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銀河連合日本  作者: 柗本保羽
銀河連合日本外伝 Age after
83/119

銀河連合日本外伝 Age after ― Project Enterprise ― 第一話

銀河連合日本外伝 Age after ― Project Enterprise ― です。

 

 今回のお話は、まぁ色々ネタ沢山な、ティ連人さんドタバタ漫遊記ではないですが、そんな楽しい物語です。


 数話ほどを予定しております。

 お楽しみ下さい。



「宇宙。それは最後のナンチャラカンタラ……」


 とか、ままそんな言葉が頭をよぎる、とあるキーワード。

 その名もEnterprise――読みはエンタープライズという。

 その言葉の意味。単純に訳せば『冒険』だとか、『事業』だとか、そんな意味になる。

 ただこの言葉。米国人にとっては単純にそんな意味だけで語られるものではなく、例えば、日本人にとって『大和』という言葉が、単に現、奈良県にあったかつての古代国家というだけの意味ではなく、日本人のエートスすべてに響く言葉であり、多々多くの意味を内包する、総じて『日本』という国のすべてを意味する言葉であるのと同じく、このエンタープライズという言葉も、米国フロンティアスピリッツを総じて言い表した、『常在新たな挑戦』という言葉の意味を内包する、彼らのエートスを現す言葉なのである。


 であるからして、この名前を彼らが何がしかに付ける際。特に艦船に命名する際は、日本にとっての『大和』と同様に、その象徴を意味する特別な何かに付けられる名前でもあるわけである。

 事実、この名を冠する乗り物は、アメリカ南北戦争の艦船にまでさかのぼり、実に九代もの船に名を継がれてきている由緒正しき名称で、現在この名を冠する軍用艦艇は、世界初の原子力空母『CVN-65USSエンタープライズ』だったが、現在は退役し、将来就役予定であるアメリカ海軍のジェラルド・R・フォード級原子力航空母艦の第三番艦に【CVN-80USSエンタープライズ】の名が冠される予定である。

 米国が誇ったかつてのスペースシャトルにもその名は継がれ、現在も数々の宇宙計画にその名は使用されている。

 実は、このエンタープライズという名前。米国だけではなく、英国やカナダ、豪州でも数々艦船舶に使用されている名前なのだが、そのスピリットは米国のそれと意味するところとは随分と違う。なので、そのあたりは分けてみないと。


 で、この名前が有名になったのは、かの『最後のフロンティア』に旅する宇宙艦艇が大きく貢献しており、まま日本でもかの大戦中戦艦が宇宙を飛んでいく何某と同じような感じであったりと、そんなところ。



 さて、そんなこんなで二〇一云年のある日。


 日本が、銀河連合に加盟して、調印式典に、柏木の壮大な国策結婚式にと日本だけに限らず、なんだかんだで地球規模のお祭り騒ぎになってしまった、かの地球史にきざまれたあの日の後日……

 そして、とりあえずは事無しな、日本国のとある一日。


 衆議院議員 自由保守党 新清風会所属。政府特命ティエルクマスカ統括担当副大臣で代議士先生な フリンゼ・フェルフェリア・カシワギ・ナァカァラこと柏木迦具夜 副大臣閣下も今、新たなあることにエンタープライズな感じで挑戦中であった。ということでさしずめ……


 公道、それは新たなフロンティア……異星人フェルフェリア・カシワギ・ナァカァラは…………


『エットえっと、*るーしさいもく、るーしーさいもく』

「はい、そこは脱輪しちゃったらアウトですからね~」


 隣に乗る制服着た女性の指示受けて、何かやってるフェル。


『ハイです~ うんしょうんしょ……』


 レバーを上げてカッチカッチ。クルクルときれいな水色お肌の腕でステアリングを回し。キラと金色目、眼光鋭くルーシーサイモク。


『えっと、第一加速にして、コの加速装置に動力伝えて、加速させテ、空転させて、タイミング合わせて、プィっとコレを踏んで、コンナ感じで~んしょっと。第二加速でスね』


 ブィーンとイマイチ慣れない音立てて、何かの乗り物に乗ってるフェルさん。

 あらかじめ徹底的に予習をした作戦を淡々とこなす彼女。

 この姉さん、一体なにをしてなさるかというと……


「はい、そろそろ時間ですから、あそこに停止させてくださいね」

『ハイですぅ……るーしーさいもくで、ふんしょっと。さいどぶれーき引いて……』


 ギィと停止。右見て左見て降車でござい。


「はい、おつかれさまでした~。フェルさん今日も丁寧な運転でしたね」

『ありがとうゴざいますデス。ジドウシャの運転はオモシロイですけど、この、まにゅある操縦方式は結構大変デスね~』

「そりゃイゼさんは、あんな全自動トランスポーター乗ってるんですからねぇ……この地球じゃ無人自動車なんて、まだまだ先の話。それに自動車を自分で動かせないなんて、面白くないですよ。フェルさんも運転してて楽しかったでしょ?」

『ハイです。それはもう』

「それに、やっぱ免許証はこの日本じゃ、身分証明書として一番効力の強いものだからね。取っておいて損はないですよ」

『だそうですネ。私もマサトサンからそう言われて取る事にしたデスヨ』


 フェルさん、自動車運転免許教習所で、運転免許取得の真っ最中であった。

 目指すは普通自動車免許限定解除。現在はオートマチック限定免許があるので、マニュアル車も乗れる免許の事を限定解除という。

 つい最近までは、普通自動車免許で4トントラックも乗れていたのだが、現在は4トントラック乗るには「中型免許」以上の資格を取る必要がある。

 普通免許資格で乗れる車種は変わったものも多く、面白いところでは、サイドカー側の車輪が駆動するサイドカーがある。日本の場合、この種のサイドカーは普通自動車免許でなければダメなのである。なので、日本じゃプラモデルで有名な大戦中のドイツ軍サイドカー『ツェンダップKS750』や『BMW-R75』旧日本軍の『九七式側車付自動二輪車』今現在でも新型車を作っているロシアの『IMZ-ウラル二輪駆動型』などは、道路運送車両法の車検上は側車付の自動二輪車だが、実は二輪車免許では乗ることができず、道路交通法では四輪自動車扱いになるので、普通自動車免許でなければ乗れなかったりする。


 と、そんな四方山話もそこそこに、総括終わってチャイム鳴り、今日の教習はおしまい。フェルさんの真剣モードは有名で、成績も申し分なしという事。

 そりゃなんだかんだでデルゲード操れるわ、ヴァズラー操れるわ、デロニカも操れるわ、最近は旭龍の操縦資格も取ったそうで、SMS操縦モードとはいえ、それだけの乗りもの操れたら自動車ぐらいはなんとかなるという話。でもフェルさん曰く、大変奥が深いという事。

 何日か前にパウル艦長が、日本に来た時から一目惚れした乗り物、オートバイに乗るために念願の自動二輪限定解除の免許を取ったそうだ。この時でも彼女はゼルルームで相当な猛特訓をして教習所に挑んだのだそう。今ではもう休日の度にヤルバーン施設内や日本国内で、日本製の大型バイクを購入して乗り回しているという話。巷ではクルーザーバイクに乗った『湾岸の笹穂耳エルフライダー』で結構有名なのだそうな……パウルさん、バイクが楽しくて仕方ないらしい。


 ということで、フェルはホっと一息で、教習所の喫茶室で軽食を購入して、パックレモンティーとともにタラコおにぎりを喫飯なんぞ。

 「そこは緑茶だろ!」という意見は聞き入れられないのがフェルさん流のお茶の道である。

 今やこの教習所でも有名人で、相も変わらず写真をねだられたり、どこかの女子大生と食事を共にしたり。でも、一応政府閣僚でもあるので、こんな時でもSPはフェルの身辺を固めていたり。

 それでもなるべく市民国民のみなさんとは、ざっくばらんにということでSPにはあまり厳格な対応は遠慮ねがいますとお願いしているそうな。

 とはいえ仮に暴漢に襲われても、PVMCGの機能等々でいくらでも対応できるわけで、それに元調査局局長さんのフェルである。対人ドーラともバトった経験のあるフェルなら、少々の事なら自分で対処できるわけで、その点でいえば、まだSPも楽な仕事ではあった。


