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銀河連合日本  作者: 柗本保羽
銀河連合日本外伝 Age after
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銀河連合日本外伝 Age after ― 因果継命 ―  第三話


 ヤルバーン州立資料館。所謂ヤルバーン調査局に鳴り響く警報音。

 無論このヤルバーン州がまだ都市型探査艦とか、その後のヤルバーン自治区と呼ばれていた頃からそんな警報音がこの地区で鳴り響いたことなど未だかつてない。

 これは一大事だと自治局の保安部員。即ちヤルバーン州の警察部門にあたる人員がスっ飛んでくる。

 

 警戒第一と保安部員は諸氏手にブラスターガンを造成すると、日本で学んだ閉所戦闘スタイルで周囲を警戒し、歩みを進める。

 手洗いへ向かう曲がり角に到達すると、手鏡を掌に造成し、角を曲がる奥をのぞき見て警戒する。

 特に何もないようなので、手洗い方向へ歩みを進めてトイレの中をバンバンと開けて中を確認する。

 保安部員は特に異常を発見しなかった。

 ただ、何となくその周囲に違和感を覚える。


『おい、そっちは?』

『ああ、フリュ用の方は特に何もないな。そっちは』

『こちらもだ。どういうことだ? 中央システムはブラスターエネルギー反応を感知したとか言ってたが……』

『ああ、そうだな。だが……』


 保安部員の一人が周りを上下左右首を球体関節を稼働させかのごとく見回し目視確認するが、特に異常を感じることができない。

 だが……


(何かオカシイ……)


 保安部員長年の勘だろうか、どうも状況がしっくりこない。


『おい』

『なんだ?』

『リビリィ局長とは連絡取れたのか?』

『ああ、今こっちに向かってると言ってた』

『それと、ポルタラ局長にも連絡を取ってくれ』


 そういうと別の所を調べていた保安局員が


『ポルタラ局長なら、さっき日本治外法権区の方へ行くのを見たぞ』

『何? そうなのか』

『ああ、あれは確かにポルタラ局長だ。あの真っ白い姿、見間違えるかよ。ただ……』

『どうした?』

『あ、いや、なんでもない。たいしたことじゃない』

『そうか。まあどっちにしろ報告だけでも入れてやらんといかんだろ。連絡はしとけよ』

『わかった』


 そんな話をしていると、リビリィにメイラがやってきた。


『よお、みんな。何かわかったか?』


 フランクな口調でリビリィが声をかける。


『いえ、今のところは……局長、こちらの方は?』

『ああ、彼女は防衛総省情報部のケラー・メイラ・バウルーサ・ヴェマ トゥラ・キャスカーだ』


 メイラはリビリィにさっと平手で紹介される。


『ケラーは知事のお嬢さんだよ。失礼のないようにな』

『そんな。リビリィ局長、お気遣いは無用でお願い致します』

『そかい? んじゃ気遣いナシだってさ』


 そんなリビリィの口調に保安部員も乾いた笑いで少し緊張も解ける。だが、リビリィの目は笑っていない。無論メイラもだ。

 なんせリビリィが治安部門の局長職について初めての大きな事件だ。このままでは犯罪発生率を限りなくゼロにしていた自治局の名折れである。


 保安部員は、リビリィに事の次第を報告する。


『……そうかい。これといった痕跡がないってか』

『はい局長。ただ……精密スキャニングをかけたらイオン化反応は出るんです。ですから、ここで誰かがブラスター系の武器を使ったのは間違いないかと』


 ふぅむと怪訝な顔をするリビリィ。


『キャスカー・メイラ。どう思うね』

『リビリィ局長、メイラで結構ですよ』

『そうかい。んじゃあたいのこともリビリィでいいぜ』

『ええ、ではリビリィ。とにかくここの責任者、ポルタラ局長をお呼びしたほうが良いと思います。まずはそこからでしょう。責任者がいないとこの施設全体の調査もできないでしょうし』


 するとリビリィもそりゃそうだという顔で


『そうだな。ポル呼ばねぇと話が先に進まねぇか』


 そう彼女が話すと、PVMCGを操作してポルのコードを呼び出すが……


『ありゃ? 反応がないな……どうしたんだ?』


 すると先ほどの保安院がポルを見た旨をリビリィに告げる。


『そうなのか。で、どこへ行ったかわかるかい?』

『ハイ、日本治外法権区の方へいらっしゃってましたから、恐らく帰宅なさるのではないかと思いまして』

『まあポルはあたいと同じで、旦那さんとニホンに住んでるからな。それでも連絡できないってのもおかしな話だね……まさかダンナとムフフな事してるとか』

『コノ一大事に何をいってるんですかリビリィ。で、あなた。他に何か気がついたことは? どんな些細なことでもいいから気づいたら話して下さい。くだらないと思うことでもいいわ』

『ええ、そういえば……ポルタラ局長、あの何て言うのでしたっけ? 地球人がよく顔につけているこういった装飾品ですか?』


 そういうと保安院は両手にOKマークを作って自分の目に当てる。


『アア、メガネとかいうヤツだね。あれはポルが気に入っていつもつけてるんダ』

『はい。そうお聞きしていたんですが、それを外していらっしゃったようで』

『何?』


 その話を聞いてリビリィは顔色を変える。そして口元をモゴモゴさせながら顎に手を当てて考える。


『どうなさいましたリビリィ?』

『……ん? あ、アア……いや、ポルのヤツ、そのメガネをものすごく気に入っていてな。なんでもあの最初にケラー・カシワギ達と会った時に、ジエイタイのフリュにもらったヤツらしくて、アイツ一番のお気に入りなんだ……自分でも言ってたけど、フロ入るときと寝るとき以外は外した事ないっていってたからな……』


 その言葉を聞いて、メイラの顔がやおら鬼の形相に変わっていく。

 すると彼女は黄色い声で怒鳴り散らすように


『早く応援を呼んでっ! そしてこの施設を徹底的に捜索してっ! 早く早く! でないとポルタラ局長の命が危ないかもっ! 早くっ!!』


 メイラの急な態度の豹変に、さしものリビリィも腰を抜かす。


『どどど、どうしたのさメイラ! 落ち着けって』

『これが落ち着いていられますか! リビリィ局長。申し訳ないですけど、今すぐ日本治外法権区の転送装置を止めるように処置してくださイ! トッキやメルヴェンもいますから、最大級の警戒態勢を』

『ち、ちょっと待てよ、もしかしてアンタがそんなに焦るなんて、もしかして……』


 メイラは左右の人気をサっと確認すると、リビリィの耳元で


『(ええ、そうです。あの保安部員の見たポルタラ局長、ヤツの可能性があります)』


 その一言でリビリィは目元をギンとさせ、即座に


『オマエとオマエ! ついて来い! あとのみんなは、このケラー・メイラの指揮下に入れ。あとから来る応援もそのようにな。あたい達は日本治外法権区に行ってくる!』


 そういうとダッシュで、かつVMCモニター造成して誰かと話しつつ、リビリィは大急ぎでその場を離れる!




 ………………………………




 それからすぐ。

 応援のメルヴェン隊員。特危隊員が資料館に到着すると、大々的なポル捜索活動が始まった。

 リビリィは治外法権区画でニセポルの捜索を始めたそうだ。

 

(奴らは襲った対象をすぐには殺さない……襲った対象は、体力を奪って拘束し、ゆっくりと死に追いやる。おまけに拘束した時、ジャミングをかけて被害者を探しにくくする。早く見つけないと……)


 焦るメイラ。 

 すると、応援に来た特危自衛隊員・陸上科所属。樫本昭典かしもとあきのり三等特佐が報告にやってくる。

 この樫本。もちろんかの旧姓リアッサ・ジンム・メッサの現旦那さんである。今、彼女の名前は勿論ダストール市民名リアッサ・ジンム・カシモト。日本名を元の名前からもじって『樫本理亜かしもとりあ』とした。ちなみにリアッサは現在特危自衛隊陸上科一佐である。


『申し訳ありませんカーシェル・カシモト。私のほうが階級下なのに皆さんを指揮することになってしまっテ』

 ペコリと頭を下げるメイラ。


「いや、かまわないよメイラ中尉。今はそんなこと言ってる場合じゃない。とにかくポルさんが犠牲になった可能性が高いなら、早く助けださないと……それから今、事が事だけにという事でね。保安部員は全員リビリィ局長の応援へ回した。ここには特危とメルヴェンしかいないから、例の事件の事は普通に話してもらって構わない」

『了解です。感謝します』


 頷く樫本。


「しかし……ここまで探して見つからないということは、奴はポルさんをどこかに移動させて放置したか?」

『イエ、ブラスター発射警報の鳴った時間を考えると、ここのどこかにきっと放置しているはずです』

「だが、もしそうなら連中、相当高度な秘匿技術を持っているということになる……まあそりゃ次元溝潜伏なんて技術持ってたんだからな。隠れる隠すは連中の十八番なんだろうが……」


