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銀河連合日本  作者: 柗本保羽
銀河連合日本外伝 Age after
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銀河連合日本外伝 Age after ― 悠遠の王国 ―  第三話

『16式探査砲弾からデータ届きました!』

『ハイハイ、すぐに分析しますからねぇ~。えっほっほ』


 何かの図面らしきデータを見ながら、ポポポっとキーを嵐の如き速さで叩くニーラ教授。


『……よしっ、ここが最適ですッ! 転送室、データ送りますヨ。いってください~』


 パシっと決定キーをぶっ叩くニーラ。

 その叩く音と同時に、


『こちら空挺転送室。データ受領、データ受領。八千矛隊指定座標へ転送開始。転送転送』


 キィと甲高い音を唸らせて、格納庫の空挺作戦用降下転送器から特危陸上科精鋭『八千矛隊』が、光を帯びてその姿を消す。

 彼らの転送先は……



 ……とある場所に光柱が眩しく三〇本ほど立ち昇り、人の姿が顕現する。

 

『八千矛チャーリーからアルファ、転送完了。全隊員健在』

「こちらアルファリーダー了解。各員新しいオモチャの調子はどうだ?」

『良好でありますニ佐。可動繊維服単体よりも格段に楽ですね』

『こちらH型コマンドローダー。このマシンなら、兵器会社の道楽社長が持ってるパワードスーツとでもやりあって見せますよ』

「フッそうか、結構だ。よし、全員気を抜くなよ……久保田!」

「ハッ」


 陸上自衛隊からスカウトしてきた陸自時代の大見の部下、久保田正志くぼたまさし一尉。

 彼もレンジャー資格所有者である。大見率いるアルファチームの副官だ。


「この場所をベースに救出作戦を行う。とはいってもここは敵の腹の中だ。まずは帰還用転送ビーコンの確認を確実にさせておけ」

「了解」


 さて、大見達精鋭八千矛隊は、一体どこに転送されてきたかというと、なんと敵の母艦とおぼしき宇宙船型生体兵器の中であった。

 ヴァルメの収集した一連の戦闘映像の分析でここに囚われていると予想されている、この星の原住民族存在の確認、そして可能なら救出の任をもってやってきた。

 低速で打ち込んだ探査徹甲弾で、生体母艦とでもいえるこの存在の内部をスキャンし、最適な場所に転送されてきた大見達。その装備も万全を持って挑む。


 ふそうが就航したと同時に、特危には新しいティ連技術応用装備がヤル件の趣……旺盛なる創意工夫でまた増えた。それがこの『コマンドローダー』という装備。この呼称は対外的な英語呼称で、正式調達名称は『17式自動甲冑』という。

 さてこの装備。ライト型とヘビー型という二つのクラスがあり、主に機動戦をこなすL型ローダーは、その姿がどっかの『後光なチーフ』に似たようなデザインであり、H型は所謂ティ連の『デルゲード』を参考に日本的現代兵器デザインにまとめたような、そんな装備である。

 L型の兵装は主に標準装備の、ブラスターユニット装着型コマンドローダー専用重小銃『17式機動小銃』に、各種軽重ゼル兵装システム。可動繊維スーツにアーマーと連結した外骨格型のロボットスーツシステムが連動して稼働するため、兵士の機動性と、運動量抑制性能が格段に向上した装備となっている。

 H型は、もうデルゲード同様の『着て操縦する戦車』である。L型H型双方とも斥力システムを装備しているので、長距離ジャンピング等の空中機動性能も付加されており、H型には更にデルゲード同様の浮遊滑空・走行機能も装備されているわけで、運用次第では歩兵直協に車両や攻撃ヘリと連動した作戦も可能である。

 これが特危自衛隊陸上科の目指す「新機甲戦術」のさらなる進化形態の一つであり、陸上自衛隊でも近々これら装備が配備される予定になっており、将来的には普通科に新たな兵科として、自動甲冑専門の部隊を編成する構想もある。


 と、それはさておき……


「なんか妙な感覚だなぁ」


 大見がポツリと漏らす。

 生体兵器。すなわち人工なのだろうとは思うが、そんな生体の内部らしい、妙に硬さはありつつも弾力のある地面に違和感を覚えつつ、閉所戦闘スタイルで連携を取りながら腰をかがめて進んでいく。

 彼らL型コマンドローダーの持つ専用小銃『17式機動小銃』は、銃身下部に粒子ブラスター発射ユニットを装着し、更には主力の7.62ミリ弾もゼル弾薬で、弾頭質量と装薬を強化した特殊な弾丸を発射するというコマンドローダー専用の、とても生身では扱えない小銃となっている。 

 そんなイカつい銃を構えながら、ニーラから送られてくるこの母艦型生体兵器の暫定マップを頼りに慎重ではありつつも迅速に彼らは進んでいく。


 と、案の定、この生体兵器母艦には乗組員がいるようで、巡回中の連中と遭遇。当然敵のおかげで問答無用のドンパチになり、銃撃戦が展開される。

 警報のようなものは鳴らないが、蜂などに見られるような生態的な警戒伝達機能があるのだろう。見る間に敵兵が続々と現れる。


「もっとスマートにいきたかったんですがっ! 大見二佐!」


 久保田一尉が17式機動小銃をドドドとぶっ放しながらそんなボヤキなんぞを。


「しかたないだろ、こんなへんちくりんな閉所戦闘。スマートにいくかい!」


 大見もボヤキ入れて17式をぶっ放す。

 敵も何やら妙な槍状の兵器をかざして光弾を放ってくる。

 外れた弾が船内の壁に当たると、その部分の肉片状な素材が吹っ飛び、体液が飛び散る。と思った瞬間、ゆっくりと再生を始める。


「二佐、やっぱこれって生き物の体内にいるような……」


 久保田が苦い顔して気持ち悪そうに話す。


「概念的にはそうなるんだろうなぁ……っと、こんなところで遊んでるわけにもいかんな。ヘビー! 前へ出ろ!」

『了解、ちょっとごめんなさいよ!』


 ウォン、ウィーンとそんな重低音を唸らせながらドスドスと足音鳴らしてH型コマンドローダーが前衛につき、前進を開始する。

 L型隊員はH型を援護するように両側面から17式機動小銃を発砲。

 H型は左腕部に装備されたM134ミニガンをカラカラ……ヴォァァァと唸らせ、左肩上部に装備された粒子ブラスター砲が、どっかの捕食者のようにキシュンと光弾を敵に食らわし炸裂させる。

 もう敵の艦内で、小型の戦車が暴れまわっているようなものだ。さしもの敵兵士も右往左往しながら反撃するが、このいきなりの『転送奇襲攻撃』には対応できなかったのだろう。瞬く間にその区画は大見達に制圧されていく。そりゃそうだ。こんな船の乗組員程度の戦力で、大見達陸戦のプロに抗えるわけがない。


 一通り区画の掃討を終えると、大見は敵の遺骸、というか「機能停止した生体兵器」を観察する。

 比較的損小度合いが低い遺骸を見つけて、うつ伏せになった体を起こし仰向けにする……何か緑色の体液に染まって死亡しているのだが、その容姿がおおよそ地球人や、イゼイラ人等他の種族が好感を持てるような容姿ではなかった……正味、バケモノだ。地球の概念で例えるなら、地獄から這い出てきたような人型生物とでも言えばいいか、そんなのであった。


「見た目で判断するのは良くないが……まあ、何というか、今この連中がやってるのは、本当に見た目どおりだな」


 大見が渋い顔でそう漏らす。珍しい状況なのだろうが、家族のみやげ話にはできないなと。


「二佐、この遺骸、持って帰りますか?」


 久保田が大見に問う。


「いや、どういう連中かは知らないがほっておけ。ただPVMCGで精密メディカルデータだけはきちんと取れ。それさえあればデータとしては十分だ。検疫も大変だしな。艦に持って帰って寄生されただの憑依されただのなんてことになったら話にならんぞ」 

「はは、なんですかそりゃ」


 するとしばらくして別行動を取っていたチャーリーチームから囚われたと思しき現住種族を発見したと報が入る。ただ、至急応援頼むという要請だった。


「どういうことでしょう?」

 

 と久保田。


「とにかくあいつらが応援っつってんだから、尋常事じゃないだろ。それに種族さんを発見したのなら、とりあえず当初の任務通りだ。いくぞ」

 

 八千矛アルファとベータは、チャーリーから連絡のあったその場所へ急ぐと……


「ゲェっ! なんじゃこりゃあ!」


 思わずそんな言葉を吐いてしまう久保田。隣の大見も言葉にださないまでも、彼の言動に賛同した。


「ちょっ! 二佐! クボやん! はよはよ! ヘルプヘルプ!」 


 その状況に思わず引いてしまいそうになる久保田に大見。 

 特危チャーリーチームが、なにやらSFホラー映画さながらの状況にでくわしているようだ。

 何やら、大きな牙を剥き出した口とも何かの消化器官の入り口とも喩えられるその中に、捉えられた現地種族や、動植物もろとも透明の膜で覆われた腸のような空間が脈動して押し込まれようとしている状況。

