいいからぶち込め!』
助けられたカイラス駆逐艦のブリッジ側面を、大きなふそうの真っ赤な喫水が横切って行く。
握りこぶしを上げて喜声を上げるカイラス駆逐艦クルー。
カイラス駆逐艦の方を向き、見えはしないだろうが、ピっと挙手敬礼を送る香坂とブリッジクルー達。
そんな感じで藤堂とは違う指揮っぷりで暴れ倒す香坂に通信が入る。
『コウサカ艦長、セドルだ。むははは、見事な操艦だな、見ていて気持ちがいい』
「は、恐縮です提督閣下」
ビシと起立し敬礼する香坂。セドルはまぁまぁと平手を降って気楽にと促す。
『おかげで我ら大型艦艇群もやりやすかった。そろそろ一息つこうコウサカ艦長、我々の虎の子も来てくれたようだ』
「は、先ほど連絡のあった軍用のディルフィルドゲートでしょうか?」
『ウム……私の妻がな、それで一気にケリを付けると寄越したシロモノだ……ということで、ふそうには戦略ゲート艦「ゼルベルタ」の護衛に回ってくれ。我々大型艦艇群もゼルベルダ制御の体制に移行する』
「了解です」
……すると間もなく、惑星サルカスから数十万キロメートル離れた地点に、戦略ゲート艦『ゼルベルダ』がディルフィルドアウト」してきた。
ここで日本人諸氏がこの戦略兵器を見て思うことは、ナントカ公国の太陽光を利用した戦略兵器っぽいイメージだったりするわけだが、そんな急造感のあるものではなく、もっと洗練されたティ連技術意匠な代物で、側面に大きくそびえるブリッジ部が生活ステーション機能も兼ねており、前線での基幹軍用宇宙ステーションとして機能する代物でもあることを物語っている。
ふそう乗員の日本人クルーはその巨大な砲身ともいうべき兵器に圧倒され、ティ連人クルーは目を輝かせて握りこぶしを作る。
全艦ゼルベルタを中心に艦隊陣形を取り直し、巨砲は惑星サルカスを背に九〇度回頭、砲口をワームホールへ向けた。
……惑星サルカス・ハイラ王国バルベラ城臨時参謀本部で、ゼルベルダの全容を拝む柏木連合議員先生。
『いやはや……もうこの手の兵器は人工亜惑星要塞で慣れましたけど、いつもの事ですが、ティ連はやることみんなビッグスケールっすね、いやはや』
先生が話すように、ままこの参謀本部にいる『日本人』のみなさんは、「またこんなのか、わはは~」ってなもんで慣れた話だが……
『…………』
一人唖然としているのは、USSTCのアラン中佐。なんだかとんでない現場に送られてきた事をここでようやく自覚するに至る。彼の自叙伝には、今日この時の事がどう記されるのだろうか?
というわけで、ここハイラ王国バルベラ城近郊の攻防戦も、特危・USSTC・ハイラ騎士団連合軍が完全に押し返し、勝敗を決しつつあった。
『よし貴様ら! せっかくこんな楽しいパーティへご招待預かったんだ、最後の後片付けはジャパニーズのワールドカップみたいに綺麗に行くぞ! 全員ホウキは持ったか!』
と叫ぶはモーガン上級曹長。部下のみなさん皆して特製M4カービンを上に掲げ、イヤー!と雄叫び。
『ゴミ袋は持ったか!』と叫ぶと、ウーハッ!と叫ぶ。
『よし! 海兵魂を見せてやれ! 突撃! GOGOGOGO!』
USSTCモーガン隊は、止めの攻勢でバルベラ近郊に着地するヂラール強襲揚陸艦に攻撃を仕掛ける。
ヂラールどもも、ここにきてやっと自らの不利を理解したのか、撤退を開始したようだ。だが逃がすかとばかりに地上部隊は徹底して殲滅を図る。
USSTCの装備もこれまた大したもので、まだ試作段階だという話ではあるが、かのサマルカ技術を徹底的に解析し、彼らも独自のロボットスーツ型兵器を作り上げていた。その姿は特危のどっかのチーフ型とまではいかないが、現用歩兵装備を延長させた雰囲気のもので、立派に稼働している。パーソナルシールドは今作戦のために特危から貸与されたそうである。