 確かにここ最近、例のシレイラ号事件から疑われているガーグ・デーラの工作員。

 あえてスパイと言わないのは、スパイかどうかもわからないからだが、先の恒星間旅客船内殺人未遂事件でわかった連中の秘匿技術。実は機動兵器並の大きさで使うには、あまり高性能を発揮できるとは言いがたいもので、逆に言えば大型機動兵器での対探知偽装技術が未熟な代わりに、例の次元溝潜伏技術を活用しているとも判断できる。

 逆に、こういったヒューマノイド型生物程度な大きさのものを遮蔽隠匿するのであれば、『視覚偽装』『熱電磁波遮蔽偽装』に関しては、かなり高度な技術を持っているということがわかっていた。


「そうなのか……ならマズイな。それなら生体反応も追えやしない。生体反応は熱電磁波反応の一種だからな」

『当然敵はポルタラ局長のゼルクォートも奪っているなり破壊するなりしているでしょウ。ですからゼルクォートの位置情報も追えません』

「何か方法はないのか? メイラ中尉」

『一つだけ……ただちょっと危険な賭けになりますが……』

「この際なんでもいい。彼女を早く見つけないと」

『分かりました。では、医療部門の担当者をここに呼んでください』

「医療部門担当者を? 一体何をする気だ」

『それは後ほど説明しまス』



 ……さて、それからすぐ、樫本はヤルバーン医療部門のスタッフを資料館に寄越し、待機させる。


「で、どうするんだ中尉」

『捜索活動は続行中ですね』

「ああ、もちろんだ。」

『フゥ、それまでに見つかったらいいんだけど……ハァ、では説明しますが……イゼイラ人に限らず、多くのティ連人は、体にある処置を施しています』

「ある処置? それは?」

『ハイ、生体機能停止警報装置を体の中に埋め込んでいるのです』

「は? 生体機能……なんだそれは」

『ええ。元々は精死病の発病対策としての処置なのですが、あの精死病は突如として何の前触れもなく発症しますので、下手をすると前人未到の地で発症し倒れて放置されてしまうケースもありました。その際、発病して放置状態になってしまった人を発見、回収するための措置として、生体機能が停止した場合、体に埋め込んだその装置が量子通信機能で緊急信号を発するようになっています。その信号を追えば、対象の位置は判明して多くの場合保護できます……必ずとは言えませんが……先の殺人未遂事件でも、被害者を発見したクルーは、旅客船のメインシステムが感知したその信号を追ったという話らしく、おかげで救出できたそうです』


 大きさとしてはおはじきぐらいの小さい機器だそうで、ほとんどのイゼイラ人は物心つくと医療機関で肋骨の中へ転送でその機器を埋め込んでしまう処置を施すのだそうだ。無論フェルやリビリィにメイラもそれを埋め込ませている。他の種族も種族に合った体の場所に、同じような機器を埋め込ませている。


『ですから、ポルタラ局長の生体機能停止反応。つまり心停止状態に陥ったら、その機器が必ず作動して緊急を伝えるはずです。そして体のナノマシンがポルタラ局長の生命維持に最大の機能を発揮しようとしますから、ナノマシンが頑張っている間に彼女を探しだし、処置すれば助けられます』

「なるほど。だが、それは最悪の場合を考えた方法だ。それまでに探し出せれば御の字だが……」


 樫本は苦虫を噛み潰したような顔をする。だが現状はそれしか方法がない。彼は全体指揮のためにロビーへ出て、メイラと二人で指揮をするが……良い報告は入ってこない。そしてこの間を利用してメイラにある疑問を問う。


「メイラ中尉、では連中がすぐにコピー相手を殺さないのは、その機器の機能を敵も知っているから……というわけか?」

『恐らくは』


 つまりもし写身相手を簡単に殺してしまうと、先の生体機能停止警報機能が即作動してしまい、バレる。その事を敵は知っているというわけである。

 更に言えば、そのようにしてジワリと時間をかけて殺す間、コピー元の生体機能警報が反応した時にはまた次の獲物に同じことをやってと時間差を利用してどんどんと別人になりすまうというえげつない戦法で工作活動をする相手なのだ。


「頭は回るってことか、クソっ……って、おいおい……じゃぁそんなのが今日本本土に上陸しちまったら、日本国民殺し放題でコピーし放題ってことじゃないか! まずいぞ!」


 メイラもその意味を理解し、「アッ!」と思う。

 そりゃそうだ。日本人はそんな「生体機能停止警報装置」なんて恐らく誰一人付けていない。


 樫本は大慌てで部下を呼び、リビリィにその詳細を伝えろと指示する。

 部下もその話を聞いて驚き、すぐにPVMCGを開けてリビリィを呼び出していた。

 と、その時! 救護班として来ていた医療スタッフの機器が、甲高い音を鳴らす!


『ケラー・カシモト! 信号です! 今、ポルタラ局長が心停止しました!』

「何! 信号はどこからだ!」

『えっと……ええっ!? そ、そこの手洗いからです!』

「んだとぉ!?」


 隊員達その言葉に手洗い付近へ殺到する。だが。見た目では全然わからない。

 センサーにも反応しない。


「重力センサーはっ!」

「こんな建造物の中じゃ使っても意味ありませんよっ!」


 いろいろ『モノ』があふれるこんな場所で重力センサー使っても意味が無い。

 すると、樫本が何かひらめいてロビーに置いてあった植木の木を引っこ抜いた鉢を持って走ってきた。


「どけっ! これでどうだ!」


 彼は鉢の中の土を、手洗い前の廊下一面にぶちまける。

 すると彼の策が当たった! 廊下の端のほうに違和感ある土を被った盛り上がりが見えた。


「あれだ! 衛生!」


 思わず救護スタッフに衛生と叫んでしまう樫本。彼らは衛生兵ではない。

 だが救護スタッフは機敏に反応し、即座にその違和感ある物体へ駆け寄る。

 

 まずその光学遮蔽された物体の形状を把握するために、対光学遮蔽解除用の機材でジャミングをかける。

 すると、まるで何かの端子か配線でぐるぐる巻きにされた物体が姿を現す。無論明らかにゼル端子だ。


『こんな機能を持ったゼル端子は初めてです。霧散していないということは、まだ敵はゼル造成影響範囲にいるということでスね』


 医療スタッフがそう話すと


「その影響範囲はどれぐらいなのですか?」

『それは何とも……あの対人ドーラでもチキュウの距離単位で言えば、半径五〇キロに及びます。マァ、我々の持つ、この小さいゼルクォートでも半径三〇キロはありますからね』


 樫本の問いに答える医療スタッフ。

 ゼル技術の造成影響範囲は相当なものだ。特にティ連のゼル造成技術は、そこに中継リンクシステムが介在すると、その中継機器範囲内にいるかぎりほぼ無限の影響距離を誇る。

 

「半径五〇キロか……ヤルバーンの位置からだと、指定転送ポイントがあるヤルバーン以外の場所は、大島ぐらいなものか……おい、曹長。大島駐留部隊にも……」


 樫本は部下を呼び、大島にある陸上自衛隊警備部隊に連絡を入れる。

 連合・LNIF国際合同会議場。かつて日本・米国・サマルカ・イゼイラ・ティ連の外交会議施設として建てられたかの場所は、現在その機能を更に国際化させている。所謂そこも最重要警備対象施設となってしまっているわけで、その施設へ警備駐留している陸上自衛隊部隊を呼び出し、ポルに似た不審者に警戒するよう通達させる。


 樫本が作業を指示している間、順調にポル救出作戦が進む現場。

 医療スタッフは、ゼル分子結合を解除させる波動発信装置を駆使しながら、その繭状に固着した表面物質を除去していく。

 すると……ポルがその繭状物質から顔を覗かせた。それを見た樫本にメイラ。


「ポルさん! ポルさん! しっかり!!」

『ケラー! しっかりして!!』


 だが顔が真っ青のポル。現在心停止状態だが、ナノマシンが脳や神経を中心に、体中へ酸素を運んで、所謂地球人感覚の『死亡』状態にさせまいと必死にがんばっていた。

 

『どうだ?』


 医療スタッフリーダーが部下に問う。


『ハイ、これなら大丈夫です。サボールがよく頑張ってくれています。ですが、敵も遅延死を起こさせるナノマシンをポルタラ局長に打ち込んでいます。調査局員用の広範囲疾病対応サボールがこのナノマシンを駆逐するために働いてくれたから良かったものの、広範囲疾病用でなかったら、正直危なかったですネ。あの患者の二の舞になるところでした』

『ああ、そのようだな……だが、こんなナノマシンを打ち込むなんて……残酷な事をする……』


 歯ぎしりさせて怒りを飲み込む医療スタッフ達。

 だが今は冷静さを欠いてはいけない。とにかくポルを助けることが第一だ。

 