 いつも愛用にしている喫茶室の席。ここはテレビが一番良く見れる位置なので、この席がお気に入り。

 その日はたまたまNHKのニュースが流れていた。


『本日、米国時間で……』


 ニュースには、先日のサマルカ・米国会談の録画が流されていた。ハリソン大統領と握手するセルカッツ。白木がバックでチョロっと映っていたり。

 なにやらハリソン大統領が国民向けのテレビ演説で……


『……ジョージ・ハリソン大統領は国民向けのテレビ演説で、今後二年以内にNASAオリオン宇宙船計画に続く宇宙船開発プロジェクトとして、ティエルクマスカ銀河共和連合構成国である、サマルカ統一連帯群国の技術指導を受けた新型の大型宇宙船を建造し、火星への到達を達成させる構想を発表しました。この発言は世界に予想以上の大きな影響を与えており、この計画発表で今まで一切の外部公表が行われなかった事実上の我が国以外のティ連技術公開となります。このハリソン大統領の演説に対してイゼイラ共和国・ヤルバーン州、州知事であるヴェルデオ・バウルーサ・ヴェマ氏は、イゼイラ、もしくはティ連本部からこの件に対して特にコメントはないと応じており、米国政府はサマルカ国との交渉が事実上解禁になる見込みではないかと、今後の事態進展に期待をもっているとコメントしています。ただ、先ほど行われた内閣官房長官会見で、浜官房長官は、サマルカ国との単独交渉が今後解禁になるという話はティ連本部や、イゼイラ、他関係加盟各国からは聞いていないとしており、このようなコメントを発表しています……』


 画面は浜の肉声と映像に変わり……


『……え~、この米国における新型宇宙船開発に関する情報につきましては、相応の経緯がございまして、少々その点をかいつまんで説明させて頂きますと……サマルカ国が我々の惑星、地球を調査している段階におきまして、彼らの言う『発達過程文明』におけるなにがしかの国家的に必要とする情報を米国側が所有している事で……まあその時はまだ不明確な情報だったわけですが……そういう形で我が国に打診があったわけでございまして……え~そして、米国側が、サマルカ国に対し、その情報に関する一切一式を提供する用意があるという事で、我が国を通してサマルカ国当該関係者にお伝えしましたところ、我が国と共同で米国に対応するという形で、サマルカ国側から協力してほしいとの要請があり、現在報道等でお伝えされているという事で……え~、かような形になっております。その際に、サマルカ国は、かの国にとりまして、大変有意義な情報を得られたという事で、ティエルクマスカ連合本部と、我が国との交渉権を持つイゼイラ共和国、及び、本惑星地球でのティ連仲介権を持つ、我が国との共同監修という方法を取る形で、サマルカ国の宇宙開発技術の何某かが、米国へ供与されたという話を、我々政府は聞いております……』

『……この米国大統領演説の影響を受け、本日のマーケットは、ニューヨーク株式市場で……』


 フェルさん、売店で買ったタラコおにぎりをモグモグしながらニュースを見ていたり。


(はりゃ~、ファーダ・ハリソンはとうとう発表しちゃいましたデスね~。いよいよ本格的にアメリカ国さんは始動するですか~)


 所謂、米国で構想された件の『Project Enterprise』計画の本格始動。このテレビ演説は、その狼煙であった。

 ただ、米国はこの計画において色々と問題も抱えている。しかもその問題は、フロンティア・スピリットだけではどうしようもない物も含んでいる。

 確かにサマルカから、件の磁力駆動型空間振動波機関の技術的供与は、ほぼ完全といえるぐらいのものをデータとして受けた。

 機関設計図に学術的理論。素材構成に、実験型宇宙船と、その後の実用型基礎宇宙船の設計図。更には初期の宇宙線エネルギー変換システムの学術的理論等々。

 ままそういうものは米国としても溺れそうなぐらい入手できたのはできたのであるが……


 入手できても……形にする方法が、途方もないですよ、という話である。

 なぜなら日本のように、ハイクァーン原器や、ゼル技術原器の技術提供を受けていないので、素材を作るにも地球流でやらないといけない。となれば当然今の技術では『できない』物の方が当然多いわけであり、まともにやったら二年以内どころか、何十年、いや、百年ぐらいかかりかねない計画になってしまう。となるとやはり、ヤルバーン州や、日本に物理的な支援を仰がなくてはならなくなるという事で、そんな話も政府及びティ連・イゼイラ・サマルカ政府とのやりとりが、色々とあったり。


 そういうことを知っているフェルさんは、やはりそこんとこで米国という国を


(ちゃれんじゃーサンですね~)


 と思ってみたり。

 以前柏木から聞いた『米国を舐めてはいけない』というところが、こういうところかと、そんな風に思う…………ちなみにタラコおにぎりが大変おいしかったので、もう一個後で買おうと思うフェルさん。

 でも、まま良いことではある。これもティ連構成国日本と、米国との同盟強化かと思えば、意味もあると思う副大臣閣下。


 そんな事を思案しながらちょっち休憩のフェル。すると、彼女の背後から……


「どぉあああああ」


 と華奢なフェルの両肩をゆすり倒す奴。


『うひゃぁぁアアアぁぁあ!……って、マサトサン! もー、びっくりするじゃナイですかっ!』

「むははは、勘弁勘弁。ぬはは。迎えに来たよフェル。今日はもう終わり?」

『ウフフ、ハイですヨ』

「で、どうだった? 自動車の運転は」

『ムフフフフ。るーしーさいもくデス』

「ははは、懐かしいな。ルームミラー見て、指示器あげてサイドミラー見て目視確認って奴ですか? 俺が免許取ったのって、学生時代の頃だから、もう十年以上前の話だなぁ」


 今日はフェルの教習終了時ぐらいに柏木が迎えに来る約束だったので、かような感じ。

 フェルさんはニコニコである。そして教習所はもう大騒ぎだ。

 なんせ今話題の閣僚に、フェル。そして……


 何か向こうの方でキャーキャーという声がする。

 若者中年ご老人みんなしてスマホに携帯のカメラをかざしていた。


『ン? 何か向こうが騒がしいデスね。どうしたデスか?』

「ああ、実は同行人がいてね。ほれ、珍しいお客さんだ」


 すると、キャーキャー騒ぐ観衆の中から、SPに守られて顔を覗かすは……


『はりゃ! あれはケラー・セルカッツではないデスか!』


 地球世界では下手なアイドルより有名なお姿の、セルカッツ・1070であった。

 大きなクリっとした目で二人を見て、手を振る彼女。

 かの『エリア51』で見た彼女のお仲間よりは流石新型かもしれないというだけの話あって、容姿もかの灰色異星人意匠ながらも、ヒューマノイドタイプらしさが際立つ、なかなかに可愛らしいフリュ型である。

 一見すると、大正時代のインバネスコート、所謂『とんび外套服』に似たようなサマルカ衣装を着て、そのファッションも目を引いていたり。


『コレは、フリンゼ・フェルフェリア。お久しぶりでス』

『イエイエこちらこそデス。でも今日はどうしたですか? こんなところにケラーがいらっしゃるなんて珍しい』


 お互いティ連敬礼でペコペコと。 

 フェルはセルカッツに平手で喫茶室の席に座るよう促す。


 実は今日の、先のニュースにあったハリソン大統領の話にも関連することだが、国会のティエルクマスカ連合関係委員会での質疑において、サマルカ―米国関係における現状説明ができる参考人ということで、セルカッツが招聘されているのだ。

 そこで柏木とともに午前中打ち合わせをしていたわけだが、まだ委員会質疑には時間があるので、柏木がフェルさん迎えに行くのに便乗して、この『自動車運転教習所』なるものを見学したいという事で、セルカッツもついてきたという次第。

 フェルさんお昼ごはん摂っていた状況であるからして、早い時間の教習をフェルはとっていたわけなので、まだ時間的には余裕はあるという事。


 するとセルカッツさん、喫茶室においてあるとある自販機に興味を持つ。

 その自販機。この教習所名物『うどん自販機』だった。

 セルカッツ、ム~という顔して、自販機をジロジロ眺め、小さなガマ口お財布を出して、おもむろに五百円硬貨を入れてしまう。

 ちなみにこの財布は、日本のファンからプレゼントされたもの。


「ありゃセルカッツさん、お金入れちゃった」


 しばし待つと、ポコンと熱々なきつねうどんが出来上がる。


『オオ~、ファーダ・カシワギ、これはヤルマティアのハイクァーン技術デスか?!』


 さすがにんなわきゃないと、構造を説明するが、そっちの方に驚いていたり。

 うどんに感動し、ちゅるとすすりながら尋ねるセルカッツ。丁度お昼なので、柏木もきつねうどん買ってセルカッツに付き合う。


 ――ちなみに、このうどん自販機。昔の形式は、生のうどんやダシを調合して販売するシステムで、技術的にはスゴイのだが、少々衛生的に難があった。現在最新のタイプは、冷凍した素材をストックさせて解凍し、提供する仕組みになっている。というか早い話が電子レンジ式冷凍食品加熱販売機なのが、最新のタイプであったりする。焼きそばや、焼きおにぎりにチャーハン、ピラフからラーメンまでメニューにある――


 セルカッツさん。見るものすべてが珍しいのか、駐車している自動車をマジマジと見学したり、オートバイをマジマジ見たり、教習所コースをテクテクキョロキョロと散歩してみたりと、そんな感じ。


 という事で、自動車教習所を堪能したセルカッツ。そろそろ時間なので、柏木の乗ってきたエスパーダで、三人連れだって国会議事堂へ向かう。柏木のエスパーダ前後につくはSPの車。

