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銀河連合日本  作者: 柗本保羽
銀河連合日本外伝 Age after
93/119

銀河連合日本外伝 Age after ― 悠遠の王国 ―  第二話

「二番、仰角ゼロ度、発動用意!……発動!」


 ふそうの超高速斥力砲二番砲塔が砲を正面に向けたまま、少しクンと動くと、砲身に青白い光を蓄え始める。


『発射用意ヨシ!』

「了解。弾種、探査徹甲弾」「探査徹甲弾弾種確認」


 ふそうの主砲に砲弾が装填される。この『探査徹甲弾』という砲弾。正式な名称は『16式探査徹甲弾』という。

 本来は対ガーグ・デーラ用に開発されたヤル研謹製の砲弾だ。砲弾内に各種連合製センサーを内蔵し、敵にぶち込んで内部から相手、特にガーグの性能や性質をデータ収集しようという砲弾である。

 さて、なぜにこの亜空間回廊内でそのような砲弾をぶっ放しているのかというと、斥力砲の猛烈な発射速度と「ふそう」本体の速度、そして亜空間回廊の加速度を利用して、この探査徹甲弾弾頭を先行して終着点へ放出させ、到着予定の別宇宙がどんな場所か先行して探ろうという作戦なのである。

 

「さて……鬼が出るか蛇がでるか……」


 香坂が顎をこすりながら話す。


『ヴァルメを使う方法も悪くはナイですが……紛失破損のリスクを考えるとモッタイナイのと、時空間環境データの収集程度ならこれで十分です。まずはふそうが飛び出す前ニ、空間状況を把握しておかないト』


 どうやらこの方法はニヨッタ発案のようである。流石はティラスの右腕だ。亜空間航行に関しては大ベテランのニヨッタ。

 

「ですがニヨッタ副長。実体砲弾をこの亜空間回廊で使用すると弾道が不安定になるのではないのですか? 真っすぐ飛ばないと思うのですが」


 藤堂が疑問を呈する。確かに藤堂の疑問ももっともだ。ゲートシールドを装着していない実体は、この空間内では亜空間の奔流に翻弄されるのは必至である。三年前の亜空間回廊内戦闘で使用された砲弾は、ゼル砲弾だ。ゼル砲弾の場合、ゼルシミュレータの理屈で造成システムの制御下にあるため、弾道を補正し安定させることが可能である。だがリアルな実体弾でそういうわけにはいかないが、そこはニヨッタ副長ちゃんと考えていたり。


『ハイ、そこは問題ありません。発射するイチロクシキ砲弾に、ゼル造成した簡易ゲートシールドを内蔵させて発射しまス』

「お、なるほどそういう方法がありましたか。はは、流石はニヨッタ副長ですな」

『恐縮です艦長、ウフフ』


 回廊から砲弾が飛び出た瞬間、砲弾は別宇宙の時空間情報をふそうに随時送信してくる。もし、彼らの存在する事が難しいような厳しい環境の宇宙空間であった場合、舵を空間回廊壁へ突っ込むように切り、回廊から脱出する手筈になっている。つまり精死病覚悟の行為になってしまうのだが、現在はその治療法も確率しているので問題はない。それ以前に、あの実験作戦とは違ってゲートシールドを装備した状態で回廊壁へ突入するので、おそらく精死病にはならずにすむだろうという話。


「発射一五秒前!」『15秒前!』

『発射ヨオイ!』「発射用意!」「てぇーぃ!」


 16式探査徹甲弾が大きな空間波紋をまとって艦前方へ発射される。

 横幅のある矢尻のような形状の砲弾だ。

 

「二番、仰角ゼロ度、第二射発動用意!……発動!」


 ビーと警報音鳴らし、予備として第二弾の発射準備。そして第二弾が発射される。

 このふそうに搭載される斥力砲は、シルヴェルの砲を参考に艦載専用に開発された砲なので、発射速度等々は大幅に改良されている。更に、砲身は単砲身一門の砲塔ではあるが、横幅に広い形状をしている。なのでいろんな形状の砲弾を発射させることができるのも特徴の一つだ。

 藤堂が全弾発射を確認すると、次の手筈を指示する。


「よし、あとは砲弾から送られてくる情報待ちだな。操舵手!」

「はっ!」

「データによってはトンズラをかまさなきゃならん。いつでも回廊の外へつっこめるよう、密度の計算をしておけ。くれぐれも濃い部分に突っ込むような事をするなよ」

「了解!」


 しばし待つと、砲弾が回廊終点から飛び出したのだろう。即座に量子通信でデータを送ってきた。


「16式探査徹甲弾よりデータ到着。ニヨッタ副長そちらへ送ります」

『うむ、で、終着点までの距離は算出できたか?』

「はい。それもそちらへ」


 ニヨッタに香坂、そして藤堂は艦長席のVMCモニターを眺める。だが、流石にニヨッタでも別宇宙の次元空間関係な数値などチンプンカンプンだ。ということでプシュンとブリッジに呼ばれてやってくるは……


『おまたせです~』とニーラ。

『何かわかりましたか?』とナヨ。


 みんな創造主で一〇〇〇年前のヒロインなナヨさんという感じで昨今見てしまっているが、よくよく考えると彼女も一応超優秀な大科学者であることを忘れてはならない。それにトーラルシステム一つ分の自我でもある。


「お手数かけますお二方」

『イエイエです。さて、ニヨッタふくちょ、ちょっち席かわってください~』

『はい、どうぞニーラ副局長。ファーダ・ナヨもこちらへどうぞ』

『あいすみませぬ。では……』


 艦長席にポンと腰掛けるニーラ。ナヨは隣に席を設けてもらい、共にVMCモニターを覗き込む。


『……デスネ、ナヨさまぁ』

『フム、恐らくこの数値は……』


 二人して互いに議論するニーラとナヨ。よくよく考えたら、現在創造主と将来創造主同士の議論だ。なかなかに貴重な構図である。

 で、終着点到達にはまだ少し時間があるようだ。砲弾を斥力砲の最大加速でぶっ放し、更に現在驀進している船の相対速度。そして亜空間回廊の流れの速度。これらが乗数的に作用して、砲弾はものすごい速度でスっ飛んで行くわけである。ニヨッタがヴァルメを使用しなかった理由は、この分析時間を稼ぎたかったというのもある。本当に優秀な副長だ。藤堂も香坂も微笑して、ここは彼女達に任そうとその様子を見守る。


『かんちょ』

「はい、何でしょうニーラ教授」

『えっとえっと、結論から言いますと、このまま進んでも大丈夫です。時空間的には私達のいる空間組成とそう大差はないようですので』

『ウム、クオル通信のデータ転送精度も問題ありませぬ。妾もおそらく普通に存在できるでしょう』


 すると、香坂がナヨの言葉に疑問を呈する。


「だが、先ほどミーティングでニヨッタ副長は、救難信号で詳細情報が得られないのはおかしいから、量子通信にも異常が出る空間かもと言っていましたが」

『おそらくそれは救難信号を出すシステムの方に問題があるのでしょう。自己修復が完全ではなかったか、もしくは別の要因か。今、第二射目の索敵砲弾からデータが届きましたが、数値を見ても変わりませぬ。ですのでこのまま別宇宙に飛び出しても、問題はないでしょう』


 但しとニーラが付け加える。


『あくまでぇ、時空間的な状況で問題ないのであって、例えば組成される物質の違い……即ち私達の知らない物質があったりぃ、私達の知らない物理法則が働く状況があったりするかもしれませんがぁ、そのあたりは色々と注意する必要がありますよぉ』


 二人が説明を終えるとニヨッタが藤堂と香坂に判断を求める……


「どうしますか藤堂艦長」

「ふむ……いや、実はな香坂」

「は?」

「俺も特危に来て、正直俺の今まで持ってた常識では考えられん事ばかり起こるんでな、実はSF映画とかそういうの、最近良く見るようにしてるんだよ。今までそんなのあんまり見たこともなかったんだが」

「はぁ……」

「で……フェルフェリアさんの親御さんの事件か? それの概要をさっき見させてもらったが……普通に考えれば生存の可能性はゼロだが、万が一、どこかの惑星に不時着して、そこでなんとか自活して生きていたら……という可能性はゼロではない。ハイクァーンが生きていたら不可能な話じゃないだろ」