 無論捉えられた人々は踏ん張って耐えてたのだが、どうにも耐えきれず女性型の現地種族がその消化器官の中へ押し込まれようとした寸前で、特危チャーリーチームが間に合い、その女性型にアンカーロープを巻きつけて、入り口に押し込まれる寸前で阻止できた……のだが、その口から触手状の舌ともなんともつかないものが、女性型の足に巻きついて、特危隊員と引っ張り合いになっている状況であった。


 すぐさま大見は透明の膜を切り裂いて、その触手状のモノめがけて機動小銃をぶっぱなす。

 途端に隊員の引っ張る方向に女性型種族は飛んできて、隊員は彼女を抱きかかえるように保護する。

 その女性型は恐怖から解放されたのか、どこの誰かもわからない隊員にだきついてワーワーと泣きじゃくっているようだ。


「このクソ野郎! テメーはこれでも食ってろ!」


 久保田は口を歪め怨念こめて、その口状の気色悪い器官めがけて手榴弾を3個放り込む。

 途端にそこから緑、いや、ウグイス色状の体液が、爆炎とともに吐き出される……正直気持ちの良い光景ではない。

 同時に、アルファチームのH型が、力任せに右腕部のクローで、腸のような壁を強引に引き剥がし、中に囚われていた種族に動物達を解放する。

 中は相当にせまっくるしく、雪崩を打って種族さんやら動物やら植物やらが飛び出してくる。

 動物に至っては、解放されると同時にみんな好き勝手に雪崩をうって船内を逃亡である。


「全員救出したか!」

「はい、二佐」

「よし。って、他に囚われた種族さんはいないのか聞きたいが、言語が通じん事にはなぁ。翻訳するにも脳言語解析にかけないといかんし……」


すると、あるイゼイラ人隊員が、VMCボードで救出した種族の記録を取ろうと多機能ヘルメットを上に上げて素顔を晒した途端、救出した種族が全員その隊員を凝視した。そしてその彼に賢付くように礼をする種族達。


『エ? エ? なな、何ですか?』


 狼狽するイゼイラ人隊員。するとその種族の誰か、見た目は恐らく男性かそれに類する個体が、


「も、モしかして、あなた方は使徒様のお仲間ですか?」


 と、なんと流暢なイゼイラ語の単音発音種言語規格で話しかけてきた。感情音階語は身振りで表現している。


「あ、あなたはイゼイラ語を話せるのですか!」

「やはり……あなたも使徒様と同じ天穴からやってきなさった方々ですね」


 そのイゼイラ人隊員は大見の方を見て、目線でどうするか判断を求める。

 大見はコクコクと頷いて指を胸元で少し動かし、「話をしろ」とイゼイラ人隊員に指示する。

 その様子を見ていたイゼイラ人隊員は、全員バイザーを上げて、素顔を晒す。すると、救出された種族はみな更に感嘆の声を上げ、抱き合って喜んでいるようだ。

 但し、日本人隊員や、他のティ連人隊員はヘルメットを上げず、装着したまま。ここは彼らが使徒と呼ぶイゼイラ人隊員に任せようと、皆場の雰囲気を読んで理解する。ここで日本人やダストール人の素顔を出して話をややこしくしても仕方がないからだ。


「……とにかくイゼイラ語の話せる人がいて良かった。色々お話したいこともありますし、あなた方も我々に聞きたいことが色々あるでしょうが、今はこの場から脱出することが先決です。ご理解していただけますね?」


 そのイゼイラ語が話せる人物は、他のみんなに通訳している。で、諸氏ウンウンと頷いているようだ。

 で、イゼイラ人隊員は他に囚われた人々はいないか等尋ねるが、どうやら囚われた人々はここにいる人達のみのようで……あまり考えたくはないが、これ以前に囚われた人々は…………まあそういうことだろうと想像できたので、とりあえずこの場を離れ、最初に転送されてきたベース地点まで後退することにする。

 だが、後退しようとしていた矢先に、これまた面倒くさそうな敵が現れる。

 恐らくローダーH型に対抗しようと出してきたのだろうか、何やら象ほどの大きさがある甲殻をまとった昆虫とも動物ともいえないものを繰り出してきた。これも恐らく生体兵器なのだろう、その意匠からどうみても自然由来の生物には見えない。それどころか……


「ぬぉあ! 被弾! 被弾!」

「なんだあいつは、あの昆虫の眼みたいなところからエネルギー弾を発射してくるぞ!」

「田丘! リベル! 無事か!」

『大丈夫でス二佐! タオカ一曹も被弾はしましたが、損傷軽微!』

「下がれ下がれ! ブラボーは種族さんをとにかくポイントまで誘導! チャーリーとアルファであの野郎を食い止める!」

「大見二佐、こちらブラボー! こっちのH型は置いていきます!」

「おう、スマン! オラオラ! お前ら、盛大にぶっ放してやれ!」


 ドドド、パパパ、ドシュン! と機動小銃がうなり、H型左肩部の対戦車ミサイルに速射無反動砲が咆哮を轟かせる。

 ゼル弾頭を使用するこれら兵器はとにかく速射性能が高い。なんせ無反動砲ですら「速射」なのだ。普通無反動砲は、本来その構造上、「速射」というわけにはコレなかなかいかない兵器なのである。


 敵甲殻獣型生体兵器も、さすがにこの猛攻には苦戦するようで、なんと生体兵器、即ち「生体」であるにもかかわらずシールドを展開させつつ反撃するが、速射無反動砲がクリーンヒットし、甲殻状の装甲部に大穴開け、そこから体液を吹き出し、その活動を停止させる。

 だが、この区画……どう例えればいいかわからないが、恐らく生体兵器の生体栄養源でも補給する区画とでも言えばいいのか、これまでのイメージからしてそんな感じのするところだが、ここが相当重要な場所なのだろう。次から次へと敵兵やら生体兵器やらがやってくる。


「くそっ、キリがないな。久保田! フラッシュグレネードだ! 持続時間最大でな! 一気にトンズラするぞ!」

「了解!」


 大見の指示で、久保田がフラッシュグレネードを数個相手に向かって投げる。これは以前魚釣島の戦闘で、シャルリが使ったものと同じタイプのものだ。

 球状のグレネードはスイと投げた方向へ水平に浮遊して進み、敵の生体に反応して、それはものすごい光量の光を発し、ビッカリと輝いた。さらにはオマケでとんでもない音量の不快音があたりに響き、不快感全開の催涙薬剤を周囲にばらまく。

 すると敵性体は案の定もんどりうって苦しみ始め、大中小大きさにかかわらず敵の動きは麻痺した。

 無論それまでにすかさず大見達八千矛部隊、救出者ともども全員撤退である。見事な引き際だ。


「こちら八千矛。対象を全員保護。至急転送回収を要請」

『コちらフソウ了解。転送ポイント範囲のバイタルは全て確認しました。転送回収準備、5・4・3・2・1、転送開始』


    *    *


「艦長、大見二佐以下、八千矛隊及び拉致被害者の回収完了。任務成功です」

「よしよくやった、では仕上げだ。主砲一番から三番、17式重加速弾装填。発動用意!」

『一番から三番、仰角自律システムに委任。発動ヨォイ!……発動!』


 クルーとニヨッタの号令がブリッジに響き、ふそうの幅広な砲口を持つ斥力砲にパワーが蓄えられ、その砲身を敵母艦型生体兵器に向ける。

 敵もこちらへ向けて砲口とも何かの器官ともつかない場所からエネルギー弾を放っているようだが、ふそうはうまく躱す。まれに命中するも、威力が根本的に弱いのだろう、シールドに弾かれ「ふそう」に傷をつけることが出来ない。


「発射用意完了!」「発射用意!」『発射ヨオイ!』……「てぇっ!」


 ブリッジクルーの命令復唱が合唱の如く呼応し、香坂の命で、斥力砲の砲口に大きな空間波紋をまとい、ドォォォアン! という擬音が似合う画で発射される。


「各砲、あとは自由砲撃! 速射砲も使え!」


 ふそうの攻撃は容赦がない。その大きな母艦型生体兵器へ高速徹甲弾を叩き込む。

 更にはオートメラーラ速射砲も呼応して火を吹き、曳航が敵へ吸い込まれていく。


「母艦型を護衛する中小艦艇、機動兵器には、各ミサイルで対応しろ!」


 ふそうブリッジ前・後部のVLSミサイルセルがクパンと開き、14式機対機誘導弾に、16式艦対艦空間誘導弾が発射される。

 垂直に昇ったミサイルは、スラスターをわずかに吹かし、クンと90度進行角度を変えて、意志を持った肉食獣の如く敵兵器に食らいつく。

 

 ここでもし命中した相手がガーグ・デーラのドーラ母艦なら、機械兵器らしく豪快に内部火災でも起こして吹き飛んでくれるところなのだろうが、どうにも見ていて勘が狂う。

 命中した箇所が爆発せずに、なにやら宇宙空間でいろんな色の液体をぶちまけ蒸発させながら崩壊していく敵兵器。どうにも軍艦の主砲でハンティングでもしているようである。

 たまに爆発が見えるものの、火器を司る器官、どういう理屈なモノなのかはわからないが、おそらくそういう相応の箇所に命中しているのだろう、それでもまれな反応のようだ。


 敵母艦型生体兵器は、シールドを司る何かを失ったのが致命的となったのか、一般的に知られる宇宙空間に、何か生身の生物を放置したような状況で、惑星の大気圏へ降下していく。