 もう柏木も立派な閣僚様であるからして、そんな感じ。


『マサトサンマサトサン。免許証を取得できたら、えすぱーだを運転させてくださいネ~』


 おねだりモードな声色で柏木にお伺いを立てるフェル。


「えっ! これ運転するの!?」

『ア~、なんですかその嫌そうな顔はっ! いーじゃないですかチョットぐらい運転させてくれても~ マサトサンはケチンボさんですかっ!』

「いや、そういうわけじゃないけど、これをいきなりっちゅーのはなんとも」


 自動車運転歴十数年の柏木でも、このエスパーダの車両感覚掴むのにえらく苦労した。障害物探知センサーとバックモニターが付いていなかったら、正直柏木でも一発当ててるかもしれない代物である。

 フェルがエスパーダ乗ったら必ずボッコボコになると危惧する柏木。それを遠まわしに説明する。


『ソンナの、壊れたらヤルバーンに持っていって、ハイクァーンで修理すればいいだけじゃナイですかぁ~ なんならいっそのこと斥力推進器付けて空飛ぶえすぱーだに……』


 「ティ連技術のMI-6諜報部特殊車両かい!」 とフェルに突っ込む柏木。ヘッドランプがひっくりかえってマシンガン出てきたり、変形して潜水艇になったりするなら考えてもいいかなと話したり……相変わらず仲の良い夫婦である。

 ……なんとなく呆れ顔のセルカッツをよそに、ままそんなアホな話で笑いをとりながら時間を潰しつつ国会議事堂へ。


 今回のティエルクマスカ連合関連委員会は、先の米国とサマルカの接触においての会談内容報告会だった。

 ここで「サマルカ人は、かの灰色宇宙人の同種です」という話でも出るかと思いきや、別にそんなことは話題にならず、野党委員からは米国とティ連加盟国が直接ではないにしろ、日本以外の国家と交渉を持った事の事実確認が行われた後、中国や韓国、ロシア、ヨーロッパ諸国といったような他の諸外国との接触はどうするかとか、そんな事が議題として提案されたりしていた。


 かのエリア51ことグレーム・レイク空軍基地での会談内容は、開示されてはいるものの、かなりの部分がまだ安保委員会と、米国関係者レベルでの秘匿事項とされてるので、委員会関係者以外の政治家や官僚は、多くの内容をまだ知らないのだ。

 流石にあんなネタ話まがいな事実を公表するには、色々と解決しなければならない人類としての諸々な事情もあるわけで、そこもこれからの課題といったところなのだろう。

 そういうこともあり、このティエルクマスカ事案については今まで安保委員会が主導して政策を遂行し、中には超法規的にかなりの事が機密指定されてきただけに、野党どころか与党内にも柏木達委員会構成員が知るレベルほどの内容を知らない議員たちも多く、案の上まま好き勝手言うような国会委員会になってしまうのは、ある意味仕方ないようなところでもあった。

 民生党の旧社会創生党系列の議員からは相も変わらずの花畑全開論で色々議論されたりもする。


「え~ 参考人のセルカッツ……1070さん? これ……は、お名前という事でよろしいのですか?」


 民政党の議員が質問に立つ。

 セルカッツはコクンと頷く。


「え~ 本件で米国とは、急にという言葉が当てはまるほど、ティ連本部から例外的扱いをサマルカ国は受けているようですが、この意図するところはどういうことかお答え頂けますか?」

「セルカッツ・1070参考人……どうぞ壇上へ……」


 柏木がサポートして、セルカッツを壇へ誘う。フェルがマイクの使い方を教えてあげてたり。

 とても早口な、信号のような言語で話すセルカッツ。PVMCGの翻訳音声が、その上にかぶさって日本語音声となって出力される。


『ケラー・ミンセイトウ議員の質問にお応え致したいと思いますが、当該案件はアメリカ国との秘守義務協定に触れるところモ数多くあると思いマすので、そのような前提でお答えさせていただきたいと思いますがよろしいデすか?』


 と、実はその秘守義務協定下の詳しい内容は、当然柏木達も知っている。


 民政党議員は片手あげて了解のポーズを取ると、セルカッツは、サマルカが抱える件の国家的問題について、米国が情報を持っており、その提供を申し出てきたので、ティ連本部と折衝し、特別に米国との交渉を、日本やイゼイラをを仲介して、という条件で行っており、その関係で米国と親交ができたと話す。

 その折衝内容は秘守義務に属し部外秘なので話せないことも付け加えたり。

 

 ……まったくもって信じられない光景で、こんな委員会の風景が、テレビを通じてお茶の間に流れる。

 今やこの各委員会中継の中でも、ティエルクマスカ連合関係委員会の中継は、NHKの売り番組になりつつあり、その視聴率もすごい数字となっていた。

 無論、その委員会内容もそうだが、フェルは言うまでもなく、シエやニーラ、時にはシャルリやリアッサに、ヴェルデオやジェグリに、ジェルデアやパウルも出てくるので、そんな人気人物が出てくる日は、もっと視聴率が高い。だが、あの運命の時をきっかけに、そのような光景が普通になってしまった日本なのだ。


 話の内容は相も変わらず、日本がティ連で地球圏における地域国家交渉担当国なんだから、もっと米国やヨーロッパ以外の国の関係……早い話が特定政党の大好きな『アジア諸国』との交流促進等々で、ティ連本部との橋渡しを積極的に行う『べき』であるだの、毎度お馴染みの芸風な感じであったり。


 さて、民政党の議員からそんな話も出る中、実はティエルクマスカ連合構成国として、日本国はヤルバーン州と共同で、ある『重大な現在の状況』を世界に公表した。

 その公表を決定した理由。それは、その状況にある程度の目途がついたという事と、さすがにもう黙ってるのも何かとマズイだろうという連合側の思惑もあっての話だったりする。

 で、結構この公表が世界的にいろいろと大きな大きな波紋を呼び、これまた国際問題化されてたりと、色々地球世界的に新たな課題として、議論されてたりする。

 その公表された『状況』というもの。それは……


『ティエルクマスカ―イゼイラ・火星テラフォーミング計画』


 であった。


 これを日本を通じてティ連が発表した際、それはもう世界中で大事、大騒ぎになり、火星が青い星になると両手上げて大賛成する者もいれば、地球文明圏に対するティ連の『強制駐留だ!』 と大騒ぎするものもいたりと、ままこんな風に二極化する意見に予想通りとなったわけで、その点に対する対応などがこの委員会でも話し合われたりする。

 とはいえ、この「強制駐留」というのは、どっかの政党が作った『改悪』とか『強行採決』とかいう本来『日本語にはない造語』のようなもので、その造語を発明した方々の非難している対象は、その強制駐留とやらを行ったティ連ではなく、廻り回って自保党が悪いという結果なわけで、こんなところでもあいも変わらずな芸風に、今後こんなのを選挙で選出してティ連議会に送り込まなきゃならないのかと思うと、安保員会メンバーも正直頭が痛くなってくるわけで……いい加減にしてくれよと……なんともはやだと、そんな感じ。


 と、そこらへんは取り敢えず置いといて……ではまず、この議論で実は重大かつ重要な点がいくつかある。

 先の二極化された主張で、『ティ連が地球の文明圏に強制駐留した』という意見。これが通じるかどうかという話。おそらく通用しないだろうという意見が国際法専門家の間では主流だ。

 この主張をしているのは、毎度おなじみの『反日と愛国無罪で未来を築く、中華人民共和国の提供でお送りします』なところと、その子会社韓国と、関係諸団体、政治団体、政党のみなさん。

 ままあそこらへんなわけだが、むろんそこにはロシアも入る。

 で、現実問題としてそこに英国、ドイツ、フランスと意外に多くの西側諸国も特定アジアさんほど主張は強硬ではないものの、そっち側に寄って意見を言っていたりと、そんなところであった。

 無論米国はこの話に関して、日本を支持するとは言っているものの、基本ダンマリを決め込んでいる。

 というのも、まずはティ連と日本にどうにかしてもらいたい話であって、米国としては『くれるというものをもらっただけだよ~ん』という態度を決め込みたかったという判断もある。これは米国の立場を考えると、ある意味仕方ない。確かにそう言うしかない。


 だが、強硬になんでも勝手に自分のものにしたがる『異議あり、反対、ダメヨダメダメで核心的利益』な、かの国々の主張にしても、イマイチそれ以上に主張ができないという、あるジレンマも抱えていた。

 というのも、まず火星という惑星に主権を主張できる根拠を持つ国家がどこにも存在しないという話である。

 そして国際連合の取り決めで、第21会期国連総会決議2222号として発効した


【月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約】


 所謂『宇宙条約』なるものがあり、その第2条において


【天体を含む宇宙空間に対しては、いずれの国家も領有権を主張することはできない。】


 とあり、世界各国はこれに調印しているわけで、文面通りでいえば日本も火星に主権を主張する事などできないわけで、このあたりは米国も同じである。

 