「いや、ならもっと早期にハイクァーンで遭難信号装置関連を修理して……と普通思いますが」

「まあな。だが、それができない状況ってのもあるかもしれん。もしお前の言う理屈が正しいなら、一九七四年の、小野田寛郎少尉の出来事も起こらん」

「古いですねぇ~艦長ぉ~」

「うるせー。まぁいろんな可能性の話だ。で、もし全員遭難していたとしてもだ。ご遺体や遺品を回収できれば、それはそれで悪い話じゃない。なんせイゼイラの皇帝陛下と皇后陛下のご不幸だ。それに……フェルフェリアさんの親御さんの事だしな。更に言えばイゼイラやティ連としても、国家的な話になるだろう。それを目前にして引くというのもな……どうかと思うぞ、俺は」

「賛成です艦長。ではこのままということで」


 コクと頷く藤堂。ニヨッタに視線を向けると、彼女も笑顔でウンと頷く。ナヨやニーラも同じく。

 ブリッジクルーも余裕の顔。まあニーラやナヨがとりあえず大丈夫というのなら、問題はなかろうと。


「よし、ではニヨッタ副長、あなたは全艦に今後の行動を通達してください」

『ハ、了解です』

「香坂、お前は政府と連合防衛総省に報告を。で、日本政府からイゼイラ政府にも情報を提供するように要請してくれ。このまま成り行きで行ってみるってな」

「はぁ、成り行きですか……」

「そこらへんの言葉はお前が考えてくれよぅ」

「はは、了解です」


 と「ふそう」一行、終点の別宇宙もとりあえずは彼らが『存在』する分にも影響はないだろうということで、このままディルフィルドアウトしてみようということになる。

 ニヨッタの話では、ティ連の宇宙開発史上で、別宇宙の到達は過去にも何回かあったそうで、ティ連構成国の中には別宇宙の惑星に植民している国も一応あるにはあるそうだ。

 その別宇宙に領有地をもっている国家の一つが、かの逆関節で三本指の『ユーン連邦人』さんのところだそうである。即ち、彼らのような別宇宙を開拓した連合国家のおかげで、そのノウハウをティ連は持っているという訳でもあり、その開拓には当然多くの犠牲も伴ったわけである。逆にいえば、それだけに現在の宇宙空間の摂理で行動する彼らが別宇宙に行くということは、相当の危険を伴う行為でもあるわけだ。


『亜空間回廊終点に間もなく到着シマス』

「特殊空間跳躍完了まであと三六〇。カウントダウン開始」


 緊張感が走るブリッジ。いかんせんディルフィルドゲートからディルフィルドゲート無しな空間へのワープアウトである。あまり奨励はされないが、過去に例がないわけではない。実際ユーン連邦人が別宇宙へ行った時、これを故意にやったのだ。

 無論、飛び出した空間にはゲートなどないので、彼らが元の宇宙空間へ帰還するにはティ連のゲートを別宇宙へ持ってきてもらうか、人工亜惑星要塞にでも来てもらか、もしくはゲートをヤルバーンが冥王星でやったみたいに自分で作るしかない。

 当然今のふそうにはゲートを作るなんてのはちょっと無理なので、向こうから迎えに来てもらえるように要請を出しておく。とりあえずアウトする前に要請しておかないと、もし別宇宙に飛び出た途端に何らかの要因で本国と連絡が取れなくなった、というのもよろしくないからだ。


「10・9・8・7・6・5・4・3・2・1・跳躍完了!」


    *    *


 漆黒の宇宙空間……というわけではなく、その宇宙空間は、赤や緑に青といった、何らかの化学物質が何かに反応したような、そんな空間物質が幻想的に浮かぶ。

 その物質がどこにあるのか、どの距離に存在するのか、それも流石に目視だけでは判断できないだろう。

 そこはそんな宇宙空間である。恐らく東大の真壁あたりを連れてきたら狂喜しそうな、そんな空間だろう。


 その宇宙空間にいつもの現象。もう見慣れた、澄んだ湖面にでかい石をぶっこんだような、そんな画の空間波動をまとって『航宙重護衛艦ふそう』が顕現する。

 船首のバウ状部分に装備されたディフレクターフィールドを食らったデブリが進行方向へ吹き飛ばされる。


「空間跳躍完了ぉ! 到達時刻、日本時間午前……」

『達する。現在、本艦は空間跳躍を完了し、別宇宙と思われる空間へ到達。各員、常時以上、厳密に各部点検開始、以上』

『航海士は、各員空間座標の作成を開始してくださイ』

「遭難信号はまだ受信できるか?」

「遭難信号受信継続中。現在の状況、本艦現在地より距離……」


 ディルフィルドアウトした「ふそう」

 流石は訓練された自衛官達。早速各員冷静に艦内チェックに、状況把握、情報収集に務める。

 ブリッジにはニーラ教授とナヨ閣下も作業スペースをもらって空間情報の詳細を分析していた。

 とりあえずナヨの様子を見る限りナヨの頭部にあるゼルクォート・コア端末とヤルバーン本体とのリンクも正常なようだ。彼女自身も特に問題はないという。つまり最低限この「ふそう」の状況情報は、ヤルバーンのナヨを司るトーラルシステムにも伝わっているわけで、それがわかると、とりあえずホっとする藤堂に香坂、そしてニヨッタ。とりあえず本国との意思疎通は最低限可能だということがわかっただけでも大きいが、それが常時のものかはわからないので気を抜いてはダメだとニーラは言う。


 と、そんな状況のブリッジにプシュンと入ってくるは、柏木にフェル。


「艦長、ご苦労さまです」


 労いの声をかけるは柏木。とりあえず政府の人間として状況を把握しておきたいと申し出る。


「もしお邪魔でなければ、ここで見学させていただきたいのですが艦長」

「ええ、大丈夫ですよ。というか私としてもそうしてもらったほうが有り難い。何かあった場合、行政レベルでの決定権はあなたにある。つまりこの訪問団のリーダーは貴方だ。その点よろしくお願いします」

「了解です。フェルも国務大臣さんだ、その点いいな?」

『ハイですね。お任せ下さいです』


 そう言うと、二人はブリッジ隅のミーティング席を借りて、そこからブリッジの様子を見守る。

 すると早速ニーラが何かを発見したようで、ナヨと共に藤堂へ報告に来る。柏木とフェルも藤堂に呼ばれてその話をともに聞く。特にフェルは、彼女も優秀な科学者であるからして、その場にいたほうがいいのは当たり前の話。今、ブリッジにはイゼイラの優秀な女性科学者が三人もいるのだから尚更スゴイことになっていたりする。


『…………ト、いうことなのです。艦長』

「わ、ワームホール……ですか? ナヨ閣下」

『ええ。この座標にそれらしき反応がありますネ。現在のフソウの位置からなら、約五光年程の場所になりまスそして……フェルフェリア?』

『あ、ハイですナヨサン』

『このワームホールの近辺から、そなたに関係する者の遭難信号がでていまス。そうですね、ニーラや』

『はい~、間違いないですよぉ』

『えっ!』


 その言葉に驚くフェル。早速本丸の位置を確認できたかと。


『……って、ところでかんちょにふくちょにふぁーだ。ワームホールってわかりますか?』


『はぁ、それはもちろん』とニヨッタ。

「確か……ブラックホールとかホワイトホールとか、その類の話に関連すると聞いた事がありますが」と藤堂

「ええそうです。確か……アインシュタイン・ローゼンブリッジの事ですよね。私達地球の科学では、数学上の可能性でしかない話だったと、大学で習った覚えがあります」と、意外に優秀な頭の香坂。

「確か……あの有名な博士の理論だと、ブラックホールやホワイトホールとか、その類の現象は別宇宙があるからできるものだと聞いた覚えがありますが」と偏った知識専門の柏木。もちろんフェルさんは理解できている。


 ニーラは日本人諸氏のその回答を聞いてウンウン頷き


『それだけ理解できていれば大丈夫でスね~、結構結構。まー小難しいことはわかんなくてもいいです。そこはとりあえずどーでもいいんですがぁ……ワームホールでフェルお姉さまのご両親、ツマリ、エルバイラサマと、エルバルレサマの宇宙船が使ってた遭難信号……なーんか引っかかるんですよね~』