 そして空力加熱現象を起こしながら、その兵器は崩壊していった……


「よし、ニヨッタ副長、軌道上の敵は?」

『ほぼ掃討完了しましタ艦長。でもこの艦、初陣でスゴイです。ここまで単艦でやれるなんて』

「いや、確かにこの艦の性能も伊達ではないが、それ以前にあの正体不明の敵に、まともな対艦戦闘用兵器がなかったことが勝因だ。見た感じほとんどが惑星降下用の空挺型兵器ばかりだ。護衛も本格的な対艦兵装を持っていない」

「ええそうですね確かに。大型といえば今の母艦型だけです。つまり、この惑星の戦力に合わせての編成という事でしょう」

「ああ、そうだな香坂。ということは……」

『次、連中が現れる時は、ふそうに対抗できル相応の戦力でやってくると?』

「そう考えるのが妥当だが、いかんせんこんな生き物とも兵器ともつかない妙な化け物の考えてる事など、こっちゃワカラン……で、ニーラ先生、どうですか? 地上の様子は。敵もさすがに撤退を……」


 これで少しは状況が楽になっただろうと踏んだ藤堂は、地上の戦況をニーラに尋ねるが……


『残念ですがぁ、敵サンは撤退する様子なんて全然ないですね~ ってか、軌道上の事などどうでもいいみたいで、好き勝手あばれてますぅ。もしかしてこの連中は……』


 ニーラがこの謎の敵性体に思うところがあるようだったが、その分析はとりあえず後で。

 今は地上に降りた調査チームの援護をと、ふそうも大気圏突入を決断する……


    *    *


『降りて早々こんな連中とやりあうとはねぇ……フェル。みんなを守っとくれヨ』

『ハイです。でもシャルリ、一人で大丈夫でスか?』

「そうですよシャルリさん。私もうこういう場は初めてではないですし、援護ぐらいなら」

『ダメだよカシワギの旦那。アンタは良くてもシラキの旦那とかもいるだろうさ。それに旦那はウチらのリーダーで連合議員様だ。やっぱそういう立場の人は、身を守るのはいいけど率先して戦っちゃダメだよ……と、いうことで流石に一人っちゅーのはアタシもきついんで、ファーダ・ナヨ? 手伝ってくれますかい?』

『フフフ、あいわかりました。主と妾がいれば、あの程度はどうとでもなるでしょう』


 フェルに柏木、白木にシャルリそれにナヨと他特危護衛の諸氏らは、ふそうから転送されて、この星の地上へとやってきた。

 一応、建前上は調査チームということにしているが、実際のところは外交使節団というところで、この星の知的種族との接触及び調査が目的ということで、地上に降り立った。

 だが、降りたはいいが、こちらも母艦がやられたというのに撤退も降伏もせずに、ただ暴れまわるこの連中と鉢合わせになってしまう。

 普通ならここまでやられると、輸送機に準じたものなりなんなりに乗り込んで撤退するものだが、こやつらはそういう感覚がないらしい。どうにも……そう、見た感じ知的生命体というよりも、ある種動物的といえる行動をとる敵性体であった。


 フェルは元調査局局長さんなので、未開惑星でのサバイバル等々の経験アリ。というか調査局員は兵隊に準じるぐらいのそういった訓練は受けている。フェルはゼルエの教え子であるのを忘れてはいけない。なので今やティ連高官の柏木や、日本国高級官僚の白木を、日本国国務大臣でありながらもフェルが守ってやらなければならないという、これまたなかなかに奇天烈な状況が発生していたりする。


 敵の残党かつ大群がフェル達めがけて襲い掛かってくる。が、600万ドルのフリュであるシャルリに、太刀を構えて陰陽な、ナヨ閣下が敵の前に立ちはだかり、特危隊員が二人を援護する。


 妙な叫び声に威嚇声を発しながら襲ってくる人の大きさはある生体兵器に、さらに大型の生体兵器。

 どういう仕組みか連れ帰って解剖でもしてみたい敵の構造、即ち兵装に驚愕しつつも、PVMCGでシステム型バリケードを構築し、防御態勢に入るフェルに柏木、白木。一応銃だけは構えて、二人とも特危隊員のフォーメーションをすり抜けてきた連中に鉛玉をお見舞いする体制を整える……ちなみにフェルさんの容姿は、相も変わらずの迷彩服3型にSCARーL、腰にぶらさげるはデザートイーグル50AEだったりする。


『ファーダ・ナヨ、こっちの群れはアタシがヤルから、そっちはお願いできるかい?』

『あい、任されましタ。そちらは存分にお願いしますよ、シャルリ』

『ありがとねファーダ……さぁて、トッキのみんなは、あたしとファーダ・ナヨが討ち漏らした連中を頼むよ』


 特危隊員諸氏了解と、彼らもボルトをバシャバシャと引き、ブラスターのパワーをオンにする。

 この建前上の「調査チーム」は、先の大見達とは違って『コマンドローダー』を装備していない。従って所有火器も日本人隊員は89式小銃に、ティ連人隊員はブラスターライフルとごく一般的な通常歩兵装備だ。ただ、付いてきてくれたシャルリ姉さんとナヨさんがこれまた戦力としては人型の主力戦車二台を引き連れてるようなものなので、敵性体にとってはこの上ない最悪の相手だったりするわけではあるが……


『うらうらうらぁぁぁ! テメーら全員サンマノヒラキにしてやるよっ! 覚悟しな!』

『うぬらのやり口、いちいち気に入らぬな。しかもその醜い容姿と同じことをやっていれば世話がいらぬわ。フン、妾がここで成敗してくれル』


 そんな言葉に耳を貸すはずもない敵生体兵器。撤退の二文字すらない連中は、牙を剥き飛び道具を駆使して襲いかかってくる。それもそうだ、所詮連中は兵器なのである。そんなのに何か説教したところでどうしようもないわけであるからして……ただ、シャルリがサンマの開きをしっていたのは意外だった。後で聞くと好物なのだそうな。この容姿でサンマの開きとはと思う諸氏。おさかな咥えたシャルリさん、追っかけて。なるほどなぁと。


 それはともかく……


『おぁた!』


 何のテレビか何かをみたのか、甲高い声出して、右のサイボーグ御御足をブレードモードにして敵に突っこんでいくシャルリ姉。わざと敵集団に突貫して開脚倒立したかとおもうと、足をヘリコプターの如くぶん回し、とてつもなく長い粒子ブレードで周囲の敵を巻き込んで次々とぶった斬って行く……と思うと、次に彼女は脚部のブレードモードを対物ライフルモードに変形させ、倒立状態で連射でぶっぱなし、即座に片足立ちへ移行して更に撃ちまくる。

 その様子を見た白木に柏木は、唖然呆然。フェルはさもあらんと納得顔。


「なぁなぁ柏木ぃ、あの打ち上げサバゲーん時のシャルリさんよりエゲツないじゃねーか」

「よく目に焼き付けとけよ白木。あれが本来のシャルリさんだかんな」

『マサトサンは、一度シレイラ号事件で、シャルリの本気ふぁいとを見ていますもんネ』


 だがと、ナヨの方を指差す柏木。こっちはこっちで、これも何か見てはいけないものを見てしまったようなしないような……


「で、俺はあのナヨさんの方が、日本人としてはなぁ……」と連合議員閣下。

「お、おう。なんか太刀持ってるし……」と白木室長。

『ナヨサンの戦闘モード、初めて見ますネ……』と興味津々のフェル大臣。


 で、そんなナヨは太刀。即ち日本刀の一種である二尺六寸ほどの長さの湾刀を持って、敵生体兵器に立ちはだかる。

 戦う創造主ナヨクァラグヤに一同大注目である。一部の方々は、フリッツヘルメット被ったナヨサンを知っているが、太刀持ったナヨは何とも説得力がある。というか、そんな武器をスっと造成して出してくるナヨという人物。どんだけ日本の生活が浸透してたのか、よくわかったり。

 

「湾刀の太刀ってことは、ナヨさんが日本に来た時期は、やっぱ平安時代か?」


 白木がそんな予想をしてみる。


「いや? 確か奈良時代にも湾刀はあったと思うぞ? 世紀の変な刀で有名な小烏丸とか」


 とそんな話をしてると、ナヨも襲ってくる敵をヒラヒラと躱しながら太刀で敵を一刀両断にしていく。

 だが、決して武術に秀でているような、そんな体術ではない。それどころか結構敵の攻撃を食らっているのだが……


 今、ナヨが敵からの集中攻撃を受けて爆炎上げて被弾しているが、ナヨは球状のシールドに守られて傷一つ付いていない。目を細めて敵に見下すような視線をおくるナヨ。

 攻撃が全く通用しない彼女にさすがの敵も狼狽したようで撤退、というか逃げ出すような行動を見せるが、ナヨは太刀を視認できないほどの速さで上段下段と振りかざすと、背中を向ける敵に何かが命中、貫通し、敵は次々に吹き飛んでいく。


「うわ! まさか真空波か!」


 と白木は感動するが、さすがにそんなわけはなく、ナヨは仮想造成された刀の金属素材の一部を分離させ、ものすごい速さで振り回して、敵に向けてぶつけていたのだ。その金属片の発射速度は音速に達する。


『フンッ! ハッ!』


 眼にも止まらぬ速さで刀を変幻自在に振り回すナヨ。彼女は銃器を所持していないが、その代わりはこれで十分である。というか、流石仮想生命体だ、彼女だからこそできる攻撃技である。