 だが実際は、今後ダル・フィード・マウザー旗下火星開拓艦隊が火星の開発を進めるにつれて、日本はその場所に施政権を持つ治外法権地区を設定する事になっているわけであって、米国も秘密協定で日本の治外法権区を一部割譲されることで、米国治外法権区を設定できる。

 

 ちょっとまて。では先の国連宇宙条約はどうなるのだ? という話になる。そんな事をしたら日米は国連条約違反バリバリで非難ごうごうではないかと。

 だが、それが非難できないという地球各国が苦虫噛み潰すしかないカラクリがあるのだ。

 というのは……まず大きな大前提として、『ティエルクマスカ連合各国』という存在が、地球の国際連合に『加盟などしていない』という現実がある。

 そういった存在が、火星に対し……すなわちどこの地球世界各国も物理的に主権を主張できない空き地を開拓しているわけであって、ティ連からすれば『国連宇宙条約? ハァ? なんですかそれ? 食い物?』という話になるわけで、ダル司令も


『誰ノモノデモナイナラ、日本ノモノニシテシマエ』


 という、あの時言った言葉の通り、そんなもの知ったこっちゃねーよとガンガン開発するわけで、そこに向けてティ連が開発したティ連の主張する施政権範囲……つまりティ連のモノと認識している場所・土地をティ連が日本に『使っていいよん。あげるよん』といっているわけで、ティ連さんの土地、もしくはティ連さん『が』くれる土地に『治外法権区』を設定させてもらうという構図なので……国連宇宙条約に、理屈で言えば……なんら抵触しないのである。米国も同じ理屈なのだ。なのであの時、ハリソンは小躍りし、今、米国はダンマリを決め込んでいるのだ。


 なんともまぁ勝手な話をと思うが、これに似たような話は地球にもある。

 かのロシア連邦が、なぜにあんな地球世界における陸地の、あんな面積を領土にできているかという事である。

 あれは非常に単純な話、このティ連における火星云々の件と同じで、『誰も支配してないっぽいから、「うちの領土」とレッテル貼っていった結果』にすぎないのだ。

 その結果であんなバカデカイ土地を領有できているのである。即ち、領土問題など、悲しいかな『先に言ったもの勝ち』なのだ。

 なので、南シナ海の『あの』話にしても、結局その理屈を彼の国が理解しているから、勝手に埋め立てて『自分の領土っ!!』と頑として主張するのだ。

 その主張に力が伴えば、もうそれは既成事実化する。それを既成事実化させないためには、相手がアップアップ言うよなダメージを外交的に、もしくは経済的にあからさまに食らわせるか、武力で、今の状況が吊り合わないと相手に悟らせるほど傷めつけるしか方法がないのである。だから残念な話だが、主張のある双方のどちらかが、実力で動いてしまったら……この問題は、既成事実化してしまうか、もしくは、武力と血を持って解決するしか方法がなくなるのだ。

 話し合いなどという方法は、全くとは言わないが、ほぼ無意味と考えた方がいい。


 こういう事実があるので、この宇宙条約にしても、その『先に言ったもの勝ち』をさせないためにできた世界のパワーゲーム上における『勝手ルール』であって、それに関係しない強力無比な存在が現れれば、文句は言うが、それだけの話なのだ。

 だが、文句を聞いてくれるだけまだマシである。もしこれがティ連でなかったら……どっかのSFドラマに出てくるような悪の異星人なら、文句も言えない。

 それに、この火星開拓は、ティ連が太陽系世界の遠い将来も見越して、地球世界におけるティエルクマスカ銀河との交流、交通、交易のためにやってるわけで、何も『強制駐留』や『不当侵略』をしているわけではない。おそらく将来的には銀河連合日本国と、地球世界が宇宙に誇れるような統一種族に近い存在になった暁には、この火星に造られるテラフォーミングインフラは地球世界に譲渡されるものなのである。


「……えっとですね……先日政府が依頼したという各方面の分析資料結果を見ますと、この火星を開拓しているティ連艦隊に関してですが、確かにまぁ、なんといいますか、ティ連は国連に加盟していないわけでもありますし、実際宇宙条約など関係ないという話もあるのですが、それでもですね、政府はティ連本部に対して、そういった国際条約が地球にあるということもやはり積極的に提示する必要があったのではないですか? それをですね……ま、確かにティ連施政下の領有地に、日本が治外法権区を設定してもらえるから宇宙条約には違反しないという理屈も……あ~、理屈ではそうなんでしょうけどね、これが世間一般の常識で通用するとは思えないのですが、どうでしょう? えっと、柏木大臣、迦具夜副大臣、お答え願えますか?」


 民政党議員が、発泡飛ばし、まくしたてる。ちなみにこの議員は、日中友好議員連盟所属である。


「柏木大臣……」


 手を上げて壇上へ行く柏木。もう慣れたもんだ。彼も国選議員になってからは、なんだかんだで委員会に出る機会も多くなった。


「……え~、何と言いますか、現在となってはこれ……この宇宙条約なるものもティ連のような明確に宇宙空間、もしくはその他天体に対し、容易に到達出来る手段を持つ存在が現れた時点で、この条文自体が有名無実化しているわけでして、そもそもかような手段を持つ存在に、地球国家の施政権が本来到底及ばないところに、まあ、なんといいますか? 文句垂れてもどうしようもないわけでしてね。あと、我が国も現在ティ連に加盟している都合上、今回の連合が行っている火星テラフォーミング化に関する諸々は、連合総意の一端を我が国も当然負うことになります。で、我が国が現状加盟しているこの地球の国際連合下における条約も多分にありますので、我が国が直接領土を領有したという形にならないように、現状かような形で推移していると、ご理解ください」

「柏木迦具夜君……」

『ア、はいデス……えっとデスね。基本的な考え方は、マサトサ……あ、えっと、カシワギ大臣の仰るとおりですヨ。あと、付帯する事があるとすれば、このテラフォーミングはティ連の中でもイゼイラとダストールが中心となって推進していますガ、よく「き、きょうせいちゅうりゅう?」……なんておっしゃる方がいるようデスけど、見当違いも甚だしい事ですネ……このテラフォーミング化されたカセイは、おいおい……そうでスねぇ、何十ネン後にナルか、百ネン後かはわかりませんが、その施政権は、ニホン国と、ニホン国の主張を支持してくださる地域国家に分配される形になっている予定でスから、最終的にはティエルクマスカの施政権は一部のみ残して縮小させ、連合加盟国であるニホン国の主体的な運営で、この惑星地球の地域国家各国で運営していただくという感じで、この太陽系という星系のティ連や外宇宙への基幹基地にしていただく予定になってるでス。ですので、この状況をニホン国の政治家サンは、有効に諸々活用してほしいと思うでスよ。ハイ』


 柏木大臣の答弁は、まま理詰めの政治家答弁だったが、フェルさんの、フェルさん語な答弁は、これを見た世界中の関係者に衝撃を走らせた。

 つまり……


『ティ連と、ニホンと仲良くすれば、火星に施政権をあげるよ』


 と言ってるようなもので、つまりそれは「宇宙への入り口」と誰でも容易に理解できるわけで、このフェルの発言は、次の日の世界マスコミトップ記事になった……そりゃ普通そうなる。


 だが実際問題そのとおりである。

 いくら宇宙条約だー! といったところで、それは宇宙に対してどこも施政権を及ぼせるほど宇宙開発技術を持っていないから、そんな口約束でお互い牽制しているだけの話であって、それを打破できるような決定的な存在が現れれば、そんな決まり事など簡単に吹き飛ぶ。

 実際この宇宙条約なるものも、よくよく読むと……


○宇宙空間の施政権的地位。

○一部軍事兵器の使用禁止適用外と読み取れる条文

○領有権の定義


 このあたりの条文が、国際的な理解の一致を全く見ていないザル条文であって、はっきりいやぁ『あってもなくても一緒の条約』なのである。

 例えば、「天体の軍事利用の禁止」「軌道を維持する兵器の禁止」は書いているが、宇宙空間を通過する大陸間弾道弾のような形態の兵器に関しては触れていない。もしくは地球軌道外、例えば月軌道、火星軌道に兵器を乗せる。つまり宇宙戦艦のようなものの建造も禁止していないなど……はっきりいって条文がしようもなさすぎて、ティ連のような存在に全然……どころか体裁さえ成していないような条約が宇宙条約なのである。

 結局この条約も、現在の常任理事国の軍事パワーバランスが根本にあり、軍事開発競争抑制のためにある条約であって、地球世界の宇宙開発における大きな将来を見越した崇高な条約ではないから、こんな風になるのである。 


 そんな欠陥条約を守ることに自体に正直意味がないし、現実問題として、冷戦時代からもう意味を成していない状態だ。

 決まり事があっても決まり事が効力を発揮しないのなら、それはないのと同じだ。

 状況的に見て、圧倒的に主導権を速攻で握れ、ライバルがもう完全に追随できないほどの状況なら、そんな約束事守っても仕方ないのだ。

 特に現在の日本では『ティエルクマスカ主観の日本』という『地球主観の日本』とは別の主観を持つ日本もできてしまった。


 これが現実なのだ……考えれば非常に難しい現実でもある。

 