「どうですか先生」

『…………』


 樫本の問に答えず、何やら薬剤をプシュっとポルの腕に打ち込む。

 すると、ポルの体が一瞬ピクンと脈打ち、胸元を上下させ、呼吸が戻った。


『……呼吸が戻った。これで大丈夫です……良かった……』


 その場にいる全員、安堵し、胸をなでおろす。

 すると、入り口から何やら騒々しく……


『ポルっ! ポルっ!』


 と大きな声で叫びながら必死の形相で資料館へ突貫してくるフリュ。

 話を聞いたリビリィだった。


『おいポル! しっかり……』

「あぁあぁ、リビリィ局長、大丈夫、だぁいじょうぶです」


 暴れ馬を宥めるようにどうどうとリビリィの肩を抑えて、トントンと叩く。

 

「今、蘇生に成功しました。脳障害などもないそうです」

『ハァ、そうか……良かった……クソっ!! ガーグの野郎! ポルをこんな風にしやがって! 見つけたら、あたいがブっ殺してやるっ!』


 過激な言葉を吐いて、怒りを露わにするリビリィ。ドガンと柱に鉄拳を食らわせる。

 どうどうと宥めるメイラ。リビリィもなんとか落ち着こうと、メイラに平手で「わかってる」と言い、その場を落ち着きなくウロウロする。


『ところでリビリィ。治外法権区側の状況は……』

『ああメイラ。それを知らせるついでにコッチの状況も把握しようと思ってナ。向かってる途中でこの連絡を受けた……』

『そうでしたか』

「局長、では現在の治外法権区捜索の指揮は?」

『イル・カーシェル・シャルリが応援に来てくれてナ。今は任せてるよ』


 頷く樫本。

 リビリィはポルが気になる。医療カプセルに横たわった彼女を眺める。

 顔の血色は良くなった。今はまるで疲れて眠りこけるような息づかいをしているポル。

 怒りもとりあえず収まり、フゥと吐息をついて安堵の表情をするリビリィ。

 フェルやポルの夫には、あとで自分が報告しようと思う。柏木への報告は、フェルに頼もうかと、そんなことを考えたり。なんせ今の柏木はちょっと立場が偉すぎる。おいそれと連絡しにくいので、ここはフェルにお願いするのが筋だろう。


「で、リビリィ局長。その報告してもらえる情報というのは……」

『あ? アア、すまないね。そうだった……』


 リビリィは、顔をパンパンと叩いてスイッチを入れ替える。とにかくポルは助かったので仕事へ集中だ。


『実はナ、あの野郎……いや、もうドーラっいってもいいか。で、奴はどうもヤルバーンを出て、チキュウのニホン国外へ行こうとしていたミタイなんだ』


 その話にギョっとする諸氏。特に特危自衛隊員の日本人。


 リビリィが推測するに、ドーラはどうも州外そして日本国外に出たがっているのだろうという。

 応援に来たシャルリが話してくれた情報も含めて推測するに、そうとしか思えないという話だ。

 無論その理由は不明ではあるが……

 だが仮にそうであっても、現状転送ステーションを利用して出ることはできない。なぜなら転送機をくぐった瞬間に、バイタルを探知されて、そのまま転送着したと同時に拘束される可能性があるからだ。下手すれば転送着点を変更され、地中一〇〇〇メートルに放り込まれる可能性もある。

 ならば、デロニカ便のような旅客トランスポーターに乗ったほうが良い。だがこれでも出国手続きで、もう今なら簡単にバレる。ということはポルも助かった現状、今度はまた別人を襲って……と当然なるのではないかという話に当然行きつく。


「ならば、今がチャンスだと」

『アア。ということでなケラー。こっちのトッキとメルヴェンも、治外法権区へ寄越してくれ。徹底的に捜索するぜ』

「なるほど了解しました……おい曹長!……」


 樫本は隊員へ即座に指示を出す。

 ポルと医療スタッフを護衛する要員を残して、全員治外法権区へ戻ることとした。

 行政府からポル搬送用のトランスポーターを呼ぶメイラ。すると、そのトランスポーターにはヴェルデオと、なんとナヨが便乗していた。


『メイラ! ポルタラ局長の容態は!』

『ファルン!? え、ええ。もう安定しているわ、大丈夫よ。ってどうしたの?』

『そりゃ一報を聞いて驚いてな。ナヨ閣下も同じくだよ。それでこちらに来る緊急のトランスポーターがあるというので便乗させてもらった』


 頷くメイラ。ナヨを見ると、トランスポーターに運ばれるポルをカプセル越しに覗いて、カプセルをなでていた。


『可哀想に……ドーラとかぬかす者。残酷な事をしおる。許せぬな……』


 するとナヨは樫本やリビリィ達に向かって


『そこなジエイタイイン。名はなんと?』

「はっ閣下。特危自衛隊三等特佐。樫本昭典と申します」

『うむ。ではカシモトサンサ。妾もそなたらに協力しましょウ。妾はかの者どもと近しい存在故、役にも立ちましょうや』

「ええっ! いや、しかし……」


 その言葉に焦る樫本。まさかイゼイラの創造主様が、こんなド現場で手伝ってくれるとはと。


『そそんな、恐れ多いですナヨ閣下』

『そ、そうだぜ……じゃなかった。そうですよナヨ閣下!』


 メイラもちょっと待てとナヨに意見する。

 リビリィも同じ感じ。


『かまいませぬ。妾も何かの役に立ちましょう。急いだほうがよいのでは?』


 樫本も一つ吐息をつくと、ナヨの言葉に同意する。確かにナヨの存在を考えると、彼女のいう通りだ。

 ナヨに樫本、リビリィにメイラらはナヨの言葉に同意すると、後はヴェルデオに任せて即座に治外法権区へと向かった……




 ………………………………



 

 ポルが発見される少し前。

 日本治外法権区にある件の名物飲食店『瀬戸かつ』


「あら、そうなのかい智子。それは残念ね」と雪代

「そりゃヴェルデオ知事さんの娘さんだ。コレとは比べ物にならねー忙しさだろ」


 コレと智子を指さして雪代に話す譲治。


「なによ、コレって。私だってこれでも忙しい身なんですからねっ」

「その忙しい身がここで、飯食ってりゃ説得力に欠けるわな」

「もーー」


 爆笑する店のみんな。

 まかない飯を作ってもらい、そんな話しながらしっかり晩飯にありついている智子。

 すると、仕出し納品に出ていたこの店のアルバイトなヴィスパー人フリュが店に戻ってきた。


『タダイマ~』


 光が当たると七色に光る複眼に、眉間あたりからくるりと巻いた触覚のようなもの。ホワホワな綿毛のような髪の毛に、首筋にも綿毛のような毛が生え、後頭部から尾てい骨あたりにまでもホワホワした綿毛のような毛を生やす色白肌が特徴のヴィスパー人。名は『ペルペ・マルモ』という。

 この店へ空いた時間を利用してアルバイトに来てくれている。

 美人は美人なのだが、どっちかというと可愛い系なフリュである。いかんせん少し蝶々な風味なのでこの種族さんを好きになれる日本人は、ちょっと限られてくるのではないかと思われた。ただ、譲治たちとも普通に接しているので、特に地球人主観で異常な風体の異星人というわけではない。

 本職はヤルバーン行政府社会福祉局の一等局員だ。アルバイトとはいえ、ペルペはかの調印式艦隊でやってきたヤルバーン定住者なので、なんだかんだで彼女もここへアルバイトにきて、もうかれこれ七年近くなる。智子ともなんだかんだで長い付き合いになるフリュだ。


『オヤカタサン。何かえらく外が騒がしいですネ』

「あ、ペルお帰り。って、騒がしいって何かあったのか?」


 譲治がペルペの出前箱を預かると、心配そうに語る。


『よくワカンナイですけど、保安部の人たちが大勢来てましたヨ。リビリィ局長も見ましタ』


 するとその話に智子がピクっとなる。無論、ここに来る前、メイラと話していたことだ。


「え? リビリィ局長が?」

『ハい、トモサン。なニかエラく深刻そうな顔をしていましタが……』


 その話を聞いて、智子は下唇を上唇に重ねて考える目をする。


(ちょっと街の様子見ながら帰ろうか……家で待機していたほうが良さそうね)


 すると彼女は席を立ち 


「お父さん、お母さん。ゴメン、私そろそろ帰るわ。ご飯ご馳走様」

「おう、気を付けてな」

「お休みね、智子」


 するとぺルぺが


『ア、じゃぁ私、トモサンを送っていきマス』

「おうすまねぇなぺル」


 と二人して店を出る。

 少し街を見回って帰宅しようと思い、店を出た。

 確かにさっき店へ入った時と比べると、保安部員の数が多く、何やら深刻な表情でそこらを走り回っている。何やら人を呼び止めて職質のようなことをしている保安部員もいるようだ。