 敵もこれまたイマイチよくわからない行動をするもので、ナヨを見て逃げまどう生体兵器もいれば、逆に特危隊員の攻撃に興奮して襲い掛かってくる敵もいたり。なんせ相手の行動には一貫性がない。


『フェルや! すみませぬ。撃ち漏らしました! そっちへいきましたよ!』


 フェルが後ろで柏木達を護衛するという形で陣取っていた場所に、ナヨの撃ち漏らした生体兵器の何体かが高速で突っ込んでいく。

 それを見て聞いたフェルの眦が鋭くなって、SCARーLのボルトを引き、安全装置解除してすかさず構え……


『とあッ!』


 と気合のかけ声とともに、ドカカカと発砲を開始。フェルの小銃を構え発砲する姿もサマになる。ってか、これで名実ともに「戦う大臣」になってしまったフェルさん……彼女にとっては、この妙な生体兵器も、未開の恐ろしい猛獣どもらも大した違いはないのだろうが。ってか、流石フェルさん慣れたものである。

 これは流石に交戦かと彼らも久方ぶりの愛銃FG42-Ⅰを二挺造成して構え、一挺を白木に渡して腹くくった二人だったが、フェルの予想を超える銃の腕前のおかげでこっちに向かってきた敵も彼女に一掃される。というか、相手が雑魚っぽい兵隊タイプだったのが幸いしたわけだが。

 ちなみにこのFG42-Ⅰは、エアガン仕様ではなく、フェルが調べてくれたデータを利用した実銃仕様だ。今の柏木が自分の身を守る秘匿超法規アイテムの一つでもある。


「フ、フェルフェリアさん、すげーな」


 白木が口を尖らせて驚く。


「なんか、ゼルルームで練習してたもんな。地球製の武器も使えないとって」


 だが実際は、


『マ、マサトサぁン……肩が痛いでスゥ……』


 口元歪ませて泣きを入れるフェル。

 感心した途端にこれである。ま、これぐらいが丁度いいと白木と柏木は二人して苦笑したり。

 ただ、流石に実戦経験のあるフェルはド素人とは少々訳が違うところで、ちょっち荒い射撃ながらも弾をきちんと敵へ命中させていた。


『敵へタマが命中した時、今ひとつアタリの感覚が良くなかったデス。この連中はやはり、生体兵器ながらシールドを展開できるようですね』


  そうフェルが話すと、同じく戦っていたイゼイラ人特危隊員も同じような感想を話す。

 彼らはブラスターライフルを使っていたが、それでも同じように感じたということだった。

 と、そんなところでなんとか敵を排除でき、残った連中は徒党を組んで撤退したようだ。遠くに一機、二機と敵輸送船らしき物体が浮かび上がり、上昇を始める……が、そこを疾風の如く飛来するシンシエコンビの旭龍に片っ端から撃墜されて行く。連中は母艦が「ふそう」に沈められたと理解できていないのだろうか? それともあの輸送機単独で、撤退できるのだろうか? そこまではさすがにわからないが、とにかく付近の敵は一掃できたようだ。


 と、ほぼ時を同じくしてこの星の種族部隊もやってきた。だが最初に相見えたのがシャルリだったのがマズかたようで、その種族は皆してシャルリにブラスターライフルを向ける。


『お、おいおいおいチ、ちょっと待った待った!』


 思わず両手を上げるシャルリ。彼女が分別もって両手をあげてくれたからいいようなものの、この程度の部隊、彼女なら一人で簡単に潰せるだろう。

 シャルリは両手をあげたが、他の特危隊員は反射的に彼らへ武装を向ける。


『待っテ! まってクダサイ!』


 思わずフェルが鉄帽脱いで飛び出し、シャルリの前へ出て大の字で庇う。そして特危、相手種族双方を諌めるように叫ぶ。

 柏木も思わず後方からズイと出ていこうとするが、白木に襟を掴まれて、


「柏木、ここはフェルフェリアさんにまかせろ。お前が出て行ったら余計に話がややこしくなる」

「え? なんでだよ」


 白木はアゴでクイとフェルを見ろと柏木に言う。視線をフェルの方に戻すと、その種族は皆して右手の甲を顔の横に掲げて、深くフェルに頭を下げている。


「え? あれ? どういうこった?」


 柏木がその様子にどういうことだと頭をひねる。

 

「……」


 白木は艦で観たイゼイラ人男性の映像とこの状況。彼の記憶能力で脳裏に記録した状況を色々照合させながら現状を分析していた。

 白木の観察するは、その種族の服装。すなわち装備だ。

 軽装の鎧だろうと思うボディアーマーに、ガントレットのような防具。腰に革の水筒のようなものをぶら下げて、ヘルメットというよりは、簡易の兜に近いデザインのものを被っている。

 

 しばし後、その部隊の長らしき男性型種族が後方よりゆっくりと現れ、一礼したあと、ブラスターを構え

た仲間に武器を降ろせとジェスチャーで指示をする。そしてフェルに向かって、


「天穴の使徒と、そのお仲間が空からやってこられたという連絡があったのだが……まさか本当だったとは……」


 そう単音規格のイゼイラ語で話すとフェルは、


「え!? あ、あなたはイゼイラ語が話せるのですか!?」

「はい。 『天穴の使徒イゼイラ』とよばれる方々から教えていただいた言葉です」


 それを聞いたフェルは固まってしまい、カクカクと震えだしてしまう。


「フェル! だ、大丈夫か!?」


 腰砕けになりそうなフェル。思わず柏木も飛び出してしまう。


「お、おい柏木! チッ」


 白木も状況に流されて思わず柏木の後を追う。


「フェル、どうしたんだ?」


 と問うてもフェルは口をポっとあけて、柏木の言葉が耳に入っていない。


「シャルリさん? 会話がよく聞こえなかったのですが、一体……」

『あ、ああカシワギの旦那。この種族さん達……イゼイラ語で会話できるみたいなんだ』

「えっ! な、なんですって……」


 フェルが今こんな風に我を忘れてしまっている状況が一気に飲み込めた柏木。

 もちろん側にいた白木も同じくだ。

 するとその種族の男性型は、


「とにかく、今はあの忌まわしき怪物どもを撃退してくれた事に最大級の礼を申し上げたい。それと、あなた方が巨大な機械のガルカーシュでイゼイラの使徒と我が同胞を救ってくれたのはすでに聞き及んでいる。その事に対しても礼を申し上げたい」


 その男性型種族の言葉を、PVMCGを通して聴く柏木達


「が、がる……かーしゅ? なんだいそりゃ」


 シャルリがイゼイラ語で男性形に尋ねる。シャルリもなんだかんだいて優秀な将校だ。イゼイラ語単音発音種規格は、ティ連公用語の一つなので、彼女も体得していた。

 ガルカーシュとは、この星に伝わる伝説の神獣のようなものの事だと理解できた。つまり『機械のガルカーシュ』即ち旭龍のことだろう。


 と、こういった形で、この種族とコンタクトを取ることに成功した柏木達。

 とりあえずこの場の戦闘状況を調べるために彼らはここにしばらく留まるという話。できれば行動を同じくしてほしいということだったので、その言葉に従う柏木達調査チーム。どうやら今日はもう遅いのでここで野営をするようである。

 相手種族の部隊は、薪を持ってきて、煮炊きの準備という感じだったが、ここは親睦を深めるために、というわけでもないが、シャルリの指示で彼らにウケのいいイゼイラ人特危自衛官が、ハイクァーンとゼルシステム野営キットを駆使して、立派な簡易野戦基地を構築して見せると、その種族は眼をまんまるにして驚いているようだった。

 食事も彼らの嗜好に合わせて、一つ料理を作ってもらい、それを即座にハイクァーンシステムで次々に複製量産していくと、列をなしておかわりするほどの人気ぶりだった。

 あと、ハイクァーン装置のことは彼らもやはり知っているようだった。それはそうだろう、イゼイラ語を話せて、イゼイラ人がいるのだ。ハイクァーン装置が何故あるかぐらいは簡単に想像がつく。

 この星の文明にしても、どうも地球でいう先の一五~一七世紀前後ぐらいの文明と理解できた柏木と白木だったが、そこで疑問に思うは、ハイクァーンが存在するにしては、どうにもイマイチ文明の程度がそれほどハイクァーンの影響を受けているとは思えず、またイゼイラ人がこの文明に関与しているにしては現在の地球、いや日本のように、劇的に科学技術がイノベーションを起こしている状況というわけでもない。

 せいぜい武器程度、即ちブラスターライフルや、ブラスターキャノン。粒子反応爆弾に通信機器を使える程度が垣間見えるだけのようで、かなり偏ったイゼイラ科学の影響を受けているようであった。


 とまあそんな観察や分析もしながら親睦を深める諸氏。

 ただ、どうもカイラス人であるシャルリと柏木、白木ら日本人は、イマイチ警戒されているようで、そのあたりの説明も含めてシャルリに柏木と白木、そしてなんとか我を取り戻したフェルら三人で、先ほどの長へ説明に行った。