 こういった現実は、別にいまに始まった事ではない。

 世の発明発見、経済に商取引、政治、軍事、あらゆる事で、何か突出した絶対安定な状況が起これば、ある均衡は必ず吹っ飛び、新しい秩序が生まれる。

 現に、この世界でもヤルバーンが飛来する以前の状況で、あの中国が、改革開放政策で日本を抜いて世界経済第二位に踊り出て、米国主導の安全保障体制に挑戦してきた。

 実際そんな状況があったのだ。それを忘れてはならない。

 今回、それがこの地球で日本とヤルバーンを主体に起ころうとしているだけなのだ。


「……難しい問題ですな……」


 国会食堂でコーヒーを飲む柏木。そんな事を話す。


『ソウですね……私達がチキュウに来てしまったばかりに、そんな風になってるのも理解できますから、ちょっと責任感じてしまうですヨ』


 フェルもやはりそのあたりは自分達ティ連人のせいもあるだろうと、考え込んでしまう。

 ただ柏木は


「いや、俺はフェル達がそんな責任を感じる事はないと思うよ。フェル達が良く言う『それも因果だ』って奴だよ。そういう運命だったんだとしか言いようがない」


 すると、フェルの横でオレンジジュースを飲むセルカッツも


『デすね。それはファーダ・カシワギの仰る通りだと思います』


 という。なぜなら、ティ連が立案した当初のヤルマルティア計画では、日本以外の一切の地域国家とは接触しないという方針だったが、ここでサマルカというファクターが登場したことで、結局、結果的にイゼイラ―日本と、サマルカ―米国という構図が出来上がってしまった。

 無論米国に対しては、日本やイゼイラも連携して、ティ連としての対応であるのはその通りなのだが、 サマルカの持つ国家的問題の方針を考えると、やはりサマルカ―米国間の国交は、間接的にとはいえ避けられないということになってしまう。

 となれば米国は嫌がおうにも日本を支持するわけで、他の選択肢はありえない。


『……これモ、いうなればティエルクマスカ人達の言う「因果」ですネ』


 サマルカ人は、日本人と同じくティ連ではその出処が少々異なる種族だ。なので、ティ連人の多くが持つこの「因果」の考え方とは違う人生観を持っている。無論ティ連人の言う「因果」の概念を理解はできるので、セルカッツはそんな風に話したり。


「なるほどねぇ……やっぱ色々あるわなぁ」と柏木大臣。

『デスねぇ……私も調査局員や旧皇議員やってきたデスけど、こればかりは文明問わずな難しいテーマですねぇ』とフェル副大臣

『全くでス。まさか私達も、全然無関係と思っていたアメリカ国という地域国家が、こんなにも大きなファクターになるとは、思ってもみませんでした』とセルカッツ。


 ウンウンと頷くフェル。

 だが柏木は(いや、そのお姿で、全然関係ないとは、地球人は絶対そう思いません)と心で語るが、言葉に出しては言わない。


 とすると、セルカッツも色々と人気者で、食堂にいる議員たちが柏木に紹介してくれと頼み込んでくる。

 名刺を持っていないセルカッツは、その議員たちが渡す小さな紙切れをマジマジ見ながら、ドモドモとティエルクマスカ敬礼で応じていた。


 ……と、ままそんな感じで諸氏一息いれていると


「よぉ、先生。ここにいたか」


 三島が何やら柏木達を探していたようで、食堂にやってきた。


「あ、三島先生。どもです」と柏木。

『こんにちわでス。ファーダ』とフェル。

『その説は色々と』とセルカッツ。


 三人起立して礼なんぞ。


「どうしました? 三島先生」

「ん? あ、いやな、今総理から連絡あってな。って先生に電話かけたんだけどよ、出ねーだろ」

「え?」と、柏木が懐まさぐってスマホを見ると「あ、充電するの忘れてた」とんな感じ

「おいおい、ちゃんと充電しとけよ先生~」


 スンマセンと頭かいて苦笑い……最近はPVMCGに慣れてしまって、どうにもスマホの扱いがおろそかになってしまってたり。

 まま即座にPVMCGでマイクロUSBコードを造成させ、PVMCGからスマホを充電。なんだかなぁとみなさん苦笑い。


「で、話を元にもどすとな、総理がほれ、例のG会議で今ドイツに行ってるだろ」

「ええ」


 そう、今、G会合がドイツで行われている。そこで先のティ連による火星テラフォーミング開拓の件も話し合われたり。無論重大な議案だったりする。


「そこでハリソン大統領と会談したそうなんだが……ほら、例のプロジェクトあったろ」

「最後のなんちゃらですね、ははは」

「おう、それそれ……あれでどうもアメさん、やはりというかなんというか、イマイチうまい具合にいかないところが多いらしくてな」


 するとセルカッツが不思議そうな顔をして


『エ? 私達は、チキュウジンの方々にも理解できるようにデータをお渡ししたつもりデスが……』

「あ、いやセルカッツさん。それはそうなんですがね、まぁなんといますかアメリカにも意地ってのがありましてね。自国で材料資材諸々研究に調達して、かの図面を完成させようという腹だったらしいんですが」


 そういうとセルカッツはポっとした顔をして


『ソレは無理ですファーダ。あの図面の物品を完成させるには、ヤルバーン州のハイクァーンを使わないと……そう申し上げたはずなのに……』


 すると柏木とフェルがクスクス笑って


『ウフフフ、ケラー・セルカッツ。それが発達過程文明デスよ』

「ははは、確かに発達過程文明ってヤツなのかな? まぁアメリカさんらしいやな。なるほど、では三島先生。その自力で造れない部品や資材もあるので、ヤルバーンと日本に協力を要請してきたと」

「おう、そういうこった。で、総理が言うには先生にアメリカへ飛んでもらいてぇって話でな。そこでプロジェクトの連中と話してもらいてぇって事だ」

「なるほど、わかりました。で、同行する人員は……」

「まぁ、フェル先生だわな、あと、セルカッツ先生にもお願いしないと話にならねーし」


 柏木はTES時代に米国へは何回も行ったことあるので、特になんちゅーことはない。

 セルカッツも、例のエリア51以降、度々米国にはいっている。

 で、フェルが米国初体験だ。中国以来の日本国外な海外体験である。


『ヘ? 私もアメリカ国へ行くデスカ?』

「ああ、そうだぜフェル先生。構わねーだろ? 柏木先生も一緒だ。夫婦水入らずで新婚旅行も兼ねて……って、あれ?」


 何気に有権者に怒られそうな事を言う三島だが、フェルの様子がおかしいので訝しがる。

 実際急に顔が真っ青になるフェル……


『モモモ、もしかしてヒコーキに乗るですか? そそそ、それにアメリカ国っていったら国民がみ~んなテッポーもって、ほーるどあっぷ! とかやって、ヒャッハーなギャングがたくさんいるって……』

「いやフェル、それテレビの見すぎ……」


 アメリカ人でも「ちょっと待て」といいそうなステレオタイプさ全開のフェルに、思わずチョップでツッコミ入れる柏木。


「ははは、それとフェル先生、今回は先生の苦手な飛行機には乗らなくていいから安心していいですよ」


 すると柏木が「え?」という顔をして


「三島先生、どういうことですか?」

「いや、柏木先生達には、今回例のカグヤで行ってもらうぜ」

「へ? カグヤでですか!」


 そう、事は色々と動いているのだ。柏木やフェルも今聞かされた。

 まず第一に、とうとうというか、ようやくというかで、『宇宙空母カグヤ』の船籍が、完全に日本政府へ移管されることになった。即ち完全な譲渡が行われるのだ。

 所属はそれまで体裁上、ヤルバーン州軍になっていたが、完全に日本国防衛省管轄の船となる。とはいえ、運用される特危自衛隊は、ヤルバーン州―イゼイラと日本政府の共同運営運用部隊なので、人員の構成は現状のままだそうだ。


「ほ~ やっとですか!」

「おう、こないだ総理がゼル会談ってやつか? あれでサイヴァル閣下と話したんだそうだが、日本政府も公に公表できる自国船籍の宇宙艦艇をそろそろ持った方がいいって話になって、そういうことにしたんだよ」

「はぁ~……感無量ですね。すごいです……」


 フェルやセルカッツもコクコクと頷く。つまり自国船籍の宇宙艦艇を一隻でも持つということは、ティ連交通で自主的な宇宙交通運営が可能になるという事だ。それは大変大きいことであるし、カグヤをベースに日本も宇宙艦艇を開発し、独自の旅客船舶も開発できるだろう。カグヤとは本来そういう船であったことを忘れてはならない。