 その様子を見ながら街を歩く智子とペルペ。


『トコロでトモサン。今日は転送機が使えないようですヨ』

「え? そなの? またどうして?」

『ナンデモ大きな故障が発生したとかデ、こんな事も珍しいでスガ』

「そう……」と少し考える智子。無論そんな話を真に受ける彼女ではない。当然思うは(……多分、メイラの言っていたあのことね。何か動きがあったか……って、私が考えても仕方ないけど)


『トモサン? どうしマシタ?』

「え? あ、ううん。なんでもない。じゃぁ今日はトランスポータータクシーか、デロニカに乗って羽田ね」

『ウフフ、そうですね。どっちにしまス? デロニカ便なら一杯飲みながら帰れますヨ』

「もう、デロニカ便は観光周遊便でしょ? 羽田まで一時間半かかるのよ。それに片道二万円もするんですからね。まぁ豪華ディナー付きだけど」


 ちなみにトランスポータータクシーなら飛行時間は約一五分。片道羽田までは五〇〇円。羽田を経由するという条件で、羽田空港からそのまま本土の任意の場所へ乗り付け可能。そこからは一キロ二〇円である。

 転送より少々高いが、任意の場所まで行ってくれるということもあって、実は転送便と同じぐらい人気がある。

 ということで、デロニカ・トランスポーター発着場へ歩く智子。


『ジャァ、トモサン。おやすみなさい』

「うん、ペルも。またお休みの時に渋谷にでも遊びに行きましょ」

『ハイ。楽しみにシテマス』


 といってペルペと別れる。

 チケットを買ってトランスポーター乗り場へ向かう智子。振り返って手を振る。ペルペも同じく。

 つま先立ちで智子が見えなくなるまで見送る……智子が見えなくなると振り返り店に戻ろうとするペルペ。

 だが、その一瞬、彼女の広い視界に気になる存在が一瞬入った。


(あれ?……)そう思いヴィスパー人特有の広い視界でもう一度周囲を確認すると、その存在が何かわかった。


(あれは……ポルタラ局長? あ、そうか、転送機使えないから局長もトランスポーターで家に帰るのかな?)


 真っ白いポルは遠目でもよく目立つ。彼女が日本に住んでいるのは皆知っていることなので、そこにポルがいることへ特に違和感も感じない彼女。

 そう納得すると、彼女は店へ戻っていった……



 智子がトランスポーター発着場に着くと、案の定長い長い行列が待っていた。

 転送機が使えない……というか使えなくしたわけだが、そうなると皆このトランスポータータクシー乗り場へ殺到してくる。

 そりゃ高級料理食いながら羽田へ帰るのも悪くないが、二万円はちと高い。


 そもそも、この地へ来るのは転送機がその需要の七割を担っていたので、その七割をすべてトランスポーターで補うのは無理があって当たり前。

 当然クレームやブーイングも起ころうというものだ。キレた日本人をなだめる発着場スタッフのこれまた日本人にティ連人。

 智子も確かにこれだけ並んでいれば、少々イライラもしてくる。これなら二万円払って、一杯飲みながら羽田へ行くのも良かったか、それとも


「はぁ、もう……こんな調子じゃ今日中に家へ帰れるかどうかもわかんないわね。お店で泊まったほうが良かったかしら」

 

 と、ため息を一つつくと、もういいやと今日の帰宅を諦め、来た道を戻ろうとする。

 すると、列の後部で何か言い合うような声がする。


「おいお前! なに割り込みしてるんだよっ!」

「ちゃんと並べよっ!」


 何やらこのイラつくシチュエーションの中、モラルのないバカが、またやらかしてるんだなと智子は思いつつ、野次馬根性でどんな顔のヤツか拝みに……


「えっ! ポ、ポルタラ局長!?」


 その真っ白な容姿。羽髪の先っちょにアクセントで走る黒とグレーのライン。その容姿を知らぬ人など、この日本にはまずいるまい……と言いたいところだったが、いつものポルさんはメガネがトレードマーク。

 メガネのないポルは、あまり他の人に印象がない。白肌イゼイラ人は、数は少ないがナヨをはじめ複数いるにはいるので、やはりポルさんといえば、メガネ異星人のポルというイメージなのである。

 人の容姿を覚えるとき、その人の特徴となる部分で人間はその人を認識し、記憶する。なのでメガネ異星人ポルさんから、メガネをとってしまうと、よく知っている親交の深い人以外は、誰だかわからなくなるものなのである。

 だが智子は仕事でよく合うので、メガネなしなポルの顔も知っていた。

 だが、そのポル。彼女の知っている雰囲気と大分違う。

 まるで生気のない、人形か彫像のような顔。横入りされて文句をいう日本人男性数人にギャーギャー言われても知らん顔だ。

 智子は本能的に


(これは……違う!?)


 と感じたその時、キレたその男性がポルの襟元掴んで

 

「おい! 聞いてんのかお前! どけっつってんだろ!」


 と列から排除しようとした瞬間……その『ポルらしき』フリュは急にギンっと目の色を変えて……

 

 逆にその男の襟を掴み返し、ブンっと、なんと片手で男を壁に向かって投げ飛ばしたのだ!

 嫌な音を鳴らしながら体を打ち付けられる男。


「あ、あなた! 大丈夫!」


 思わず智子がその男性に駆け寄る。そして抱えて起こすと、頭部出血だ。気を失っていた。

 途端にその混雑した場所で人々がキャーー! と悲鳴を上げ蜘蛛の子を散らすようにポルらしき人物から距離を取る。


 その不穏な奴は、男性へ駆け寄った智子を冷たい目で睨んでいた。

 智子は今になって気づく。このポル、メガネをかけていないと。

 いつもメガネをクイと上げて、お澄ましながらも愛嬌のあるポルとは似ても似つかない冷たい眼光。

 智子は思わずその口から


「あ、あなた! 何者!?」


 と出てしまった。

 その言葉に反応するポル。ゆっくりと見下ろすように智子に近づく。

 すると、他の日本人男性が後ろから羽交い締めにしようとゆっくり近づくが……


 すぐに気づかれ、首根っこをワシ掴みにされる。


「ぐ、ぐは!」


 その男性を持ち上げるポル。すると、なんとポルの指先から何か端子のようなものが伸び、男の首筋に何かを埋め込み、這わせていくではないか。

 咄嗟に智子はイゼイラ留学で得た知識を掘り起こして叫ぶ。


「ま、まさかあれって、ゼ、セル端子!」


 男は見る間に体を何か妙な配線に支配されていく。

 悲鳴とも嗚咽ともつかない声を上げて、ぎこちない動き……まるで昔見た映画に出てくるゾンビのような、でもまだあれよりは機敏な動きの妙な化け物に変わっていく。


 もう現場は大パニックだ。 

 キャーキャーウワァァァと悲鳴が走り、我先に外へ逃げ出そうとする。

 そんな中でもコケた人や腰を抜かした人をかばい、肩を貸して避難しようとする日本人やティ連人もいた。

 智子はそのサマを見て、さすがに驚愕し、足がすくんで動けない。

 すると、どこからか男性とフリュなカップルの日本人とイゼイラ人。そして米国人と台湾人が智子と、気を失った日本人の元に駆け寄ってきた。


「あんた! なにしている早く逃げろ!」

『ドウシタノですか!』


 すると智子は必死の形相で


「わ、私は一人でなんとかなります! この人を!」


 助けに来てくれたその四人に怪我した日本人を託す。

 その中の米国人は、軍隊経験でもあるのだろうか、日本人の襟をもって、引きづりその場を離れる。

 するとあろうことかニセポルは、逃げ惑う日本人や、外国人、異星人を適当に見繕って、ゼル端子を飛ばしてきたのだ。


 ゼル端子を食らった数名は見る間に全身を端子に侵され、ゾンビのようになっていく。


「あ・あ・あ……」


 狼狽する智子。

 ポルもどきは次のターゲットを智子ではなく、先のけが人を運んでくれた四人らに合わせ、智子を無視してそいつらに向かて手を伸ばし、ゼル端子を発射しようと……


 するとグサっという音とともに、ポルもどきの足に、出刃包丁が刺さった。

 端子発射を中止するポルもどき。

 その出刃包丁を抜き、ジロと眺めるポルもどき。傷口からは出血せず、すぐにそれは塞がる。

 包丁が飛んできた方向を見ると……なんと智子が出刃包丁を両手に二本持って、鬼の形相で立ち上がっていた。


「おいお前! 私が相手よ! こっちにきなさい!」


 この出刃包丁。無論こんな包丁何本も趣味で智子がもっていたわけではなく、PVMCGの造成品だった。

 それはもちろん店を手伝うときに使うものである。店にある父の愛用包丁を以前データにして取り込んでいたやつだ。で、イゼイラ人の奥様方に包丁データをあげたところ、使い勝手が良いと評判良く、社交プレゼント用で、そのままにしていたシロモノだった。


「えいっ!」


 その包丁を投げつける智子。

 さっき刺さったのは偶然だったようだ。それもそうだ。ダーツじゃあるまいし、素人が包丁投げて、そんなにスパスパ刺さるものではない。

 だが三本目を造成して投げつけると、ポルもどきの胸に包丁が刺さった。

 その包丁をジロと見るポルもどき。すると其奴は智子のPVMCGをジロと見て、危険と判断したのだろうか……


(よし、私に目標を変えた!)