手に持つ武器は、地球製火器が有効に効果を発揮するということで、対戦車兵器以上の大型火器は現用のものを使用しているが、大きく違う点は、M4カービンのレールに備え付けられた当のM4より大きな未来的デザインの火器だ。というか、M4とその火器が一体化して一つの独自銃器を形作っているという感じ。何かハリウッドSF映画に出てきそうな、現用銃器を改造したSFブラスターのようなものだ。
聞けば磁力空間振動波機関の理論を応用したレールガンだそうな。その威力は凄まじく、特危の機動小銃にも負けてはいないぐらいのものであった。
……モーガン隊のノリに付き合わされるハイラ騎士団に特危隊。レールガンが唸り、特危機動小銃が火を噴く。ハイラ騎士団が得意の武術で銃剣突撃。
だが、やっぱこういう時、米国人はノリで何かをすると、結果何をやらかすかわからない。
後方で前線指揮をとる久保田一尉にモーガン隊から連絡が入る。
『こちらモーガン隊、前線基地どうぞ』
「こちら久保田だ、モーガン上級曹長どうですか状況は?」
『作戦終了、敵揚陸艦型を「捕獲」した』
「……………………………………………………は?」
『久保田大尉、どうしますか? でっかいペットになりますぜ、エサ代も半端ないでしょうなぁ』
モーガン上級曹長何をやらかすんだと、その無線を聞いた途端、テッパチ被ってテントを飛び出し現場に向かう久保田一尉……やっぱ海兵上がりは何をやらかすかわからんと。
* *
地上での戦いも、その趨勢が決しつつある中、宇宙での戦いも最終局面を迎えていた。
ここはティエルクマスカ連合本部人工星系・本部人工惑星『ベルーシュ002』中央指揮所。
「ファーダ、準備完了致しました。何分実戦で使用するのは初めてですが、全て訓練通りです。問題ありません」
士官が敬礼し、その兵器の発動準備完了を報告する。
「わかりました。ではジェルダー・ヘストル、あとはよしなに」
「了解です……よしでは貴様ら、気合入れていけ! 人工恒星ゼス000エネルギー供給開始、エッシュ005次元反転シリンダー作動!」
「了解、次元反転シリンダー作動、人工恒星ゼス000からパワー転送開始します」
ティエルクマスカ連合人工星系中心に鎮座する人工の太陽型恒星『ゼス000』その周囲に展開するダイソン・スフィア式のエネルギー生成、転送装置が唸りを上げ、防衛惑星エッシュ005のディルフィルドジャンプシステムに蓄えられていく。
エッシュ005では現在、亜空間を形成させ、更にはその空間の密度を圧縮させてバースト状態に移行させようとしていた。
「イゼイラ中央ゲート、カイラス中央ゲート中継準備完了…………目標のゼルベルタへリンク完了しました。ディルフィルドゲート砲、発射準備完了まであと五〇〇!」
中央指揮所ではこの戦いを終わらせる最後の一閃を放つ準備が整った。
「マリヘイル議長、準備完了です」
「ありがとうジェルダー・ヘストル…………この作戦に従事するみなさん、因果の巡り合わせとでもいいましょうか、かのフリンぜ・フェルフェリアのご両親、エルバイラ・ガイデルとエルバルレ・サルファが生存されたいたというティエルクマスカ史に残る奇跡。これだけでも大きな事件ですが、まさかその物語が現状のような推移を迎えるとは、誰が予想しえたでしょうか……今放つこの一撃は、エルバイラ達の救出、そのエルバイラ達を助けてくれた惑星サルカスの民への感謝、そして……文明一つを簡単に滅ぼし得る、知性が造った忌まわしき者共への制裁……色々な意味を持ちます。ですが一つ言えることは……ふふ、こういうのは、今回だけで充分ですね」
横で首振って苦笑するヘストル。御大層な前振りに、結論がそれ。そんな締めの言葉にそれを聞く本部人工星系のスタッフもみんな苦笑いだ。
一つ緊張を解き、また気を引き締めて発するこの言葉。
「……では、ディルフィルドゲート亜空間収縮砲、発射……」
その言葉に、クゥンという音が響き渡り、警報轟く。
スタッフが赤いVMCボードのパネルを、スイっと上へスライドさせる。