 人員に関しても、配置は全く変更なしだが、一部所属に変更があり、船の運用に必要な人員で、ヤルバーン州軍所属や、ティラス艦長にニヨッタ副長のようなヤルバーン州政府所属人員は、特危自衛隊に全員出向という事になった。

 まだ流石に藤堂将捕は艦長となることはできないので、ティラス艦長にも自衛官階級が与えられ、書面上は予備自衛官として、本来他の予備自衛官階級では存在しない階級だが、『予備特将捕』として、藤堂と同じ階級扱いにすることとした。ちなみにニヨッタ副長は、予備二等特佐になっている。



 と、そんな感じで話を戻すと……


 なぜに米国へカグヤで行くかというと、まず第一に、米国関係者がカグヤを見せてほしいと言っている事と、米国政府から正式に地球科学では調達不可能なエンタープライズ計画に必要な資材部品を金銭を拠出して購入したいということで、現地でサンプルを作成するために、カグヤのハイクァーン装置を使ってという話が手っ取り早いということでそうなったという話と、最後に、米陸海空軍に海兵隊が、カグヤと演習したいという話になって、日米安全保障条約上の、カグヤへの離発着訓練や、艦体連携訓練等々やってみたいということで、そんな諸々の話を二藤部がG会議で詰めてきたそうで、かような感じになったそうである。



「ま、そんな感じでよ、頼むわ先生。アメリカでの一切は先生に任せるからよ。実際先生とフェル先生以外の閣僚じゃ対応できねーしな」

「了解です、三島先生……察するに、結構大掛かりですね、実際問題」

「おう、カグヤ人員と合わせて、政府からは先生らと、白木君だろ? あとこないだ行ってもらった麗子嬢と田中嬢な……新見君をどうしようかなぁってちょっと悩んでるんだよ……彼まで行ってしまたら、ティ連関係の主要官僚みんな出っ張っちまうからな……んでもってさ、ドノバン大使の事もあるし、あの方のお相手もいるだろ」


 あの方……そう言われて、あぁあぁと柏木にフェルは頷く。流石に彼の方から取り上げてしまうのは可哀そうだと……なんとなくニヨニヨ笑ってみたり。横でセルカッツが何の話だと首を傾げる。


 さて、かような形で、かのティ連諸国艦隊来訪祭り以降、久々の大きな仕事となりそうな柏木とフェル。

 特にフェルさん。免許の取得もがんばらなきゃいけないので、結構大変である。

 渡米まであと三日後という忙しさで、バタバタと仕事をこなす。


 と、そんなこんなで柏木ん家。

 テレビに映るわ硝煙とダイナマイト。

 ダーン、ターンと銃声轟かし、ヒャッヒャッヒャッと笑いながら足の悪いジジイなウォルター・ブレナンがダイナマイトを放り投げる。

 ジョン・ウェインがそれをウインチェスターで吹き飛ばし、ディン・マーティンがコルト・SAAシングルアクションアーミーで援護する。若かりしリッキー・ネルソンも初々しい。

 

「お? フェルさん何観てるの?」

『アメリカ国のお勉強ですヨ』

「どれどれ……って、『リオ・ブラボー』じゃないか。どしたん? これ」


 「リオ・ブラボー」とは、一九五九年公開の娯楽西部劇最高傑作といわれている映画である。


『アメリカ国を知るにはコレしかない! って、セマル君がこの映像ディスクを貸してくれたデス』


 瞬間、orzになる柏木。セマルが重度の西部劇ファンだと山本から聞いたことあったので、コケそうになる……フェルのステレオタイプを助長するような映画見せてどうするんだと。

 なんでもディスクをフェルに渡す時、セマルの目が血走っていたとかいなかったとか。

 でもフェルは言う


『この歌はとっても素敵ですネ! 何回も巻き戻して観てしまったですヨ』


 巻き戻して見せるは、ディン・マーティンの美声にリッキー・ネルソンのギター。ウォルター・ブレナンの奏でるハーモニカで、西に沈んだ夕日と、流れの辺りにいる牛、そして牧童を歌う名曲『ライフルと愛馬あとがきさんしょう』そしてその後に続く軽快なカントリー『シンディ』

 その歌を聞いて、首をフリフリ楽しむフェル。


「ああ、これは確かに名曲だよな……」


 フェルさんの変な米国研究に付き合わされる柏木。結局リオブラボー、面白くて最後まで観てしまった……


   

 ………………………………



 と、そんなこんなで光陰矢のごとく、色々諸々準備もありーので、その数日は忙しく過ぎ去って米国出発当日。

 最近は双葉基地の基地機能としての稼働で忙しかった機動母艦カグヤ。またの名を『宇宙空母カグヤ』型式番号DDCVS―001。何が何でも『DD』なのが自衛隊。自衛隊内分類呼称では、

【 航宙機動汎用護衛母艦かぐや 】

 となっている。何がなんでも護衛艦なのである。全長500メートルで、対艦シルヴェル砲積んで、オート・メラーラ砲をアホみたいに造成できて、粒子砲ぶっ放すわ、フェイザー砲ほとばしらせるわ、ディスラプター砲でチリにするわ、ディルフィルド魚雷で重力子圧潰させるわ、挙句に核兵器効かないわで、そんな艦艇でも自衛隊では愛すべき呼称


【 護衛艦 】


 なのである。


 バタバタと爆音たなびかせてCH-47チヌークヘリが、カグヤ甲板に着艦する。

 イゼイラ人誘導員が身振りでヘリを誘導し、周囲の安全を確保する。

 そして機体から降機するは柏木真人大臣に、フェル副大臣。お付の陸自自衛官から敬礼されて、柏木やフェルも敬礼で返す。

 二人は強烈に吹き付けるローター風に頭を抑え、小走りでヘリから離れる。

 フェルも初めてのヘリコプターだったので、また『やぁでぇすぅ~~』とか駄々こねるかと思ったら、ヘリコプターはそうでもないらしい。その理由は『止まっても落ちないから』

 そのローター風にフェルの見事な羽髪もクシャクシャになって、なんだか水浴びした直後の鳥さんみたいになった頭を整えてるフェル。

 陸自のヘリパイロットもカグヤへ来るのは初めてなのか、柏木とフェルを降ろしてすぐに帰投しなければならないのを名残惜しそうに眺めていたり。

 再び飛び立つ陸自ヘリを、みなして帽振れで送る。これが自然と隊員全員に身についた彼ら特危自衛隊員の礼儀。これは先の魚釣島事件における隊員同士のコミュニケーションが発展してこうなった。

 

 もう知った構造のカグヤということもあって、小走りにブリッジ入り口へ歩く二人。

 本日二人の服装は、迷彩服3型。フェルもそんな服装。

 とりあえずは政府認定の公式『作業服』なので、かような感じ。マスコミはこの船に乗っていないので、そういう点服装でゴチャゴチャ言う奴もいないから楽なものだ。

 

 で、ブリッジに内に入ると、すぐに近くの艦内転送機に入って、即サロン区画へ到着。

 すると知った顔が、諸氏みんな柏木大臣を出迎える。


「よお、柏木。久しぶりだな!」と白木と握手。

「お前が絡むと、また任務が面白くなる。いろんな意味でな、ははは」と柏木の背中を叩く大見二佐。

「今回は、なんだかんだいって公費使った柏木さんの新婚旅行じゃござんせんの?」と迷彩服姿の麗子委員。

「大森からは、射撃場にフラフラ行かないよう、お目付け役を賜っております」と田中委員さん。


「あ、なんですか田中さんその「フラフラ」って」


 と柏木は苦笑いだが、田中さんは


「あら、言葉通りではございませんか? ベレッタM92にストレーヤーヴォイド、パラオードもいいですわね。古いところではSKSライフルなどもありますわね、それからウインチェスターにSAAなども。最近の流行りじゃH&KのHK45や、FNPにFNXも旬ですか? ……これでもフラフラなさいませんか?」

「うっ!……」


 フェルさん、大臣の両肩を後ろから持ってモミモミ。


『マサトサンの負けでス。さしもの専門家、マサトサンでも、ケラー・タナカには勝てませんデす……』

「……はい、すんません、精進いたしますデス」


 「よろしい」と、ドヤ顔の田中さん。なかなかに厳しそうなお目付け役だ。柏木は自由の国アメリカがちょっとだけ自由じゃなくなったような気がした。

 諸氏、田中さん流のジョークに笑いも絶えず。そしてこの人は、やはり普通ではないと思い知る。


『ククク、サシモノ、カシワギダイジンモ、タナカノクォリティニハ勝テンカ?』

「って、別に鉄砲撃ちに行くわけじゃないんだしな、ふはは」


 今噂なシンシエ夫妻のご登場だ。

 シエは赤い髪をファサと左手でかきわける。薬指に光る指輪が恐れ多い。

 無論、多川も指輪をしていた。


「ああ、シエさんに多川さん。ご入籍おめでとうございます。フェルから聞きました」

『ウム、アリガトウ。コレデフェルト対等ダ。モウ羨マシクナンカナイカラナ。フフフ』

「は? 羨ましい?」

『ア、イ、イヤ、ナンデモナイナンデモナイ』といってるシエの背後からソ~っと『(オー、シットでス。実はマサトサンと私の仲を嫉妬してたのがバレちゃいました。ちくしょー!)』とフェルが小声でシエの心の言葉をつぶやき捏造する。