 

 そう思うと智子はダッシュでその場から逃げる。


(どこに逃げる? 外? 外はダメ。こんなの外に出したらえらいことになるわ。なるべく隠れるところが多くて、いざとなったらコイツを倒すなり捕獲するなりできるところ……)


 逃げながら風景を眺めて考える智子。彼女は結構足が早い。イゼイラ科学院の課外活動では陸上運動サークルに所属してた。が……それ以上にポルもどきは更に足が速かった。それもそうだ、彼女はもう見た通り人間ではない。簡単に追いつかれ、進行方向を阻まれる。

 だが智子も負けてはいない。あたりを見回すと……


(あれは、物資搬入用のデルゲード? あれなら私も使える!)


 イゼイラでフォークリフト代わりに使っていた作業用デルゲード。智子も学生時代に色々と学業以外の作業もこなしていた時、この作業用デルゲードの操縦資格も取っていた。というか、ティ連の学生なら、かなりの学生が持っている資格である。


 智子はポルもどきに向かって全速力でダッシュ。当然敵は智子に襲いかかろうとするが、智子は持ち前の反射神経で腰をかがめてスライディングし、ポルもどきの後方へすり抜けていく。いかんせんこの発着場の床はよく滑るので、サーーっと何メートルかスライディングし、すぐに立ち上がり、こけそうになりながらもデルゲードへ向かって走る。

 

(これで奴を!)と、まるで後頭部の長い凶悪宇宙生物を倒すヒロインでも演じてやろうかとデルゲードの装着装置に手をかける智子だが、ハっと下を見ると、デルゲードの足元に何か虫のような物体が寄生し、端子のようなものをデルゲードに這わせていく。

 世の中、そうそう映画みたいにうまくいくものではない。それがゼル端子だと気づくと慌ててデルゲードから飛び退く智子。


(くそーーー!!)


 と思うが、結果的ではあるが、デルゲードに乗らなくて正解だった。

 もし乗っていたら、乗った状態で……こんな感じになる。


「う、うわぁ!」


 いきなり無人のデルゲードが動き出し、その作業用マニピュレータな鉄拳を智子に振りかざしてくる。


「ひゃぁぁぁぁ!」


 これはたまらんと逃げ惑う智子。もし彼女がデルゲードに乗っていれば、デルゲードごとこんな風に操られていたかもしれない。

 更には後方からゼル奴隷化された被害者もウーウーとうめきながらやってくる。


「あわわわわ」


 流石にもう駄目かと思う。だが、自分の方へ敵の目標を誘導させることで、あの場にいた人々を避難させる時間はとにかく稼げた。あとは自分だけだとは思うが!……


「くそぉ!」


 踏ん張って立ち上がり、逃げようとする智子。だが、ポルもどきの手から触手のようなものが長く伸びて、彼女の足を捕らえる。ズデっと前のめりにこける智子。

 さすがにもうだめかと思ったその時。自分のやる事では、そうそう映画のようにはいかないが、ここはなんだかんだでヤルバーンである。映画のような状況はいつも起こり、今があった。そして今もそれが起こる!


 閃光一線智子の眼前を過ぎるやいなや、ゼル奴隷化したデルゲードに命中し、火花散らして吹き飛ぶ。

 更に数本の閃光が低い高度を飛んでポルもどきが伸ばす触手を断ち切った。


「え? なに!?」


 すると智子が逃げてきた方向から声がする。


『誰カ! 誰かいますか!』

「そ、その声はメイラ!? メイラぁ!」

『えっ! あなたトモコ! そんなところでなにしてるの!』

「その話はあと! とにかく助けて!」

『わ、わかったわ。カーシェル・カシモト!』

「了解だ。第一班! 彼女を救出にいけ! 第二班はあのゼル奴隷化した民間人を無力化しろ! 殺すなよっ! で、あとは……」


 と樫本がいおうとした瞬間、ブラスターの閃光がポルもどきを襲う。

 だが、ポルもどきは体にシールドを発現させ、簡単にブラスターを弾く。


『クソっ! やはりコイツはドーラ野郎かよっ!』


 そのブラスター一閃はリビリィだった。親友を半殺しならぬ九割殺しにされた怒りの一撃だ。だが、その攻撃を簡単に弾かれ歯ぎしりする彼女。


「リビリィ局長、落ち着いて!」


 リビリィに駆け寄り、ブラスター構える腕を抑える樫本。

 するとその背後からも


『そうですよ。カシモトの言うとおりですリビリィ。感情的になってはいけませぬよ』


 そっとリビリィの肩に手をおいて落ち着けというのは、ナヨ閣下であった。

 その背筋を伸ばした堂々たる登場。やはり遺志が実体化した創造主様の威厳は伊達ではない。


「え? え? も、もしかしてナヨ閣下!?」

『あい、トモコ。なんでもそなた。発着場にいた民を逃すために、一人ここへ彼奴を誘導し、時間稼ぎをしていたという話ではありませぬか。その判断と勇気、そして行動。天晴です』


 なんでも先の投げ飛ばされた男を退避させてくれた日本人男性とイゼイラ人フリュ。それに米国人男性と台湾人男性が、智子の窮地を樫本らに説明してくれていたという話。 


『カシモト、リビリィ、そなたらはあの傀儡化された大和の民を保護しなさい。メイラはトモコの治療を。相手はドーラです。何があるやわかりませぬ』  


「了解です閣下」と樫本。

『了解だぜ、ナヨ閣下』とリビリィ

『わかりました閣下』というと、智子を庇って後ろへ下がるメイラ。


「ナヨ閣下は!?」

『妾は、このニセポルの相手をしてしんぜます。どうやら妾が相手をしたほうが良さそうですネ』


 するとナヨは前へ踏み出てポルもどきに対峙する。


「一班とメイラ中尉はそのまま瀬戸部長を連れて後退しろ。二班! そっちの状況はどうか!」

「ゼル化された被害者をとりあえず拘束しました! 体のいうことがきかないようですが、皆意識はあります!」

「よし、お前たちも彼らを連れて外の医療班と合流しろ!」

「了解!」

「俺とリビリィ局長の隊はこのままナヨ閣下を援護する……閣下、まずは自分たちに任せて」


 頷くナヨ。まず樫本達の戦う様子を見て、状況観察といったところか。

 樫本、リビリィ隊は側面に回ってポルもどきに89式の狙いを付ける。

 リビリィの保安部隊も、手に持つ武器をブラスターから89式小銃のようなデザインのイゼイラ風味な銃に持ち替え、樫本の隊に呼応させる。


「よし、状況クリア! てっ!」


 バババっと各隊員一斉射。するとポルもどきにバスバスっと命中するが、出血のようなものも起こさず、何発か命中した時点でその動きを変え、ものすごいスピードで樫本達の攻撃を躱し始めた。


「なに! 動きが早い! 対人ドーラとは違うのか!?」


 以前、シミュレータで戦った対人ドーラとは明らかに違う動きと性能に樫本は焦る。


『ヤはり「ショウジュウ」では無理があるんじゃねーか? ケラー!』

「そのようだな!」


 こんな閉所で手榴弾を使うわけにもいかない。重力子ブラスターも同じ。

 この敵の速さには対物ライフルも照準が追いつかないだろう。

 今でも発砲する音が聞こえるが、効果的なダメージを与えているとは言いがたい。


「うわっ! か、体が!」


 ポルもどきの放ったゼル端子に隊員一人が食われた。

 

「く、そ、っ!」


 隊員はすかさず手に持つ小銃を放す。このまま持っていれば、味方にその照準を向けてしまうかもしれないからだ。


「待ってろ! 今なんとかしてやる」


 同僚が先に医療スタッフからもらった仮想分子結合を崩壊させる波動装置をその隊員にくっつける。そして、くっつけたまま拘束状態で襟元持って後方へ下がっていく。


「チッ! 動きが早くておまけにゼル端子も放ってくるなんて、たまらん相手だな!」

『ウムなるほど。これは対人ドーラの新型と見るべきや。カシモト、リビリィ。そなたらは各出入り口を封鎖しなさい。あとは妾に』

「了解です。確かにそのほうが良さそうです……局長、あなたは向こう側を」

『わかったぜ。クソっ、あたいがこの手でヤってやるつもりだったけど』


 そう話すと各員散開。出入り口にバリケードをPVMCGで造成させ、各員銃を構え待機。

 その様子、この離発着場がまるでポルもどきとナヨ、一対一の闘技場状態と化す。


『リン……ビョ……ト……シャ……カイ……』


 何やらブツブツと唱えているナヨ閣下。胸元で指を十字に動かしている。

 体制が整いナヨから離れる樫本が思うこと


(うわ、この御大、早九字切ってるよぉ~)