すると、人工防衛惑星『エッシュ005』の赤道に一本深く刻まれた巨大なスリットへ両端からこれまた巨大な光点が移動合体し、刹那、巨大な黒光りする暗黒を纒った閃光が、第4人工ディルフィルド交通惑星『デンザ004』の超巨大ディルフィルドゲートに向かって発射された……
* *
「セドル提督! フソウ所属、無人キョッコウ・ヴァズラー・アウルド機から警報!」
ゼルベルタ発射フォーメーションを取り終わった直後の大型機動母艦ディディグリーブリッジ。
「どうした?」
「ワームホール対向の半知性体ヂラール・コロニーが移動を開始したそうです! 敵生体兵器艦隊、ヂラール・コロニーから大量に発進!」
「チッ、こちらの動きを察したか……やはり連中には我々の知らない意思伝達機能があるみたいだな。迎撃できるか?」と、隣りにいるイゼイラ人参謀に話しかけると、
「は、あのコロニー規模がこっちに向かって来るのは今の我が艦隊規模でも流石に論外ですね。本音を言えば尻尾巻いて逃げだしたいところですが……」
フムという顔をするセドル。あまり焦りの色はない。
腕くんで指をトントンとしばし待つと……
「提督! 防衛総省本部より通達! 連合標準時間0087866に、エッシュ005からディルフィルドゲート砲発射されました。現在亜空間波動はカイラス中央ゲート通過。0075000にゼルベルダ到達、照準機動に問題はないかと問い合わせてきています!」
「フッ、当たり前だ。現状目標を確実に追尾中、早くもってこいと伝えろ」
「了解!」
「あと、逐一現状を地上のハイラ参謀本部に伝えてやれ。エルバイラ長年の御苦労を飾るエンディングだ。壮大なものになる」
その報告を聞き、パンと手を叩きニヤを笑みを浮かべるセドル提督。
ディルフィルドゲート砲発射の報を聞き、フゥと安堵するはバルベラ城のフェル。柏木はイマイチその兵器がどんなものか理解できていないので、どれだけスゴイかちょっとわからない。
それはハイラ人や日本人諸氏も同じだった。
『で、フェルさ、どれぐらいの威力を持った兵器なわけ? それって……』
みんなフェルの話を群がって聞き耳たてたり。
無論ガイデルや使徒ティ連人のみなさんにとっては今更な話。
「えっとですね……うーんと……なんて表現すればいのかなァ……」
すると隣のニーラチャンが、
「あのですね、ふぁーだ。ニホンジンサンの好きな、白いちーとなトンデモ機動兵器のあにめ、ありましたよね」
『ああ……あれね。うん』
「あれに出てくる目付きの悪い「ぱちき」入れたオッサンが使った、太陽光線使った熱戦兵器ありましたよね」
『うん』
「あんなの」
『…………え゛』
パチキの意味を知ってるニーラ教授も教授だが……
するとフェルが横から……
「ソレとかデスね、三年前にマサトサンと一緒に見に行ったボールみたいなロボットや、意外にヘタレな黒装束の悪者が出てくる、えすえふエイガ、ありましたよね?」
『お、おう』
「アレに出てきた惑星自体がくそでっかーいタイホーになってる武器、ありましたよね」
『お、おう』
「あんなの」
『…………』
フェルとニーラの非常にわかりやすい端的な説明で、如何様な兵器か二秒で察した日本人諸氏。ハイラ人にはチンプンカンプンなので、そこはガイデルがハイラに伝わる神話に例えて説明していた……
方や例えるのが神話で、方やポップカルチャーである。こんなとことでも文化文明比較論ができてしまったり。
……そして時間である。
フェルやニーラの言う「あんなの」を中継するふそう。この事件に関わったみんなが「あんなの」なゼルベルタを見守る。
宇宙空母カグヤでは、綺麗な病室で横になるサスアと、看病しに転送してきたメルフェリアが。そこで二人の世話をするパウル臨時副長も。
ブリッジの艦長席に座るティラス。その横の司令官席に座る藤堂。
前線での戦闘に一段落を迎えたシエに多川、リアッサにシャルリ、そして、ナヨ閣下。
敵生体兵器強襲揚陸艦型を拿捕するというアホなことをやらかしたモーガン上級曹長に、それに付き合わされた久保田一尉。