 ミーティングルームとして造成したゼル式プレハブハウスで会談を行う柏木達。


「……なるほど。では、そちらの機械の義足と義手を付けたサルゥサのような方と、黄色の肌をした方は、イゼイラの使徒と同じ国の方ということですか?」


 サルゥサとは、この世界での先の神話のようなものに出てくる架空の種族名称だ。

 その説明を受けると、


『はい。そう考えてもらって結構です』


 柏木はPVMCGをイゼイラ語翻訳モードにして、その長。即ちこの部隊の隊長と会話する。

 どうもその隊長はPVMCGの翻訳機能は知っているようで、特に驚きもしなかった。さもあらん、彼らがイゼイラ人と接触しているのならば、当然PVMCG即ちゼルクォートとして、この機械の云々も知っているだろう。


「確か……使徒殿達のお仲間には数人ですが、体の側面に鱗のような模様を付けた人々も混ざっていたが、彼らと同じようなものと考えていいのだろうか?」


 その話を聞いて、柏木達は顔を見合わせて「ダストール人だ」と言葉を合わす。無論その種族と同じような考え方でいいと説明する。


「わかりました。では、仲間達に私の方から説明しておきましょう」

『感謝いたします。これで余計な誤解を解く手間が省けます』


 と、なんとかこの種族とのコミニュケーションはうまい具合に行きそうだと胸をなでおろす柏木達。

 無論自己紹介諸々は済んでいるわけで、この種族の男性型部隊長の名は『サスア・ストアラ』という名だそうな。

 しばしすると、ミーティングプレハブに人数分の食事を持ってきてくれるイゼイラ人特危隊員。


『あ、どうもすみません……って、カレーっすか!』

『あ、ハイ。この星、あ、いえ違いますね。この国の種族、「ハイラ王国連合」の「ハイラ人」と仰るそうなのですが、その方々のバイタルを調べましたところ、食事の方も我々と同じものを摂取しても問題ないようですので』

「いや、でもいきなりカレーはどうかと思うのですが……きついっしょ」


 と言ってるハナからサスア氏は……


「こ、これはうまい!」

『は?』

「この食べ物は、イゼイラの使徒殿も教えてくれなかった。なぜだろう?」

『それはデスね……』


 解説しだすフェル。「いや、フェル、それはね」と諌める柏木の旦那。

 吹き出すのを必死で堪える白木にシャルリ。

 やっぱりカレーは正義なのだ。別宇宙でも正義である。これさえあれば、種族の壁など簡単に超えられるのである……


 ……と、うまい食事は種が違っても互いの距離を縮めるもので、ティ連人自衛官に日本人自衛官、そして ハイラ人らはいつの間にか打ち解けあって、焚き火囲んでハイラ人のダンスなんぞを見て手拍子を打ってたりする。

 会議室プレハブの外から、そんな笑い声が漏れ聞こえ、やれやれな顔で柏木達もカレーに舌鼓をうつ。

 サスアは本気で美味いのか、一口食べるたびに首を横に振って満足げな顔をしていた。で、カレーといえば肝心のフェルだが……普段ならレトルトのカレーですら至高の顔しながら食べるフェルにさんだが、今のフェル。スプーンを口へ機械的に運んでいる。心ここにあらずというところで、頭の中が何かで一杯であるようだ。


「フェル? おいフェル?」

『……』

「フェル!?」

『! あ、は、ハイ! な、なんですか? マサトサン』

「おいおいどうしたんだ? さっきから何かおかしいぞフェル」

『ア……う、ウン……』


 そういうとフェルは少し俯いて、また何か考え込んでしまう。するとやおら……


「マサトサン。ちょっと……」


 フェルは翻訳機を切ってネイティブの日本語で柏木に話す。無論柏木も、フェルが何を想っているか、大体察してはいるが、そこは妻の悩みである。夫は聞いてやる義務がある。


「ああ……あ、白木、みんな、ちょっと外でフェルと話してくるよ」


 ……外に出る二人。プレハブから出ると、賑やかに歌い踊るハイラ人や、日本人、ティ連人の笑い声が聞こえる。あたりに立ち込めるは、ハイラ人の料理にカレーのスパイスが混ざったような匂いがむせるように漂う。だが良い匂いではある。


 ここは所謂林の中である。フェルは柏木を少し奥の、薪の光が届かない場所に誘う。


「フェル、どうした?」

『モウ……マサトサン。私が何に悩んでるか、わかってるでショ?』

「はは……うん。まあね」

『どう思いますか? マサトサン』

「うん……あの映像で見たイゼイラ人さんとな、シエさんに多川さんが接触したそうだ」

『デスネ』

「うん。それと、サスアさんのイゼイラ語だ……まあ、ほぼ間違いないよな……」


 そう話しながら柏木は、近くの樹木に寄りかかり、腕くんで顎を掌で支える。


『ファルンとマルマも……もしかしたら……』

「可能性が大いにあるどころの話じゃ、もうなくなったな」

『ウン……』


 フェルは何とも複雑な表情をする。おそらく不安と期待と怖れと……そんな感情が入り混じった複雑な気持ちなのだろう。

 いかんせんフェルは一般的な親の愛情を知らない。物心付く前に親と死別したと思っていたので、親というものがどういうものかわからなかった。

 ここで『かった』と過去形で言えるのは、サンサの教育が良かったこともあるが、柏木と一緒になって、真男や絹代という義理の親ができ、自分の娘同様に接してくれるので、彼女も親と呼べる存在の某を知ることが出来た。

 そんな言ってみれば、今の幸せがある中で、今まで死んだと思っていた本物の親と対面するようなことになったら、どういう感情で接すればいいか、わからないのだとフェルは言う。

 その不安そうなフェルの両肩を取って自分に引き寄せる柏木。背中に腕を回し、頭に手を当てて抱きしめてやる。

 柏木は迷彩服3型の胸ポケットから愛用のスマートフォンを取り出して、愛娘のデスクトップ画像をフェルに見せる。


「もしお義父さんとお義母さんが生きてらっしゃったら、孫の顔も見せてやらないとな」


 そう言われると、確かにそうだとフェルも頷く。


『多分生きていたラ……サンサから聞いた、マルマとファルンの性格だと、あのイゼイラ人サン同様に、どこかで戦っているのかも知れませんネ』

「そうかもしれないけど、事故当時で考えれば、恐らくその時の外交使節団で、お義父さんとお義母さんはその使節団トップだろう。最前線に出ているとは考えにくいな……」

『では、軍事アドバイザーか何かで、この星のハイラ人サン達のお手伝いをしているのかもしれませんネ』

「まあ確かに武器の調達状況から見ればね。その可能性が一番高いが……でもそれだけじゃないような……」


 柏木が思うは、彼らハイラ人らのイゼイラ人に対する態度だ。

 フェルや特危のイゼイラ隊員を見た時の彼らは、尊崇の態度というよりは、崇拝といったイメージの方が強い感じがした。

 ハイラ人の元々の文化、予想される技術水準から鑑みて、彼らの持つイゼイラ型ブラスターライフルや、ブラスターキャノンなどは、恐らくオーパーツに過ぎるだろう。

 そんな水準の技術を彼らに供与する存在を、ハイラ人の視点で見れば、この地にやってきたイゼイラ人らはどう思われるか……

 当然ヤルバーンが日本に飛来した時の、日本人の感覚どころのさわぎではないだろう。

 ナヨクァラグヤが日本に来た時でも、彼女一人のささやかな規模だ。時の日本にそこまで大それた影響は及ぼさなかった。それはナヨ自身が積極的に行動を起こさなかったという事もある。それどころか当時の日本に馴染み、溶け込もうとさえした。なのであの物語がフィクションとしてできた程度で済んだ。

 だが、この星に流れついたイゼイラ人達は、恐らく相当に自ら能動的に動いたか、もしくはこの世界の為政者がそうしたか……おそらくそんなところだろうと推測できる状況だった。


「とにかく戻って、サスアさんに色々聞いてみるしかないだろうなフェル。今この関係がいい時に、聞けることは聞いておいたほうがいいと思うけど」

『ソウですね……確かにマサトサンの言う通りでスね……』


 と、夫婦話はまとまり、再度プレハブに戻る二人。

 中に入ると白木が柏木の目を見る。柏木も白木の目を見て、目線で頷く。白木とて、なぜに柏木とフェルが外に出たかぐらいは理解している。


「ウ〜ム。このようなウマイ食事も久しぶりだ。シラキ殿、カシワギ殿、シャルリ殿、フェルフェリア殿。感謝申し上げる」


 そう言って頭を垂れるサスア。


『いえいえ、この程度の事、何ほどでもありませんのでお気になさらぬよう……で、サスアさん。実は少々お尋ねしたいことがあるのですが』

「はい、私でお答え出来ることがあれば何なりと」

『はい、では……』


 そういうと柏木はフェルに目配せする。


『サスアサマ。もう大体お察しの事とは思いますが、私達、実はある方々を探すために、この星……いえ、この世界にやってきました……』


 フェルはサスアに「この星」とは言わずに、「この世界」と語った。なぜなら彼らにこの地が「星」いや、「惑星」である概念が理解できるかどうかという事もあったからだ。


『……その中の、特に重要な人物として、私達は「ガイデル・ヤーマ・ナヨクァラグヤ」と、「サルファ・ヤーマ・カセリア」という人物の消息を追っています。この二人の情報をお持ちではないでしょうか?』