 その意味する言葉、フェルはなんとなく理解できていた……ちなみにエルバルレとは、イゼイラ語で『皇后』を意味する。


『ツマリ……私のファルンとマルマの乗った宇宙船は、そのワームホールから放出されて、その近郊の宙域に放り出されたってことデスか? ニーラチャン』

『可能性がナイわけではというかナンというか……確か、エルバイラサマ達の宇宙船は、亜空間回廊で行方不明になったということですから、飛ばされた先でワームホールが干渉してっていう理屈は、成り立たないわけではないデスよ』

『うむ、妾もニーラに賛成です。そうならない理由もこれまたありません……フェルフェリアや?』

『あ、ハイです』

『妾は、行ってみる価値、あると思いますよ……』

『…………』


 実は、あの『連合空間交通管理法第七条』の事件が起こってから、どうもイマイチ乗り気でないような感じのフェル。柏木は彼女をあれ以降、旦那として、そして家族として観察していたが、いつも元気なフェルにしては、どうも積極性がない。ちょっと考える目をする柏木。


「あ、艦長、みなさん。すみません、少しフェルと話させてもらえますか?」

「ええ、とりあえず現状はこちらも情報収集が先ですので……香坂、ニヨッタ副長、もうちょっと状況把握に努めてくれるか? ニーラ教授とナヨ閣下。他にも何か発見できれば……可能な限り詳細な情報をお願いしたい」


 そういう命令と要請を行い……要するに気を利かす藤堂。

 柏木はフェルの肩をとってブリッジ隅にある簡易ミーティング席に腰を掛ける。


 

「フェル……どうしたんだ?」

『……』


 なんとなくフェルが乗り気でない理由は理解できる柏木。


『……マサトサン、私……怖いデスよ……』

「お父さんやお母さんの遺品や、遺体があったら……と、そんなところか? フェル」

『ウン』


 フェルは、まだ物心つかない時に両親を亡くしている。フェルにとっての両親とは、あのニューロンデータ再生シミュレーションの優しい親しか知らない。でも、それも虚構であるので、結局は親のことがわからない。そんなフェルの心情で遺体や遺品を見てしまったら……

 彼女は、柏木とともにイゼイラヘ帰国した時、それまで虚しさしかなかった両親のニューロンデータに、初めて親子の愛情を感じてしまった。それは柏木と結婚することを決め、真男や絹代が親になり、そして好いた男性と共にいることで、初めて世を去った親の何たるかを理解し、両親の墓の前で大声で泣きじゃくった。

 そんな思いがあるからこそ、この絶望的な遭難事件……恐らくもう時間的にも生存者は絶望的なこの状況で、色々と無残な現実を目の当たりにすることが怖いのだと、フェルは話す。


「まあでもさフェル、何の因果かわかんないけど、日本初のティ連技術宇宙艦艇がこんな別宇宙なんてところへ飛んできて、そこへ導いたのが恐らくフェルの父さん母さんが乗ってたかもしれない宇宙船だっていうのも、何か因縁を感じるけどな」

『……フゥ、そうですね……どちらにしても、遭難船に乗っていたのはファルンとマルマだけではないでしょうし、クルーご遺族の方への遺品を回収する責務もありますカラ』

「ということだな」


 と柏木は愛妻の肩を揉んで頭をクシャクシャと撫でる。フェルモ微笑して柏木のその手を取る。

 二人の話を超絶地獄耳のナヨさんも聞いていたのだろう、フェルに目配せして微笑み頷く。フェルも軽く頷いて返す。


「お話はまとまりましたかな?」


 藤堂が尋ねると


「ええ、問題ありません……艦長、政府への報告は?」

「香坂副長が幕僚本部へこれからの行動予定を報告しておきました。通信状態は今のところ良好です。ほどなく政府へも報告がいくでしょう」

「なるほど。では特危は……」

「ええ、現在我々は例の連合空間交通法令第七条に基いて優先的に動かなければならない立場にあります。ですから、その遭難信号発信地点の探索が最優先任務になりますので、申し訳ないですかお付き合いください柏木さん。それにフェルフェリアさん」

「了解です。それに私としても……彼女の夫として、そこはね」

「はは、そうですな。我々も遺品やご遺体……おっと失礼。諸々の行動を速やかに行えるよう努力致しますので」


 航宙護衛艦ふそう。ティ連へ外遊といきたいところだったが、その初の任務はなんだかんだでやっぱり自衛隊らしい自衛隊の任務になりそうである。

 そして、ティ連太陽系軍管区司令部としての規約に則り、動く初のケースにもなる。

 『連合空間交通法令第七条』が連合法として適用された時点で、ふそう以下特危クルーは全員日本政府の管轄を離れ、ティエルクマスカ連合防衛総省管轄の任務部隊扱いになり、連合法に則る行動を行わなければならない。今回の事件はその初のケースになるので、恐らく今後の日本政府星間安全保障法制適用の指針となるケースになるかもしれないのだ。

 それを理解できるがゆえに、この船の特危幹部全員に緊張感が走る。


『ではトウドウ艦長、ご命令を』


 幕僚本部への報告作業を行っている香坂に変わり、ニヨッタが藤堂に命令を促す。


「うむ、ではそのワームホール近郊へ通常空間跳躍だ、ニヨッタ副長」

『了解デス……全艦に通達、観測されたワームホール近郊約五光年の地点へ通常ディルフィルドジャンプ開始』



 ニヨッタの腹に力の入った号令で、各員命令を復唱しつつ、行動に入る。

 さて目指すはそのワームホールという、これまた今の日本人、いや地球人には未知の場所。だが、もう亜空間航行まで体験した特危クルー、今更ワームホール程度が何するものぞ、とそんな感じでディルフィルドジャンプを行った……


    *    *


 さて、ここは日本国千代田区永田町の首相官邸。

 二藤部内閣総理大臣は、任期満了も近いこの時期に起こった、これまた大きいイベントにてんてこ舞いになっていた。

 無論事は日本政府よりも、ティ連としての問題である。先の法令第七条が、イゼイラの提起した連合法優先規定により「ふそう」に適用されてしまったので、その対応のためにイゼイラ政府議長、サイヴァル・ダァント・シーズと緊急ゼル会談を行っていた。

 無論その席には三島と新見、春日に他関係閣僚に官僚、制服組も同席している。


『ファーダ・ニトベ。この度は急な我が国の法制に貴国を巻き込んでしまう形になってしまい、大変申し訳なく思います』


 会談第一声、サイヴァルは二藤部に謝罪の言葉をかける。


「議長閣下、此度緊急の件、ここにいる我が国政府関係者も一通りの概要は承っておりますが……少々こちらとしても混乱しているのも事実です。よろしければ此度の、その……『連合空間交通法令第七条』という連合法の件、もう少し詳しくご説明頂けると有り難いのですが」

『ごもっともです。では……』


 二藤部はサイヴァルから、その第七条法の説明を受ける。その説明は先の通りだが、当然日本政府が疑問に思うは、そんなイゼイラの都合丸出しのような法が、なぜに連合の個別国家主権優先法として取り扱われているかということである。わかりやすく言えば、日本の皇族が宇宙を航行中に遭難した場合、ティ連防衛総省管轄の船は命がけで探しに行けと言っているような法だからだ。


『……いや、お恥ずかしいお話ですが、この法はイゼイラ大皇国時代のティ連で、まだ加盟国が今ほど多くない頃に、当時の皇国政府がゴリ押しで連合主権優先法で設定してしまった法なのですよ。まぁなんと言いましょうか、当時の皇国は連合での皇国の威厳といいましょうか、そんなのをやっぱり主張したかったのでしょうな。で、当時の連合各国でも、意外と我が国の皇族は人気が高く「まぁそれぐらいはいいじゃないか」みたいな感覚で、別に抗議する国があったわけでもなかったようで、それにこの第七条で設定されているような状況が皇族という存在に起こるような事はないだろうという話で……まあなんといいますか、連合法のデコレーションみたいな感覚でほったらかしにされていた法なのですよ……』

「はぁ……そうなのですか……」


 そのお飾り扱いの法において、本来初の適用者となるはずだったフェルの父母らではあったが、これが救難信号も発しない行方不明にとなってしまった。それがこの何十周期後にもなってこんな事態になるとはと、サイヴァルも実のところ困惑しているような表情だった。

 しかも、ディルフィルドゲートシステムが選んだ艦艇対象がよりによって空間回廊初体験で処女航海なふそうに、日本人スタッフが多くいる特危隊員だとは、なんともはやだと頭をかくサイヴァル。しかも柏木にフェルも乗艦しているとはと。