参謀本部の柏木やフェル、ガイデル達にアラン中佐、大見に白木……白木はもちろんこの様子を録画していたり……
宇宙では、香坂にニヨッタが、一番間近のライブでそれを見守る……
戦略ゲート艦ゼルベルタの砲口先端に空間境界面が形成された。いよいよである。
いつもの澄み切った湖面のような砲口に、この戦闘で四散した兵器の残骸や、ヂラールの遺骸がポツポツと吸い込まれていく。
恐らくその残骸遺骸は亜空間回廊壁を突き抜けて、どこか見知らぬ場所へ吹き飛ばされるか、地平の果てへ消え去るか。
『亜空間圧縮波動、あと60でゼルベルタへ到達、照準追尾問題なし。敵ヂラール・コロニー及び射線上のヂラール群体への命中確率95.786パーデル……圧縮波動最終フェイルセーフ地点通過、到達まであと30…………10・9・8・7・6・5・4・3・2・1……』
そのカウントダウンの刹那、ゼルベルタの巨大な砲口から、それはもう惑星サルカス宙域ごと揺らすような空間波動が世界を震わせ、もう見慣れた、湖面にでっかい岩でもぶっこんだような画を伴って、中心に行くほど暗黒で、外に行くほどギラギラ光る恐るべき巨大なエネルギー波動が一閃宇宙を切り裂き、ワームホールに吸い込まれる。
視界以上の現象は見ることが出来ないが、明らかに大きな異変がワームホールの向こう側で起きているのが理解できた。
それは『無人旭光Ⅱアウルド型』が送ってくる映像でしか確認できなかった。
その黒光りする破壊の閃光は、ヂラールの超巨大コロニーのど真ん中を突き抜け、その命中した場所の空間が歪にゆがみ、崩れていく。
その歪んだ空間にねじ込まれていくように周囲が収縮し、その閃光にヂラールコロニーという物体が吸収されていくような、そんな映像。
コロニーから発進した艦隊は、その閃光に巻き込まれ、無論これも消滅した。
自ら造り出したヂラールに滅ぼされた、名も知らぬ文明と、その惑星には影響なかったようだが、これでこの惑星はもう誰に知られることもない、宇宙にポツンと浮かぶ死の星と化すのだろう。
ワームホールの向こう側、音のない映像を送り続けてくる旭光Ⅱ。
しばしヂラールの全滅を関係者諸氏に見せつけたあと、この機体はその死の星の周回軌道に載せて放置した。今後はこの星を監視するための衛星として働き続けるのだろう。
だが、宇宙は変革の様相を見せる。
ワームホールを生成していたヂラール・コロニーが消滅した時点で、所謂一種のディルフィルドゲートであった人工ワームホールは、まるで何かの弁のように……急速に空いた口を閉じていく……
『よっしゃ、やった! 勝った! 守り切ったぞ!』
そう声をあげるは柏木議員。
「やりましたね、もうあのバケモノの心配はいらないですよ!」
とフェル。父母と抱き合い勝利を喜ぶ。
柏木は、大見や白木とも肩を叩き合い、戦場ではシンシエコンビが熱いチューなんぞをかましていたり。
ソレを見るリアッサにシャルリはニヒヒ顔。ナヨ閣下もオホホと口に手当てて笑っていたり
「ヒィーヤッハー」と雄叫びあげるはUSSTCのみなさん。元海兵隊員な彼らの喜び表現はそら凄まじい。バンバン背中を叩くのはいいが、加減がないため気絶しそうになる久保田。
USSTCも色々とスキルがアップ出来たようで、米本国も充分な成果と認めてくれるだろう。
だが、くどいようだが、拿捕したヂラールはどうすんのということなのだが……
カグヤではその映像を見るサスアにメルが抱き合って大喜び。でもメルがまだ完治していないサスアの鎖骨にしがみついて泣きそうな顔になる彼。
でもその後にこちらもフェイストゥフェイスで祝福。それを見てしまったパウルは、シャンパンでも持ってきたが、ニヤリと笑ってまた後程と。
ティラスと藤堂、VMCモニターに映るセドル。ティラスと藤堂は肩叩き合って互いの健闘を祝福したり。
そして最後はマリヘイル議長閣下。補佐官からの報告を受けると、フゥと一息ついてソファーに座り……戦後のことを彼らと話し合う……