 口元波線で苦笑い。流石時代を感じさせる。ってか御大一応異星人だぞと。ちなみに安倍晴明の先祖と言われる阿倍御主人あべのみうしは竹取物語にも登場したりする。


 バリケードまで後退する樫本。出入り口をしっかり固めるように各員へ厳命する。


「さぁて、こりゃ金払って見てももいいぐらいのバトルになるぞぉ~。きちんと記録とっとけよ~」

「了解です三佐。ナヨ閣下カッコいいですね」

「ああ、とはいえ万が一の事もある。各員対物ライフルを装備。もしものときは一斉射だ」

「了解」


 副官の手合図とともに、特危隊員は全員対物ライフルを造成する。リビリィ隊へも通達。向こうもヴィスパー共和国製の対物ライフルを造成させ、装備した。


 ナヨはその様子を確認すると、みんな体制が整ったとみて、


『さて、ドーラとやら。いや、本当の名はわからぬな。こちらが勝手にそう呼んでおるだけのこと。うぬらにどの程度の知恵があるや知らぬが、この際その程度の事はどうでも良し。我らのはらからに成した事、ここで始末をつけさせてもらう』


 しばしナヨを睨みつけるポルもどき……いやヒトガタドーラ。瞬間、ナヨの話など知った事かと言わんばかりに腕をふりかぶり触手状の拘束具を打ち込んできた。

 すると、その触手はナヨの眼前で半球状の半透明な波動を発し、バシと弾かれる。ナヨの張ったシールドだ。その瞬間、ヒトガタの目つきが変わったように感じた。ナヨもその表情に気づくが、対人ドーラでも状況の変化があれば狼狽するような素振りを見せることは知られている。


 ナヨは敵の一撃を躱すと、すかさずお得意の指弾を近くにあったトランスポートタクシー二台に放ち、自らの制御下に置く。そしてトランスポーターを浮かせヒトガタにぶつけようと誘導した!


 ドンガラガッシャンとばかりにもう映画さながらな状況が始まる。

 対するヒトガタもそれを躱して触手を天井へ伸ばし高くジャンプすると、腕に光学切断機を造成させ、ナヨへ接近戦を敢行、彼女の頭部へ光の刃を振りかざす。

 だが、ナヨもこれ意外に運動神経がよく、これを華麗に躱すと足元にあったワイヤーをトラクターフィールドで手元へ引き寄せ、ポルの姿をしたヒトガタの首へ背後から巻きつけ、ブンと振り回し壁へ叩きつける。

 ヒトガタも負けてはいない。投げられる一瞬になんと、ゼル端子をナヨへ打ち込んだのか、ナヨの首筋から顔面に向かって端子が伸び始め、彼女を支配しようと試みる。


「ナヨ閣下っ! くそっまずいぞ!」と樫本

『うわっ! ナヨ閣下のゼル奴隷化なんて洒落になんねーぞ!』とリビリィ。


 全員ライフルをヒトガタに向け狙いを定めるが、ナヨが腕を平手で伸ばし、彼らを制する。

 目を細めて微笑するナヨ。すると首から顔半分位にかけて這わせていた端子が、ナヨの肉体へ埋もれるよに同化していく。


『それはさせませぬよ。ならば次は妾の番です』


 ナヨは一歩踏み出し、ダッシュするような素振りを見せると、その瞬間、光とともに消え、また刹那、ヒトガタの背後に光を纏ってその姿を表す。

 ナヨはヤルバーン州のメインシステムにアクセスし、転送システムを制御して自分の攻撃移動手段として使ったのだ。

 こうなったらもうナヨの独壇場である。もう今この時、ヤルバーン州のあらゆるシステムや機材がナヨの武器となる。

 彼女は手に太刀のような武器を造成し、ヒトガタに斬りかかる。ヒトガタは躱すがナヨの一振りで腕を根元からもっていかれた。

 宙を舞うポルのような腕。だが出血はしない。それどころか切り口は配線状の筋肉的な何かで構成されている。


「うぉぉぉ! すげぇ!」

「なんだありゃ、まるで妖怪対陰陽……」

「この戦闘映像、一生ものだぞ。これでメシ三杯いける!」

『ス、スゴイ! ナヨ閣下。さすがは創造主様!』

『ああ、オ、俺は夢を見ているのか!』


 特危隊員に保安隊員、ナヨとヒトガタのバトルを見てもう興奮状態だ。

 不謹慎だとは思いつつ、ナヨが魅せるその芸術的ともいえる戦いに、諸氏圧倒される。


 切り落とした腕は地面へ転がり落ちると同時に霧散する。

 圧倒的な転送移動で攻撃ラッシュを食らったヒトガタは、ボロボロに斬り刻まれ、背中からドサっと地面へ叩きつけられるように落ちる。

 ナヨは転送移動でヒトガタに距離を開けて顕現する。


 バシバシと青白い電気をまとうヒトガタ。ゆっくりと立ち上がるが、何かのシステムに異常をきたしたのか、仮想製体にノイズが走る。

 斬られた腕を再生させるも、その形状は何かロボット状で生物的ではない。と同時にポルの姿も崩れて、水色肌のイゼイラ人や、ダストール人、パーミラ人とその姿をバラバラかつ合成させたような、即ちエラーな仮想造成状態に陥っているようだ……今のナヨの一撃が効いたのか、腕を再生させたにもかかわらず、その体を自ら崩壊させていく。


『フム、観念したか?』


 太刀を霧散させて消し、パンパンと手を叩いて払うナヨ。だが敵も観念なんぞするわきゃなく


『!!』


 コアだけになったヒトガタドーラは、何を思ったのか……そいつはさっき吹き飛ばされたデルゲードに取り付き、同化しようとしていた。


「マズっ! そうきたか! 閣下さがって! そいつはパワーで押してきますよ!」

 

 樫本が叫ぶと、ナヨはウンと頷き、スイっとジャンプして樫本側のバリケードへ下る。

 

「よし全隊射撃準備! あれなら我々でも仕留められる!」


 全隊対物ライフルをドーラ・デルゲードと化した化物に向け照準。


「よーし! てっ!」


 特危に保安隊員全員分の対物ライフルが敵に向かって発射される。

 屋内に響き渡る対物ライフルの音、それは物凄い。

 リビリィ達保安部員の持つ対物ライフルは斥力レールガンのようなもので、発射炎ではなく空間波紋を発して弾丸をドーラ・デルゲードへと放つ。

 

 敵は特機隊員と保安隊員の一斉射をもろとも喰らい、各部部品を撒き散らしながら削られるように吹き飛んでいく。

 敵はしぶとく反撃しようと体をゼル再生させながら死に体で保安部隊員バリケード側へ進んでくる。

 一斉射でボロボロになるデルゲード。元々先にブラスターで吹き飛ばされた半壊品を無理からに同化した代物だ。このボロマシンに同化しようとしたのが運の尽きだった。。


『!……コアが見えた! コれはポルの分だ。喰らいやがれ!』


 リビリィが放つ対物ライフルの一撃。レティクルの合わさったドーラコアめがけて一撃を放つ。

 リビリィの射撃は正確だった。曳航引く弾丸は、デルゲードに巣食った小さなコアをぶち抜いた。

 派手な爆炎に爆発などは起こらないが、それが命中した瞬間、機械音のトーンが下がり、デルゲードはその場に崩れ落ちる。と同時にゼル端子に侵されたいろんな諸々も、ボロボロにはなったが、元の姿を取り戻す。


「いよっしゃ!」

「さすがリビリィさん!」


 特危隊員が握り拳作ってガッツポーズ。

 リビリィはフゥと一息ついてライフルを肩に担ぐ。ちなみにリビリィ。これで一児の母だということを忘れてはならない。ボーイッシュなオッカサンはこれまた強し。

 ナヨと目を合わすリビリィ。軽く微笑し、頷くナヨ。

 

「ハァ……ただ、あれですな。みんなして暴れまわったおかげで、この発着場、しばらく使えませんな」


 少々呆れ顔であたりを見回す樫本。

 