 実際これがもし他の連合国所属の防衛総省管轄の艦艇であれば、至って普通の事なのではあるので、ここまでもめはしないのだが、なんにせよ状況が事日本所属の、特危とはいえ『自衛隊』で起こっているのでちょっと面倒なのである。

 

 こういった過去の遺物のような法が効力を発揮してしまうようなことは現代の日本でもままある。日本の場合では、明治維新後に制定された大日本帝国憲法下に明記されている民法や刑法が、日本国憲法下のそれにそのまま流用され、民法や刑法の一部等が効力を発揮しているような状況もあるので、イゼイラのこんな例もあまり責められないところもあるのだ。

 更に言えば、現在この『第七条』案件は連合防衛総省管轄の事案になっているのだが、考えても見ればおそらく公式に初となる『自衛隊』という名称の組織が別主権の管轄で行動することになる。

 まあ……特定の政党やら組織やらは五月蝿い事になるんだろうなあと。

 それに何よりも、この件、現在連合に加盟した日本なので、当然連合で利用される広域情報バンクもインターネットと言う形で利用可能である。なのでこの件も国民の知るところになるであろうし、当然マスコミも報道するだろう。そして政府はそれの説明も当然行わなければならない。しかも連合憲章下の初法制適用、つまり日本国主権外の法制で特危と

はいえ自衛隊の名を冠する組織が動く事の説明が求められるのである。


「まあでも総理。今の日本はティ連加盟国だし、この件も連合法の適用でこうなってるわけだしよう」


 三島が申し訳なさそうにするサイヴァルをフォローするようにこういうと、防衛大臣の鈴木も


「それに任務としては遭難者の探索ですので、国民に説明もしやすいかと思いますが……」


 と話す。ただ現行の彼ら「ふそう」自衛官は連合防衛総省の指揮下にあるので日本政府は要請や要望はできるが決定権がない。

 でも二藤部の腹はもう決まっているようで


「はは。ご心配なくサイヴァル議長閣下。おそらく閣下は我が国の……何と言いますか、我々がこういうのもおかしな話ですが、日本国の現行複雑な自衛隊組織の扱いに対して、苦心していただいているようですが、我が国は国民全てが連合加盟を承諾したティエルクマスカ連合の構成国です。そういう連合憲章法があれば、我が国の出来る限りで、全力をもって連合憲章法を遵守します。まあ、今後の細かい調整は実務の方で行うとして、今は彼らの活動を見守りましょう」


 そう二藤部が話すと、三島も


「それしかないわな。それに議長閣下、あの船には現在特危で最も優秀な連中が乗っていますんで、何かあっても大丈夫ですよ」


 というと、新見も


「ナヨさんもいますので、何かトラブルがあっても対処できるでしょう」


 といつの間にかナヨ閣下をさん付けな仲になってる新見さんも、さほど心配はしていない様子。でもって、サイヴァルや二藤部達も新見とナヨさんの仲をもう公認で知っているので、特にその点を指摘したりはしない。でもちょっと目がへの字。新見は続ける。


「仮に彼らと今、何らかの理由で連絡が途絶えたとしても、ナヨさんはすぐにこちらへ戻ってこれますから、最も近い情報はすぐに入手出来ます」

「ああそうか、確かナヨ閣下の本体は……」

「ええ、そうです三島先生。ヤルバーンの専用トーラルシステムが本来彼女の本体ですから」


 新見の発言に皆なるほどなと納得。仮にふそうが音信不通の状態になっても、ナヨの情報ですぐに対応も可能だという話。


「となれば……あとは柏木先生とフェル先生、それと白木君だな。現状は特危に協力させるしかないか。どうするよ総理」


 三島が考えるのは、柏木やフェル、そして白木の立場だ。彼らは日本政府の人間である。従って連合憲章法の適用外だ。日本政府の人間としての対応が求められる。


「フェル先生は、ヤルバーン調査局局員という経験上、相応の訓練は受けているようですが、柏木先生は完全な元民間人ですからね。そんな訓練は……」


 するとサイヴァルが


『それでもシレイラ号事件や、カグヤの帰還作戦時の奮闘にタイヨウケイガイエンブの戦闘、そしてチキュウでの……』

「魚釣島事件な。確かにあの時の作戦企画は先生だった。なら大丈夫か。あとは白木君だな」


 三島がそう言うと新見が


「彼も大丈夫でしょう。カンボジアでの官民合同事業時の現地調査に、イラクでの部族間交渉。クルド族との調整と、ヤルバーンが来る前は世界中飛んでますからね。恐らく各国外交関係者の間で彼の名を知らない役人はいないんではないですか?」


 このカンボジアでの仕事の時に、白木は麗子とデキた。


「そうだな。そう考えれば彼も局地向けの人材だった。なら大丈夫か」


 では、当面どうなるか静観しかないかとそういう結論になる日本政府陣。

 ただ、これで何らかの成果を出せば、またイゼイラ・ティ連と日本の関係に大きな何らかの進展があるわけで、サイヴァルも何かあればすぐにでも行動を起こせるよう準備をさせておくという結論になる。


「加藤さんよ」


 三島は会談出席者の特危幕僚長の加藤に話しかける


「は、何でしょう三島先生」

「双葉のカグヤ。あれも、いつでも飛べるよう準備だけは頼みますわ。総理それでよろしいですな」

 二藤部に加藤、首を縦に振り了解と頷く。

 さて、日本国が連合加盟後初の連合憲章法事案となってしまった今回の事態。どうなるかといったところであった……


    *    *


「普通空間跳躍完了。各部点検開始」

『ディルフィルドアウト。現時刻、チキュウ時間……』


 約五光年の通常ディルフィルドジャンプだが、ジャンプ後は各員最新の注意で各部点検を行う。

 いかんせん別宇宙での活動になるので、何をするにしても当面は細心の注意が必要だ。

 実際今、ディルフィルドアウトしたその場所で彼らが目にするもの。それは……


「うお……これは……」


 口をあんぐりあけて、窓のように配置された艦の超高精細モニターを眺める藤堂に香坂。


『は、話には聞いていましたが、実際目にするのは初めてです……』


 ニヨッタも口を尖らせて、眼前の雄大にすぎる映像に目を丸くする。


「いやはや……こりゃまた二四世紀の宇宙ステーションばりですな……」

『ほェ~という感じデスねぇ……』


 フェルと柏木も、その非現実的にすぎる光景に口をあんぐり。フェルに至っては、先ほどの悩みもどこへやらというところ。それぐらいの光景である。


 彼らをこうまでさせる光景。今、ふそうの各部署でもモニターでこの光景を目の当たりにして「どーすんの」状態だろう。

 諸氏が見るは、目の前に覆いかぶさるように大きな落とし穴を空間にぱっくり開いたような、ワームホールの光景だった。その時空間にポッカリあいた大きな穴のような光景。まるですぐ近くにあるように見えるが、実際は一光年ほどまだ先に存在するのだそう。


「でも、ワームホールが開いてるってことは、どこかに超重力な負荷がかかってたり、そんなのでシュバルツシルト半径とか、そんなめんどくさい状況になるんじゃ……」


 柏木が芸大出の偏り脳な適当知識でんなことを言うと、ブリッジで作業するニーラ教授が


『ワームホールは、チキュウジンの言うブラックホールとか、ホワイトホールと違って『場』としては安定している場合が多いデスから、そこらへんは大丈夫ですヨ、ふぁーだ』


 柏木の適当知識にちゃんと応えてくれるニーラ教授。どうやら彼の指摘は見当違いではなかったらしい。


『ウム、ワームホールなるものは、わかりやすく言えば、常時つながったままの自然にできたディルフィルドゲートのようなものです。その発生の原因や、種類は色々あると言われていますよ。妾も初めて見ますが、雄大なものですね』


 ニーラとともに作業を手伝うナヨ閣下が初めてというなら、相当珍しい現象なのだろう。

 と、諸氏ちょっとばかり観光気分になりかけていると、ブリッジのイゼイラ人センサー担当が、彼らを仕事へと戻す。


『艦長、どうも現在我々は何らかの恒星系内にいるようですね』

「? そうなのか」

『はい。まだこの宇宙の空間座標がよくわからないので、刻々と入ってくる情報から判断するしかないのですが……』


 確かにこの空間を改めて全周観察すると、はるか彼方に恒星と思わしき星が、ピッカリと輝いているのが見える。


『あとこの地点に……』とVMCモニターにセンサー担当はマーキングすると『……ちょっとおかしな反応があります。ここからはそんなに遠くない場所、そうですね。わかりやすく言えば、地球と火星ぐらいの距離ですが、どうも惑星があるようです』