* *
後にティ連で『惑星サルカス・ヂラール攻防戦』と呼ばれ『ドゥランテ共和国訪問団遭難事件』改め『ドゥランテ共和国訪問団遭難・救出事件』と区別されて語られる事になるこの事件、各々新たな始まりと、その次への物語へと繋がっていく……
その後、ティエルクマスカ銀河共和連合は、サルカス世界、特にハイラ王国連合を将来のティ連加盟国とみなして協力していくということになり、保護同盟国として恒久的に軌道上へティ連艦隊と、ゲート代わりに『ゼルベルタ』を常駐させるということになった。
まだまだ未熟な文明ゆえ、ティ連科学の浸透と教育が優先されるということで、文明独自の発達も観察しながら、この星も結果的にトーラル文明へ由来する星となっていくのであろう。
国交交渉権は事件の過程もあり、イゼイラが取り仕切る形になる。近々にサイヴァル議長もハイラ王国へ表敬訪問するという事らしい。
当然、そのハイラ王国の国王陛下は……
「ではファルン、マルマ。お別れです……」
涙してガイデルとサルファに抱きつくフェルさん。
「すまないな、フェル。因果の結果とはいえ、私はもうこの国を離れられない立場になってしまった……」
「ウフフ、でも、イゼイラの施設やゲートもできて、定期便も来るそうですから、遭難者のみなさんも、本国と自由に行き来できます。ファルンやマルマも、引退なさった時には……」
「そうだな、その時はイゼイラへ一度戻るよ」
「表敬訪問という形でもいいのではないですか? あなた」
「あ、そういうのもアリだな」
とそんな話をする親娘。
「では婿殿、我が娘をよろしくお願い致します」
『は、恐縮です陛下……じゃなかった、お義父さん……フェル、時をみてさ、姫といっしょにまた来るか、ここに』
「ウフフ、そうですね。孫のお顔も見せておかないと」
「おお、そうだそうだ。なら、またいつでも来なさいと言ったほうがいいな」
次からは、孫も連れてこれるかな? と。
柏木夫妻もハイラが落ち着いたらまた来ようと、そんな話をしてみたり。ティ連がこの世界へ本格的に関与しだせば、もうこの国も『悠遠の王国』にはならないだろう。
結局日本政府からの指示もあり、戦後処理という訳でこのサルカス世界にやってきて、三ヶ月以上にもなってしまていた柏木達ふそうクルー。
なんだかんだとこの星にも慣れてしまった彼ら。色々と不安もあった。フェルに至ってはそこに葛藤という言葉もつく。だが、そんな不安を明るく打ち消してくれたのが……
「お姉ちゃぁ~ん、おっちゃぁ~ん」
フェルの実妹メルちゃん。
お姉ちゃんに抱きついて、
「もう帰るのぉ~……もっといようよぉ~……」と『 3 』こんな口してブーブーと名残惜しさ全開。
「おいおいメル、無理を言ってはダメだろ」と諭すは、メルの婚約者を公表したサスア。
「メルチャンも、イゼイラやニホンに必ず来るですよ」と語るはフェル姉ちゃん。
メルとサスアの新婚旅行は日本かイゼイラか? その線でもう決定のようだ。
『サスアさん、もういいのですか? 腕の方は』
「はいカシワギ殿。すっかり。あの空飛ぶ船の医師達はすごいですな」
『はは、「空飛ぶ船」ですか、それをみんなが「宇宙空母」と言えるようなるまでこの世界も頑張らないと』
「左様ですなカシワギ殿。聞けば、イゼイラの使徒も、その歴史は私達と似たようなものであったとか」
「ハイ、少し似ているところはあるですね」
とフェルは応える。
ヂラールがツァーレで、ガイデルや、その後の柏木達がトーラルに例えれば、確かにそんなところではある。
「で、メルちゃん!」
とお姉ちゃん。
「エルダラ・サスアのいうことをちゃぁんと聞いて、良いお嫁さんになるですよっ! ポチポチ変なボタン押しまくったらダメですよっ!」
いやそこかいと思う柏木の旦那。
姉貴風を吹かせられる妹が出来て、結局のところ、フェルも嬉しいんだなと。
そんなこんなで別れの時。