 そうフェルがサスアに話すと、彼は表情には大きく出さなかったものの、少し驚いたようで、眉間に皺を寄せてフェルの顔を凝視し、


「なぜ、その方を?」

『ハイ、実はこの二人ですが……私の両親なのです……私の本名は、「フェルフェリア・ヤーマ・ナヨクァラグヤ」と申します』


 無論旧姓だ。だが、情報としてはこっちの名の方がいい。

 するとサスアはフェルがその名を名乗った途端、もう見るからに顔を驚きの表情に代え、口を真一文字にして腕を組み、視線を左右に向けて何か考える仕草をする。

 もう見るからに何か知っているという感じだ。

 柏木は「当たり引いたな」というアイコンタクトを白木やシャルリ、フェルに送って彼の回答を待つ。

 サスアは食べ終わった後のカレー皿をじっと見つめてやおら立ち上がると、プレハブの扉を開けて部下を大声で呼ぶ。

 そして何やらゴニョゴニョと耳打ちすると、その部下も眼をカっと見開いて、フェルに手の甲横に掲げ、頭を垂れる敬礼の仕草をすると、戻ってワイワイ騒いでいる宴を中止させ、すぐに就寝するように皆へ言い聞かせているようだった。


「フェルフェリア殿。あなたのおっしゃる方を我々は良く存じております」


 やはりか! と思う柏木達。今までの態度でだいたい予想できたので、フェルも柏木の顔を見て頷く。驚くのはあとでいくらでも驚けばいい。今は覚悟を持って状況を把握しなければと自分に言い聞かせる。


「ただ……ここでは何かとこちらの都合もあります故、よろしければ明日、その方とお引き合わせいたします」

『わ……わかりました。よろしく……お願い致します……』


 声が震えるフェル。

 サスアのそれまでの態度にこの言葉。もうはっきりとフェルの父母は生きていると聞かされたようなものだ。だが、別人が父母の名を名乗っているとか、そんなオチも無きにしもあらずとか、そんなネガティブな事を考えてしまうのもありがちな話である。


 ……明日の朝は早いからとサスアに言われ、寝床に入る諸氏。

 一般隊員やサスアの部下らは四人一つの割当になる仮想造成プレハブ兵舎で床につく。サスアがいうには、自分らの世界では考えられない贅沢な野営設備だと言う。普段なら兵は寝袋のようなものに包まって、外で皆してゴロ寝だそうだ。テントで休めるのは部隊長や幹部ぐらいなものだそうな。


 フェルと柏木は、風紀もあるので別々のプレハブで眠る。

 白木と柏木、シャルリとフェル、そしてナヨという部屋割りだ……ってか、ナヨは一体今まで何をしてたんだという話だが、実は宴で皆に混じって踊っていたらしい。

 舞を舞ったりと、やんやの喝采を受けていたという話。つまり、ナヨサンは兵達のお相手をしてくれていたという次第。これで親睦深まればいいではないかと気を利かせてくれたという話。

 だが、プレハブで話していた彼らの会話は全部聞いていたという。流石は仮想生命体だ。聴音機能も地獄耳クラスである。なので彼女なりに思うところはあるという。


 ベッドでフリュ三人して寝床を共にする構図。特危仕様の野営プレハブなので、寝具は睡眠カプセルではなく、ベッドである。


「フェルや。起きていますか?」


 ナヨが真ん中に横になる。左にはシャルリ、右にフェル。シャルリはもう大口あけて爆睡中……だが、シャルリは寝ながら人の話を聞くのが得意技。

 ナヨは右向いてフェルに小声で話しかける。なんとも時代が時代なら女帝で創造主様が、野営キャンプで寝転がって雑談なんぞなかなか見れるものではない。っていってもナヨは日本で一時期はこれに近い生活をしていたわけであるからして。


「ハイ。なんでしょうナヨサン」

「大丈夫ですか? 話は聞いていましたが……ただならぬようなことになってきましたね」

「はい…………」


 何か話そうとするが、色々な感情や想いが混ざって、それ以上の言葉が出ない。


「フェルや、色々と思うところあるやもしれませぬが……もしそちのかけがえのない者が生きているとなれば、それは喜ばしいことですよ。そこは理解できますね?」


 コクンと頷くフェル。それはわかっている。わかっているが、ある想いがフェルをどうしても心配させる。ただ今はそれを口に出すことができない。まずは、会わないと……そういうことだ。

 そんなフェルの頭の中をグリグリとうねる感情を察してか、それ以上は問わないナヨ。で、話を別の話題に移す。


「でも、困りましたね」

「え? 何がですか? ナヨサン」

「それはそうでしょう。フェルのファルン、ガイデルとか申す者、始祖名で妾の本名を名乗っておるのですよ。妾がこのままの姿を現して良いものかどうか……流石に相手は妾がニューロンデータの写し身などということをすぐには理解できぬでしょうし……それに精死病の何某な事も……やはり肌の色を変えて遊び人のナヨサンなほうがいいのでは」


 ナヨはフェルにそんな「遊び人のナヨサン」などとおどけた事を言って、フェルの緊張を解こうとする。ってか、ナヨさん実は時代劇大好きで、そんなところのドラマのソフトをいつも楽しんでいたり。

 思わずクスクス笑ってしまうフェル。


「ウフフ、大丈夫ですよナヨサン。それに、お姿もそのままでお願いしますです」

「ふむ、その理由は?」

「もし、そのサスアサマが仰る方が私のファルンやマルマなら、ナヨサンの事をご説明して、ティエルクマスカ世界から精死病を撲滅できるようになったことも伝えないと」

「それには妾がこの姿でいる事が一番の生き証人という事ですね。あいわかりました。では妾もこの姿でフェルの両親に相見えましょうや」

「ハイ」


 ナヨと話していると、緊張ががほぐれて落ち着いてくるフェル。やはりなんとも不思議な魅力のある人だと思う。

 ということで、明日も早いということで眠りに入る二人。頭がウネウネしてたのも、ナヨと話して落ち着いて、やっと睡魔がやってきてくれたという次第。

 いつの間にかクークーと寝息を立てるフェル。

 ナヨも仮想生命体の体とはいえ、イゼイラ人の完璧な生物組成エミュレーション生体である。すなわち限りなく本物に近いイゼイラ人の肉体であり、そこは生理現象もあるわけで、ナヨにも睡魔がやってくる。

 ナヨは右を向いた状態で目線をシャルリのいる左へ流し、ニヤと笑うとそのまま目を瞑って眠りにつく。

 左いるシャルリはそのまま左方向に寝返りうって、目を瞑りながらニヤリと笑っていた……


    *    *


 航宙重護衛艦「ふそう」は、ハイラ王国連合領海内高度五〇〇メートルあたりを速度約四〇ノット前後で対探知偽装を解いて航行する。

 向かうはハイラ王国連合中央王国ハイラ・その王都バルベラ。

 水先案内人は、先の戦闘で救出したハイラ人達。無論この宇宙を行く空飛ぶ超大型船にたまげたハイラ人達であった。

 その中から航海術に長けた者が艦のブリッジに呼ばれ、彼らを国へ返すため、王都へと進路を取る。

 藤堂達が彼らを観察するに、どうも彼らがこの船にたまげているのは、その大きさと、大きさに基づいて、この船が空を飛んでいることと、更には宇宙空間という彼らの預かり知らぬ場所へ行くことができるというその性能であって、どうも船が空を飛ぶこと自体にはさほど驚いてはいないようである。

 その理由は間を置かずにわかることとなる。


「艦長、あれを!」

「これは!……」


 香坂が指差す先には、それは多くの空を飛ぶ浮遊物体。細長い山岳のような宙に浮く岩場が何段も連なり、一番上は雲にかかる。そこから徳島県海陽町にある轟の滝の如く、その浮遊した岩場の段差数に応じた美しい水流が流れ落ちる。


 と思えば、何やら整形された楕円形円盤状岩石の下に、箱型の物体がぶら下がって、その後ろではプロペラのようなモノがくるくると回っている。

 共通しているのは、その山岳状の浮遊した陸地にしても、人工の浮遊物体にしても、その岩石状の物体からキラキラと緑色の光が発せられている事。それを見て、ニーラ教授がスゴイと唸る。


『ほへ~ あれは斥力物質ではないですか! スゴイスゴイ!』

「斥力物質? なんですかそれは」

 

 藤堂が聞きなれない言葉をニーラに問う。


『ハイ、えっとえっと、チキュウではですね、反重力とかいう言葉で表現されたりする現象を起こす物体、物質の事デスね』

「ほう~」

『ティ連でも精製、製造できますし、実際探査母艦やらナンやらにも使われている技術ですが、もちろん私達の世界ではハイクァーンで人工的にしか精製できない物質ですけど、それが天然でこんなにも普通に存在するなんて!』


 ニーラの話では、自分の知る限り、という前提だが、我々の宇宙空間では天然でこの斥力物質が存在する現象を確認した事がないという。なので、やはりこれは「別宇宙」というニーラ達の主観で特殊な世界ゆえの現象なのだろうと話す。