 藤堂に香坂、ニヨッタは頭寄せあいVMCモニターを覗きながらセンサー担当の話を聞く。


『で、この惑星周辺から出ている赤外線等諸々の反応ですが……ケラー・ニーラ。これはどう判断したらいいのでしょう?』

『フムフム……』とニーラはそのデータを覗き込むと、ポポポっと何やらキーを叩きながらいろんなデータを参照しつつ『普通に考えると、あまり良い反応とはイエないですがぁ……』

「?」


 諸氏、そのニーラの言になんだそれはというような顔で聞き耳立てる。


『一般的なデータ比較でいうとぉ……これは何らかの戦闘中の反応ですねぇ。ツマリ、この惑星には知的生命体がいるということにナりますよぉ?』

「何ですって!?」


 すると、先ほどのセンサー担当が、ちょっと渋い顔をしながら


『それと……今回の目的である例の救難信号ですが……その惑星から発信されているのです……ハァ』

「えええっ!!」


 その言葉に藤堂ら全員顔を見合わせる。これは相当困惑する事態だ。

 彼らが飛ばされた別宇宙で、右も左もわからない状況、そんな中、唯一の目標となるフェルの父が乗った宇宙船からの遭難信号を追って見れば、その場所は知的生命体がいるかもしれない惑星で、しかも何らかの戦闘中かもしれないという、そんな場所。


 現在の状況を判断するに、これはちょっとブリッジ要員だけで判断して行動するのはマズイということになり、幹部クラス集めてブリーフィングルームで緊急会議ということになるが、結局結論としては

「その場所に行って見るなり索敵出すなりしてみないとどうにもならない」という結果に達するわけで、「ふそう」はその惑星圏宙域に対探知偽装をかけて接近することにした。

 これが「一般自衛隊」の範疇なら、紛争地近くにノコノコ行くなんて事はないのだが、そこは特危である。現行ティ連防衛総省管轄のふそうはそういう点自由が効く。これはやはりなんだかんだいってありがたい話である。




    *    *




 ……その惑星は、所謂ヒューマノイド型生命が住める典型的な環境の惑星なのだろう。

 星の見た目だけでいえば、青く輝く美しい星。一般的な地球型惑星である。

 水があり、植生がある。おそらく相応の生物もいるのだろう。大気の主成分はいまのところ不明だ。

 ただ、生物が住めるという環境なら、そう極端な大気組成ではないはずである。主成分に酸素が多いか窒素が多いか、メタンが多いか。地球でも人類が生活するに必要な酸素よりも、八割方の成分が窒素なのだから面白いものだ。


 そんな名のしれぬ星は今、未曾有の危機的状態に陥っているようであった。

 その惑星の空から望める大空にぱっくりあいたように見える大きな穴。そのサマはまるで海洋の渦潮を巨大にしたようにも見え、そんな絵画を大空一杯に描いたように見えるワームホールから出現したと思わしき機動兵器が、その惑星を攻撃していた。

 軌道上に母艦のような不気味な形状の物体を待機させ、そこから惑星に小さな機動兵器が降下しているようである。その機動兵器の形状は、人型に見えないこともないが、ただ、所謂純粋な人型ではなく、歪な人型とでもいえばいいか、ヒューマノイドタイプというよりは、モンスター的な形状の機動兵器と思わしき物体であった。


 その惑星の地表では、ところどころで小さな爆発光がピカピカと光り、降下してくるその機動兵器状の物体へ、反撃にもみえる対空兵器と思わしき閃光が空へ上がる。

 やはり誰がどうみてもこれは、何らかの勢力と勢力が『交戦』している構図である。それは間違いない。


「……やはり戦闘反応でしたか……ニーラ教授、ドンピシャですね」


 ブリッジにキャンプ用の折りたたみ椅子を造成し、前方大型VMCモニターの見える位置へ邪魔にならないよう腰掛ける柏木連合議員閣下。

 その横ではフェルさんも同じような椅子を造成して柏木と見入る。


『一見すると、この……』とワームホール側の勢力を指差して『勢力が、この惑星を攻めているように見えまスね』


 フェルの言葉に藤堂も


「ですな……それと見た感じ、この惑星の戦力が不利にも見えますね」


 さて、彼らはフェルの父母が行方不明になったと言われる宇宙船の救難信号を追って、この別宇宙で発見した知的生命体のいると思わしき惑星に接近した。

 接近したといっても、現状惑星から約一〇〇万キロメートルの位置で対探知偽装をかけて待機中である。その様子を探るためにヴァル式多目的小型ドローン。即ちヴァルメをこれまた対探知偽装をかけて何機かその惑星軌道上へと送り込んだ。

 今、柏木達がブリッジで見るは、ヴァルメが送ってくるリアルタイムの映像であった。


 ブリッジに上がってきていた白木が……


「あのワームホールか? あっこから来てる勢力の、機動兵器デザイン……なんか俺、映画かアニメかでガキん時見たことある感じだぞ。典型的な悪役メカじゃねーか」


 そう評価すると、同じくブリッジに上がってきていた大見も


「確かにな。それに行動も、どう見てもこれは空挺降下だ。即ち攻めているという画だな」


 と見る。


「んじゃ悪党は、この降下してる奴らかぁ?」


 と白木が冗談めかしに言うと


『シラキ、オマエワカッテテ言ッテルダロウ』

「あ、ばれましたかシエさん」

『アタリマエダ。外務省ノ役人ガ言ウ言葉ジャナイダロウ。フフフフ』

「確かにシエの言うとおりですよ。んなこっちゃ新見さんに怒られまっせ白木さん」

「はは、確かに仰るとおりで」


 シエと、旦那の多川さんも、格納庫でくすぶってても仕方ないということでブリッジにあがってきていた。で、白木の言葉に突っ込み入れるシエ。

 確かに白木が本気でんなこと言ってたら、外務省役人失格である。頭をかく白木。

 つまりシエが白木にツッコミ入れたのは、戦争に善悪などないということだ。

 戦争など結果論である。お互いの『半径数十メートルの正義』を各々が正しいと思って殴りあいしているわけであるからして、結果的に言えば『勝った奴が正義』なだけである。だから戦争は『負けてはいけない』のだ。故に地球で起こった先の大戦にしても、『負けたくない』から、ソ連のような共産主義者と、完全に水と油の米国資本主義国家が手を結べるような異常な状態が発生する。

 これはひとえに『正義』を自分たちが作りたいからであって、そんな歪極まる状況も容認できてしまうのが戦争という異常な状況なのである。


 ただ……とこの星の現状を分析するニーラ先生が、白木の言もあながち間違ってはいないかもと話す。


『ン? ドウイウコトダ? ニーラ』

『はい、これをみてください~』


 ニーラは少々渋い顔をしながらヴァルメの送ってくるデータを分析した映像資料を別の大型モニターへ映す。


『この機動兵器ですけどぉ……なんといいますか、私達の認識している兵器とは、ちょっち違う感じなんですよね~』


 ニーラは、ポチポチと画面を切り替えながら、VMCモニターに向かって愛用の指付き指示棒で説明しだす。

 

『この兵器、って兵器なのかなぁ』

「どういうことですか? 教授』

『ハイふぁーだ。あのですね、これ、どうも生き物みたいなんですよぅ』

「え? 生き物?」


 ニーラが言うには『例えば、この母船みたいなのですけどぉ』と例を出しながら説明するに、所謂ありていな言い方をすると『生体兵器』ではないかと言う話である。

 しかも所謂ティ連や地球。すなわち自分たちが『機械』という形で構成しているものを全て『生体』で構成させている兵器みたいだとニーラは言う。


「なんですって……では、この攻めている連中は、『生き物の中に生き物』が乗って、航宙艦や、機動兵器の状態を構成していると? しかも宇宙空間に対応できて……ワームホールも通過できる……」