ハイラ城下バルベラの街みんながふそうを見送りに港へ来てくれた。
カグヤは、戦後処理の命を受けているので、実はあと一ヶ月ほど滞在するそうな。そこでパウル艦長の本領発揮。ディスカール本国から工作艦隊がやってくるそうなので、ハイラ王国やこのサルカス世界全般の近代ティ連化を図るための礎を造って帰ると張り切っているそうな。
また妖精魂Tシャツにニッカズボン履いて、この作業姿を布教しようとハイラでもパウル組を作る予定だとか……なんともはやである。
で、あの米軍USSTCの連中が無茶やってとっ捕まえた強襲揚陸艦型ヂラールはどうしたのかというと……
このハイラ王国にティ連の研究施設を造って、本国や日本、そしてその功績が認められて、米国からも許可を得た研究者が日本の管轄でという条件で研究に来ても良いという事になり、この生体兵器を徹底的に調べようという話になった。
ヂラールは、あの時点で全滅したと思いたいが、あの死の星となった惑星文明の風化具合を見ると、一〇〇年以上は経過しているようなので、ヂラールが他の天体に分派遠征している可能性もあるということで、ガーグ・デーラに次ぐ危険因子として研究しようという話。
「では、婿殿。彼ら帰国希望者の事。よろしく頼みます」
とガイデルに託された遭難者達、その中の帰国希望者を乗せて、航宙重護衛艦は再び飛び立つ。
ガイデルはこの地でハイラの民となることを決意し、残る選択をしたが、やはり故郷に思いを馳せる者もいて、各々故郷へ帰国したい者もいたようだ。そこはそれで普通である。そんな人々も乗せて船は行く。
澄み切った空に浮かぶ斥力物質を抱えた島々の織りなす雄大な影の中を縫い、ふそうは離水、グングンと高度を上げる。
『ア、マサトサン、あれ……』
サロンの窓を除くと、海岸線を猛烈なスピードで走る『試製18式自動甲騎』
小さくふそうを追いかけてくるその姿を拡大すると……メルだった。何か大きな声で叫んでいるよう。そして顔は涙顔だ……片手に、かの超ロングソード持って、もう片手には柏木がプレゼントしたM9拳銃を持ち、それを大きく振りながら追いかけてくる。
その姿を見てフェルも思わず……
『メルチャン……』
とつぶやき、涙して柏木の胸へ顔を埋めた……
その姿を眺めるナヨ閣下。フェルをヨシヨシする柏木と目が合うと、微笑んで頷く。
短い間でも、やはり肉親姉妹の絆は消えるものではないのだと、こればかりは不思議な縁、因果で繋がるものなのだろう。
そして、「ふそう」は惑星サルカスを後にする。
ゼルベルタを利用してディルフィルドジャンプ。「ふそう」は日本を出発し、約四ヶ月後に、当初の任務へ復帰した……
* *
~ その後の話 ~
『ふそう』はその後、ティ連人工星系本部に到着。連合本部は、銀河連合加盟国となった日本政府のフェル大臣と柏木連合議員、藤堂や香坂ら特危クルーを歓迎し、初の連合中央でマリヘイルやヘストルら重鎮と会談を行う。
そこでナヨ閣下も紹介。それはもう大騒ぎになり、皆して平身低頭、「何で連れてくるって言わないんだ!」と柏木も相当マリヘイルに言われたそうで、こっちがサプライズする方なのにサプライズされたとマリヘイルのおばさん、悔しがっていたり。
で、ふそうの意匠にも軍関係者が興味津々。カグヤ意匠で同じような巡洋艦をつくるとこうなるのかと意見がかわされ、一度この意匠で全長五キロメートル級の機動戦艦でも造ってみるかと、そんな事言ってたり……勿論藤堂は……
「やめといた方がいいんでは……」と思ったが、思うだけ……
で、そんなこんなで柏木とフェル、そしてナヨ閣下はここで一旦ふそうと別れ、定期便でイゼイラへと赴く。
その目的は勿論『創造主認定会議』へのお断りを入れに行くためである。
フェル曰く、『相当に頭の硬いクソジジー連中の集まり』らしいので、ナヨ閣下を出汁に、盾にして、「堪忍しておくんなまし」とお願いするが、結局ナヨ閣下の『顔を立てて』ということで、なんとか『保留』までこぎつけた。