『それもやむ無しでしょう。離発着場一つで危険なドーラを始末できたのなら、安いものです』


 ナヨも今更だといった感じでお澄まし顔だ。


『デモ、ちょっと観光業に支障が出るぜ。それに……』

「ああ、流石に今回の事件は、表に出ざるを得ないな……目撃者もかなりいる」


 リビリィに樫本は、当然今後連想される問題を頭に思い描く。


『…………』


 ナヨは少し考える目をする。


『何かあるんですかい? ナヨ閣下』

『いや、少し思うところが……まあ今は良いでしょう……』


 ナヨの思うところ。さて、それは一体何なのであろうか……



 ………………………………




 デロニカ・トランスポートタクシー離発着場は、日本治外法権区の中にあるが、その管理管轄は日本とイゼイラ州共同管理下にある。

 かの事件があった翌日。日本政府も事の次第を重く見て、ヤルバーン州政府と共同でこの件の対応にあたることとした。

 ただいかんせん今回の事件は、一般人の目撃者がいるわけで、その数も結構なものだったりする。

 中には動画投稿サイトに携帯機器の動画をアップさせたりと、この時代もそんなところは一〇年前とあんまり変わっていない。

 変わっているといえば、この日本ではスマートフォンにPVMCGのVMCモニターのような空間画像投影機能を持った端末が発売されてたりと、相応に技術水準も進んでいたりするわけである。

 そんな端末が普通になっているこの時代、その情報伝播能力も相当に進んでいるわけで、今事件もやはり同様に世へ伝わっていく。

 ただそれでもガーグ・デーラの本質は公表しなかった。というよりも実際ティ連が今もってその存在の本質がわからないので、公表しようがない。なので幸か不幸かティ連のテロリスト扱いでまだ事なきを得ていた。


『フゥ、ココマデトハナ。ワリト大規模ニヤリアッタヨウダ』

『そうですネ。まさか私達がこのチキュウに来て、ここまでの被害を目の当たりにするとは……』


 デロニカ・トランスポーター離発着場の被害状況を視察に来たのは、見た目三十路に入った特危自衛隊航空宙間科シエ・カモル・タガワ将補。立派な将官制服に身を包んで……ピッチリなタイトスカートみたいなの履いて、三十路になってもあいも変わらずエロいエロ将官であった。

 その傍らには、見た目二八歳ぐらいのフェルフェリア副総理。

 この報告を受け、二人して日本治外法権区へ視察に来ていたのだった。


『ダガ、気ニイッタ』

『は? 何がデスか?』

『オマエノ大祖母ダヨ。今デモ従姉妹設定カ?』

『はぁ……』

『ナヨ議会進行長モ、マァココマデ良ク暴レタモノダナ。ナカナカヤルデハナイカ。一度手合ワセシテミタイモノダ』

『まぁた……もうシエもトシなんですから、そんな事ばっかり言ってると……』

『ア、何ヲ言ウカ。私ハマダ三〇周期ダゾ。昨日モダーリントダナ……』

『ハイハイわかりましたデスヨ』


 二人してそんなお盛んな話をしていると、人的被害拡大を抑えた功労者、智子が現場検証に立ち会っている姿が見えた。


「えっと、そうです。ここでそのドーラと日本の男の方がもみ合いになって……」

『ヤァ、トモコ。久シブリダナ』

『お久しぶりです。トモコサン』


 その声に「えっ!?」となる智子。


「え? フェルフェリア副総理にシエさん! うわ、お久しぶりです!」


 ニコニコでお互いハグしあう三人。


『コノ度ハ、大健闘ダッタソウデハナイカ』

『ええ。トモコサンが敵を引きつけたお陰で人的被害を最小限にできたとか』


 二人してベタ褒めである。けど智子は


「そんな……意識してやったわけじゃないですし。たまたまそれをできる立場にあっただけですから」

『多クノ人ハ、ナカナカソレヲ咄嗟ニデキルモノデハナイ。ヤハリソコハ賞賛サレテ然ルベキダロウ』

『エエ、私もそう思いますヨ』

「ありがとうございます」


 二人に褒められ照れまくる智子。だが、譲治と雪代には心配させたとそこは反省しきりだった。

 あの場面で逃げるべきか、今の結果のように立ち向かって行くべきか。

 どちらの判断も間違ってはいないのだろう。こればかりは『因果』のめぐり逢わせに他ならない。


 ということでシエとフェル。これから二人してポルを見舞いに行くとう話で、智子も一緒にどうかと誘われて三人してヤルバーン州の中央医療局へ向かう。

 医療局に到着すると、ロビーでリビリィが待っていた。


『ヨオ! ジエルダー・シエ。フェルフクソーリも……ありゃ、トモコも一緒かい』

「こんにちは。リビリィ局長」

『フフフ、久シブリダナ、リビリィ。ソンナ堅苦シイ呼ビ方ヲスルナ』

『そうですよリビリィ。ホント、お久しぶりデスね』

『だよなぁ……ケラー・フェルもケラー・シエも、トモコもあたいも、みんなそれなりに偉くなっちまったからなぁ』


 智子は今のこの構図に興奮しっぱなしであった。

 かの一〇年前に自分の人生を変えた、一連の『ヤルバーン飛来事件』当事者達が一同に介している。よくよく考えたら、自分も場末ながらその一人かと。


 とりあえず面子も揃ったのでポルが入院している病室へ向かう。

 正直あまり心配していないといえば嘘になる。なんせいくらティ連科学の医療技術とはいえ、一度は心停止したのだ。サボール・ナノマシンが頑張ってくれたとはいえ、やはり心停止は脳への負担も大きい。

 みんな明るく振る舞っているとはいえ、正直心配なのは心配だ。先の旅客船殺人未遂事件の例もある。あの被害者は結局相当な体への負担で完治するまでにかなりかかったらしい。


 そんな事を諸氏思い描きながら、リビリィがポルの病室をノックする。


『ふぁい。ろうぞ』


 ろれつが回っていない。やはり脳に障害が……

 沈痛な顔で病室のドアを開ける……


『あ、みんな、いらっひゃい。モグモグ……』


 ポル。イカ焼き食っているの図。


『……』な諸氏。


 治療カプセルが寝台モードになり、そのテーブルにはポルの大好きなイカ焼きにお好み焼き、今川焼。この今川焼は地域によっては大判焼やら回転焼に御座候ござそうろうなどと言われる。


『ハァァァァァ……』とタイトなスカートからパンツがチラ見できそうなぐらいしゃがみ込むシエ。

『モーーーーーーー』とスカートでないのが悔やまれるフェル。

『オイオイオイオイ』と壁ドンスタイルで項垂れるリビリィ。

「ポル局長ぉぉぉぉ」と頭抱える智子。


『え? どうしたのどうしたの?』


 イカ焼きを食べ終わるポル。


『どうしたのジャねーだろぽぉるぅ……』

『ソウダゾ、ミンナ心配シタンダカラナ……ソレガナンダ、ソノ『ドウトンボリ』ミタイナ豪勢キワマルB級ナ食事ハ……』

『本当に……そんな高カロリーな食事、もうしてもいのですか?ポル』

「いやフェル副総理閣下。論点そこじゃないですから」


 ポルが食いしん坊という噂はあながち嘘ではないことが、この一〇年後に発覚した。

 なんでも見舞いに来た愛するダストール人の旦那様が、大阪まで行って買ってきてくれたらしい。 

 初っ端からこれだが、これが故に元気で安心した諸氏。

 ポルの話では、後遺症なども全くないらしく、あと二~三日で退院できるそうだ。


『……ただよ、ポル。体の方はそれでいいかもしれねーが、その……なんだ……』

『ハイ、そうデス。マサトサンにも一報を入れましたけど、メチャクチャ心配していましタ。今からでも本部から飛んで帰りたいって……彼も言っていましたけど、体もそうですガ……どうなのデスか? そこのところ』


 心の方はどうだとは、これはちょっと言い難いものである。暴漢にいきなり襲われて、彼岸の手前まで行ったのだ。だがポルは


『大丈夫よ、お二人とも。ヤルバーンに乗った時から覚悟はしてたし、それにみんながいるからなんとかなるって思ってたし、ゼル端子打ち込まれた瞬間(とき)に、あ、これはキツイかもしれないって思って、無理にあがくのやめたの』


 だから、拘束される前に咄嗟でブラスターを派手にぶっぱなしたと話すポル。無理に抵抗すれば、かえって寿命を縮めていたかもしれないと話す。確かにそれは言えていた。あまり大きく抵抗すれば、ドーラは逆にコピーを諦め、その場で瞬殺していたかもしれないと。

 どうも察するに、本当になんとも思ってないようで、『イマガワヤキ、食べる? おいしいよ』と旦那の買ってきたご馳走をみんなに振舞っていたりする。

 確かにポルはこういうところ理知的というか、根性座っているというか、そういうところはあった。


『デハ、本当ニナントモナイノダナ? ポル』

『はいケラー・シエ。まあ確かに怖くなかったといえば嘘にナリマスけど、調査局局長としては、あの接触は貴重でした……あのシレイラ号事件の時から噂にはなっていましたが、アンなガーグが本当にいたなんて……しかもあの時から今の期間でやっと具体的な存在がわかったなんて……ある意味スゴイ事です』