『みたいですね~。おまけに、どういう仕組みかワカンナイですけど、どうもシールドらしきものも展開できるようですね~』


 ニーラがそう話すと、藤堂や香坂が


「純粋な生体でシールドですか! ど、どんな仕組みなんだ?」


 と疑問を呈するが、白木が


「ニーラ先生、でもどうしてそこで私の言ってることが正しいかもしれないと?」

『ハイ。どうもこの生体兵器、あの星の生物をアブダクトしてるみたいなんですぅ……索敵係サン。さっきあの星の大気圏を突破したヴァルメの映像をみせてもらえませんか?』

『ハッ、了解』


 当該惑星の大気圏を突破した対探知偽装をかけたヴァルメが映し出す映像は、この星の原生生物を捕獲している生体兵器に……


「お、おいおいおい、あの二足歩行生物は……」と多川が指摘すると

「どうもこの星の原住民。知的生命体のようですね」と柏木が応じる。


 その生体兵器らしきものは、必死で抵抗するその原住民を捕獲しているようであった。

 そして、その捕獲されそうになる仲間を助けようと抵抗する他の原住民。だが皆が気づくのは


「この原住民、ブラスターライフルのような兵器で武装しているな……相応の科学力を持っているということか?」


 と大見がいうと


「少なくともヤルバーンが来る前の地球よりは科学レベルは上ってことか?」と柏木。

「で、相手の生体兵器野郎は……生体兵器っつーぐらいだから相応の技術力を持ってはいるんだろうが、ティ連ほどの科学力はなさそうだな」と白木。

「どうしてそういえるんです?」と香坂。

「いや、柏木の以前言ってた理屈ですよ。もしティ連ほどの科学があれば、あんなアブダクトまがいの事なんてしなくていでしょ」と応える白木。

『タシカニナ。ソレハ言エテイル』とシエ。


 ただ、それでも現状、言ってみれば不利な状況にみえるこの原住民に味方するわけにはいかない「ふそう」ではある。なぜなら、味方しなければならない『理由』がないからだ。従って


「この連中が戦争やってる仲で、こっちの任務を遂行しなきゃならないというのも、かなり至難の業だなぁ……フゥ、どうするか?」


 と藤堂が艦長席にもたれかかって後頭部をポンポンと軽く叩くいて撫でる。

 

 その知的生命体の容姿。ヒューマノイドタイプの獣人型種族のようだ。

 ただ、カイラス人と違うところは、カイラス人が知的生命に発展した種は、所謂地球で言うヒョウ属によく似た種が進化した形である。顔つきもフェルやシエ達同様に人類型に近い。

 だが、この星の種は、カイラス人達とは違い、どうも見た感じ草食系動物のような種族から進化した雰囲気がある。そんな種族が、もうまるで地球でもその意匠に類を見ない……いや、しいえていえば想像創作の世界でしか見ないような不気味な有機生体兵器とおぼしき連中に必至の抵抗を試みている。


(こういうのは、きついよなぁ……)


 柏木はそう思うが手を出せない。手を出す理由がないからだ。

 だが、かつての米国なんぞはここで手を出すのだ。今の柏木達。別の意味で『世界の警察・米国』はもしかしたらすごかったのではと、改めて思ってみたりする。

 

 対探知偽装をかけ、その惑星に接近する「ふそう」

 どうも原住民側は、宇宙へ攻勢に出れないようである。攻勢に出る手段がないのだろうか、そこのところはわからないが、現状制空権に制宙権は、生体兵器群側にある。

 交戦コースを避けて惑星に接近する。

 かなり連中の勢力圏に近づくが、先に送り込んだ偵察ヴァルメや、今のふそうでもそうだが、どうやら敵はふそう、というよりも、ティ連の対探知偽装を探知できないようである。ということは、少なくともティ連ほどの科学技術がある連中ではないようではあるが。


 遭難者探索準備に移行しようとしていたブリッジだが……


『トウドウ艦長、カシワギ、フェル。ちょっと良いか?』


 ナヨが探査モニターの前に立って、藤堂を傍らへ呼ぶ。


「は、なんでしょう閣下」と藤堂。

「どうしましたか?」と柏木。

『何ですか?ナヨサン』とフェル。


『ウム……主らは、この映像をみてどう思いますか?』


 ナヨはその原住種族のアップを捉えた映像を、さっきから何回も巻き戻して観察していたようだ。

 その原住民族は、味方を的に囚われ、必死になって仲間と手に持つブラスターライフルのようなもので反撃……


「…………!? こ、これは!! ナヨ閣下!」

『トウドウ、気づいたかえ?』

「は、はい!」


 その藤堂の狼狽に


「え? 藤堂さん、どど、どうしたんですか急に」と問いただす柏木。

『コノ映像に、何かあるのですか? ケラー』イマイチ何かよくわからんフェル。


「い、いや……フェルフェリアさんはともかく、柏木さんともあろう方がわかりませんか?」

「へ? 私ともあろうって?」

「よく見てください、コレ!」


 藤堂はその戦闘する原住民の映像を、更にアップして見せる……と……


「…………?……!! あ! こ、これはっっ!!」


 脂汗がブワっと噴き出る柏木。俺としたことがぁ! と心の中で思う。

 そう、彼らが見たのはその原住民が手に持つ武器だ。その武器が


「こ、これってイゼイラのブラスターライフルじゃないですか!」


 そういうとバっとナヨの顔を見ると、ナヨも腕くんで頷き、目で「ご名答」と語る。

 頷くナヨの瞳は、柏木の言葉に同じくポっとするフェルの方へ向け


『フェルフェリアや……これを見なさい……もう一瞬の映像で見逃しそうになりましたが……』


 ナヨが指をスっと動かし映像を早送りすると、何やら集団でその生体兵器に抵抗する戦闘の図。

 この映像がどうしたんだという目でフェルは映像を凝視していると……


『…………!! アアーーー!』


 大声で叫ぶフェル。

 となりでフェルとほほくっつけモニターを凝視していた柏木も「これは!」と叫び、更には場所を交代して、巻き戻し再度確認した藤堂はとどめでこう叫ぶ。


「香坂! ニヨッタ副長! 全艦戦闘配置! フェルフェリアさん、柏木さん、良いですね!」

「はい艦長。この目で確認しました。ティエルクマスカ連合議員として行政承認します」

『エエ、私も連合憲章空間交通管理法第七条の付帯項目1-1に基づいて、カシワギ連合議員の承認を確認する当該国家の政府関係者になりますヨ』


 フェル達がナヨに促されて見たそのVMC画像には……なんと、イゼイラ人が、現地種族と共闘して、その正体不明の生体兵器と戦闘している姿が、本当にほんの一瞬、映っていたのだ。


「ナヨ閣下、よく見つけましたね」

『ウム。この素体の技術が幸いしたようです。今はその性能に感謝ですね』


 ドーラ技術ベースのナヨ閣下の仮想生命素体。その注意力や集中力。反応速度も相当なものであるようだ。

 

「連合議員柏木真人がシステムに命令する。この画像を補正して見やすくしてくれ」

【アクセス権利者、カシワギマサト確認しました。ふそうシステム・了解_】


 柏木はフェルが何回も巻き戻して見ていたその刹那の一瞬が移った一コマの画像補正をふそうシステムに要求する。

 するとその画像は幾分鮮明に補正され、明瞭なイゼイラ人の姿になって映しだされる。

 その画像に映るイゼイラ人はデルン、即ち男性のようだ。だがその服装は、他の正体不明の現地知的種族の意匠に倣った服装をしていた。

 そのイゼイラ人の姿にフェルの目は釘付けになる。即ち、こんな名も知らぬ別宇宙の惑星にイゼイラ人がいるということ。コレは何を意味するか。そして救難信号である……


 ナヨはフェルの肩を優しく取ってさする。フェルがその映像に釘付けになる理由は当然察してあまりあるからだ。柏木もフェルの隣に座り、彼女の肩を取る。確かにフェルの気持ちは今複雑だろう。



 さて、フェルが先ほど言った【連合憲章空間交通管理法第七条の付帯項目1-1】という項目。

 空間交通法第七条は、サイヴァルとの首相官邸ゼル会談でのやりとりや、今のふそうの状況といったところであるが、この七条には諸々若干の付帯項目がくっついている。

 その1-1という項目。ここに明記されている条文はかいつまんで書くと以下のとおり。


【イゼイラ皇族の遭難時にその生存が確認された時、戦争・紛争及びイゼイラ皇族の身体に甚大な生命の危険が及ぶ状況が認知できた時、救援及び救出活動を行う軍属または軍隊は、該当対象を確実に保護するあらゆる策を講じなければならない】


 と、ある……この条文、冒頭に『イゼイラ皇族』とあり『旧皇終世議員』とは書かれていない。つまりどんだけこの条文が古いものかという事である。つまり現状では『イゼイラ皇族=旧皇終生議員』という理解がなされている。