「なるほど……ではこの物質を採掘して売れば、大もうけできるかもしれませんな、ははは」


 と、藤堂は話すが、モチロン冗談である。だがニーラはそれはどうかと藤堂の冗談を否定する。


「ありゃ、ダメですか。やっぱり物理現象の違いとかですか?」

『そうですネ~。 私達の宇宙にこの物質を持って帰る事自体が危険かもしれないですヨ。まあキチンと調査してからじゃないとって事デスね」


 要するに、物理法則が少しでも異なる世界で、こういった明らかな相違のある現象の物体を元の宇宙に持ってかえってしまうと、斥力現象が起こらないただの岩石物質になるか、それとも対消滅でも起こして、とんでもないエネルギーの大爆発を起こすか、とか、そんな現象もありえるので気をつけないと、という話。

 ただ、流石に究極の科学を享受したティ連科学者のニーラちゃんでも、この光景は荘厳だと語る。なのでできればその斥力物質を分析したい。できれば、自分達の宇宙に影響がないようならば持って帰りたいとも仰ったり。


『艦長、コレを』


 ニヨッタ副長がメインモニターの一部を拡大して表示する。探知偽装をかけたヴァルメを中継しての映像だ。


「あれは柏木さんと、フェルフェリアさん達の調査チームだな」

『早朝ニ連絡のあった例の件で、王都方面に向かうと言っていましたが、こちらはウマにバシャといったところですか?』

「馬……馬というかトナカイというか、そんな動物ですなニヨッタ副長……おう、それはそうと香坂、その朝の連絡の件だが、本当かあの話」


 そう藤堂が香坂に話をふると、ニヨッタも自分達種族の歴史的なニュースに関する事だけに、身を乗り出して聞く。


「はい。フェルフェリア大臣が自ら聴取したそうですから。ただ、大臣としては複雑でしょうな……」

「そりゃな……幾十年経って、亡くなったとされた親が生きてるってのは、想像を絶する心境だと思うよ俺も……自分が同じ立場だったらどういう反応するかなぁ」


 とそんな話に興じていると、艦の航海長が、水先案内人のハイラ人に海上へ着水するよう要望されていると話す。


「……艦長、さすがにこの世界の文明水準で「ふそう」はデカすぎます。ここは言うとおり着水して、上陸できるならトランスポーターで行き来したほうが良いでしょう」


 香坂がそう話すと


「そうだな。助けたハイラ人さん達も降ろしてやらにゃいかんし。でも柏木さん達調査隊から連絡がないと無断上陸は流石に……」


 と言っていると、情報通信を担当する船務長が


「艦長、柏木議員閣下から連絡です。この地点で待っているので、主要メンバーを連れて合流して欲しいということですが」

「おっとそうか、わかった。では、輸送トランスポーターへ保護した種族さんに乗ってもらおう。ちょっとすし詰めで狭苦しくなるが、そこはスンマセンということでな」

「了解」


 そういうと格納庫に指示を出す船務長。


「で、一緒に来てもらうのは……」

「私は残りましょう。一応次期艦長ですし、はは」

「行きたいんじゃないのか? 香坂」

「いえ、現状況からすれば色々観察するに、私よりはニヨッタ副長に行ってもらった方がいでしょう。信頼性の観点からも」

「なるほどな」

『流石デスね、コウサカ副長』


 いやはやと照れる香坂。で、あと大見とシエにも来てもらうことで柏木達と合流する段取りになる。

 多川の旦那さんは香坂の副官ということでふそうで待機してもらった。


    *    *


 トランスポーターに乗っても、保護したハイラ人達は、そのスピードと性能に驚きはするが、やはりトランスポーター自体の飛行能力にはさほど違和感を感じていないようである。

 色々話を聴取すると、ハイラ人もイゼイラ人同様に、この斥力物質を利用した乗り物で空を飛ぶ技術は古くから持っているという事。そこのところ古代イゼイラ人とよく似ているが、違うところは、ハイラ人は「揚力」の技術を知らないらしく、所謂揚力型航空機、即ちグライダーのような技術で飛行する高速飛翔体を持っていないらしい。要するにその斥力物質を使った飛行船のようなものが最も機動性の高い乗り物で、プロペラのような器具も、昔は家畜を利用した動力で動かしていたという話だそうだ。現在はイゼイラ人がもたらした「人工筋肉」という動力で自動化されたものを使っているらしく、彼らにとっては画期的な事であったらしい。


「人工筋肉? いや、イゼイラ人ならハイクァーン使えば空間振動波機関ぐらい造成できるだろうに」


 そういう疑問を持つ日本人達、特に柏木や白木に大見。だがそうでないもっともな理由があるのだろう。それは彼らが遭難し、この世界に流れついたと予想される日時から逆算した現在と、彼らの存在と影響が及ぼす技術水準の大いなる矛盾が簡単に見て取れるからだ。


 しばし後、サスアの指示で集合地点に指定された場所に集まる調査チームとふそうスタッフに、保護したハイラ人諸氏。

 保護したハイラ人らは皆生きて戻れたことを大いに喜び、藤堂達に何度何度も礼を述べて、迎えに来た肉親親族と感動の対面をはたして皆連れ添って家路につく。

 それを見たサスアはもう一発で藤堂達を信頼に値する人々と理解し、柏木の紹介を受け、握手をする。

 その時でもやはり香坂が狙ったとおり、ニヨッタに対しては「イゼイラの使徒殿」という呼称で呼んでいた。


「……いや、柏木さん。調査ご苦労様でした」


 藤堂が挙手敬礼で柏木にねぎらいの言葉をかける。


「いえいえ、何と言いますか、災い転じてというやつですよ。上陸した途端にあの化物の襲撃を受けて、迎撃していた時に、それを追ってきたのがサスアさん達の部隊でしたので、早い段階で現地民と交流出来たのが幸いでした……いろんな意味でですが。な、フェル」

『ハイですね。マア、何と言いましょうか、あのイゼイラ人サンを見た時から薄々予想はしていましたが、ハイラ人サンにイゼイラ語を喋られたら流石にデスネ……』

『ナルホド。案ノ定、バッチリダッタトイウワケダナ、フェル』

『ハイ。で、シエは旭龍で降下した時、そのイゼイラ人サンとお会いしたそうですが』

『アア。トハイッテモ、ホンノ一瞬、挨拶程度ダガナ。マ、援護シタ礼ハ言ワレタヨ』


 そうかと頷く諸氏。大見からも、例の敵母艦型生体兵器内での戦闘の話を聞くが……正直ゾ~っとした。


「ナニそれオーちゃん……どこのホラー映画だよ……」と柏木。

「いやまあな。さっきの助けたハイラさん達が救いだよ。それ以前の俺達が預かり知らない時には、アノ状況が進行してたわけだからな……寒気がするぜ」と大見。

「俺がその場に居合わせて、そんなの見たら……ぜってーPTSDコース確定だな、おーやだやだ」と抱っこするポーズで体震わせる白木。

『あたしなら、その口の中に飛び込んで、中からズタズタにしてやるけどねぇ』と怖いもの知らずなシャル姉。

『うむ、妾なら消化されたところで大した影響はありませぬ。内部からボロボロにしてやれば、その敵兵器も大した事なさそうですね』と余裕のナヨサン。


 二人の話をポワワ~ンと映像にして脳内再生し、スプラッターな感じになってきて気持ち悪くなる柏木トリオ。いやはやと。


 と、そんな話でもしながら時間を潰していると、サスアが王都に使者を送っていたようで、その使者が帰ってきた。その間柏木達は王都入り口で待機させられていたという次第。サスアが王都内に入れるよう、そして国王に謁見できるよう計らってくれていたのだ。

 使者から報告を受けたサスアが柏木に、


「カシワギ殿。国王陛下との謁見が叶いました。陛下もすぐにお会いしたいということです」

『えっ! 国王陛下とですか! それはすごい。願ってもないことです。これで遭難者達の消息をお教え頂ければ、私達も助かります』


 ニッコリ笑ってそうサスアに話す柏木。サスアも笑みで頷くが、その視線はフェルの方をチラチラと。


 準備も整ったということで、王都の門をくぐる柏木達。

 門をくぐった途端、待ち構えていた群衆の歓待を彼らは受ける……と同時に、その見たこともない種族、つまり柏木達日本人に、ティ連のイゼイラ人や、ダストール人以外の特危スタッフ容姿に驚くハイラ人民衆。

 柏木らも彼らの反応が時の日本人と同じなので、そこらへんは理解できるというところもあって、あまり不安要素にはならなかった。

 王都の門をくぐると城下町のような雰囲気を持つ街並みに変わる。家屋のデザインは三角錐のイメージが強い、尖った形状の建物が多い。

 そして更には……


「フェル、この星はすごいな。天然の浮遊大地があちこちにある」


 その馬ともトナカイともつかない生き物、便宜上「馬」というが、その馬に揺られて景色を地上から眺めつつやってきた柏木達。イゼイラで見た空中大陸とは違った天然のそれらを見て、やはりここは別宇宙の星だと思い知らされる。なぜなら、おおよそ地球の存在する彼らの宇宙では、こんな情景はありえないからだ。


『私もいろんな星系や、そこにある星の自然現象を見てきましたガ、こういうのは初めてデス。素晴しいですね』


 フェルがそういうと説得力がある。なんせ元調査局の局長さんだ。言ってみれば冒険家である。以前にも聞いたが、彼女らが地球に飛来するまでに、いろいろな惑星を探査してまわったというのだから、そうなのだろう。