それでも『保留』である。『中止』ではない。つまり奉る気マンマンなのである。死んだ後に創造主にしちまえば、死人に口なし作戦でいこうという気マンマンである……
「まぁでも、賢人扱いされないだけ……」
『マシとするですスよ……』
と納得するしかない二人、この騒動が、後に『柏木真人・ティエルクマスカ連合防衛総省長官』を誕生させることになるのだが、それはまだ少し未来の話。
フェルはそのまま久方ぶりの帰郷となって、柏木、ナヨさんと皆してヤーマ城へ宿泊することに。
ヤーマ城ではこれまたサンサを筆頭に、
「ヤーマ城にナヨクァラグヤ様がご帰還なされた!」とてんやわんやの大騒ぎになり、「宴を開くのじゃぁ!」とやりそうになったのだが、流石にナヨもそこまでせんでもいいとサンサを諌め、まま普通に宿泊となる。
……そんなヤーマ城のとある場所。
フェルの好きな場所。でも哀しい思い出もある場所。
そう、あのクリスタルの碑がある丘だ……
『やぁフェル、久しぶりだね。もう何周期ぶりかな?』
『ええ、そうね。こっちに来て抱かせて頂戴』
母サルファに抱かれるフェル。
でもその顔に哀しげな表情はもうない。
フェルは笑顔でガイデルとサルファのエミュレーションホログラフに話しかける。
「マルマ、ファルン。今まで色々有り難うです」
『ん? どうした改まって』
『フフ、変な子ね、また何かあった…………』
フェルはそう言うと、まだ再生途中のホロデータのパワーを切る。
「フェル、もういいのか?」
城の庭を散歩して、碑のある丘に上がってきた柏木。
『ハイです。このデータにも、お礼を言っておかないと……』
「そうか……ま、そうだよな……」
頷く柏木。
『ところでマサトサン』
「ん?」
『私、今回の件で色々と考える事あったですけど……一つ決めた事があるですヨ。聞いてくれるですか?』
「ああ。で、何? どうしたの?」
『私、ニホンで議員サンのお仕事、二期マデってファーダ・ニトベに言ってたのですけど……もしニホンの有権者サマがお許し下さるなら、ずっとずっと議員サンのお仕事するデスよ』
その言葉を聞いて、「ん?」という顔をする柏木。確かにそんな事を言ってたのを思い出す。でもフェルはイゼイラでは終生議員だ。そこんところはどうするんだと。イゼイラでの終生議員に戻るつもりがないのか? という話になる。
フェルはその心変わりをこう話す。
『ファルンやマルマは、自分達を受け入れてくれた国の国王サマにまでなって、あんな風に必死でハイラ王国やサルカス世界に貢献しようと頑張ってるデス。それで結局、ハイラに骨を埋める決断をしたですよ……あんな姿見せられたら、私もマサトサンと一緒にずっとずっとニホンで暮らそうって思ってるのに、やっぱり中途半端ではダメですよネ』
なるほどなと思う柏木。フェルもやはりガイデルの娘なんだなと。
色々と葛藤あったのだろうが、父の背中を見て思うところができたのかなと。
「ま、フェルがそう思い、そうしたいのなら、それでいいんじゃないのか? でもイゼイラで何かあった時、終生議員に戻らなきゃならないときもあるだろうよ」
『その時はその時デスよ。またマサトサンに相談するデす』
「そっか」
そう、その時はその時だ。でもフェルがそう決めたのであれば、それも若いフェルの成長である。オッサンの柏木としては、それはそれでいいんじゃないかと思う。彼女の人生だ。彼女の好きにすればいい。
柏木は、フェルを抱き寄せて軽くキスなんぞする。
「おっと、そうそう、ナヨさんが、メシだってさっき迎えに来てたよ」
『ウフフ、今日はナヨサンがカレーを作ってくれるでスね』
「ああ、どんな味か楽しみだ」
フェルは旦那の腕取って階段を降り、城へ戻る。
二人の背後には、いつもの青く輝く主星ボダール。
そして、もうパワーの入る事がないガイデルとサルファの碑は、主星の淡い輝きに照らされていた……
銀河連合日本外伝 Age after ― 悠遠の王国 ― 『終』