 言ってみればそれだけの期間をほったらかしにされていた、ある意味今のふそうにとってはハタ迷惑も甚だしい条文なのだが、結果論として今、名も知らぬ異空間の星に、信じられない事態が発生しようとしている。そしてそれはある種の奇跡ともいうべき状況であるわけであるからして、連合議員と、その軍事組織所属ティ連加盟国の議員二人の認可を得た『ティエルクマスカ連合防衛総省太陽系軍管区司令部扱・特危自衛隊・重護衛艦ふそう』の取る行為はといえば、それはただ一つ……


『達する。現在本艦は別空間名称不明の地球型惑星『甲』において、遭難信号発信者と思われるイゼイラ人を発見。本艦は【連合憲章空間交通管理法第七条の付帯項目1-1】状況下に入った。全艦万難を排し、遭難行方不明者の救助活動を行うように。くりかえす。現在本艦は……』


 『万難を排し』という言葉。すなわちこれ、早い話が「救助活動を邪魔する奴らは潰していいよ」という事である。自衛隊っぽい言葉の濁し方というやつだ。

 この言葉を聞いたサロンに格納庫に自室で待機する各科特危隊員達の士気は格段に向上する。


 そしてこの瞬間、『ふそう』乗員諸氏に『正義』が出来た。


 右に握りこぶしを作り、左の掌でパンと叩く陸上科諸氏。

 誰に指示されるわけでもなく、旭龍に乗り込む航空宙間科のシンシエコンビ。

 もうすでに重戦闘服に身を包んでいたイゼイラ州軍のシャルリ中佐。

 みんなもブリッジから送られてくるその戦闘映像を見ていたのだ。正直歯ぎしりしていた隊員も多かった。

 それはそうだ。名も知らぬ種族とはいえ、妙な生体兵器に連れ去られ、助けを求める仲間を救うために抵抗する種族。そんな映像を指くわえて見てろと言うほうに無理がある。だがその映像に一瞬映ったイゼイラ人によって『正義』ができた特危隊員。諸氏やる気マンマンであった。

 皆が思う事、それは……


「あのクソ化物野郎、ブッ潰す」


    *    *


 そんな隊員の態度には出さないクールな想いを知ってかしらずか。ブリッジクルーは藤堂の出す命令に、まるで忠実な家臣のごとくその令を確実にこなす。


 自衛官や軍人にとって『命令』とは、ある種の自由を許可される言葉なのである。

 ここでどっかのリベラル脳な脳天気平和主義者などは『命令』を『束縛』と勘違いして『軍人は命令をこなすだけのロボット』とかいったようなアホなことを堂々と言い出す。

 自衛官や軍人にとって『命令』とは行動の指示と同時に、その目的を達成させるための自由を許可してもらえた言葉でもあるのだ。従って彼等にとっては『命令』とは束縛でも隷属でもなんでもないのである。

 従って……


「ふそう対探知偽装解除! 軌道上の敵を本艦にむけさせろ、地上の種族さん達のリスクを減らしてやれ!」と藤堂が命令すると

『惑星を偵察させているヴァルメの武装を開放。自律支援モードで現地種族。特に映像にあったイゼイラ人らを援護しろ!』とニヨッタが指示を出す。また更には

「よし! 探知偽装を解除したらCIWSを各ゼル台座に造成させろ! あの妙なやつらが接近してきたら叩き落としてやれ!」と香坂も激を飛ばす。


 ブリッジ艦長副長チームは絶妙の意思疎通。阿吽の呼吸とは正にこのことである。


『生体兵器、本艦の存在を確認した模様。接近しまス!』


 監視要員が対探知偽装を解いたふそうに向かってくる生体機動兵器を確認したようだ。


「向こうから何か通信は?」


 藤堂がとりあえず確認するが


「量子、電磁波、光学、波動、すべてにおいてそれらしい反応はありません」


 通信担当がそう答えると


「見境なしかよ……ま、そんな雰囲気の連中だわな」


 と藤堂はポツリと応える。


「生体兵器接近!……シールドに反応、接触!……」


 藤堂はまだ攻撃命令を出さない……ある瞬間を握りこぶし作って待っていた。


「生体兵器、本艦へ攻撃行動! 何らかのエネルギー兵器による攻撃を受けた!」


 その言葉の瞬間、艦内の警報が短くビーと鳴り


『特危自衛隊、重護衛艦ふそう。日本標準時**日**時**分、本艦は未確認生体兵器の攻撃を受ける。これより本艦は当該生体兵器を「敵性体」と呼称。特危自衛隊法に基づく正当防衛反撃、及び連合憲章空間交通管理法第七条の付帯項目1-1に基づく作戦行動に入る』


 ニヨッタがそう全艦にアナウンスすると、証拠映像を取った後、目線を藤堂に向け、その視線を受け取った藤堂は香坂に向かって頷き、香坂が声高に命令をを飛ばす。


「ふそう全斥力砲発動! 目標、敵性体大型戦闘生体兵器!仰角システム自律補正、弾種、17式重加速弾! 速射射撃発射よぉ~い!」

「17式重加速弾装填宜候! 装填開始ぃ! 発射よぉい!」


 一通りの準備を命令すると、香坂が藤堂へ


「艦長、あとはお願いします」

「わかった。よし、生体兵器の母艦らしきものは照準から外せ、他の指示する戦闘艦艇クラスのみに照準を絞れ!」


 現状、偵察ヴァルメにより、敵母艦型生体兵器には、さらわれた原住民が囚われている可能性があるので、この兵器は攻撃できないとの判断であった。

 各部門の了解を確認すると、藤堂は……


「よし、全斥力砲撃ち方始め!」「斥力砲一斉射!」「発射! 発射!」「CIWS、各個迎撃開始」「機関部ドーム、粒子ビーム、ディスラプター制御室、下方からの攻撃に備えよ」


 命令がブリッジを木霊する。戦闘開始だ!

 特危自衛隊は、もう実戦経験部隊だ。その中の異星人クルーはガーグ・デーラとの戦闘経験もあり、日本人クルーは、魚釣島の経験もあり、はぐれドーラ事件の経験もある。所謂精鋭であるからして、今更この程度の戦闘にビビるような奴は一人もいない。


「今は我々を囮にして、敵部隊の目をこちらに引くことが重要ってわけですね」


 柏木が近くの手すりにつかまり、状況を藤堂に確認する。


「そうですね柏木さん……って、流石といいますか、肝っ玉座ってますなぁ」

「はは、まー、そうですね。いいのやら悪いのやら」


 そりゃそうだ。『カグヤの帰還』作戦に、『太陽系外縁部の戦い』となんだかんだで最前線経験してる妙なオッサンであるのは確かな柏木議員と……


「?……ふ、フェルさん、なにしてますのん?」

『いざとなったら、ワタクシも現場に赴きますヨ。なんとしてもこの目で確かめたい事がたくさんあるデす』

「い、いや、フェルは一応政府閣僚なんだからさ」

『何を言ってるデスかマサトサン。今のフソウで白兵戦経験のある指揮官って、ケラー・オオミとシエとシャルリと私ぐらいなものではないデスか……あ、あとマサトサンと』

「え、ええええっ! お、俺ぇ!?」

『シレイラ号事件で特務タイサになったでしょ、マサトサンは。できる人がやらないといけないデす。それが宇宙での掟ですヨ。でないと私達のヒメチャンにファルンサンとして胸を張れないですヨっ』


 いつの間にかインナースーツの上から迷彩服3型着込んで鉄帽かぶり、右手に以前米国でデータを取ったSCARーLを造成し、腰にウキャーなお気に入りデザートイーグル50AEをぶら下げて惑星降下する気マンマンなフェル姉さん。