 流石は現調査局局長のポルだ。フェルも微笑を蓄え、その話を聞き、ポルの調査局魂に感心する。そしてフェルも


『確かにポルの言うとおりですね。あの個体は新型ではないのデショウが、リビリィの言ですと、私達の知っている「対人ドーラ」よりもはるかに手強かったトカ』

『ああ、確かにな。あん時は一匹だったこともあってな。ナヨ閣下の、戦闘能力のお陰でなんとかなったけど……あんなのが大挙して白兵戦ってのは、正直ゴメン被るぜ』

『アア、ソウダナ。私モ、カシモトノ撮ッタ記録映像ヲ見タガ……アノ「ひとがた」ノ部隊ヲ相手スルノニ、自分デ言ウノモ何ダガ、私ヤ、リアッサニ、シャルリクラスノ兵士ヲ常時編成シロナドトイウノハ無茶ナ話ダ』

「でも……素人考えですけど……」


 智子は、そういう知識にはまったく疎いが、疎いなりに疑問を呈す。


「もしそうなら、その一〇年前、とっくにそういう兵器の部隊で襲ってきてもいいと思うのですが……それが今になってもないというのは、やっぱりコストの高いドーラとか、そういう感じなのではないですか?」

『トモも大分わかってきたね。多分そうだとおもうよ』


 ポルが頷きながらそう応える。智子もやっぱりそうかと頷いて返す。ちなみにポルはお好み焼きにシフト。


『ア、ソウソウ。トコロデ、ソノ、ナヨ議会進行長ハドウシタ? 見舞イニ来ルトイッテイナカッタカ、フェル?』

『ア、そういえばそうですネ。ポル、ナヨ様は?』

『うん……昨日遅くだけど、ヴェルデオ知事と一緒にお見舞いきてくれましたよ』

『あ、ソウなんだ』

『その時に、旦那さん……ニイミ次官と一度ゆっくりお話をするって言ってたみたいでス』


 多分、そのドーラが何回か日本に入国している記録があるという点を重要視しているのだろうとポルは語る。

 この事件、あのヒトガタ・ドーラが破壊されたという話で済まないと思う諸氏。

 今後、こんな事があった後となれば、連合としても日本への出入国関係で、大きな影響が出るだろうと思う智子。

 何より今回の事件で最も重要な点は……


「……この地球や、日本の存在を、ガーグ・デーラの主幹組織が知ってしまったという可能性がある……ということですね……」

『つまり連中はニホンで何をしていたか……デスね』


 フェルも智子の言に同意する。

 確かに、こんな状況にまで発展した今、そこが最も重要なところだと誰しも理解できることであった……




 ………………………………




 数日後……

 東京都某所に覆面パトカーが何台も集まる。

 その場所は、放置された大型倉庫。かつてどこかの法人が所有していたのだが、その法人が倒産して所有権が別の法人に移り、その別の法人名義が外国企業名義でペーパーカンパニーでしたというありがちないわく付きの物件。

 敷地面積は相応に広いが、何年もそんな状態なので倉庫が放置家屋状態となっており、幽霊屋敷と化していたその倉庫。

 だが、最近この倉庫に人の出入りがあると噂され、その出入りする「人」の目撃者もあるというそんな場所。

 

 そこに集まる覆面パトから姿を現すは、パリっとしたスーツ姿に見たことある四角メガネ。そう、日本国情報省連合局局長の白木崇雄であった。


 ――この日本国情報省とは、かつての外務省国際情報統括官組織・特務情報官室と、日本国警視庁公安部の一部、特危自衛隊情報部の一部が分科統合してできた省である。

 まぁこの省を二藤部が作ると公表した際、当時そりゃもう野党の抵抗マンマンでスッタモンダあったわけで、妙な女性議員がセクハラ作戦で参議院の入り口を吐き気催すお色気バリケードで封鎖したり、元売れない俳優で、天皇陛下への細菌テロの仕方を世のテロリストに教えた参議員議員などの妨害もありーので、色々紆余曲折通常の三倍でなんとか成立にこぎつけた組織であったりするわけであるが、この組織を作るきっかけは、当時非公開組織……ありていな話、秘密結社状態だった件の『安保委員会』を、きちんとした政府組織にするための形を変えた組織としてできたのが、この『日本国情報省』であった。


 この日本国情報省。当時の各ティエルクマスカ連合事案で活動していた各組織をぶっちぎってくっつけたような組織なので、その運用も、ほぼ連合に関する事案、案件で動くような組織である。

 従ってそのメンツも、当時各方面で活躍していた人物を官民問わず登録している。

 省のトップは無論、元外務省国際情報統括官組織トップの新見貴一次官。

 その下部にある各部局で連合関係の諜報事案を扱う部局『連合局』局長として白木崇雄。

 地球各国の諜報事案全般を扱う『外事局』局長として、公安から引っ張ってきた山本竜也。

 他、国内の諜報事案を扱う『内務局』そして、地球同盟各国諜報組織や軍、連合各国、民間協力組織と連携するという『名目』の、事実上のかつてあった安保委員会の後継組織『安全保障調査委員会』がある。

 この情報省スタッフには、厚生労働省麻薬取締官と似た権限が与えられている。

 各部局の専門職務遂行に関してのみ、特別司法警察職員の権限が与えられており、PVMCGレベル2~4までの武器造成使用が認められている。但し武器使用には一定期間の訓練を必要とされるが、元警察官や自衛官、ティ連各国軍での武器使用経験者は免除される。ちなみに白木はきちんと訓練受けた。

 で、省であるからには当然担当大臣がいるわけだが、その情報大臣は誰かというと、元内閣総理大臣の二藤部新蔵であった。御年多分七〇過ぎ。元気である――


「あ~公安さん。すみませんね、付き合わせちゃって」

「あのさ白木局長。うちゃお宅の実行組織じゃないんだからさ。あんまコキ使わないでくれる?」

「ま、そう言わないでさ。そこは持ちつ持たれつで。なんせこっちゃほれ、色々あってできた組織でしょ? 実行部隊大きいの持てないのよ」

「なぁにいってんの。特危さんやメルヴェンさんとも組んでるんでしょ? 知ってるよ。そっち使ってよ」

「まぁまぁ。そんな事言わずにさ」と小声になり「(今度北の例の件で面白い話あるから、それ教えるし)」

「(え? マジ? あの件?)」

「(そそ、あの件、それで代金お支払いってことで)」

「(はいはい。了解。まいどあり……そろそろ時間ですよ白木さん)」


 その『北の件』はまだ一〇年後の話。一体何なのかはさておいて、白木達指揮車の無線から、各実行部隊の車両へ、その目標となった怪しげな倉庫への突入命令が下る。

 

 警視庁特殊部隊・通称S・A・Tが情報省特殊諜報部隊S・I・F(Special intelligence forces)と連携で突入作戦が開始される。


 その様子を指揮車から遠目で見る白木と公安警察官。

 電気の消えた倉庫の窓に、明かりが行ったり来たりと交錯する。

 しばしその様子を眺める諸氏。何か騒々しい状況が起こるというような感じではなかった。

 すると、突入部隊から指揮車に連絡が入る。


『ピッ……コチらセマル。突入成功。内部には誰もいないようでス……』


 外事局から駆り出され、SIFにセマルが協力しているようだ。持ってる銃は、やっぱりM29なのだろうか?


「おう、セマル君、ご苦労さん。ま、ヤルバーンで例の奴、もうヤっちまったって話だから、さすがに誰もいないか?」

『ピッ……確かにそうデスが……私の見立てでは……あまり見たくない状況が目の前で展開しています……』

「?」


 そのセマルの言葉に訝しがる白木。

 指揮車の公安警察官を何人か連れて、その倉庫に向かって走る。


『ア、ケラー・シラキ!』

「ハァハァ……おう! で、セマル君……って、あ……」


 セマルの右手に持ってるは、AMTオートマグ280 CLINT-1タイプ。

 コケそうになる白木。


「ま、まぁいいや……で、セマルちゃん。あまり見たくないものって何よ」

『はい。コレです……』


 セマルは掌に光球を造成し、辺りを照らす。

 そこには、もう見るからに地球の意匠ではない機械の部品や、大規模な製造機器が置かれていた。

 ただ、「散乱」しているという感じではなく、理路整然とそれらは置かれ、ある種何かのプラントのようにも見えた。

 ただ、セマルの話では、その放置されている部品の材質は、どれも地球の物質。もしくは地球で精製製造可能なマテリアルだという。


「おいおいおい……これは一体なんなんだよ……」

『きちんと調査しないとワカラないですが……おそらくこれは……』




 因果の歯車とは、一度噛み合わさり、少しでも回ると、時の流れを変えてしまう。

 奴らが何を思ってあのような犯罪を繰り返し、この地まで到達したのか。それも実のところ全くわかっていない。



 ヒトガタと対峙した時でも、奴は何か言葉を発し、残したわけでもない。

 ただ確実に何かを示すメッセージのように、この現場を不気味に残していたのだった……




 


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