『ア! フェル、キサマ! イツノ間ニ!』


 といってるハナからピューっと逃げていくフェル。無論それを追いかけ報復にでるシエ。


「なんだかなぁ……いい歳してさぁ……って、シエさんもダストールに行ってから随分丸くなりましたね、多川さん」

「はは、そうですな。報告書にも書きましたが、色々ありましてね。アレも収まるところに収まって落ち着いたというか、私もそうだというか、そんなところです」


 なるほどと頷く中年二人。

 すると


『マァ、仲ヨキ事トイウコトデ、イイデハナイカ』とリアッサ。

『だね、あたしもいいの見つけないと』とシャルリ。

『ヤルマルティアのデルンか、悪くないワね、フフ』と、パウル艦長。


「ああ、どもどもお三人とも。パウルさんは、例の?」

『うん、多分アメリカ国サンのあの計画を見る限り、相当な大型部品もつくらなきゃならないかもだからね。私もヴェルデオ知事に頼まれて、という事だよ。よろしくねファーダ。色々お付き合いさせてもらうわ』

「どうもご協力ありがとうございます、パウルさん」


 と握手する大臣。

 リアッサは、カグヤスタッフなので今回行くのは当たり前。

 シャルリはヤルバーン州軍の武官ということで、米軍との折衝を前回訪米に続いて行うと言う事。

 で、パウル艦長は、工作部隊のプロ。つまりモノづくりのプロで、工作艦艦長ということもあって、技術方面のアドバイザーとして同行となっている。


「で~、そういうリアッサさんは樫本さんとどうなんです?」

『ウム、私ハ、フェルヤ、タガワホドナ、派手デハナイヨ。ハハハ。マア、普通ニヤラセテモラッテイル』


 なんでも今度の休暇に樫本一尉と旅行に行くという話。結構な事だと諸氏ニヤニヤ。

 家族との顔見せは、お互いの家族がゼルルームで済ませたそうな……樫本一家はその件で初めてヤルバーンに行ったので、そりゃ相当ビックラこいていたという話。でも、互いの家族御の字で印象良く、樫本家の方が恐縮していたそうな。

 まさか自分の息子がこんな風になるとはと柏木家一家と同じ反応。どこも同じだと。

 こんな状況に慣れている自分達も相当なものだなと話したり。


「……なるほど、では第三弾はリアッサさんあたりですか。で、第四弾が田中さんかヘルゼンさんあたりですね。ははは」

『デ、カシワギ。コノ女戦車ト、えるふオンナニモ、何カイイノヲ見繕ッテヤッテクレ』

『あ、なんだいリアッサその言い草は。あたしはそんなのボチボチでいいんだよぉ』

『わ、私だって自分でつくれるわよっ よけーなお世話っ』


 この体を元に戻してからだと、義手に義足をシュンシュンいわせるシャルリ。でも、素体はしなやかな肢体をもつ猫系で、いい女性だとは柏木も思ってたり。

 まあ……パウルの方は、確かに放っておいてもデルンがワラワラ来るのは来そうだ……ただデルンの品質は保証できないが……って、こういう人外他種族を『良い』と思える自分の感性も、もうティ連化してきてるのかなぁとか。ラムアの儀やってから、感覚も変わったのか? とか……いやはやと思ったり。


 米国としては肝心要で一番のVIPとなるセルカッツ先生はどうしたんだと尋ねると、もうすでにカグヤへ来て、今ブリッジでティラス達と話しているという。

 そんな感じでよくよくみると、久々に揃った錚々たる顔ぶれで米国に雪崩れ込もうという諸氏。そこにカグヤで乗り込もうというのだから、ある意味最強である。

 だが今回一人、それまで見かけない顔がいたり……


「あれ?……もしかして……セマルさんですか?」


 柏木が、ヘルゼンと話をしているイケメンイゼイラ人デルンに声をかける。


『え? あ、これはファーダ・カシワギ。お久しぶりです』

「あ、やっぱり。いやはやお久しぶりです。って、え? 今日はどうしたんですか?」

『はい。リビリィ局長の指示で、ファーダとフリンゼの護衛と、アメリカ国司法警察の調査を命じられましたので、ケラー・ヤマモトにお願いして、少々コウアンの任務から外してもらいました。今回はご一緒させて頂きますヨ』


 と、ウキウキで話す。


「あ~…… もしかしてセマルさん。公私混同モードじゃないんですかぁ? 本当はアメリカに行かせてくれーとか言って頼んだとか」

『ナなな、何をおっしゃいますか! そんなことはないです。テンチシンメイに誓って!』


 柏木は、セマルが彼と、若干同類であることを知っている。

 セマルは大の西部劇やマカロニウェスタンのファンなのだ。ちなみにジョン・ウェインとクリント・イーストウッドの大ファンらしい。

 山本がセマルの借りたマンションに遊びに行った時、壁にウインチェスターライフルのモデルガンかエアガンが、クロスして飾ってあったという。豪華木箱入りのSAAもあったそうな。

 多分そういうことで六〇パーセントは純粋な任務への義務からなのだろうが、四〇パーセントは趣味と感じた柏木。リビリィがセマルに指示をださないといけないような誘導があったと見た。


「むはは、わかりました。そういう事にしておきましょうか。で、今ヘルゼンさんに何を渡していたんです?」

『ケラー・ハセベからの預かり物ですよ。よくわからないのですガ、縁起物のようでして』


 ヘルゼンに見せてもらうと、旅行安全のお守りだった。それをヘルゼンに説明してやる。


『オマモリですかぁ~ それはニホンのカミサマっていう創造主に安全をお願いするっていうアレですね』

「そそ、長谷部さんも気が利くじゃないですか。よかったですね、ヘルゼンさん」


 ちょっとはにかんで、お守りを胸に嬉しそうなヘルゼン。

 セマルと柏木も、ままニッコリと。


 と、サロンで皆と一通り挨拶を済ませると、次にブリッジへあがる柏木。フェルはシエとひと通り汗を流したようで、スッキリした顔でまた柏木と同行。


「お疲れ様です。しばらくお世話になります」

『コンニチワです皆様』


 二人が姿をあらわすと、ブリッジ要員全員起立して敬礼。この船でも以前は、ティ連人は、ティ連式敬礼で、日本人は自衛隊敬礼という感じだったが、最近は相手によって日本人がティイゼイラ式。ティ連人が自衛隊式の敬礼をTPOで使い分けるところが見受けられるようになった。どうも特危自衛隊では、敬礼の厳格な統一はなされていないようだ。まま種族が多いからというところもあるのだろう。


「やぁ、どうも大臣に副大臣」

「お世話になります藤堂さん。ティラス艦長にニヨッタ副長もお疲れ様です」


 ティラスにニヨッタとも握手でよろしくと。


「ティラス艦長も、なんだかんだで将軍閣下ですか。むはは」

『デすなぁ……まさか私がジェルダー階級をもらえるとは。なんとも予想だにしないというかなんというか』

『ソれを言うなら私も同じですファーダ。トゥラ・カーシェルですよ……』


 ニヨッタもまさかというような顔で苦笑い。嬉しいやら困惑するやらだと語る。

 ティラスもニヨッタも、元々はイゼイラ惑星交通省運輸局の所属だったのだが、先の通り今回の件で特危自衛隊に出向となり、かような感じ。特にティラスはこれで名実ともにカグヤ艦長となってしまった。で、藤堂は当面カグヤでは副長待遇だが、特危自衛隊双葉基地司令という大役も担うことになった。

 これまで何かと『名目上』『体裁上』『建前上』という言葉が多く付きまとってきた特危自衛隊も、それら言葉がとれて本格的に独立して動き始める。

 現在はまだ加藤が初代特危幕僚長で、基地は双葉基地しかないために基地司令の藤堂とで日本側は小さくやっていくしかないのだが、ティ連憲章下連携組織としてヤルバーン州軍も一体化、連動して動いてくれるために、実質上は相当大きな組織となる。その中に組み込まれる宇宙空母カグヤ。これはかなり強力な戦力だ。


 今回の米国宇宙計画『プロジェクト・エンタープライズ』への協力という形でカグヤは渡米するが、これもある意味『砲艦外交』という点も無きにしもあらずだった。

 

 二〇一云年、ヤルバーンが飛来する以前に、例の天戸作戦で活躍することとなる、ヘリコプター搭載護衛艦『いずも』も、当時は全長250メートル弱の、護衛艦とは名ばかりの巨大空母だと色々言われたものだが、今回はそんなものすっ飛ばした常識はずれの乗り物で、アメリカに乗り込もうという魂胆である。ある種、その状況に興奮を隠し切れない日本勢スタッフ。これは柏木も白木も大見も麗子も田中さんも同様だ。言葉に出しては言わないが、ちょっとドキワクなところもあったりと。