 と、そんな話をしていると一行は城だろうと思われる施設の門前に到着する。

 大きな、見るからに荘厳な施設だ。三角錐を基調にした尖ったイメージのある建物だが、その構造。即ち外部からの侵入を阻もうとする大きな壁面の多い構造は、あきらかに『城』であろう。

 城門から中へ通されると、兵士が並び、武器をハイラ様式の捧げ銃なのだろうか、そんな雰囲気のする挙動で彼らは迎え入れられる。そして城からはおそらくこの国の重鎮なのだろう、そんな人物達が出てきて彼らを迎えると同時に、やはりというかでイゼイラ人らが出てきて柏木……いや、フェル達を出迎える。


「ようこそおいでくださった。そして、窮地を救っていただいて感謝いたします。同胞よ」


 そのイゼイラ人はハイラ式敬礼をせず、イゼイラ式ティ連敬礼をフェルに贈る。

 フェルもその敬礼に返答し、微笑を蓄え、彼らに問う。


「あなたがたは……『ドゥランテ共和国訪問団』生存者の方々……ですね?」


 所謂、『ドゥランテ共和国訪問団遭難事件』イゼイラでは、フェルの両親が遭難した事件をこう呼んでいる。

 現ティエルクマスカ連合加盟国である惑星国家ドゥランテ共和国がまだティ連への加盟交渉段階にあった頃、長い交渉が実を結び、調印式を迎える事になり、フェルの両親がイゼイラの象徴として調印式に臨もうとドゥランテ共和国に向かっている最中、ディルフィルドゲート航行中に起こった遭難事件であった。

 当時の政府発表では、死傷者不明、乗員全員行方不明。遭難信号、救難信号も受信できず、事故状況から生存は絶望的とされたイゼイラの歴史に残る悲劇として報じられ、亜空間航行法規の改正などに大きな影響を与えた事件であった。


「はいそうです……ということは、遭難信号を受け取っていただけたということですね?」


 そのイゼイラ人デルンは、目にうっすら涙を浮かべてそう語る。


「ハイ……空間交通法第七条が適用されて、私達はここにやってきました」

「え? 空間交通法第七条ですか! そうですか、それはご迷惑をおかけしたようだ。まさかこのような別宇宙に来るとは思ってもみなかったでしょう」

「ええ、そうですね……」


 落ち着いて会話するフェルとそのデルン。間違いなく訪問団関係者であろう。会話からも容易に理解できる。ただ、どうも命からがら救援部隊を待っていたというような雰囲気ではない。というよりも、「来るべくして来るものが来てくれた」というような感じである。それに連合法令第七条を適用されてやってきたことを伝えると、「迷惑をかけた」という言葉。つまり、フェル達が意図してここに来たのではないということを相手は理解しているようだ。

 フェルは続ける。


「では、私達がお尋ねしたい重要な事、おわかりいただけますね?」


 フェルは落ち着いた口調で話す。彼女は今、日本国の閣僚であり、イゼイラの現フリンぜである。

 その少し後ろに離れた場所では、ナヨがフードとマスクを付けて、フェルを見守っていた。

 彼女は皆まであえて具体的には言わない。なぜなら普通のイゼイラ人なら、彼ら遭難者が生存していたという事実がわかれば、当然連想されるイゼイラの国家的な某を理解して当然だからだ。


「はい。理解しております……ところで我々も久方ぶりの同胞と再会出来た喜びが先に出たようで、まだお尋ねしていなかったようですが、貴殿のお名前と役職をお教えいただきたい。それに……」


 とそのデルンはフェル達を左右見渡して、


「どうも我々の知らない種族の方々もいらっしゃるようです。あれから時間もかなり経過しました。我々も色々お話したいこと、山ほどあります」

「そうですね。ではまず主要メンバーをご紹介させていただきます。まず私ですが……」


 とフェルが話そうとしたその時、ハイラ語だろうと思われる言語で大きな掛け声が上がったかと思うと、周囲のハイラ人兵士が全員、サっと頭を下げて身引き、跪く。

 その様子を見た遭難者イゼイラ人も、ハイラ人ほどではないが、頭を垂れてティ連敬礼を行い、少し引いた。


(え? ティ連敬礼だと?)


 そう思う柏木。傍を見ると、サスアも頭を深く垂れてハイラ式敬礼をしていた。


『サスアさん、一体どうしたのですか?』

「カシワギ殿、我が王が、御自らお出ましになっていただいたようです。これは大変名誉な事ですぞ」

『あ、なるほど。それはそれは』


 その言葉を聞いていた「ふそう」スタッフが、みなに伝達し、ニヨッタが敬礼を命じる。

 見なして「国王」に敬礼し、頭を垂れる。ティ連人はティ連式敬礼。日本人は挙手敬礼だ。


 奥から早足で近づいてくるデルン。笑顔で皆に「そのままそのまま」というようなジェスチャーをしながらやって来る。そんなに堅苦しいイメージの人物ではないみたいだが……

 頭を垂れた柏木は、笑みを浮かべてその頭を上げ、やってきた国王の顔を見た瞬間!!


「なっ!!!!」


 脂汗が噴き出る柏木。その顔、誰が忘れるものかと。

 確かに年齢は経てはいるが、三年前にイゼイラで見たその姿に困惑させられた事は今でもはっきり覚えている。

 そしてニヨッタにシエ、シャルリも。

 ティ連関係者の皆は、敬礼をした状態で、口をあんぐり開けて、呆け顔だ。

 特にあのキャプテン・ウィッチな精悍でエロいお顔のシエさんが、まるでアホの子になっている。正味アワワである。ただナヨのフードに隠れた視線のみ冷静であった。


 そしてフェルも……


「ア……ア……」


 声が出ない……


 その「国王」と呼ばれるデルンがフェルや柏木達の前に出て、大きく一礼し、名を名乗る。


「イゼイラ、そしてティエルクマスカの同胞よ、このハイラ王国連合中央王国、ハイラによくおいでくださった。私がこの国の王を任されている『ガイデル・ヤーマ・ナヨクァラグヤ』です……いえ、みなさん、特にイゼイラ人には、『エルバイラ・ガイデル』と言ったほうがご理解しやすいですかな?」


 王というにしては気さくなデルン。その正体は……


 笑顔で愛想をふりまくガイデル。彼は一人のフリュの前で立ち止まる。


「これは、美しいフリュの方、貴方がこの団体の代表者ですかな?」


 気付かないガイデル。


「ファルン……」


 そのフリュ。即ちフェルは、小さなか細い声で、目を細め、口元を真一文字に結んでそう言葉を漏らす。


「? 今、なんと?」


 首を傾げ、フェルを見るガイデル。フムという感じで、何気に視線を下げると……フェルのPVMCGに目が止まり……それを目を細めて、「ん?」と凝視する……すると……

 

「!!」


 眼をカっと見開いて、思わずPVMCGを着けたフェルの腕を強引に取り、それを凝視する。

 フェルのPVMCGに刻まれるは、ヤーマ家の紋章。瞬間ガイデルはフェルの顔をバっと凝視する。

 改めて見れば……鼻の形、顎のライン、その面立ち。そして何より今気づくイゼイラ人として唯一無二の、金色の瞳。


「ファルン……」


 再度ポツリと漏らし、泣き出しそうなフェルの顔。

 後ろで柏木も眼を細め、赤らめて、口を真一文字にして愛妻の姿を見る。

 白木は長方形眼鏡を取り、目頭を抑えている。

 大見は握りこぶしを鼻に当て横を向いていた。

 シエは腕を組んで妹でも見るような優しい目つきだ。

 シャルリも俯いて顔に手を当てている。

 藤堂やニヨッタも同じような感じ。サスアはこの瞬間を見逃すまいと二人を凝視する。

 ナヨはフードとマスクに顔が隠れて見えないが、ウンウンと頷いているのは見てわかる。

 

 ハイラ人や、先の遭難者イゼイラ人はこの状況を理解できないでいたが、何かとんでもない事が起ころうとしている雰囲気は察していた。


 ガイデルはフェルの両肩をとって……


「ま、まさか……あなた……いや、お前は……」


 しばしの間を置いて、


「フェルフェリア、フェル……か?」


 大きく頷くフェル。

 するとガイデルの眼が真っ赤になり、更には何かの思いが溢れだして


「ジング! ジングはいるか!」

「は、陛下。お側に」

「サルファ、サルファをすぐにここへ呼んでくれ! 早く!」

「? は、はい! 畏まりました!」


 侍従らしきハイラ人がその言葉に慌てふためきサルファなる人物を呼びに行く。


「!! マルマ?」


 ポツリと漏らすフェル。するとガイデルが鼻を鳴らしながらウンウンと頷いて、フェルをぎゅうと抱きしめる。

 ただ、フェルも涙するが、困惑も交じるその表情。なんせフェルは、あのニューロン・エミュレーションの親しか知らない。

 ただ……今のガイデルは、あのニューロン・エミュレーション通りの反応を見せる。だからフェルもとうとう……


「う……う……うわああああぁぁぁぁぁぁぁ」


 こらえ切れずに泣き叫んでしまった。


 別宇宙のこの日、フェルの情念がつまった泣き叫ぶ声が高らかに城内に響き、十数期を経て、


【ガイデル・ヤーマ・ナヨクァラグヤ】

【サルファ・ヤーマ・カセリア】




 他、『ドゥランテ共和国訪問団遭難事件』行方不明者の生存が、確認された……







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