『さぁさ、マサトサンも準備するでスよ』


 なんか柏木も一緒に行くことになってしまったらしい。


「いやフェル、大臣や議員がその格好でドンパチしにいくのはさぁ……」


 さて、どう愛妻を諌めるか、ここは考えどころな柏木連合議員閣下である……



*     *



 その惑星の知的生命体は、今これまでその歴史にない恐怖の時にあった。

 未知の怪物の如き異形の者の侵略を受け、その世界、いや惑星は戦火のまっただ中にあった。


 始まりはその星で言う相当前の話。その時間は子供が成人するかしないか、そんな時間。それぐらい前の話であった。

 最初にそれが形になって現れたのは天空の異変。

 空に小さな穴が空いたかと思うと、そこから何らかの飛行物体が飛び出てきた。そしてその飛行物体はボロボロの満身創痍状態で、その惑星に不時着した。


 この星の知的生命体は、原始的というわけではないが、そんなに進んだ文明というわけでもない。

 地球の時代背景で言えば、一五世紀から一七世紀といったところか。所謂大航海時代的な文化文明の惑星であった。

 そんな星のある国に、宇宙船は不時着した。


 当時、その惑星は、近隣諸国が互いに覇権を争うような、ままありがちな文明の星だったのだが、宇宙船が飛来してからしばらく経った時、それが飛来した国家周辺で、国家の統合運動が起こり、とある国を中心として大きな大きな王国ができた。

 その王国はそれまでその世界では見たこともない神話世界のような武器や兵器に不思議な技術を駆使し、相応の時間を経て、その世界で冠たる国にまで発展を遂げた。

 そしてその王国は、強制や侵略ではなく、外交によって平和的に周辺の希望する諸国諸領を更に統合し、その文化圏を拡大させていく。

 民には差別もなく、貴族階級が平民に圧政を敷くこともなく、それどころか貴族と平民が普通に結婚するような、それまでのその世界、文化では考えられない生活を享受できた。

 それまでのその世界では普通とされてきた奴隷制度のようなものも撤廃し、考えられないほどの豊かさを享受できるような世界へと変貌しつつあった。


 ただ、異変が起こったのは丁度その頃であった。

 天空の彼方に再度また小さな黒点が姿を表し、人が年を老うていく様と比例するようにどんどんと大きくなり、その形はまるで天に浮かぶ巨大な渦巻きのごとく、それまでその星で観測されたどんな天変地異よりも奇異奇怪な現象になっていった。

 だが、その国の王は、その現象が何かを知っているようであり、特に驚くような事もなく、ただ暇を見つけてはその巨大な天空の渦を観察していたのであった。


 ある時、天に多数の光が瞬き輝いた。

 民はあれはなんだとみな空を指さし、その初めての現象に驚いた。

 王は民に落ち着けと言い聞かし、民が『使徒』と呼ぶ王の側近たちと緊急の会議を行った。

 その時、その国のとある場所で火の手が上がる……そう、光点から現れた物体が、その星を攻撃し始めたのだ。

 時間を追うごとに膨れ上がる謎の敵性体の数。しかもその敵性体は、その星の民をさらっているというではないか。

 王や使徒達は、民を安全な場所へ避難させるよう即座に命じ、応戦する軍隊は、王や使徒達がもたらしたという、国家統合の象徴とも言える技術に、兵器や武器を駆使するが、相手の攻撃力はその上手をいくようで、なんとか持ちこたえてはいたものの、その敵は断続的にこの星へ攻めにきては引き、引いては攻め、そんな戦法で攻め立てられてジリジリと押されつつあった。

 敵の正体は今持って不明。その国の王は、彼の知っている禍々しい悪鬼に似ている敵だと、話したという。


 ……生まれた子が、ものを学ぶ年齢になるぐらいの間、そんな不安定な状態が続くこの星の戦乱であった……


 ……そして現在……

   

 その星のとある場所で激戦を繰り広げる原住種族達。


「民を早く洞窟の中へ! 早く早く!」

「隊長! あれを!」

「!! くそっ、牢獣を持ってきたか! あれに民が食われたら終わりだ! なんとかアレと取り巻きを押さえ込め!」


 すると、彼らとは明らかに容姿の違う、水色肌で鳥のような髪を生やした人物が、その「隊長」の元へ駆け寄ってくる。


「おお、これは使徒殿!」

『おう隊長さん。まずいことになったな』

「うむ、これ以上の牢獣は、今の戦力では抑えきれん。とにかくこの洞窟地帯に民を一人でも多く押し込めないことには……」


 すると、彼の付近で、長距離砲撃のような音が鳴ったかと思うと、途端にドカドカと大きな着弾爆音が鳴り響く。


「うぉぉっ!?」

『これは! 敵主力部隊の奇襲!?』


 すると、どこからか擬態をしていた生体兵器がその本性を表し、大部隊で彼らに襲いかかる。

 人と同じぐらいの大きさの主力と、それを直協する中型から大型の兵器のような、また獣のような機動兵器。さらにその後からは彼らが最も恐れる『牢獣』という人々を片っ端から拉致していく生体兵器。


 原住種族と、使徒と呼ばれる種族はブラスター兵器のようなものをぶっ放しながら部隊を指揮しつつ、後退を開始する。

 だが、そのあまりの攻勢に、避難民が『牢獣』とやらに食われたと報がはいる。

 けれど彼らは今の民を守るので精一杯だ。囚われた同胞を救いにいけない。


「くそっ! くそっ! なんなんだあいつらは!」

『畜生! せめてアレを造る事ができれば、こんな連中!』


 と歯を食いしばり、悔し涙を飲み込もうとした瞬間……!


 ドォォォン! と大きな着弾音をあげて、敵大型機動兵器が、妙な色の体液を撒き散らして吹き飛んだ。


「え、ええっ!?」

『な、なんだ!?』


 二人は狼狽する。すると今度は、牢獣が悲鳴ともなんともつかない異様な鳴き声を上げながら、縦真っ二つに勝手に割れて、その中から囚われた民が雪崩れるように飛び出してくる。

 と同時にキャーキャーいいながら今のうちとばかりにその民は戦闘部隊の方へ逃げ走ってくる。

 無論兵達は民の保護に奔走だ。


「い、一体何が起こったんだ……」

『こ、これは……』


 隊長と使徒。さすがに状況が飲み込めない。だが、その疑問も直後の出来事に、その『使徒』と呼ばれる人物のみが理解した。


 何らかの現象で勝手にパックリ割れた『牢獣』のそばの空間が、モヤモヤと歪み、万華鏡の如くキラキラと何かの綺羅びやかなシルエットが姿を表すと……その中から現れたのは……


『ま、マサカ!……機動兵器だと!』


 叫ぶ使徒と呼ばれる男。そう、そのとおりである。

 『AFV―Type15・15式多目的機動兵器【旭龍】F型』であった!

 彼はその龍のような、しかも完全なマシーンである姿に驚きを隠さない。

 ピコピコとウォンウォン音を鳴らし、付近の敵を腕部M230チェーンガンにブラスターキャノン。そして頭口部のパルスレーザを駆使して駆逐していく。


 翻す機体側面には、ゴシック体で書かれた白地な『特危自衛隊』に楕円の銀河意匠を背負う桜マークがキラリと光る。

 旭龍も今や『X』が取れた機体になっている。更にコンビネーション戦闘仕様の複座式『F』型である。ということはコレに乗るのは!……


『オイ、ソコノイゼイラ人。オマエタチハスグニ後退シロ。ココハ我々ガオサエテヤル』


 外部拡声器で彼らに話しかけるシエ大天使様。


『え! そ、その口調は……ダ、ダストール人か!』


 叫ぶ使徒と呼ばれた、イゼイラ人デルン。


『ゴ名答ダガ、積モル話ハアトダ。今ハ生キ残ル努力ヲシロ。ワカッタナ』

『り、了解だ……ありがとう、助かった!』


 旭龍は頷くモーションを見せると、翼状の振動波エンジンをガバっと広げてまた近辺の敵を掃討するために対探知偽装かけて飛び立っていく。


    *    *


 その報せは電光石火の速さで、たちまちその国の王宮にまで伝わる。

 報をうけた国王の側近は、王の執務室へ、奇跡を知らせに早足で駆け込んでいく。


「国王陛下! 国王陛下!」

『何か? アまり騒々しいのはよくない。落ち着きなさい』

「は、申し訳ありません陛下。ですがコレは少々落ち着いてはいられない事態でございまして」

『?』


 首をひねる国王。


「天佑でございます。これを御覧ください」


 側近は、現場から電送されてきた写真のようなものを国王に見せる。


『…………こ、これは! き、機動兵器!? ま、まさか! 君、これをどこで!』

「は、今カムラン地区で防衛戦の任についていらっしゃいました使徒殿からでございます……ガイデル国王陛下」



 ……その知らせを受けるガイデルという男、驚愕の表情に、唖然の感情が混ざり、窓に駆け寄って眼光鋭く視線を大空へ向けるのであった……






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