「で、藤堂さん。セルカッツさんがこっちに来ていると聞きましたが……」

「ああ、セルカッツさんなら、今行き違いで、格納庫に行きましたよ。なんでもサマルカ政府も、特危の装備調達に協力してくれまして、機動兵器を二機、供与納品してくれました」

「そうなんですか! でどんな機動兵器なんですか?」

「はは、それは柏木さんの目で確かめてくればどうですか? 格納庫に駐機していますよ」

「それもそうですね、フェル、行ってみようか」

『ハイですね』


 というわけで、二人は格納庫へ。

 いやはや、相も変わらずでカグヤの格納庫はデカイわけだが、このデカさなら、普通に考えればF-35クラスの戦闘機なら、おそらく空母二隻分近くは余裕だろうと思うが、なんせ積んでいる兵器がまま色々あるカグヤである。ざっとリストアップしてみても……

 

○イゼイラ型ヴァズラー。

○旭光Ⅱ型ヴァズラー。

○シルヴェル・ベルク

○F-2HM

旭龍マージェン・ツァーレ

○チヌークTR

○イロコイTR

○コブラHGS

○14式浮動砲

○E-2C改 哨戒機

○多目的デロニカ

○無人ドローン・ヴァルメ


 と、よくよく見れば結構な種類で豊富な兵器が搭載されている。いかんせん大きさはマチマチで、数自体はまださほど積んでいないので、まるで航宙強襲揚陸艦のような感じになってしまっている。

 そこに新たな機動兵器が二機配備。しかもサマルカ製だというからどんなものかと、まま想像に難くない訳だが……


「セルカッツさん!」

『あ、これハファーダお二方』


 と、軽く挨拶すると、フェルが目の前にある機動兵器を見て


『コレがサマルカ政府から供与いただいタ機動兵器ですネ。なるほどこの機種でしたか』

『ハイ。この機体が最も使いやすくて安定しているだろうということで。ティ連では制式採用になってはイマセんが、加盟国の国軍で、使っていただいている国は多いですヨ』


 すると、その機種を見た柏木は……


「ははは、いやはや、やはりサマルカさんというかなんというか、なるほどなぁという感じで。ハハハ」

『ウフフ、確かにこの機動兵器は良い機体デスよ』

 

 フェルも訓練生時代にこの機体は扱ったことがあるという。とても操作しやすい良い機体だということなのだそうだが……


『ウフフ、では存分に使ってくださいネ。サマルカ技術が、カグヤでお役に立てるようで嬉しい限りデス』


 ニッコリ笑うセルカッツ。

 そう、カグヤへサマルカ政府から供与納入された機動兵器……これが噂の『フォーラ・ベルクⅢ型』である。

 一般フォーラよりは少し小型で全幅三〇メートル・全長一〇メートルの、横から見たら上下灰皿合体型なおなじみのデザインだが、この機体は円盤型ではなく、丸みを帯びた正三角形状のデザインで、尖ったほうが前になり飛行する。

 で、陸上戦時に形態を変化させるそうなのだが……本体下部からハイクァーン造成でシュンシュンと細長い脚部が伸びて、全長四〇メートルほどの三本足な形状に変身する。そして、側面部から多関節の長さ二〇メートル程の兵装付きマニピュレータが伸び、先端下部から一つ目のようなセンサーがせり出して、地上制圧形態に変形するのだぁっ!


「…………」


 変形後の形態をPVMCGで空中にポっと浮かばせて、ホレホレと柏木に見せ、得意気に説明するセルカッツ。

 やっぱりそんな感じっすか、と思う柏木大臣。口半開きでセールストークするセルカッツの話を聞く。セルカッツ的には結構オススメ機動兵器らしい。

 まあ確かにH・G・ウェルズな宇宙戦争モノの風味もあるかとは思うが……どっちかっつーと意匠的に、下手したら量産型の顔した伝説の巨神が無双する物語に出てくる敵メカ……弦がスッ飛んで行くようなBGMが似合いそうな……そんな感じ。

 そんなのがまがりなりにも『自衛隊』の名を関する母艦に搭載され、まがりなりにもカーキ色に塗装され、まがりなりにも白地のミリタリー文字で、まがりなりにも『特危自衛隊』と書かれているわけで……どっちかっつーと本来敵役な気がしないでもないけど……と柏木の脳内でかような論評が反芻される。


 と、こう見渡すと、本当にいろんな機動機械が積まれてるなぁと思う大臣閣下。

 一機一台一両が、もうそれだけでこの地球世界の軍事パワーバランスに大きな影響を与えてしまう兵器ばかりだが、男の子な柏木には、まるでそこがおもちゃ箱のようにも見えたり。そんなことを思うと、思わずフッと吹いてしまう。なんだかなと。


 さて、各員コミュニケーションも済んだところで、カグヤ、久々の出航と相成る。

 ままアメリカに行くだけの話なのだが、ティ連人さん渡米というお初のイベント。そして何よりカグヤの米国突入という大イベントである。その出発も往々にして騒々しくもあり、華やかでもある。お祭り気分だ。

 乗員甲板に整列し、敬礼のあと、特危流帽振れで離岸していく。

 海上自衛隊音楽隊が出張してきてくれたようで、送る音楽は『軍艦マーチ』次に『某宇宙戦艦の主題歌』と続いていく。これはいってみれば海自さんの定番十八番だ。それでも今のカグヤにバッチリな音楽であったりして。


 白航引いて進み行くカグヤ。マスコミのヘリも追随してその巨艦を追う。

 このまま海上航行でとなれば、特危とはいえないわけで、日本国民みんなが待ってるメインイベントの始まりである。


『カグヤ現在、双葉基地から東五〇きろめーとる航行中』

「かぐや現地点付近に航行する船舶ナシ。離水状況確保」


 ティラスが藤堂の目を見て確認する。

 藤堂も頷くと、ティラス艦長が一声


『よし、ではカグヤ離水開始。離水後、高度一一〇〇〇めーとるマデ上昇。特危自衛隊法チキュウ大気圏内規定巡航速度で航行する』

「宜~候、離水後かぐやは…………」


 命令の復唱がブリッジ内を木霊する。

 この船は、元々イゼイラ風味な命令復唱で運用されてきたので、海自でよく使われているような独特な節回しのイメージは、あまりここにはない。

 海自からの異動組も多いので、いつもの癖な節回しで命令復唱するが、そこのところはイゼイラ風味に海自風味、もう混ぜこぜである。そんな部隊が特危自衛隊なのだ。


「空間振動波機関、最大稼働、宜候」

『稼働確認、環境シールド展開。甲板要員に通達』

「環境防護壁展開確認。甲板要員に通達確認。離水準備よーそろー」

『カグヤ離水』

「かぐや離水よ~そろ~」

『カグヤ離水ヨ~ソロー』


 その命令復唱と同時に、カグヤ周囲の海水は、切り取られたように大きな飛沫を上げて凹状にへこむ。

 そしておおよそ船舶では発しない唸るような音をたてて、ゆっくりと船の喫水を空中へ持ち上げる。

 独特の後方機関部が水面下から姿を現すと、そのスリットにキラキラと光を纏い、空間をシフトさせながらカグヤを上空へ推し進める。


 いつ見ても、そのウソのような光景は絵になる。

 マスコミからすればネタになる。この光景をテレビで流せば、それだけで視聴率稼げるような、飽きない光景だ。


 ……その後、カグヤは高度一一〇〇〇メートルまで上昇し、平時法定規制速度 時速八〇〇キロメートル前後……大体旅客機とほぼ同じ速度で巡航する。


 夕日で赤く染まる雲海を下に見て、それを背に進む宇宙空母カグヤは絵になる。


 さぁ、我行くはアメリカ合衆国、カリフォリニア州サンフランシスコ。

 金門橋をくぐるかまたぐか、さてどちらか。


 安保員会主要メンバーご一行、はてさてどんな米国行きとなるか?

 フェルサン、サロンで柏木大臣と高度一〇〇〇〇メートルの夕日を観てくつろいだり。

 ハミングし、口笛吹くは、先日観た映画の挿入歌『ライフルと愛馬』


 米国では、既にカグヤの訪米が大々的にマスコミを通じて報じられているという。

 ♪フェイザーとカグヤを彼の国は待っている♪

 さしずめ、そんなところ。


 そのメロディーが、艦のシルエットとよく似合う『宇宙護衛空母かぐや』

 艦体は、沈みゆく日輪の残照に照らされて、東へ飛ぶのだった……


 



 

*ルーシーサイモク

参考:

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%A2%E3%82%AF

自動車運転教習所において、多くの教習所で現在、安全確認の標語として教わる語句。


○参考作品


*映画「リオ・ブラボー」より、「ライフルと愛馬」「シンディ」

https://www.youtube.com/watch?v=2FEbBUPO5OU



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